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子ども記者は見た!「東京雪祭×HEROs FESTA 2019」で体感したスポーツの力
- 骨髄バンクのドナー対象年齢は54歳以下、年と共に登録抹消される人も多い。若年層登録者の増加が必要
- ただ楽しいだけでなく身近な社会貢献活動に「参加」できるのが「東京雪祭×HEROs FESTA 2019」の特徴
- スポーツや音楽を通した「楽しい」体験が人の心を動かし、一歩前に踏み出す行動を促す
取材:日本財団ジャーナル編集部
代々木公園の秋の恒例行事となりつつある「東京雪祭」(別ウィンドウで開く)。100万人に1人に発症する難病を骨髄移植で克服したプロスノーボーダー荒井DAZE善正(あらい・だぜ・よしまさ)さんの経験と想いから実現したこのチャリティーイベントは、献血・骨髄バンクの必要性をスポーツ・音楽・食の楽しさで伝え、若者の献血・骨髄ドナー登録者数の増進を目的としている。
今年は、アスリートによる社会貢献活動を促進するプロジェクト「HEROs Sportsmanship for the future(以下、HEROs)」(別ウィンドウで開く)とのコラボレーションを実現し、2019年11月9日、10日の2日間にわたって開催。「On Your Marks ~スタートラインに立て~」を合言葉に、トップアスリートとの交流も通して、誰もが夢中になれるものを見つけ、新しいことに挑戦するきっかけを創出した。
そんなイベントを子どもの目を通すとどんな世界が見えてくるのか。小学5年生の本山誠人(もとやま・まさと)くんが、子ども記者として取材した。
「楽しい」から始まる社会貢献の形
「『楽しそう』と思うから人が集まる。だからイベント名には、献血や骨髄バンクの文字は一切入れないようにしています」
そう話すのは東京雪祭の主催団体、一般社団法人「SNOWBANK(スノーバンク)」(別ウィンドウで開く)代表の荒井DAZE善正さん。
2007年に血液の難病「慢性活動性EBウィルス感染症」と診断され、余命宣告までされたという。その後、ドナーからの骨髄移植を受けて病気を克服し社会復帰した経験から、SNOWBANKを立ち上げ、骨髄バンクのドナー登録者を増やす活動を行っている。
「年々、協力してくれる企業も増え、今年は日本財団さんと組み、大がかりなイベントを仕掛けることができました。骨髄バンクのドナー登録者数が増え、病気を治し誰もがスタートラインに立てる社会を目指したい」と荒井さんは言う。
日本では毎年新たに約1万人以上の人が白血病などの血液疾患を発症していると言われており、そのうち骨髄バンクを介する移植を必要とする患者は毎年約2,000人にいる。骨髄バンクのドナー登録者数は、現在約52万6,000人(2019年10月時点)。多い数のように見えるが、ドナーになれる対象年齢は54歳以下となっているため、毎年約2万人が登録取り消しとなる。また移植を行うには、患者とドナーの白血球の型が一致する必要があり、兄弟でも4人に1人しかマッチしない。
だからこそ、ドナー登録者の数は多ければ多いほど助かる人の可能性が高くなるし、何より若年層のドナー登録者を増やすことが重要なのだ。
誠人くんは、骨髄バンク説明員の北村美和子(きたむら・みわこ)さんに純粋な質問を投げかけた。
誠人くん「ドナー登録は痛くないのですか?」
北村さん「献血のついでにドナー登録できるんです。また、もし患者さんとマッチして骨髄提供する際も、全身麻酔で眠っている間に行うため、痛みはありません。日本骨髄バンクによる骨髄採取では、死亡事故などは一切起きたことはありませんので、安心していただいて大丈夫です」
今回のイベントでの目標は、ドナー登録者数111名だが、イベント関係者や北村さんたちの呼びかけにより延べ2日間で112名のドナー登録者が生まれた。
またドナー登録者には、男子柔道日本代表監督の井上康生(いのうえ・こうせい)さん、元ハンドボール日本代表の東 俊介(あずま・しゅんすけ)さん、元競泳日本代表の萩原智子(はぎわら・ともこ)さん、プロライフセーバーの飯沼誠司(いいぬま・せいじ)さん、ラグビー「NECグリーンロケッツ」の川村 慎(かわむら・しん)選手、「ヤマハ発動機ジュビロ」の桑野詠真(くわの・えいしん)選手、「キャノンイーグルス」の小林健太郎(こばやし・けんたろう)選手、バスケット元「東芝ブレイブサンダー」の富田卓哉(とみだ・たくや)さん、アルティメット日本代表の中野源一(なかの・げんいち)さんといったHEROsのアスリートも含まれる。アスリートたちは、積極的に献血ブースへ向かい、イベント参加者にもドナー登録を呼びかけた。
次に誠人くんは、実際に会場で骨髄バンクの登録を行った会社員の桂有梨砂さん(かつら・ありさ)にその理由を尋ねた。
誠人くん「どうして、骨髄バンクの登録をしようと思いましたか?」
桂さん「ただ楽しいだけじゃなくて、実際に“誰かの役に立てる、参加できる”イベントだからこそ登録してみようという思いになりました。病気で苦しむ人を一人でも多く助けられる社会にしていきだいです」
気軽に社会貢献活動に参加できるイベントならではの魅力と言える。
アスリートたちは、なぜ社会貢献活動するのか
さらにイベントを盛り上げたのが、第一線で活躍するアスリートたちだ。2019年10月に行われたラグビーワールドカップで日本中に大旋風を巻き起こしたラグビー。その選手を代表して、「日本ラグビーフットボール選手会(JRPA)」(別ウィンドウで開く)副会長の川村 慎選手、桑野詠真選手、原田季郎選手、小林健太郎選手が登壇し、トークショーを行った。
話題となったのはラグビー選手たちが行っているさまざまな社会貢献活動。そのキーワードとなるのが「多様性」だと川村さんは話す。
「ラグビーの日本代表選手を見て『日本代表の中に、海外の選手がいる』という方がいますが、ラグビーは人種を超えてプレーするスポーツ。今回のワールドカップで優勝した南アフリカも、人種差別の強い国ですが、今大会で初めて黒人選手がキャプテンとなり、チームを優勝へと導いたのです」
多様性というキーワードで結び付き、LGBTなどの性的少数者の方との活動も行っているという。ラグビーブームの波に乗り、日本に多様性をどんどん広げていきたいと語った。
柔道の金メダリストであり、HEROsアンバサダーとしても活躍する井上康生さんもステージに登壇。スポーツには人種や国境、宗教、思想などを超えて、絆や友情を育み、平和に貢献できる力があるなど、その価値を自身の経験から伝えた。そんな井上さんに、誠人くんがインタビューにチャレンジした。
誠人くん「井上さんが初めて夢中になったことは何ですか?」
井上さん「やっぱり柔道かな。5歳から柔道を始めて7カ月で県のチャンピオンになったんです。それでとても面白くなってしまって。今年41歳になりますが、未だにハマってます(笑)」
誠人くん「井上さんが経験した最大のチャレンジって何ですか?」
井上さん「また柔道のことになってしまうけど、オリンピックで金メダルを獲ることは決して簡単な道のりではなかった。その道のりが、今の自分の人生にとっても生かされています」
誠人くん「アスリートだからできる社会貢献って何ですか?」
井上さん「ラグビーワールドカップを見ていた時も感じたことですが、戦うことで見ている皆さんに勇気を与え、心を動かすことができるのがスポーツの力。それと同時に荒井さんがされている骨髄バンクのドナー登録サポートやHEROsの活動のように、自分がスポーツを通して学んだことをいかに社会に還元していけるかが、アスリートの究極の目的だと思います。これからも社会とつながった自分でいられるよう、努力していきたいです」
特定非営利活動法人「JUDOs(ジュウドーズ)」(別ウィンドウで開く)を立ち上げ、代表を務める井上さん。世界に広がっていく柔道の可能性を、さらに模索していきたいと話した。
元プロ野球選手の赤星憲広(あかほし・のりひろ)さんは、現役時代の2003年から盗塁の数だけ車いすをプレゼントしてきた経歴を持つ。その原体験となったのが病気がちだった母親が入院中、車いすを使わずにトイレに行く姿を見たからだという。車いすが足りていないことを漠然と感じていた赤星さんは、プロ野球デビュー後の2002年に出会ったファンとの交流で、さらに思いを固めたと語る。
「その子は骨肉腫になり、足を切断しなくてはいけなくなってしまったのですが、そんな大きな決断をすぐにはできないですよね。そこで『僕が君の足変わりになる車いすをプレゼントするからね』と伝えたんです。その子の家族は、新人だった僕にいつも声援を送ってくれ、僕はたくさんの勇気をもらいました。だからプレー以外でも恩返しをしたいと思ったんです。車いすを贈る活動を始めたのはそれからですね」
プロ引退後は、社会貢献をしたいけれど何から始めていいのか分からない人を巻き込んでいこうと、「Ring of Red(リング・オブ・レッド)」(別ウィンドウで開く)という基金を立ち上げた赤星さん。チャリティーマラソンなどを行っており、集めた資金で車いすを贈る活動を今も続けている。
社会貢献にもつながる魅力的なイベントが盛りだくさん!
フードブースも充実するこのイベント。中でもにぎわっていたのが、「病気の子どもたちにスポーツを通じて青春を」というコンセプトの元、入院中だけでなく、退院後も継続的に治療・療養を必要とする子どもや、地域で長期療養をしている子どもを支援する活動を行う「Being ALIVE Japan(ビーング・アライブ・ジャパン)」(別ウィンドウで開く)が出展したレモネードスタンドだ。
レモネードスタンドには、長期療養中の子どもたちもスタッフとして参加。療養では緊張を強いられることも多い子どもたちも、この日は青空の下でお客さんとの触れ合いに笑顔を浮かべていた。誠人くんの取材に応じてくれたのは代表の北野華子(きたの・はなこ)さん。
誠人くん「お客さんの反応はどうでしたか?」
北原さん「少しでも子どもたちの応援になればと、足を運んでくれたお客さんの気持ちがとてもうれしかったですね」
そんな病気と闘う子どもたちへの応援もあってか、レモネードスタンドは、イベント開催中の2日間で500杯完売を目標としていたが、それを大きく上回る740杯もの売上を記録。大盛況のまま幕を閉じた。売上金はスポーツを通じて小児がんの子どもたちを支援する活動資金として利用される。
そして子どもたちを中心に人気だったのが、誰でも気軽に楽しめるスポーツ体験。ボッチャ体験、体力測定、トランポリンなど、バリエーション豊かだ。
競技用車いすを使ってリレーに参加した誠人くんは、惜しくも入賞はならなかったが、ほとんどの大人が10秒台というタイムの中、8.2秒という好記録をたたき出した。よほど楽しかったのか、2周目にチャレンジする姿も。スポーツには、どんな人にも一瞬で夢中にさせる力がある。
誠人くんは、同じ車いすリレーに参加した楠本ゆり香(くすもと・ゆりか)さんにイベントに対する感想を聞いた。
誠人くん「今日のイベントの魅力はどのように感じましたか?」
楠本さん「ただ見たり聞いたりするのではなく、体験できるところがいいなと思いました。私自身、車いすを体験したことで、来年のパラリンピックでは、より親近感をもって応援ができるのではないかなと思います」
同じスポーツを体験したことで、仲間意識が生まれ、すぐに打ち解けることができる。誠人くんも同じ体験をした楠本さんに対し、他の人以上に親しみを覚えたそうだ。
イベントをきっかけに「世界の見え方」が変わった
最後に、イベント取材という大役を終えた誠人くんに素直な感想を聞いた。
「スポーツ選手やスタッフさん、お客さんのインタビューを通して、世の中にはいろんな人がいて、頑張っていることが分かりました。あと今日車いすに乗ってみたことで、普段の自分が見ている世界とは違うことが分かりました。この経験を、僕も誰かのために役立てたいと思います」
誠人くんだけでなく、初めてのスポーツに挑戦したり、骨髄バンクに登録したりと、そこには確かな一歩を踏み出すたくさんの人がいた。スポーツや音楽を通して楽しく参加できたからこそ、多くの人の心を動かしたのだろう。
社会貢献のスタートラインも、自分が普段いる場所と遠いところにあるのではなく、近くにある。骨髄バンクの登録にかかる時間はおよそ20分、必要な血液は2ccだけ。あなたのそのスタートが、誰かの命を救うのだ。
撮影:佐藤 潮
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。