100冊の書籍を通じて日本と世界を紡ぐ

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「現代日本理解促進のための図書寄贈事業」を担当する日本財団の斎藤裕美さん

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 諸外国における日本への理解・関心は十分とは言えず、継続的な情報発信が必要
  • 「書籍」は、日本の政治や経済、ビジネス、文化、歴史に関する理解を促すのに優れた媒体である
  • 厳選した100冊を寄贈することで日本への理解を深めると共に、より良い国際関係を築く

「世界の歴史」や「自然のしくみ」「最近のトレンド」…。

私たちは書籍を通じて、自分たちの世界を広げ、社会とつながってきた。有史以来、多くの知識や経験を詰め込んだ書籍が人類に与えてきた影響は計り知れない。それは海外の出来事が、数時間後にインターネットで配信される現代でも同じだ。

海外における日本理解促進を目的に、これまで政府関係機関などでさまざまな取り組みが行われてきた。しかし、諸外国におけるオピニオン・リーダーや知識層(とその予備軍)の日本に対する理解・関心は十分とは言えない。そこで、日本財団では2008年から「現代日本理解促進のための図書寄贈事業」(別ウィンドウで開く)をスタート。海外の個人や公共図書館、文化団体などを中心に現代日本に関する100冊の書籍を無償で提供するプロジェクトになり、これまでに世界127カ国の967の施設や団体に計6万1,000冊以上の書籍を寄贈している。その背景には、担当者のどのような思いがあるのか。書籍を受け取った現地の反応は?

今回は、同プロジェクトを進める日本財団・国際連携推進チームの斎藤裕美(さいとう・ひろみ)さんと、寄贈先機関との橋渡しを行っている外務省・広報文化外交戦略課課長の岡崎泰之(おかざき・やすゆき)さんにお話を伺った。

書籍を通じて日本と海外の橋渡しを

「日本について、アニメや映画、ニュースで知っているという海外の方は多いのですが、実際にどんな歴史や文化を持った国なのか、という学術的な観点からは、まだまだ知られていない部分がたくさんあります。『現代日本理解促進のための図書寄贈事業』は、日本についてもっと理解を深めたいという国々のニーズに応えられたら、という思いのもとに始まりました」

そう語るのは日本財団・国際連携推進チーム・斎藤さんだ。

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事業を通じて、日本と世界の橋渡しをしたいと語る斎藤さん

「世の中にはたくさんの書籍がありますが、その中の何冊かは、時代に左右されない価値を持っていると私たちは考えます。そういった、書籍を多くの方々に読んでいただき、日本研究のために役立ててもらえると、とてもうれしいですね」

「現代日本理解促進のための図書寄贈事業」で選ばれる100冊は、国内外の10名の学者やジャーナリストが、古今東西のあらゆる文献の中からセレクトした書籍である。全部で5つの分野に分かれており、あらゆる面から日本を理解できる仕組みになっている。

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100冊の書籍のリスト「100 Books for Understanding Contemporary Japan」(別ウィンドウで開く)

[日本に関する英文図書100冊]

  • 政治・行政・国際関係 全22冊
  • 経済・経営 全19冊
  • 社会・文化 全15冊
  • 文学・芸術 全26冊
  • 歴史 全18冊

中身をのぞいてみると、『福翁自伝(著:福沢諭吉)』『The Sun also Sets(著: Bill Emmott)』『武士道(著:新渡戸稲造)』『Anime: From Akira to Howl’s Moving Castle(著:Susan J. Napier)』『心(著:夏目漱石)』『菊と刀(著:ルース・ベネディクト)』など、しっかりした研究資料が目立つ。分野によってセレクト数に違いがあるのは、海外からのニーズや紹介したい文献(※)の豊富さによるところが影響している。

  • 書籍は全て英訳されたものか、英文のもの
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「書籍だからこそ、信頼性の高い情報を提供できる」と語る斎藤さん

「これらの書籍を贈る対象は、海外の大学や研究機関がほとんど。なので、しっかりした文献が求められているケースが多いですね。もちろんそういった書籍は大切ですし、今後も積極的に贈っていければと考えていますが、研究的な立場以外で、日本を知ってもらえる書籍も大切だと個人的には考えています。もっと感性に訴えるもので、言語を必要としない、写真集など増やしていくのも面白そう。そういったところは、実際に現地で橋渡しをしていただいている外務省の方からもフィードバックを伺いたいです」

もともと国際関係に関心があり、日本財団に入って、日本と海外の橋渡しがしたかったと言う斎藤さん。「これらの書籍を通じて、より多くの人に日本に関心を持ってもらいたいですね」と今後に向けての抱負を語った。

日本から贈られてきた100の書籍。それに対する現地の反応は…

「日本のことをもっと知ってほしい」。そんな思いで贈られた書籍に対する現地での反響はどんなものだろう。実際に書籍を現地に届ける外務省・広報文化外交戦略課課長の岡崎さんに話を聞いた。

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キューバ国立図書館での図書寄贈式典の様子

―― まずは、「現代日本理解促進のための図書寄贈事業」を知った時の、第一印象を教えてください。

岡崎さん(以下、敬称略):「書籍」を通じて日本に対する理解を促す取り組み、というのがとても印象的でした。インターネットで自分が必要とする情報だけをピンポイントで集めることが多い今の時代、「書籍」という質量感が持つインパクトはもともと日本に関心がなかった人たちにも訴えかけることができる大きな力だと思います。「書籍」を通じた現代日本理解促進というこの事業に掛ける日本財団担当者の方々の思いは、外務省の広報文化外交と目的を一つにしていて、外務省としてもこの事業をお手伝いさせていただきたいと思いました。

――この事業の中での外務省と日本財団の連携について教えてください。

岡崎:簡単に言えば、日本財団では書籍のセレクトを、外務省では寄贈先機関の推薦を担当しています。現在195カ国に所在する在外公館が日常的に現地の大学、研究機関等と交流する中で寄せられた情報や要望を通じて、図書寄贈先となり得る候補機関を日本財団に推薦しています。そちらをもとに日本財団でどこの図書館や研究機関に贈るかを判断し、書籍を送っています。

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キューバ国立美術館で行われた図書寄贈式典の様子。贈られた書籍は日本への理解促進に役立つ

――なるほど。現地でも、この事業の紹介や日本理解のための取り組みなどを行っているのでしょうか。

岡崎:海外で日本に関心を持ってもらうのは外務省の大切な仕事の一部です。在外公館では対日理解促進の観点から現地の大学や研究機関等との関係を強化しようと努めており、その中で寄せられた『日本関連図書の蔵書が少ない』や『日本についてもっと知りたい』といった情報を集め、日本財団への推薦時に役立てています。

実際に図書寄贈が実現することによって寄贈先機関との関係を強化することができますし、その後もその機関や、その地域における日本理解が促進されるよう、寄贈先機関で日本語スピーチコンテスト等のイベントを実施するなど継続的なフォローアップを行っております。

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イランにあるアッラーメ・タバータバーイ大学での図書寄贈式典の様子

――この事業に対する現地の図書館や研究機関からの反響について教えてください。

岡崎:「ありがとう」といったお礼の言葉はもとより、「日本関連論文の執筆に必要な文献として活用されている」、「研究所の職員だけでなく、他の機関の研究員なども閲覧のために訪れるようになった」などといった、感謝の声が多く寄せられています。我々としても、とてもうれしいですし、書籍が持つポテンシャルを改めて認識させられました。

図表: これまでの図書寄贈先の数

これまでの図書寄贈先の数を示す表。2008年はアジアが2カ国、アフリカが0カ国、オセアニアが0カ国、ヨーロッパが11カ国、中東が0カ国、中南米が0カ国、北米が45カ国、合計58カ国。2009年はアジアが13カ国、アフリカが1カ国、オセアニアが5カ国、ヨーロッパが78カ国、中東が2カ国、中南米が2カ国、北米が193カ国、合計294カ国。2010年はアジアが46カ国、アフリカが12カ国、オセアニアが7カ国、ヨーロッパが60カ国、中東が11カ国、中南米が14カ国、北米が29カ国、合計179カ国。2011年はアジアが44カ国、アフリカが20カ国、オセアニアが3カ国、ヨーロッパが40カ国、中東が12カ国、中南米が13カ国、北米が48カ国、合計180カ国。2012年はアジアが31カ国、アフリカが11カ国、オセアニアが4カ国、ヨーロッパが50カ国、中東が9カ国、中南米が15カ国、北米が24カ国、合計144カ国。2013年はアジアが4カ国、アフリカが1カ国、オセアニアが0カ国、ヨーロッパが3カ国、中東が0カ国、中南米が0カ国、北米が0カ国、合計8カ国。2014年はアジアが0カ国、アフリカが0カ国、オセアニアが0カ国、ヨーロッパが3カ国、中東が0カ国、中南米が0カ国、北米が0カ国、合計3カ国。2015年はアジアが4カ国、アフリカが4カ国、オセアニアが0カ国、ヨーロッパが4カ国、中東が1カ国、中南米が0カ国、北米が0カ国、合計13カ国。2016年はアジアが0カ国、アフリカが0カ国、オセアニアが0カ国、ヨーロッパが0カ国、中東が4カ国、中南米が0カ国、北米が0カ国、合計4カ国。2017年はアジアが4カ国、アフリカが13カ国、オセアニアが1カ国、ヨーロッパが12カ国、中東が3カ国、中南米が5カ国、北米が0カ国、合計38カ国。2018年はアジアが4カ国、アフリカが8カ国、オセアニアが3カ国、ヨーロッパが15カ国、中東が6カ国、中南米が10カ国、北米が0カ国、合計46カ国。2008年から2018年までの各国の合計が、アジアが152カ国、アフリカが70カ国、オセアニアが23カ国、ヨーロッパが276カ国、中東が48カ国、中南米が59カ国、北米が339カ国、合計967カ国。
2008年から2018年まで書籍を寄贈された図書等の数。世界のさまざまな地域に贈られている

「現代日本理解促進のための図書寄贈事業」が紡ぐ未来とは?

――この事業による効果や変化を現地で感じたことはありますか?

岡崎:こうした事業は未来への投資であって、すぐに目に見える効果を得ようとするものではありませんが、さまざまな分野の日本関連英文図書を通じて、日本研究の専門家や他分野の有識者、オピニオンリーダーの日本理解が進み、親日層が増えていくことを期待しています。

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歴史あるキューバ・ハバナ大学での図書寄贈式典の様子。ハバナ大学では、日本語の授業や弁論大会もある

――岡崎さんが考えるこの事業の意義とはどんなものでしょうか。

岡崎:寄贈が、対象の大学や研究機関の規模、これまでの研究実績等を条件にすることなく、むしろ日本関連書籍の蔵書が少ない機関に対して積極的に行われているところが重要だと思います。特にこれまで対日関心が希薄であった国においては、図書寄贈が一つのきっかけとなり日本への関心、理解が促進され、将来的には二国間関係の発展につながることが期待されます。

――最後に「現代日本理解促進のための図書寄贈事業」の橋渡しを通じて、日本財団と一緒に実現したい未来について教えてください。

岡崎:この事業がきっかけとなって、世界の多くの地域で日本に対する関心が深まり、日本をよく理解したさまざまな分野の研究者やリーダーが多く生まれればと考えています。

15世紀、ヨハネス・グーテンベルグの活版印刷技術によって印刷された聖書「四十二行聖書」は、印刷技術の発展により急速に市民の間に広まり、人と人をつなげ、後の宗教革命につながった。それから5世紀半、現代においても書籍には「知識を広げ、人と人をつなげる力」があるはずだ。時間のかかる作業かもしれないが、きっと選ばれた100冊の書籍が、日本と世界各国のより良い関係を紡いでくれることだろう。

撮影:新澤 遥

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