【会社づくりの参考書】レストランも農業も林業も本気で取り組む、福祉楽団が実践する創造する福祉

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福祉楽団の理事長飯田大輔さん

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 仕事は細かく切り分けることで、多くの人が働きやすい環境になる
  • 福祉事業も一般のビジネスと同様、仕事の「品質」や「見た目」が大切
  • 柔軟に考え、さまざまな分野をつなぎ、編集すれば、新たなサービスや雇用が生まれる

障害者雇用のモデル事例を紹介し、みんなが働きやすい会社づくりのヒントを探る本連載企画。今回ご紹介するのは、千葉県を拠点とする社会福祉法人「福祉楽団」(別ウィンドウで開く)だ。 

お話を伺ったのは、同団体の代表理事を務める飯田大輔(いいだ・だいすけ)さん。福祉楽団は老人ホームを経営するほか、農業や自伐型林業を展開する「栗源第一薪炭供給所」、そしてメディアでも取り上げられ話題を集めるブランド豚肉を扱う精肉場兼レストラン「恋する豚研究所」(別ウィンドウで開く)を運営するなど、その事業は多岐にわたる。

福祉ビギナーから、福祉施設や就労支援施設の運営者へ

福祉楽団は2001年に設立以来、千葉県内で特別養護老人ホームや、デイサービスセンターなどを運営している社会福祉法人だ。理事長の飯田さんはもともと、福祉に興味はなかったという。

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豊かな自然に囲まれた「恋する豚研究所」。目の前には、自社で耕すサツマイモ畑が広がる

しかし大学を卒業した彼は、母が他界したことをきっかけに福祉の道へ進むことになる。生前に社会福祉法人設立の準備を進めていた母の遺志を継ぎ、家族会議の結果、特別養護老人ホームを運営することになったのだ。

「養豚を営む伯父は理事長に就任し、私は福祉を学びながら立ち上げにかかわることになりました」と飯田さん。開設準備に向け、彼は全国各地の福祉施設120カ所を見学して回った。

そして2003年、特別養護老人ホーム「杜の家(もりのいえ)くりもと」を千葉県香取市に開設。続けてデイサービスやショートステイサービスなどの施設を徐々に増やしていった。

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福祉楽団が運営する特別養護老人ホーム「杜の家くりもと」

福祉楽団は、障害者に働く場を提供する就労支援施設としても、横断的に事業を行なっている。その一つが「恋する豚研究所」である。

大人気なレストランになれば、高工賃を実現できる

取材で訪れた「恋する豚研究所」は、千葉県香取市にある精肉加工場兼直営レストラン。アクセスが良いとは言えない場所にありながら、休日は2時間待ちもある大人気店だ。

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2019年4月から登場した人気メニュー「8種の野菜と恋する豚のスチームハンバーグ定食」

絶品の豚肉料理はさることながら、著名な建築家やデザイナーがかかわったセンス溢れる施設を目当てに足を運ぶ外国人観光客や建築学科の学生もいるそう。

そんな「恋する豚研究所」は就労継続支援A型の事業所でもあり、約半数は障害のあるスタッフだ。賃金は全国平均の月7万720円(2017年、厚生労働省調べ)を上回る8万円〜9万円である。

「恋する豚研究所」は、障害者の平均工賃(就労継続支援B型)が1万円ほどである現実に飯田さんがショックを受けたことから始まる。

ちょうどその頃、当時のヤマト福祉財団理事長・小倉昌男(おぐら・まさお)さんが、障害者の月給を10万円に上げることを目標に「スワンベーカリー」というパン屋をオープンしていることを知った。彼の事業は軌道に乗っており、障害の有無にかかわらず働きやすい環境をつくることに成功していたのだ。

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「恋する豚研究所」で働くスタッフの皆さん

「自分も何かしたいなと思った時、豚肉はどうだろうと思いついたんです。千葉県は養豚が盛んだし、伯父が養豚場を営んでいたので、その豚肉をリブランディングすれば人気が出そうだと感じました」

飯田さんは5年間かけて準備を進め、2012年に「恋する豚研究所」をオープンした。飼料にこだわり大切に育てられた豚肉を使い、ハムやソーセージの製造・販売を開始。また同じ施設の一部を直営レストランにし、おいしい豚肉料理も提供した。

写真:「恋する豚研究所」で製造されたハムやソーセジなどの加工肉のほか、千葉県産の野菜やジャム、ソース、乾物類などが並ぶ店内。
店内では、自社で製造したハムやソーセージのほか、千葉県産の選りすぐりの商品も販売
写真:冷蔵ショーケースに並ぶ「恋する豚研究所」で製造されたソーセージ。
パッケージデザインも商品ごとにこだわっている

そんな「恋する豚研究所」で働くスタッフの仕事は、とても細かく分業できるようになっている。

「タスク一つ一つに番号が振ってあり、出勤すると、ホワイトボードにその日こなすべき『番号』が提示されているんです。これに従って仕事を進めれば、1日の仕事が完了するという仕組みになっています」

また、やるべき仕事の「番号」と同じ数字が振られたクリアファイルが用意されている。中の書類には、写真とテキストで細かく丁寧に仕事内容が示されている。こなすべき「タスク」をスタッフが分からなくなってしまった場合も安心だ。

林業、農業…さまざまな分野を福祉に掛け合わせる

「恋する豚研究所」を含む福祉楽団の広大な敷地を、飯田さんに案内していただいた。まず見せていただいたのが、レストランから歩いてすぐの場所に位置する「栗源第一薪炭供給所」だ。

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「恋する豚研究所」と同じ敷地内に建つ「栗源第一薪炭供給所」

ここも就労支援の事業所であり、日本財団と共に障害者雇用のモデル事業をつくるプロジェクト「はたらくNIPPON!計画」(別ウィンドウで開く)の一環として始まった事業である。

事業内容の一つは、周囲に残る放置森林の管理に伴う自伐林業だ。すぐ裏にある森林から伐採した木材を作業場へ運んで加工し、薪としてキャンプ場などに販売している。

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木材の加工作業を行うスタッフ
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スタッフが切り出した木材

障害のあるスタッフは、サポーターである「支援員」の手を借りながら仕事をこなしている。またここでも「恋する豚研究所」と同様に仕事は分業化され、仕事に番号がふられている。

とはいえ、森林をきれいに管理し、木材を生み出す林業は難しい仕事だ。そのため「森をきれいに整えている奈良県へスタッフを半年間派遣し、研修してもらったこともあるんですよ」と飯田さん。システマチックな研修制度は設けず、必要に応じて実践に生きる学びが得られるようにしているという。

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切り出された木材や、それらを利用して作られた薪や木箱がずらりと並ぶ作業所内
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スタッフの休憩所

作業所に隣接した休憩所は古民家を思わせる雰囲気で、いわゆる「障害者作業所」のイメージからはかけ離れた落ち着く空間になっていた。

センス溢れる空間作りを徹底している飯田さん。その理由を尋ねると「何かをつくるのに適当な仕事をする人なんて、いるんですか?」と、まっすぐな答えが。

「福祉施設だから見た目にこだわらなくていい」。そんな言い訳を自身には許さないと言わんばかりだ。

施設の裏を抜け、すれ違う地元の方と丁寧に挨拶を交わす飯田さんについて歩く。すると農家が所有している畑に並び、2ヘクタールものサツマイモ畑が見えてきた。これは「栗源第一薪炭供給所」のもう一つの事業である「農業」の現場だ。

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広大な敷地いっぱいに植えられたサツマイモ

「マルチフィルムの張り方がやっぱりプロよりは劣るよね…」と、隣接したベテラン農家のサツマイモ畑を眺めつつ、少し剥がれてしまっている黒いビニールを直す飯田さん。

農業は2018年から始め、近隣の農家に協力を得ながらサツマイモを育てているという。障害のあるスタッフと支援員、どちらも農業初心者が大多数を占めているため、今は勉強しつつノウハウを身に付けているところだ。

「これだけ広いんだ。遊びとか支援ごっこじゃないって分かるでしょう」と、畑道を歩きながら飯田さんは言う。

障害者の就労支援施設では、本当にいいものは作れない。きちんとした事業は成り立たない。そんな世間のイメージを覆す仕事がここで始まっている。

「働きたい」という気持ちに応えたい

就労支援施設としての役割を担う「恋する豚研究所」と「栗源第一薪炭供給所」。飯田さんは、これらを今後どう発展させていくのだろう。

「『恋する豚研究所』に関しては、都内に店を出さないかとお声がけいただいたんです。せっかくなのでコンセプトストアを出店しようと思っています」と飯田さん。都内でも新たな豚肉の楽しみ方を提案しつつ、働きづらさを抱えている人を雇用する場としても展開したいと語った。

また「栗源第一薪炭供給所」に関しては、事業内容に宿泊施設を追加したいと考えているそうだ。

「農業や林業って天気や季節で仕事の量が変わってくるんです。なので、これらを軸に据えながらサービス業を組み合わせて、年間通して安定的に働ける場をつくりたい」

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どうすれば雇用が増えるかを考え続ける飯田さん

宿泊客は農業や林業が体験できるようなアクティビティを用意するのも良さそうだ、と飯田さん。「実現した際には、依存症のある人や少年刑務所を出た人も雇用できるようにしたい」と続ける。

「働かせてほしいという声が、うちによく届くんですよ。ニーズがあるならできる限り応えたいんです」

また、宿泊施設の仕事は基本的に掃除と管理であることもポイントだ。

「そういった仕事なら何かしらの働きづらさを抱えた人もこなしやすいでしょう。それに職員住宅も用意できるので、雇用の幅を広げられたらいいですね」

そして何より、サービスを通して外とのつながりもできるはずだ、と飯田さん。

「時にはトラブルも起きるかもしれません。だけど働くことを通して、少しずつ社会との信頼関係が築ける場にできればうれしいですね」

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構想中の宿泊施設の見取り図を見ながら打ち合わせを行う飯田さんとスタッフ

今回は特別に、構想中の宿泊施設の見取り図も見せていただいた。宿泊施設は森林の中に建てることを想定している。もし実現したなら、多様なスタッフが働き、多くのお客さんに愛される場となるに違いない。

温かく、優しく、柔らか。そんな福祉の印象とはまるで違う、合理的に洗練された「本当に働きやすい環境」をつくる飯田さん。厳しく冷静、そしてそれ以上に丁寧で真摯な彼だからこそ実現する仕事なのだろう。

そんな飯田さんが生み出す「働きやすい環境」をぜひ、おいしい料理をいただきながらその目で見てほしい。

撮影:永西永実

〈プロフィール〉

飯田大輔(いいだ・だいすけ)

1978年、千葉県生まれ。2000 年、東京農業大学農学部卒業。2001年に日本社会事業学校(現・日本社会事業大学)研究科修了。同年、「社会福祉法人福祉楽団」を設立。特別養護老人ホームの相談員や施設長など介護現場での経験を経て、2012年に豚肉の加工や販売を行う「株式会社恋する豚研究所」を設立。2013 年、千葉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程公共研究専攻修了。現在、社会福祉法人福祉楽団理事長、株式会社恋する豚研究所代表取締役。東京藝術大学非常勤講師。
福祉楽団 公式サイト(別ウィンドウで開く) 恋する豚研究所 公式サイト(別ウィンドウで開く)

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