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「#学校ムリかも」から見える、学校がつらい推計43万人の子どもたちに必要な受け皿

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左から『不登校新聞』の編集長・石井志昂さんと日本財団・枡方瑞恵さん
この記事のPOINT!
  • 10人に1人の中学生が、学校はつらいと感じている
  • 100年前の明治時代から変わらない教育体制は、現代には合わない場合もある
  • 必要なのは、子ども一人ひとりに最適な社会的受け皿と、特性に合った学びが得られる居場所

執筆:日本財団ジャーナル編集部

「学校がつらい、登校したくない…」。日本にはそんな思いを抱えた中学生が大勢いる。その数は年々増加傾向にあるという。一体何が子どもたちを追い詰め、苦しめているのだろう。

その原因を探るべく、日本財団が独自で行った「不登校傾向にある子どもの実態調査」(別ウィンドウで開く)の事業担当者である枡方瑞恵(ますかた・みずえ)さんが、不登校専門紙『不登校新聞』の編集長・石井志昂(いしい・しこう)さんに話を伺った。2人が「不登校」の実情を掘り下げる中で見えてきた、現代日本における教育制度の課題とは?

推計約43万人の中学生が「学校に行くのがつらい」

文部科学省が2018年に実施した調査により、325万人いる全国の中学生のうち、約10万人が「不登校」であることが判明した。しかし、この結果は子どもたち本人の声によるものではなく、学校や教育委員会等を対象にアンケートを行った結果である。

そこで日本財団は、当事者である中学生を対象に調査を実施。すると、推計約33万人の子どもたちが登校しているが学校に馴染んでいない“隠れ不登校”(不登校傾向)状態にあることが分かった。合計すると、およそ推計43万人が「学校がつらい」と感じているのだ。

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左から『不登校新聞』の編集長・石井志昂さんと、日本財団の枡方瑞恵さん

この結果について、調査の実施に際しアドバイザーを務め、自身も不登校の経験者である石井さんは何を感じたのだろうか。

初めて判明した、当事者たちの本音

枡方さん(以下、敬称略):本調査では、不登校傾向にある子どもたちが33万人と推計されることが分かりました。これは子どもの声を尊重したからこその結果だと思いますが、「当事者の声」を聞くことにはどのような意味があると思われますか?

石井さん(以下、敬称略):これまでの調査は教師視点のものがほとんどでした。そういった意味で、子どもたち本人の声を拾う調査はとても貴重ですよね。日本ではこの50年、何度も不登校の実態調査が行われてきました。世界的に見ても「不登校先進国」と言えるほどなんですよ。だけど、どれも子どもの本音を反映していないことが懸念されていた。それが今回の調査を通して、本音や実情が表面化したのは本当に良かったと思います。

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20年にわたり不登校新聞の編集に携わる石井さん

枡方:調査をして私自身とても驚いたのですが、学校は嫌だけど「行くことが正しい」から我慢して登校している子どもが本当に大勢いるようですね。これが数字として分かったことによって、どんな課題が見えてくるのでしょうか?

石井:「不登校傾向」にある子どもは、そもそも学校生活が楽しめておらず、「不登校」になっている子どもと同じように苦しみを感じているということなんですよね。学校との間で機能不全が起きているのに、なんとか我慢して登校している。その背景は、100年以上前から学校の教育モデルが変わっていないことにあると思うんです。明治時代には軍事教育を目的に「義務教育」が制定されましたが、現代の子どもにそもそも合っているのでしょうか?今回の数字は、そんなことを考え直すきっかけになるのではと思っています。

朝がつらいのは、人間関係のストレスが原因?

枡方:今回の調査結果では「学校生活をめぐる子どもの特徴」として、結果を6群に分類しました。これは「30日以上欠席している場合のみ不登校」という、文科省が定める定義に疑問を投げかけることが目的の1つでした。こうして分類した結果を見て、石井さんはどう思われますか?

図表:中学生の通学状況

中学生の通学状況を示す表。全体の調査人数6,450人で100%とし、人口推計325万1,684人。そのうち(1).1年間に合計30日以上、学校を休んだことがある/休んでいる子どもは3.1%で推計9万9,850人。(1)-2.1週間以上連続で、学校を休んだことがある/休んでいる子どもは1.8%で推計5万9,921人。(2).学校の校門・保健室・校長室等には行くが、教室には行かない子ども[(2)-1.校門や学校の玄関まで行ったが、校舎に入らなかったことがある。(2)-2.授業中に、保健室や校長室など、教室以外の場所で過ごした・勉強した(月2~3回以上、もしくは1週間続けて)]、(3).基本的には教室で過ごすが、授業に参加する時間が少ない子ども[(3)-1. 1カ月に遅刻・早退を5日以上したことがある/している。(3)-2. 授業を受けず、に給食だけを食べるためだけに登校したことがある]、(4).基本的には教室で過ごすが、皆とは違うことをしがちであり、授業に参加する時間が少ない子ども(「教室にはいたが、みんなとは別の勉強など、他のことをしていた」月2~3回以上、もしくは1週間続けて)は4.0%で推計13万703人。(5).基本的には教室で過ごし、皆と同じことをしているが、心の中では学校に通いたくない・学校が辛い・嫌だと感じている子ども(※行動表出なし/「学校に行きたくないと思ったこと」毎日)は4.4%で推計14万2,161人。(6).学校になじんでいる子どもは 86.7%で推計281万9,049人。(1)の「不登校」の子どもは3.1%で推計約10万人。(1)-2から(5)の「不登校傾向」にある子どもは10.2%で推計約33万人。
子どもの状態は単純に「不登校」と「登校」に分類できるものではない

石井:今まで存在してこなかった、「30日以上学校を欠席している・不登校」と「学校に馴染んでいる・登校」の「間」にいる子どもたちのデータが明確になったことは大きいですね。これまでの調査では、30日休んでいれば「不登校」、まだ29日であれば「登校」だったわけです。でも30日と29日の間に、明確な差異はないはず。日数では数えられないさまざまな状況や心境を言葉化したことで、「不登校」とは何なのかを改めて議論できるのではないでしょうか。

枡方:ところで、興味深いことにどのタイプも「学校に行きたくない理由」のトップが「疲れる」あるいは「朝、起きられない」で共通していました。これは何を示しているのでしょうか。

図表:中学校に行きたくない理由TOP5

中学校に行きたくない理由トップ5を示す表。(6).(1)~(5)非該当の子どもの理由は、1位疲れる25.7%、2位朝、起きられない19.2%、3位テストを受けたくない16%、4位自分でもよくわからない15%、5位小学校の時と比べて良い成績が取れない13%。(1)-1.1 年間に合計30日以上学校を休んだことがある/休んでいる子どもの理由は、1位朝、起きられない59.5%、2位疲れる58.2%、3位学校に行こうとすると体調が悪くなる52.9%、4位授業がよくわからない・ついていけない49.9%、5位学校は居心地が悪い46.1%。(1)-2.1週間以上連続で学校を休んだことがある/休んでいる子どもの理由は、1位疲れる38.2%、2位朝、起きられない32.6%、3位自分でもよくわからない31%、4位友達とうまくいかない30.1%、5位授業がよくわからない・ついていけない29.2%。(2)~(4)いずれか選択した子どもの理由は、1位疲れる44%、2位朝、起きられない35.6%、3位授業がよくわからない・ついていけない33.3%、4位友達とうまくいかない28.5%、5位小学校の時と比べて良い成績が取れない27.1%。(5).基本的には教室で過ごし皆と同じことをしているが心の中では学校に通いたくない・学校が辛い・嫌だと感じている子どもの理由は、1位疲れる48.7%、2位朝、起きられない32.2%、3位学校に行く意味がわからない31.9%、4位学校は居心地が悪い28.4%、5位テストを受けたくない28.2%。
学校に行きたくない理由は身体的な理由が上位を占める

石井:子どもたちが、とにかく慢性的に疲れているということが分かりました。例えば人間関係のストレスや勉強の重圧を受けて「疲労感」を感じている時は、眠りづらくなります。そうすると作業効率が悪化するので、夜遅くまで勉強時間が延びてしまう。結果的に翌朝がつらいですよね。こうした不健全なサイクルが、子どもたちの中に広がっていると考えられるかもしれません。

枡方:中でも人間関係によるストレスは大きいでしょうね。世代によって人間関係のあり方は随分違うでしょうが、今の教室ではどのようなことが起きているのでしょうか。

石井:よく耳にされるかもしれませんが、「スクールカースト」と呼ばれる明確な身分格差が教室内で生まれているようです。子どもたちには「上下」があり、常に誰かをいじったり、いじられたりする攻撃的な人間関係が形成されています。これが想像以上に複雑な関係性なんですよ。そのため、ほぼ全員が「いじめた経験」と「いじめられた経験」の両方を持っていることが、国立教育研究所の調査によって判明しています。

小単位で学びの方法を考えることが、子どもに合った教育を見つける最短ルート

枡方:石井さんご自身について少しお聞かせください。石井さんは中学受験の失敗やいじめの経験がきっかけとなり、不登校になられたそうですが、当時は誰が「受け皿」になってくれたと感じますか?

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学校がつらい子どもにとって必要な「受け皿」について問う枡方さん

石井:1つは、新しい居場所を与えてくれたフリースクールですね。そして何より、「学校に行かない」という私の選択を受け入れてくれた親です。私の場合、学校に関する悩みが中学2年生の半年の間で徐々に深刻化しました。「何としても通わないとだめだ」と自分に言い聞かせていたのですが、張り詰めた糸がある日切れてしまって。「学校へ行きたくない」と涙ながらに母に訴えたら、行かなくていいよ、と受け入れてくれたんです。その言葉がなければ、どうなっていたのか分かりません。

枡方:子どもの気持ちを汲み取り、受け入れ、特徴や希望に合った環境を用意することは大切ですよね。子ども1人ひとりに最適な社会的な受け皿があり、特性に合った学びが得られる居場所があれば、状況は随分変わると思うんです。例えばどのような改善方法が考えられるでしょうか。

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大人が子どもたちに用意すべき環境とは何か、当事者目線で考えるべきと語る石井さん

石井:狭く深い学びの実践を広めることは、改善の一手になるかもしれません。というのも、戦後にタグラス・マッカーサー元帥が日本の教育において「学ぶ人を主体にし、一人ひとりに合った学び方を先生がアレンジするべき」と語ったんです。70年前から「子どもに合った学びが良い」と言われていたのに変わっていないのは、教育現場全体を一気に変えようとし過ぎたからかもしれません。それよりも、学校単位、クラス単位で学びの方法を考えてもいいんじゃないかと、私は思います。

「#学校ムリかも」から見えてきた子どもの本音

枡方:日本財団では現在「#学校ムリかも」というハッシュタグを使い、学校に関して子どもたちが感じていることを発信してもらうTwitterキャンペーン(別ウィンドウで開く)を実施しています。これは学校を否定するためでなく、子どもたちが本音を吐き出せるよう、気軽さや親しみを込めた言葉なんです。これについてどう思われますか?

石井:キャンペーンが始まってまだ数日ではありますが、このハッシュタグのついた投稿を見ていると「まさにそれが聞きたかった!」と思う意見が子どもたちから発信されていますね。「何時に寝ても朝がつらすぎる」「変な校則がしんどい」「ちょっと珍しいだけでハブられる」「LGBTヘの理解が足りていない」…。そんな、「言いづらい」本音が聞こえてきて、とても良い取り組みだと感じています。

枡方:この声に対し、もちろん日本財団としては解決策を模索していきますが、本来、誰が責任を持って受け止めるべきなのでしょうか。

石井:「責任」ということで言えば、それはやはり行政がしっかり受け止めて対策を立てていくべきでしょう。今上がっている声を聞き、子どもたちが本当に苦しんでいることをしっかり理解してほしいですね。また繰り返しになってしまいますが、100年以上続いている日本の教育体制と、現代の子どもの間にはギャップがあります。とはいえ、急に新しい体制を整えることは難しいはずなので、私たち大人が手を取り合ってトライアンドエラーを繰り返し、子どもたちがのびのびと学べる場所作りができればいいですね。

枡方:ありがとうございます。では最後に、『不登校新聞』の編集長を務める石井さんにとっての、今後の目標を教えていただけますか。

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子どもの子ども時代を幸せにすることが夢だと語る石井さん

石井:不登校で苦しむ子どもがいない社会を実現したいですね。それは言い換えれば、子どもが子ども時代を幸せに過ごせるようにしたいということでもあります。学校って本来、子どもの幸せを願って作られたものでしょう。時代の流れの中でずれてしまっている部分を是正(ぜせい)することで、本来の学校の目的が果たせるようになれたらと思います。

それから1つ、今不登校で苦しんでいる人に伝えたいことがあるんです。これは僕が経験したことだから分かるのですが、不登校になっても「普通の未来」は待っています。大人になれば大変なこともあるし、嬉しいこともある。そんな未来は誰にでも絶対に、平等に来るんです。

この先どうなるんだろうと必要以上に不安がることはありません。不登校であろうと何であろうと、誰もがいつか大人になるんだから。

石井さんは、日本財団が2019年5月30日(木)22時からTwitterで配信する「#学校ムリかも トーク on Twitter」にも出演。不登校経験のある中川翔子さん、文学YouTuberベルさんと共に、「#学校ムリかもTwitterキャンペーン」に寄せられた子どもたちの声を紹介しながら、自身の経験も踏まえてトークを展開する。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

石井志昂(いしい・しこう)

中学校受験の失敗をきっかけに、中学2年生から不登校に。同年フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から同紙編集長を務める。不登校をテーマに、これまで不登校の子どもや若者、幅広いジャンルの識者に取材を重ねている。
不登校新聞 公式サイト(別ウィンドウで開く)

枡方瑞恵(ますかた・みずえ)

日本財団公益事業部国内事業開発チーム所属。入職当初は放課後の子どもの学習や生活支援事業を中心に担当。東日本大震災を契機に、文化財の復興を目的とした基金立ち上げと運営に従事した後、「にっぽん文楽」や「いろはにほん」などの文化事業の企画立案を行う。2018年6月から不登校の子どもの実態調査の企画実施に従事。

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