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「あるのはルールだけ。人種や障害に垣根はない」。中田英寿らHEROsアンバサダーが感じたパラスポーツの力
- 日本を代表するアスリートたちが現役・OB、健常者・障害者の垣根を超えて対戦し、パラスポーツを体験
- (競技の一つ一つが工夫されている)パラスポーツは誰もが楽しめる魅力を持っている
- スポーツは経験することが大事。ただそこにルールがあるだけで、国境や人種、健常者や障害者などは関係ない
取材:日本財団ジャーナル編集部
東京2020大会の開催まで後1年に迫った2019年7月8日、東京・お台場にある日本財団パラアリーナにて、「HEROs PARA-SPORTS DAY 2019」が開催された。これは日本財団が取り組むアスリートの社会貢献活動を促すプロジェクト「HEROs Sportsmanship for the future(以下、HEROs)」(別ウィンドウで開く)の活動の一環であり、日本を代表するアスリートや元アスリートが集い、パラリンピアンと共にスポーツの垣根を超えて、パラスポーツを体験するイベントだ。
パラスポーツが持つ魅力や可能性とは何か。そして、競技の枠を超えて競う選手たちの、勝敗の行方は??熱く盛り上がった一日に密着した。
パラスポーツは誰もが楽しめるスポーツ
「パラスポーツ」と聞いてどんな印象を持つだろう。「障害者のための競技」と思っている方々は多いかもしれない。しかし、全くそんなことはない。普段使わない感覚を研ぎ澄まし、全身を使って戦うような新たな楽しみを発見できる魅力あふれる競技ばかりなのだ。そんなパラスポーツの魅力を伝えるべく開催されたのが「HEROs PARA-SPORTS DAY 2019」である。
会場にはHEROsアンバサダーの元サッカー日本代表の中田英寿さんや、元バレーボール女子日本代表の大林素子さん、元車いすバスケットボール日本代表の根木慎志さん、元ハンドボール日本代表の東 俊介さん、元パラアイスホッケー日本代表の上原大祐さん、パラ水泳のレジェンド河合純一さんの呼びかけにより、そうそうたる顔ぶれが一堂に会した。
「パラスポーツは、障害がある人のためのスポーツではなく、誰もが楽しめるもの。実際にプレーしていただくと、非常に難しく、非常に楽しいことが分かります。今回は15名のパラアスリート、16名のアスリートの方々に集まっていただきました。優勝を目指して頑張ってください!!」
そんな日本財団・笹川順平常務理事の挨拶で始まった「HEROs PARA-SPORTS DAY 2019」。開会宣言は、HEROsアンバサダーの根木慎志さんと、新たにアンバサダーに就任した元なでしこジャパンの近賀ゆかりさんが務めた。
イベントは「競技を超えて集まったアスリートが、真剣にパラスポーツで競い合う」ことで、ダイバーシティ&インクルージョンを発信することが目的。現役・OB、健常者・パラの垣根を超えた選手たちが、赤、白、青、黒の4チームに分かれて対戦した。
各チームの主なメンバーは、赤チームに中田英寿さん(サッカー)や荻原次晴さん(スキー・ノルディック複合)、白チームには河合純一さん(パラ水泳)や近賀ゆかりさん(サッカー)、青チームには東 俊介さん(ハンドボール)やギャオス内藤さん(野球)、黒チームには大林素子さん(バレーボール)や金子和也さん(パラ卓球)など。計25競技のアスリートたちによる混合チームで、スポーツ系YouTuberとして活躍しているTWINS(ツインズ)さんや、さんくーるさんも参加した。
試合に向けてのアイスブレイクも面白い。アイマスクを着けて同じ血液型の人を見つける、音やジェスチャーなしに4択に回答する、など工夫が求められるものだ。選手たちは、初めは手を上げて同じ血液型の人を見つけようとするも、それでは見えないことに気が付き、手を叩いたり、肩を組んだりして問題をクリア。人の情報の8割は視覚からのものだという。その視覚に頼らず、自分が持つ他の感覚を生かしてみることがパラ競技への第一歩のようだ。
ウォーミングアップ後は、いよいよ本番。今回選手たちがチャレンジした競技についてご紹介しよう。
まずは「シッティングバレーボール」。これは床に座って行うバレーボールで、立ち上がりや飛び跳ねは反則だ。一般のバレーボールコートより狭く、ネットも低めに設置されているが、手を使って移動するため、移動距離が短くなり、チームメンバーとの協力なしに勝つことは難しい。
次は「ゴールボール」。この競技の特徴は、会場を静かな空間にしなければいけないところ(ゴールを決めたときの歓声はOK)。選手は目隠しを着用して、相手チームが投げた鈴入りのボールを、音だけを頼りにブロックしなくてはならないのだ。暗闇の中で、頼りになるのは聴覚と反射神経。それと自分の位置をしっかり把握するためにコートに貼られたラインを触る触覚だけ。3対3で行い、それぞれがセンターとサイドを担当し、交互にボールを投げ合うというルールもシンプルで、誰でもすぐにチャレンジすることができる。
車いすバスケットボールを未経験者用にアレンジした「車いすポートボール」も大いに盛り上がった。車いすバスケットボールとの大きな違いはドリブルとゴールの有無だ。こちらのポートボールではドリブルはなし、バスケットゴールの代わりに自分のチームの台に乗ったゴールマンがボールをキャッチすれば得点となる。
「車いすポートボール」を見ていて感じたことは、従来のスポーツ競技のような足の速さやドリブルのテクニックなどによって勝敗が決まるわけではないので、プロスポーツ選手もそうでない人も同じラインに立ってゲームを楽しむことができる。プレーヤー同士のコミュニケーションも不可欠のため、チームの結束も自然と高まる。
そして、誰もが勝利を目指して、ぶつかり合う姿は、他のスポーツと全く変わりない。途中からプレーヤーが障害者であろうが健常者であろうが、そんなことはどうでも良くなり、選手たちの一生懸命な姿に、興奮と感動、尊敬の念を感じた。
大林素子さんに、近賀ゆかりさん、アスリートたちがパラスポーツの魅力を語る
ここで、イベントに参加したアスリートたちの声を紹介したい。普段プレーしているものとは違うパラ競技を、選手たちはどのように感じたのだろうか。
「元バレーボーラーなのでシッティングバレーボールが上手かといえば、そんなことはなく、セットを取られてしまいました…。普段とらない姿勢でプレーするので、難しかった。腕もパンパンです!」
そう語るのは、HEROsアンバサダーの一人の大林素子さんだ。今回のイベントについては「2018年からHEROsのアンバサダーとして、さまざまな運動会イベントに参加しましたが、アスリートのみのイベントは初めて。競技の違いなど関係なくHEROsのメンバーで一つのチームになれた気がしました。 これまでいっぱい応援してもらいさまざまな人に支えられてきました。これからは自分が応援し、支える側に回りたいです」と話す。
今回、HEROsアンバサダーに就任したサッカーの近賀ゆかりさんは、アンバサダー就任について「分からないことばかりですが、同じサッカーをしていた中田英寿さんなどもいるのでとても光栄です。これから頑張っていきます!」と熱く語る。
「今回、パラスポーツを体験して感じたことは、それぞれの競技に特性があって、それをつかむことで向上できるところは、他のスポーツと全く変わらないことです。ゴールボールなど感覚を研ぎ澄ませるスポーツなどともっと早く出会っていたら、自分の競技にも生かせていたかも。年齢を超えて、いろんな人がつながれるパラスポーツをもっと広めたいですね」
パラ卓球の選手として活躍する金子和也さんはパラスポーツの魅力について「障害があると、スポーツは難しいのではと思われる方もいると思いますが、競技として成り立ちながら、自分の感覚や、相手の弱点を見抜いて戦うパラスポーツは、人間ってここまでできるんだという可能性や感動を届けられるスポーツだと考えています。パラ卓球の場合、障害に応じてクラス分けがあるなど、平等に戦えるところも魅力の一つですね」と語った。
「そもそもスポーツって楽しいな、面白いなっていう気持ちや人とつながれて良かったという思いがベースにあると思うんです。そういうツールの一つとして、いろいろな方が楽しめるきっかけになるパラスポーツをもっと健常者の方にも体験してもらえたらうれしいですね」
パラ水泳の河合純一さんはパラスポーツが待つ可能性について、そう語る。もし、普通のスポーツと同じくらいパラスポーツを体験できる機会が広がれば、もっとスポーツを楽しむ人が増えるかもしれない。
即席チームが数時間で一つに。大盛況のうち幕を閉じた「HEROs PARA-SPORTS DAY 2019」
4チームに分かれた選手たちが激戦を繰り広げた「HEROs PARA-SPORTS DAY 2019」。最後に残った競技は、バスケ用の車いすをバトンにした「車いすリレー」。スピードやコーナーリングテクニックだけでなく、スムーズなバトンタッチも勝敗を分ける鍵となる競技だ。
会場は、ランナーを応援する歓声で大盛り上がり。並走し仲間を勇気づけたり、チームのみんなで応援をしたり、即席チームとは思えない団結ぶりに、スポーツが持つ可能性を感じずにはいられない。車いすリレーは、赤組がダントツで劇的な勝利を収める結果となった。
全ての競技を終えて、結果発表。得点は、白チームが213点で見事優勝。続くは、黒チーム182点、そして青チームの121点。車いすリレーで勝利した赤組は、残念ながらも114点で最下位という結果になった。
しかし、選手たちの「やりきった!楽しんだ!」という晴れ晴れとした表情がとても印象的だった。
HEROsアンバサダーで、優勝の栄冠を手にした白チームのキャプテンを務める元パラアイスホッケー選手の上原大祐さんは、「最高のメンバーに恵まれて優勝することができました!スポーツは一瞬で一つになれると改めて感じる、非常にいいイベントでした。引き続きこのようなイベントを続け、もっともっといろいろな人たちを巻き込んでいきたいですね!」と優勝の喜びを語り、大会をまとめた。
「スポーツは、ただルールがあるだけで、そこには国境も人種も健常者や障害者といったくくりもないんです。今回、4つのパラ競技を体験して感じたのは、プロの選手であろうと自分の競技以外のスポーツをする機会があまりなかったなってことですね。現役時代からこういった機会があれば、もっといろんな人ともつながれたし、いろんなスポーツに興味が持てたとも思います」
そう語るのは、HEROsアンバサダーの中田英寿さん。
「スポーツを引退した後に、いろいろな競技の選手たちが競技の垣根を超えて出会えるのはとても良いこと。今後もスポーツの力を使って、人や社会に還元していきたいですね。HEROsの活動はこれからです!」と熱く語った。
さまざまな魅力や可能性を秘めた、パラスポーツ。人への思いやりや、困難を乗り越えて戦うアスリートたちの姿を目の当たりにすれば、心を動かされることは間違いないだろう。もちろん、初心者がプレーしても楽しい。今後もこういった機会が増え、2020年にはオリンピックと同じくらい盛り上がることを願ってやまない。
撮影:新澤 遙
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