海底探査技術の世界的コンペで優勝。「同じ釜の飯を食べた」仲間の絆とは

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固い絆で結ばれたGEBCO-日本財団アルムナイチームのメンバー。写真左から、住吉さん、トマーさん、ロシェルさん、キャロリーナさん、シーブルーさん

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 国際的なコンペティション「Shell Ocean Discovery XPRIZE」で優勝したチームの特徴は「多様性」
  • 海底地形解明への強い想いと同じプログラムで学んだ共通の経験がチームを優勝へ導いた

困難な目標を達成するには何が必要だろうか?莫大な資金?たくさんの人たちの協力?それとも、圧倒的な技術力?確かにそういった要素も重要だ。しかし、他にも必要な要素はあるのかもしれない。

日本財団では、2004年から国際組織であるGEBCO(※)と協同で海底地形図を作成する専門家の人材育成事業を実施し、これまでに40カ国90名のフェローを輩出してきた。その卒業生を中心とする13カ国16名のメンバーから成るGEBCO-日本財団アルムナイチームが、2019年、米国XPRIZE財団が主催する海底探査技術を競う国際コンペティション「Shell Ocean Discovery XPRIZE」で優勝を果たした。獲得した賞金400万ドルは、彼らが取り組む2030年までに海底地形100%の解明を目指す国際プロジェクト「The Nippon Foundation-GEBCO Seabed 2030 Project」(別ウィンドウで開く)の目標達成のために利用される。

国籍も職業も経験もバラバラのメンバーが一つにまとまり優勝した背景には何があったのか、GEBCO-日本財団アルムナイチームに直撃した。

  • GEBCO指導委員会(General Bathymetric Chart of the Oceans Guiding Committee)。国際水路機関(IHO)と国連政府間海洋学委員会(UNESCO-IOC)が共同で設置している、世界唯一の公的な海底地形図を作成する機関

なぜ「海底」なのか?

―― 優勝おめでとうございます。「Shell Ocean Discovery XPRIZE」は、賞金400万ドルを懸けて海底地形図の探査技術を競うコンペティションでしたが、なぜ海底の地形がそこまで重要なのでしょうか?

トマー・ケッター(以下、トマー)さん:海底の地形が分かれば、海で起きるさまざまな現象を予測することができます。海底の形から海流の流れが把握でき、それによって魚群が生息しやすい地域や、場所ごとの海洋汚染の状況が分かるのです。さらには気候変動や津波の規模、そしてその影響が及ぶ地域まで把握できると言われています。

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Seabed 2030のデータセンターで働くトマーさん。チームのスポークスパーソンのような存在

ロシェル・ウィグリー(以下、ロシェル)さん:地球から2億3,000万キロメートルも離れた火星については、その地形や地質などがほぼ分かっているのに、海底の地形については、現在もたったの15%ほどしか解明できていません。海底の地質や、そこに生息する生物などは謎のまま。「The Nippon Foundation-GEBCO Seabed 2030 Project」は、海底にどんな資源があって、どんな生き物がいるのかを解明することにもつながると言えるでしょう。

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ニューハンプシャー大学で日本財団がGEBCOと実施する人材育成事業のプロジェクトディレクターを務めるロシェルさん。ラウンド2では大学から遠隔でデータ処理を行った

―― 海底の地形から受ける恩恵はとても大きいのですね。それほどの重要性を持つ海底地形の研究が、これまで進まなかった理由は何でしょう?

キャロリーナ・ズヴォラク(以下、キャロリーナ)さん:過去にもさまざまな取り組みが行われてきましたが、各国の利害関係などが絡み調査が進まなかったという現実があります。

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ポーランド海軍少佐で、XPRIZEでは測量計画の作成などオペレーション計画を主に担当したキャロリーナさん

トマーさん:光が届かず、水圧が強い海底で、データを取るのが難しいという技術的面な壁もありました。宇宙は電波を使って調査をすることが多いのですが、海底ではそれもできません。

―― 実際には、どうやって測定するのでしょうか?

トマーさん:音波を使います。今回のXPRIZEでは、USVという無人探査船と、AUVという無人潜水機を使い、音波の反響を利用して地形図を作成しました。音波を使う場合、かなりのノイズが発生するので、そのデータ処理も必要になってきます。

ロシェルさん: 前の質問に戻りますが、国同士の軋轢(あつれき)や技術的な困難に加えて、海底地形図を作成する専門家の数が少なく、研究が進まなかったというのが大きいですね。人材不足の問題を解決するために、日本財団とGEBCOは2004年からアメリカのニューハンプシャー大学で海底地形図の作成ができる専門家の育成を行っています。

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GEBCO-日本財団アルムナイチームがXPRIZEで開発・使用した無人測量システム

――ニューハンプシャー大学ではどのようなことを学ぶのでしょうか?

住吉昌直(以下、住吉)さん:海底地形調査について、座学やフィールドワークまで最先端の技術や知識を学びます。これが、とっても厳しいんですよ。ニューハンプシャー大学は、海底地形調査において世界的に最も水準が高い大学と言われています。それだけに、大変でしたが、成長の機会もたくさんありました。他のメンバーも同じような感想を持っていて、みんなで「辛かったけど、後から考えればいい経験ができたね」と振り返っています。なんだか、スバルタの運動部出身の同窓生みたいですね(笑)。

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普段は海上保安庁で研究に携わる住吉さん。XPRIZEではソフトウェアに関する豊富な知識を用いて高速のデータ処理を可能にした

「同じ釜の飯を食べた」連帯感と「海底地形図を作る」という共通のビジョンがチームを優勝に導いた

――皆さんが優勝した「Shell Ocean Discovery XPRIZE」について教えてください。

ロシェルさん:「重要で画期的」な事業に対する投資を行う米国のXPRIZE財団が開催する、無人での超広範囲・高速の海底地形データ収集技術を競う国際的なコンペティションです。全部で「技術提案書審査」「ラウンド1(技術評価試験)」「ラウンド2(実海域競技)」の3つの審査があり、今回は22カ国32チームが参加しました。

――とても大掛かりな大会なのですね。さまざまなチームが参加していますが、皆さんのチームの特徴を教えてください。

ロシェルさん:一番の特徴はメンバーの多様性でしょうか。私たちのチームは13カ国16名のプログラム修了生を中心として構成されました。職業も生い立ちもバラバラですが、全員が「海底地形を100%解明する」という目標のもとに集まった仲間です。

住吉さん: 実際に顔を合わせたのはモナコでの表彰式が初めてなんですけどね(笑) 。

――それまで、どうやってコミュニケーションを取られていたのでしょうか?

住吉さん:メールやオンラインのチャットツールでやりとりをしていました。大人数で話さないといけないときは、時差が大変でしたね。

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ノルウェーでの試験観測など事前の準備にも携わり、企業との連携の中核を担ったシーブルー・サティアバルさん

ロシェルさん:みんなそれぞれが自分の仕事をしながら、その合間の時間を使って作業をしていました。

――背景も住んでいるところもバラバラの皆さんが、一つのチームとして優勝することができた理由は何だと思いますか?

ロシェルさん:他のチームとの大きな違いは、私たちがエンジニアではなく海底地形図を作成する専門家だという点です。他のチームは、いかに新しい技術を生み出すかにフォーカスし、私たちはいかに海底地形図を作成するかに注力していた気がします。

キャロリーナさん:「みんなが自分の考えをしっかりメンバーに伝える」という良い習慣もありました。あと、個人的に良かったと思えるのは、何か困ったときに声を上げれば誰かが助けてくれたこと。問題があっても声を上げやすく、違うフィールドの意見も取り入れることができたので、問題解決がとてもスムーズでした。

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コンペティション中、協力しながら作業を進めるチームメンバー

――お話を聞いているとチームメンバーの関係がとてもうまくいっているように感じます。

住吉さん:私たちのチーム名「GEBCO-日本財団アルムナイチーム」の中の「アルムナイ」は、同窓生という意味です。時期がバラバラではあるけれど、私たちは、海洋研究学の最先端であるニューハンプシャー大学で1年間の厳しいプログラムを受けた同窓生。みんなのベースに「同じ釜の飯を食った」仲間という絆と、「海底地形図を完成させたい」という強い思いがあるんです。そこが、このチームの結束力、そして優勝の秘訣であると考えています。

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自分の意見をしっかり伝え、話をちゃんと聞くことで、より良い関係性が築かれると話す住吉さん(写真右)

ロシェルさん:私たちは全員が、ニューハンプシャー大学で1年間の研修を受けています。ですが、情報はすぐに古くなるもの。多様性があるチームだからこそ、それぞれのメンバーが持つ最新情報や専門分野の知識を共有し合い、プロジェクトに取り組めたと思います。大学外での、ディープ・ラーニングコースとも言えますね(笑)。

多様性豊かなチームの目標は「一つの海」

――素敵なチームビルディングの話をありがとうございました。皆さんの今後の目標について、お聞かせください。

ロシェルさん:XPRIZEを通して、いろんな人が海底地形図の重要性を認識することになったと思っています。また、このコンペティションを通じて、多くの国々の企業やアドバイザーとネットワークを築くこともできました。このネットワークを今後も活用して、全世界の海底地形図の完成を目指します。

住吉さん:XPRIZEを通して私たちが手にしたのは、チームの固い絆だけではありません。USVとAUVを利用した海底地形の探査方法や、ノイズの自動処理といったテクノロジーの発展もありました。これらの進歩は、今後、海底地形の調査を進める上で大いに役立つと考えています。

――なるほど。皆さんが参加しているSeabed 2030の計画について教えてください。

住吉さん:現在、世界に5つある地域センターで既存のデータを集めています。そこから不足しているデータを割り出し、XPRIZEで優勝を勝ち取った技術を活かしつつ、新たなデータも集めていくつもりです。

キャロリーナさん:全海域の地図を作成するためには、たくさんの国の協力が不可欠です。私たちも含めて、有益な情報をいろいろシェアしていき、個人レベルから国レベル、また、地球規模で利益を共有していけたらと思います。

ロシェルさん:日本財団の笹川会長は、海は「どこかの国の海」ではなく、「一つの海」だと言っていましたね。そんな一つの海をもっと知るためには、多くの国の人が一つのチームとなって取り組んでいくことが大切だと今回のXPRIZEを通して実感しました。

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一つのチームになるためにはそれぞれの「違い」を尊重し、最大限に活かすことだと語るロシェルさん(写真左端)

世界には190以上の国とそれを分ける国境があり、海の呼び方も地域によってさまざまだ。しかし、一度海に潜れば世界は境界もなくつながっている。気象による災害や、海洋の汚染など国境を越えて存在している課題に取り組む上では、国に縛られない広い視野が必要だ。さらに、国や文化、分野など多様なバックグラウンドを持つメンバーで共に課題解決に取り組む際には、常にそれぞれの意見やアイディアが言えるようなオープンな関係性を築くこと、そしてコミュニケーションを重ねることが鍵になるのかもしれない。今回の、XPRIZEでのGEBCO-日本財団アルムナイチームの勝利は、さまざまな国際的な課題へ私たちがどのように取り組むべきかを考える上でも豊かな示唆を与えてくれる。

撮影:十河英三郎

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