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【里親になりたいあなたへ】里親認定前研修(座学編)を受講する(特集第4回/全8回)
- 里親認定前研修は全4日間行われ、座学と実習を2日間ずつ受講する
- 研修は夫婦揃って受講する必要がある
- 座学では里親制度の社会的背景と共に、子どもを預かり育てるために必要な知識を学ぶ
取材:日本財団ジャーナル編集部
さまざまな事情により、生みの親と離れて暮らす子どもたちを家庭に迎え入れて育てる「里親制度」。この特集では、里親登録するまでの準備や手続きの内容について、実際に里親になることを検討する「山田夫婦(仮名)の体験」をもとに、妻の視点を通してお届けする。
第4回のテーマは「里親認定前研修の座学」について。児童相談所職員との面談(別ウィンドウで開く)後、里親認定前研修を受けることになる。研修の日程は全4日間(※)。前半の2日間は、里親制度や小児医学、臨床心理学などを体系的に学ぶ。日を開けて行われる後半の2日間では、実際に乳児院や児童養護施設で子どもたちと触れ合う実習を受ける。
- ※ 東京都の場合。研修内容・日程は自治体によって異なる
「山田夫婦の体験記」登録ステップ 3-1. 里親認定前研修(座学)
里親認定前研修を通じて理解を深める
里親認定前研修は、夫婦揃って受ける必要がある。私たちが研修会場に到着すると、すでに20組ほどの夫婦がいて、その中に外国人もいたのには少し驚いた。
夫「俺たち以外にも里親になりたい人って結構いるもんだな」
私「そうね、人が多くてびっくりしたわ。外国人のご夫婦もいるのね」
外国人にとって里親や養子縁組をすることは、比較的身近なことのようだ。「自分たちも頑張らないと」と、そう夫と話しながら受付を済ますと、社会的養護や子どもの身体と心、児童福祉論などについて網羅された「里親認定前研修テキスト」を手渡された。全部で140ページぐらいある冊子だ。
[座学研修のスケジュール](※)
1日目
- 10:00〜11:00 社会的養護と制度説明
- 親元で暮らすことのできない子どもの公的な養育(社会的養護)や、里親制度の基礎、里親養育の基本について学ぶ。
- 11:00〜12:00 養護原理
- 保護を要する子どもの理解(児童虐待の現状)や、子どもの権利擁護と事故防止などについて学ぶ。
- 13:00〜14:10 小児医学
- 子どもの身体(乳幼児健診、予防接種、歯科、栄養、事故防止への配慮)について学ぶ。
- 14:20〜15:30 発達臨床心理学
- 子どもの心(子どもの発達と委託後の適応)について学ぶ。
2日目
- 10:00〜11:00 児童福祉論
- 子どもと児童虐待を含め子育てを取り巻く状況や、子どもの福祉、児童相談所など里親に関する関係機関との連携や地域における子育て支援サービスについて学ぶ。
- 11:00〜12:00 里親養育援助技術
- 子どもとのアタッチメントを伸ばすパーマネンシーと子どもがどこからきてどこに行くかを確信するアイデンティティについて理解し、親子関係を構築する方法について学ぶ。
- 13:00〜14:30 里親養育演習(体験談)
- 養育家庭の体験談(里親希望動機、里親に求められるもの、養育に関するノウハウなど)を聴く。
- 14:30〜15:00 研修振返り
- 東京都における養育家庭(里親)の現状等について知る。
- 15:00〜16:00 実習オリエンテーション
- 後日実施される里親認定前研修の実習について説明がある。
- ※ 実施内容は、変更される可能性がある
講義の第1日目は、里親制度に関する詳しい説明から始まり、里親の要件や子どもの委託に当たっての支援体制などについて説明があった。
講師「児童養護施設でも手厚い支援をしていますが、子どもにとって自分だけに愛情を注いでくれる大人がいるということは、人格形成やコミュニケーション能力の育成などに大きく貢献します。子どもたちに、温かい居場所と共に特定の大人との結び付きを与えるのが里親制度なのです」
その言葉が印象的だった。
夫「親と暮らせない子どもって思っていたより多いな…」
一つ目の講義を終えた後、夫がため息をもらすように、そうつぶやいた。
私「子どもたちの力になれるように頑張らないとね」
私は、里親として「子どもたちが必要としているのは何だろう?」と考えるようになった。
信頼できる大人と出会うこと
講義では里親を必要とする子どもたちの背景について学びを深めることができた。
講師「東京都の児童相談所に寄せられる相談のうち、7割弱が『虐待』に関することです。そのうちの約3パーセントが保護を必要とし、そのうち里親に委託されるのは0.2パーセントでしかありません」
図表: 保護を要する児童の現状(2017年度)
児童相談所への虐待に関する相談件数は年々増えていて、2018年度には全国合わせて15万9,850件と過去最多を記録したそう。虐待は、子どもの健康や心、そしてこれからの人生に大きな影を落とす。
講師「本来守ってもらえるはずの親に守られず、自分の意思に関係なく“生きる場所”を決められる子どもは『自分なんてどうだっていい』『自分なんて幸せになれない』というネガティブな感情が生まれやすいのです。そんな子どもたちに『あなたはかけがえのない存在』であると向き合うことや、『あなたのことは私たちが守るよ』と安心できるメッセージを送れるのが里親なんです」
その言葉が私たちの心に刺さった。
夫「俺たちのもとに来る子どもには、この人と出会えて良かったと思ってもらえたらいいな」
私「安心できる、信頼できる大人と出会うことで、子どもの人生が変わることもきっとあるはずだしね」
里親が乗り越えなければならない「壁」
次に印象深かったのが、子どもと里親が「家族になる」までに乗り越えなければいけない「壁」について。
講師「里子と里親が家族になるまでには、多くの場合3つのステップを乗り越えることになります。まず、1つ目は『見せかけの時期』(委託後〜1週間)。ここでは、子どもたちはとても良い子に振る舞いますが、里親のことを様子見している期間になります。だんだん環境にも慣れてくると『試しの時期』(半年〜1年)に入り、子どもたちは自分を受け入れてもらえるのか、大人を困らせる『試し行動』をとることがあります。中には赤ちゃん返りといって、ハイハイをしたり、ミルクを飲みたがったりする子どももいます。それを乗り越えてようやく『親子関係が形成される時期』に入ることができるのです」
「試しの期間」は里親にとって試練と言える時期ではあるけれど、それを受け入れてあげることで、ようやく子どもは「自分は愛されている」「この場所にいていいんだ」という気持ちになれると、先生は話す。
また、子どもを幼い時期から長期で養育する場合は、里親と子どもとは血縁関係がなく生みの親は他にいることや、生い立ちなどを伝えていく「真実告知」が必要になる。
講師「真実告知は、しっかりとした決意を持って子どもに自分の生い立ちを伝えるようにしてください。試しの期間を乗り越えた安定した時期が理想ですね。一度ではなく、何度も伝えてあげることが大切です。それによって子どもの中でも、しっかりと里親との関係について認識し、特別な絆を結ぶことができるのです」
子どもを迎えた後に訪れるいくつかの「壁」。講義の内容は初めて知ること、衝撃を受けることも多く、里親についての認識が変わることも多々あった。
夫「当たり前のことだけれど、里親は親権もないし、子どもとの血縁関係もない。でも信頼できる大人であり、親のように子どもと向き合う姿勢を見せていくことはしっかり意識しないといけないね」
私「そうね、子どもにとって居心地の良い居場所づくりに少しでも貢献できたらいいわね」
休憩時間を使って、夫と改めて里親になる上で必要な話をできたように思う。
いろんな家族の形
2日目の講義では、実際に里子を育てている里親さんたちの話を聞くことができた。これまで複数の子どもを短期で預かった経験のある里親さんと、低学年の子どもを10年間養育している里親さんが、実体験に基づく喜びや苦労を話してくれた。
里親「中学生の子どもを預かった時は、まず学校に行ってもらうことに苦労しました。高校生の子どもを預かった時は、進級が危うい状況もありました。自分が言いたいことや、したいことを素直に言えない子どももいます。性格や身に付いてしまった生活習慣はなかなか変えることは難しく、温かく見守ることしかできないのも現実としてあります」
短期で子どもを預かる里親さんは、子どもに対し「自分たちに何ができて何ができないかを見極める」ことが大切で、「何かあれば寄りどころになってくれればいい」というスタンスで接するようにしているという。
比較的年齢の低い子どもを預かりたいと考えていた私は、「里子の年齢層は幅広い」こと、それによって「学習や進路相談」といったことにも里親は関わらなければいけないことに気付かされた。
一方で、長期の里親さんの話では、「試し期間」における赤ちゃん返りの話が印象に残った。
里親「一通り赤ちゃん返りをやると、本人は納得することも多いと聞いていました。だけどうちの子はなかなか治らず、終わるのに数年かかりました。ただ、そんな行動も子どもにとっては大変な労力。うまく言葉にできず、甘えたり暴れたりするのは、仕方がないのかなと思います」
自分の子育てのことを振り返ると、あまり赤ちゃん返りの経験がない。確かに、いろいろな社会的背景を抱えているからこそ、自分を素直に表現することができない子どもがいてもおかしくはないと思った。
私「子どもとちゃんと向き合えるように、普段働いている私たちがどのように時間をつくっていけるか、しっかりと考えていかないといけないわね」
夫「子どもは生みの親が選べないのと同じように、里親も選べない。きっと里子と里親のコミュニケーションの在り方って、一つとして答えはないんだろうな」
2人の里親さんに共通して感じられたのは、大変ながらも「愛情」を持って子どもたちを育てたいという気持ち。生みの親の代わりに「里親」としての覚悟を持ちながら子どもを預かるという強い意思が伝わってきた。
次は、児童養護施設で子どもたちと一緒に過ごす施設実習。どんな子どもたちに出会えるのだろう。「早く子どもたちに会いたい」という気持ちが、里親さんたちの話を聞いて自然に湧き上がってきた。
- ※ 里親には養子縁組を前提とする養子縁組里親もいますが、今回の記事においては、養子縁組をせず、一定期間子どもを預かる養育里親(東京都においては養育家庭(里親))について記載しています
- ※ 里親にまつわる制度は、自治体によって異なります。詳細はお住いの地域を管轄する児童相談所までお問い合わせください
- ※ 取材した里親認定前研修は2019年12月に実施されたものになります
この記事の取材・編集は東京都福祉保健局にご協力をいただいています。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。