日本財団ジャーナル

スポーツ界の社会貢献の輪を広げる「HEROs AWARD」。2019年の栄冠は誰の手に?

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HEROs AWARD 2019の受賞者。写真左から、巻誠一郎さん、井本直歩子さん、北澤 豪さん、梶川三枝さん
この記事のPOINT!
  • HEROs AWARDは、アスリートやNPOが行うスポーツの力を生かした社会貢献活動を表彰する年に一度の式
  • アスリートがスポーツマンシップを発揮できる場所は、競技場の中だけではない
  • スポーツの力は、自然と人と人をつなぎ、皆が共生する平和な社会をつくり出すことができる

取材:日本財団ジャーナル編集部

2019年12月9日、東京・六本木のグランドハイアット東京にて、スポーツの力を生かし社会に大きく貢献したアスリートやNPOを称え、表彰する、年に一度の式典「HEROs AWARD(ヒーローズ・アワード)」(別ウィンドウで開く)が開催された。東京オリンピック・パラリンピックの開催を来年に控え、スポーツの力に注目が集まる中、アスリートたちはどのような思いでそれぞれの社会課題と向き合っているのか。

スポーツの力をを生かした優れた社会貢献活動を称えるHEROs AWARD

HEROs AWARDは、アスリートの社会貢献活動を促進する日本財団が2017年にスタートした「HEROs Sportsmanship for the future(以下、HEROs)」(別ウィンドウで開く)プロジェクトの柱の一つ。 「アスリート(男性・女性)」「チーム・リーグ」「NPO」の4部門について審査し、スポーツの力を生かした社会貢献活動を行っているアスリートや団体を表彰する。格式のある場を持って表彰することで、広く社会に認知させ、スポーツの力を活用した社会貢献活動の輪を広げていくことを目的としている。

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各受賞者へ贈られるHEROs AWARDのトロフィー

この日、HEROsを代表して参加したアンバサダーは、ハンドボールの東 俊介(あずま・しゅんすけ)さん、バトミントンの池田信太郎(いけだ・しんたろう)さん、柔道の井上康生(いのうえ・こうせい)さん、パラアイスホッケーの上原大祐(うえはら・だいすけ)さん、バレーボールの大林素子(おおばやし・もとこ)さん、パラ水泳の河合純一(かわい・じゅんいち)さん、モータースポーツの佐藤琢磨(さとう・たくま)さん、サッカーの中田英寿(なかた・ひでとし)さん、ボートレースの長嶋万記(ながしま・まき)さん、車いすバスケットボールの根木慎志(ねぎ・しんじ)さん、卓球の松下浩二(まつした・こうじ)さん。いずれも競技の第一線で活躍してきたトップアスリートたちだ。

普段は競技ユニフォームに身を包むアスリートたちも、この日ばかりはドレスアップし、表情をゆるめる。会場では、いつの間にか競技を超えて選手が集う輪ができあがっていた。

「スポーツの力は思っている以上に大きなものです。2019年は災害の多い年になってしまいましたが、HEROsの皆さんの力で被災地にエネルギーを届けることができました」と、開会の挨拶をする日本財団の笹川陽平(ささかわ・ようへい)会長。スポーツの持つ可能性について言及し、「この素晴らしい輪を、この会場から日本全国、そして世界へと広げていきましょう」と、力強く会場に呼び掛けた。

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台風19号で被害を受けた栃木県鹿沼市粟野地域で復旧活動を行ったアスリートたち
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HEROsを起点にスポーツを通した社会貢献活動の輪を広げていきたいと話す日本財団の笹川会長

それぞれの社会課題に挑む、HEROs AWARD 2019受賞者たち

会場を心地よい緊張感が包む中、HEROs AWARD 2019が発表された。受賞したのは次の5組だ。

[アスリート男性部門]

熊本大地震からの復旧・復興活動「YOUR ACTION KUMAMOTO」(別ウィンドウで開く)に取り組む、元プロサッカー選手の巻 誠一郎(まき・せいいちろう)さん。

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熊本県下益城郡小川町出身の元プロサッカー選手、巻さん

2016年4月に発生した熊本大地震。その被害は甚大で、多くの建物が倒壊し、自宅に戻れない人々が避難所生活を強いられた。当時プロサッカークラブ「ロアッソ熊本」に所属していた巻さんは、地震発生の翌日から支援物資の確保や支援活動に着手し、3カ月間ほぼ休みなく延べ300もの避難所を訪問。その後も、熊本の復興と子どもたちが安心してスポーツをできる環境づくりに取り組んでいる。

「地震の後、前を向けない子どのたちがたくさんいました。でも足元にボールを蹴ると、必ず蹴り返してくれるんです。ボール一つでコミュニケーションがとれ、みんなとつながれる。それがサッカー、スポーツの力なんです」

支援の中で感じた「スポーツの持つ可能性」を巻さんはそのように語った。

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サッカーを通じて、子どもたちの心の支援を行っている巻さん

[アスリート女性部門]

世界各国の紛争や自然災害直後の地域で子どもたちの教育支援を行っている、元競泳日本代表の井本直歩子(いもと・なおこ)さん。

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現在は国際連合児童基金(UNICEF)職員を務める井本さん

「現役時代、途上国の選手が何の支援もない中で奮闘している姿を見て、スポーツ選手はみんなが同じスタートラインに立てているわけではないことを思い知りました」

その体験が活動の原点になっているという井本さん。現役引退後、16年間にわたって世界の紛争、災害地域で暮らす子どもたちの教育を、難しい課題に直面しながらも支援し続けている。

「国内外にはさまざまな困難がありその一つ一つが高いハードルを持っています。そのたびに、私は現役の時に感じていたアスリートの精神を思い出し、困難に立ち向かっています。世界は不平等で、学校にいけない子どもたちがたくさんいます。この賞を通して、そういった子どもたちや世界のことを知ってもらうきっかけになればと思います」

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紛争や自然災害直後の地域で、子どもたちの教育・スポーツ支援を行う井本さん

[チーム・リーグ部門]

「サッカーを通じた共生社会づくり」に取り組む「一般社団法人 日本障がい者サッカー連盟」(別ウィンドウで開く)。会長を務めるのは、元プロサッカー選手の北澤 豪(きたざわ・つよし)さん。

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現在は日本障がい者サッカー連盟会長を務める北澤さん

以前まで障がい者サッカー7団体はバラバラで活動し、それぞれの認知度も低く、事業展開や運営資金も限られていた。そこで日本障がい者サッカー連盟を設立し7団体を統括。日本サッカー協会(JFA)と連携を図り、サッカー界のリソースを活用しながら障がい者サッカーの社会的価値を高め、差別や偏見、機会の平等といった障害者を取り巻く課題の解決に取り組んでいる。

「最近街を歩いていても、たくさんの障がい者の方が活動している姿を目にするようになってきて、社会が変わりつつあると感じています。私たちは、障がいの有無に関係なくまぜこぜのサッカーを展開することで、スポーツの力を通して共生社会を実現してきたいと思います」

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障がい者サッカー7団体のユニフォームを統一し、団結を深めた選手たちと北澤さん

[NPO部門]

スポーツが持つ力で、DV(ドメスティック・バイオレンス)被害に遭った子どもたちの心のケア「スポーツメンタリング」を行う「一般社団法人 Sport For Smile」(別ウィンドウで開く)。代表を務めるのは梶川三枝(かじかわ・みえ)さん。

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スポーツの無限の可能性を信じて活動するSport For Smile代表の梶川さん

警察庁によるとDV被害件数は14年連続で増加。DV家庭の子どもはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥るだけでなく、学校に行かなくなるケースも少なくないという。そこでSport For Smileでは、DV家庭の子どもたちに、信頼できるお兄さん・お姉さん(メンター)と共にスポーツをする機会を提供。傷ついた子どもたちの心をスポーツを通じて回復し、自信と人を信じる力を身につける活動を展開している。

梶川さんは日々の取り組みの中で、スポーツが持つ可能性を強く感じているという。

「最初は名前を聞かれても答えられなかったり、机の下に隠れたりしていた子どもたちが、プログラムを通じて、活発に自分の意見を言えるようになったり、友達を思いやる姿を見せてくれるようになったりします。そんな彼らの成長と笑顔がスタッフにとって金メダルです」

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メンターと共に、DV被害で傷ついた子どもたちの心の回復に努める梶川さん

[特別賞]

今年のHEROs AWARDでは初めて特別賞も設けられた。受賞したのは、柔道用具や柔道教材の無料配布などを通じて「柔道で育む国際友好プロジェクト」に取り組んできた「認定NP0法人 柔道教育ソリダリティー」(別ウィンドウで開く)。ロス五輪の柔道金メダリストの山下泰裕(やました・やすひろ)さんが理事長を務め、2019年に活動を終了している。

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日本オリンピック委員会(JOC)会長としても2020年の東京オリンピック成功に向けて尽力する山下さん

13年間にわたり、柔道を通して国際的文化交流、また紛争や貧困問題の改善に取り組んできた柔道教育ソリダリティーだったが、2019年6月に山下さんが全日本柔道連盟の会長に再任し、多忙になったため解散することとなった。

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国内外で、柔道を通じて青少年の育成事業にも取り組んできた山下さん

「僕の師とも言える東海大学創始者の松前重義先生からいただいた『スポーツを通して世界平和に貢献できる人間になってほしい』という言葉を胸に、13年間活動に励んできました。解散を決めた時は悔しい気持ちもありました」と当時の心境を山下さんは振り返る。

しかし、解散の話を聞いた男子柔道日本代表監督を務める井上康生さんが、山下さんの志を継いで「NPO特定非営利活動法人 JUDOs」(別ウィンドウで開く)を立ち上げた。

「私の教え子で、日本代表監督の井上康生さんが『先生の後を継いでNPOを立ち上げようと思います』と言ってくれたことが、涙が出るほどうれしかった。みんなで力を合わせて、スポーツがより良い社会づくりに貢献できる、その姿を示していきましょう」

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山下さんの意志を引き継ぎ、新たにNPOを立ち上げた井上さん(写真中央)

HEROs of the yearの栄冠は、日本障がい者サッカー連盟の手に

そして、最も評価の高かった活動に贈られる「HEROs of the year」の発表へ。受賞したのは、日本障がい者サッカー連盟が取り組む「サッカーを通じた共生社会づくり」だ。

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日本財団・笹川会長からトロフィーを受け取る北澤さん

「栄えある賞をいただき、感謝しかありません。HEROsがあるおかげで、今日参加している選手たちにも、大きなモチベーションになったと思います。我々の活動が、障がいを抱えて外に出られないという人に対して、少しでも『外でスポーツをやってみようかな』と思えるきっかけになればうれしいです」

北澤さんは受賞の喜びをそう語った。

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受賞者コメントで、取り組みに秘めた思いを語る北澤さん

3回目を迎える今年、大いに盛り上がりを見せたHEROs AWARD 2019。「これだけ多くのアスリートが来てくれたのを見ると、HEROsの輪が広がっているのを感じますね」という、HEROsアンバサダーの中田英寿さんは、HEROs AWARDのこれからの可能性についてこう語る。

「社会貢献活動をしているアスリートがいても、自分からはその活動を発信しづらいもの。そんなとき、HERO s AWARDのような賞があることで、『自分もやってみようかな』と思えるアスリートが増えていくと信じています。スポーツという共通言語を使った社会貢献が、今後ますます増えていくとうれしいですね」

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HEROs AWARDの可能性について語る中田英寿さん

競技場の中で自分や世界と戦い、見る者に勇気を与えてくれるアスリートたち。それが、社会貢献活動という舞台でも違いはない。どんなに困難でも、自分や周りの可能性を信じて行動する。そんなパワフルでポジティブな社会貢献の輪が、HEROsの活動を通じて広がっていくことを、確かに感じた。

撮影:佐藤 潮