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「愛することは、つくること」。アートを通じて考える社会の多様性
- 展覧会「LOVE LOVE LOVE LOVE 展」のプレイベントは、アートや社会の多様性、愛と創作の深いつながりをひもとく
- 温かい人とのつながりや愛のあふれる環境によって生み出される作品
- アートに障害や国境は関係ない。多様な表現や創作活動が、つくり手と受け手を強く結びつける
取材:日本財団ジャーナル編集部
「愛、それは自分を取り戻し、夢中になり、他人を慈しみ、祈り、つくりあげるもの。この時代、いちばん必要とされているのは、『愛』ではないでしょうか」
そのような想いを込めて、東京2020オリンピック・パラリンピック(以下、東京2020大会)の期間に開催する展覧会「LOVE LOVE LOVE LOVE 展」は、「愛」をテーマに展開される。その展覧会についてよりたくさんの人に知ってもらうべく、2019年7月14日~16日の3日間、東京ミッドタウン・ホールAにてプレイベント(別ウィンドウで開く)が開催された。
「アート」と「愛」の関係って?2020年に開催予定の「LOVE LOVE LOVE LOVE 展」
開催まで1年に迫った、東京2020大会。このタイミングに合わせて展覧会「LOVE LOVE LOVE LOVE 展」は開催される。「愛」をテーマに、国内外からおよそ40組の障害があるアーティストや現代美術のアーティストを迎え、ドローイング、オブジェ、アニメーション…などジャンルを超えた作品1,500点以上が、東京・お台場の「船の科学館」に集結する。
そのプレイベントとなる本展は、16組のアーティストによる作品の展示や、作家による公開制作、トートバッグや缶バッジといったものづくりが体験できるワークショップなど、盛りだくさんの内容だ。さらに、作家やクリエーターといった豪華ゲストを迎えてのトークイベントも開催された。
まず、紹介したいのが国内外から集まった16組のアーティストによる渾身の作品だ。トライアンドエラーを繰り返して生まれた作品は、時には美しく、時には歪(いびつ)で、時には不可解で、見る者の足を止めずにはおかない。出展作家は、以下の方々だ。
[出展作家]
井村ももか(いむら・ももか)、岡元俊雄(おかもと・としお)、小林 覚(こばやし・さとる)、清水千秋(しみず・ちあき)、砂連尾 理(じゃれお・おさむ)、杉浦 篤(すぎうら・あつし)、高田安規子・政子(たかだ・あきこ・まさこ)、寺口さやか(てらぐち・さやか)、似里 力(にさと・ちから)、西尾美也(にしお・よしなり)、納田裕加(のうだ・ゆか)、伏木庸平(ふせぎ・ようへい)、ピーター・マクドナルド、松井智惠(まつい・ちえ)、松本 力(まつもと・ちから)、宮川佑理子(みやがわ・ゆりこ)
展示された作品は、それぞれが違う素材で、多様なアプローチをしているところが面白い。例えば、無造作に巻かれた糸が他にはない佇まいを漂わせる、納田裕加さんの《のうだま》は、「この中には何がいるんだろう?」「いつ生まれるのだろう?」と考えてしまうような、時間の流れや未来を感じさせる作品だ。
ピーター・マクドナルドさんの、ポップなカラーが特徴的な絵画は、登場人物それぞれの頭の大きさや形が、彼らの性格や、そこで行われているコミュニケーションの様子を物語っているかのよう。耳をすましていると、絵から彼らの対話が聞こえてきそうだ。
他にも、墨汁と割り箸1本のみを使ってダイナミックに体を使って描いた、岡元俊雄さんの絵画や、気に入った曲の歌詞や言葉を自在に変化させて描いた小林 覚さんの絵画など、どれもが興味深い。
そこには表現と向かい合う個人がいるだけで、人種の違いや国境、障害の有無などは存在しない。また、何かしらのメッセージを、手を動かし作品にして伝えようとしているのも面白い。アートというコミュニケーションを感じずにはいられない。
このイベントでは、作家たちの公開制作も行われた。滋賀県にあるやまなみ工房(別ウィンドウで開く)所属の作家である清水千秋さんは、30年にわたってアート活動を行っている。作品は名画や出会った人をモチーフとしたものが多い。下絵を描き、なぞって縫い、中の空間を埋めるように刺繍するという手法で制作を進める。
一針一針丁寧に縫われた作品には、他にはない魅力がある。それは清水さんの人生の一場面を語っているようだ。
カラフルな布に、油性マジックで色付けしたボタンを縫い付け、それを丸める井村ももかさんの作品も異彩を放っていた。
ピンクが大好きだという井村さん。彼女は、自分が好きな曲を聴いたり、動画を見たり、自分がつくっている姿を鏡で見たり、自由に楽しみながら作品をつくる。
自分が好きだからつくる、好きだからからつくり続ける。愛が原動力であることを感じられる作品ばかりだ。
「愛(作品)」が生まれる場所とは?「愛」について考えるトークイベント
このような作品は、いったいどのような場で生まれてくるのだろうか?その疑問に答えるトークイベント「つくる場をつくる」も開催された。
本展のキュレーターである小澤慶介さんが、ゲストスピーカーとして、やまなみ工房施設長の山下完和(やました・まさと)さん、障害あるアーティストを支援するニューヨークのLAND Gallery and Studio(ランド・ギャラリー・アンド・スタジオ)(外部リンク)の創設メンバーの一人でありキュレーターでもある、マシュー・ビード・マーフィー(以下、マシュー)さんを招き、アーティストの制作場所のつくり方について話をした。
「実のところ、僕にアートのことは分かりません。でも、一番大切にしているのは、その人が今日という一日を幸せに過ごせたという実感を持てることですね」
そう語るのは、やまなみ工房の山下完和さん。1986年に設立されたやまなみ工房は、障害のある人たちが制作する共同アトリエだ。3人から始まった工房に所属するアーティストは、現在88名(2019年7月現在)。2020年の春には美術館も兼ねた大きな施設が建設される予定だ。相手の最大の幸福を考えて接する、でも障害者だからといって特別扱いはせず、お互いに冗談を言い合うのがやまなみ流である。
「やまなみ工房の職員たちは、どうしたら障害者の方が喜んでくれるのかなと毎日考えています。時には、制作をせずにピクニックに行くことも。安心できる時間と空間で満たすことが大切なんだと思います。アトリエというより、実家みたいな場所なのかもしれませんね(笑)」
マシューさんが創設した、LAND Gallery and Studioもやまなみ工房と似ている。「僕たちも、障害者をアーティストにするというより、彼らに豊かな人生を送ってほしいという気持ちで活動しています。大事にしていることは『待つこと』。アーティストに時間を与えることで、彼らに合った表現方法が見つかると考えています」と語る。
「LAND Gallery and Studioでは、他にも音楽を取り入れて、いい雰囲気の中で制作できるようにしたり、街に出かけたり、地域の人たちとの交流も大切にしています。作品を制作するのに障害者や健常者は関係ない。常にオープンでいることで、いろいろな刺激を受けられ、それが作品に活きるのだと思います」
「自分たちがアーティストに何かを与えているだけではない。彼らからたくさんのものをもらっている」とも語るマシューさん。どうやら愛のある場所が、愛のある作品を生みだすようだ。
「LOVE」で遊べるワークショップ
イベントの最中、常に人だかりが出来ていたのがオルジナルのトートバッグや缶バッジなどがつくれるワークショップだ。
トートバッグを制作するワークショップに参加した5歳のせいちゃんは、お母さんと一緒に来場。お気に入りの手づくりトートバッグを手に「買い物に使う、エコバッグにしたい!」と、笑顔いっぱいに話す。
その隣のワークショップ「航海図を描こう!」では、アーティストの占部史人(うらべ・ふみと)さんと、子どもたちが一緒に「航海図」をつくっていた。占部さんが古本屋街で買い集めた洋書の1ページ1ページに子どもたちが空想の島を描き、それをつなぎ合わせて、さらに海の生物を描く。
「今回は保育園児など小さい子どもがたくさん来てくれました。みんなでそれぞれの絵を貼り合わせる作業は大変でしたが、絵を描くことを楽しんでもらえたと思います。出来上がった時には、歓声が上がりましたね」
「遠くからはるばる日本に来た洋書を使うことで、時間の経過や、その中にある物語を表現しました。また、同時にみんなが描いた絵は、それぞれの『自我』を表しているんです」
それぞれの自我がつながることで、新たな、そして壮大な物語が生まれる。この航海図のように、アートを通してつくり手と受け手が結びつくことで、新しい何かが生まれるかもしれない。それは「気づき」や「エネルギー」とも表現できるし、「愛」とも言えるのかもしれない。
「愛することは、つくること」。それはシンプルなようで、難解。でもその関係性を考えられずにいられない「LOVE LOVE LOVE LOVE 展」は2020年に東京・お台場で開催される。ぜひ会場で、エネルギーに満ちあふれたアートに触れてほしい。
撮影:佐藤潮
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。