日本財団ジャーナル

【ソーシャル人】多様な「価値」を創出し、自分らしく生きられる社会に。林篤志さんが描く「ポスト資本主義社会」

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「ポスト資本主義社会」の実現に向けて取り組むNext Commons Lab代表の林さん
この記事のPOINT!
  • 生産性や合理性を重視する資本主義社会では、本当は価値あるものの多くが残らない
  • 資本主義社会の問題を解決する糸口は、さまざまな課題を抱える地方の「余白」にある
  • 多様な「価値」をつくり出すことで、もっと自由で自分らしく生きられる社会につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

日本中を飛び回り、面白い「実験」をしている人がいる。起業家たちが地域社会で活躍するプラットフォームづくりを通して、「ポスト資本主義社会」の具現化に取り組むNext Commons Lab(ネクスト・コモンズ・ラボ。以下NCL)(別ウィンドウで開く)代表の林篤志(はやし・あつし)さんだ。

林さんたちは、日本の「地方」をベースに、クリエイターや起業家、企業や自治体、地域の資源や人材をつなぎ合わせ、新しい働き方や暮らし方を実践している。全国に散らばる拠点をネットワークで結ぶことで、人材・情報・素材・知恵などが自由に行き来する社会の実現を目指している。その活動が評価され、2025年開催の⼤阪・関⻄万博と一緒に社会変革を促すプロジェクトパートナー「TEAM EXPO 2025」(別ウィンドウで開く)にも選ばれた。

革新的な地方創生に取り組む社会起業家として注目される林さんだが、その活動の背景には、今の資本主義社会に抱く危機感と、何よりも自分の好奇心に素直でいる生き方があった。

「生産性」が価値基準の全てなのか

「2年間ほど企業で働きましたが、『サラリーマンの生活』に馴染めず退職しました。では、他にどんな生き方があるのだろうか?そう考えた当時の僕は、『勉強会』を開くことにしたんです」。

NCLの原点について話を聞くと、林さんは「ほとんどは好奇心からで、これといった原体験はないのですが…」と言いながらも、当時のエピソードを披露してくれた。

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NCLの活動の原点について話をする林さん

林さん自身が「面白い」と思った人を招いて、話を聞くスタイルの勉強会。ぼったくりバーの店長、ホームレス、新興宗教の幹部、前科ありの人…。ゲストの顔ぶれは多岐にわたった。

「いわゆる社会の中でアンタッチャブルな人(関わってはいけない人)たちが何を思い、どんな暮らしをしているのかに興味がありました。実際にお会いして話を聞いてみると、皆さんとても個性的で面白いんですよ!考え方がユニークで、感心させられることもしばしばありましたね。そんな方々の話を聞くうちに『みんなもっと自由で、自分らしく生きられる社会であればいいのに』と考えるようになったんです」

彼らはただ、「資本主義」という社会の枠組みにうまくフィットしないだけ。もっと世の中にはいろんな価値基準があってもいいはずと林さんは語る。

資本主義社会が誕生してから約300年。自由競争による利益の追求を基本とする社会を支えてきたのは経済における「生産性」、つまり「どれだけ社会や生産活動に貢献したか」という考え方だ。しかし今、多くの学者や専門家たちによって、その限界が指摘されている。例を挙げるならば、資本家と労働者の間で広がる「貧富の格差」、放任経済がもたらす「恐慌」、有限な資源を消費することで起こる「環境破壊」などである。

「資本主義が不具合を起こしているせいで、人や文化、美しい景観など、本当に価値あるものが残らないということが起きているのではないかと思うんです。そもそも、資本主義で言う『生産性』のない人間には価値がないのでしょうか。子どもはポテンシャル(可能性)で評価されることがありますが、大人は『この社会にどんな成果を提供しているか』のみにフォーカスされている気がします。それぞれ違う価値が私たちにはあるのに」

地方にある「余白」に未来を築く糸口がある

さまざまな人とつながり合う中で、資本主義の限界や問題点に気がついたという林さん。そんな彼が目を向けたのが、高齢化や過疎化など課題が山積する地方であった。

「新しいシステムを考えるキーワードは、『余白(余裕)』だと思います。今の日本社会のどこかに『余白』を見つけて、そこで実験的に小さな経済システムをつくってみたい。そのためには、時間的、空間的、精神的、金銭的な『余裕』が必要になります。それを東京で実践するとなると、結構大変ですよね。その点で地方は、土地も広いし賃料も安いので、都会よりも多くのことにチャレンジしやすいんです」

林さんがNCLの活動スタートさせた岩手県・遠野市は、妖怪変化などの民話や伝承を「民俗学」の一分野としてとらえ直そうとした柳田國男(やなぎた・くにお)の『遠野物語』の舞台となった土地でもある。

「遠野郷は今の陸中上閉伊(りくちゅうかみへい)郡の西の半分、山々にて取り囲かこまれたる平地なり。新町村にては、遠野、土淵(つちぶち)、附馬牛(つくもうし)、松崎、青笹…(中略)…の一町十ヶ村に分かつ」

『遠野物語』の第1話の冒頭に描かれているように、四方を山に囲まれた遠野市は、古来より交通の要衝としても栄えてきた。閉鎖性と開放性、両方を兼ね備えた場所なのだ。

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古来より、美しい自然に囲まれた岩手県・遠野市

「初めて遠野の地を踏んだ時、惹きつけられるものを感じました。遠野にはどこか歴史や時間的な奥行きのような深さがあると思います。遠野は盆地なのですが、開けていて、商業的な看板も少ないんですよ。何かが生まれそうな可能性を感じましたね」

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多くの地方を回った中で「遠野の風景が印象的だった」と語る林さん

そんな遠野拠点では、地元で採れるホップを生かした「ビールの里」として町を活性化させる事業や、地方への移住のハードルとなる住宅問題を解決する「超低コスト住宅」を開発する事業など、10のプロジェクトが他県から移住したメンバーを中心に稼働している。

そして、例えば「超低コスト住宅」というキーワードは、NCLの宮城県南三陸町の拠点で取り組むFSC(森林管理協議会)認証材を活用したモジュールハウスを開発するプロジェクトにもつながっている。そのように、各拠点で培ったノウハウも共有しながら、NCLの活動地域は全国に広がっている。

画像:「Brewing Tono」プロジェクトの公式サイトトップ画面
日本随一のホップ生産地・遠野市で、「ホップとビールによる町づくり」に挑む「Brewing Tono」プロジェクト(別ウィンドウで開く)

社会とは自分たちでつくるもの

NCLが目指すものは、評価軸の多元化、そして「資本」という言葉の定義の多元化だと林さんは語る。

「僕らは、現在の資本主義を否定しているわけではありません。それ以外にもいろいろな価値基準を生み出したほうが、いろんな人が生きやすい社会になると思って活動をしています」

具体的な取り組みは、愛媛県西条拠点における「ありがとう」を見える化する基金サービスの開発や、滋賀県湖南拠点では食と農に特化した私設図書館兼シェアキッチンの創設など。それぞれの地域で、新しい「価値」や「資本」が生まれつつある。

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林さん(写真上段左から4人目)と各拠点のメンバー

「別に資本主義が悪いわけではない。資本主義以外の仕組みがないことに問題がある、だから自分たちでそれをつくるのだ」

傍から聞いていると壮大で難しい取り組みではあるが、林さんは楽しそうに語る。その根底にあるのは、社会を変えたいという思いよりも、「面白さ」に意味を見出す林さんの姿勢だ。

「今の社会を見ると、『こうあるべき』という価値観に苦しんでいる人が多いのではないかと思います。別に生産性や合理性を意識しなくても良い。自分の好奇心に率直に向き合っていけば、面白いことができるし、面白い人と出会える。大事なのは、自分の足で歩いて、頭で考えて、自分で選択していく姿勢なのではないでしょうか」

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2019年12月に開催されたNCLのカンファレンスで今後の構想を話す林さん

普段、あまり疑問を抱くことなく暮らしている「社会」。突き詰めれば、人間同士の営みから生まれるもの、つまり人が生み出すものなのだ。「自分たちで未来のあり方を考えていく」。そう考えると、周りの世界の見え方が少し変わってくる。林さんたちの活動からどのような社会が生まれ、新しい未来が切り開かれていくのか、期待せずにはいられない。

撮影:新澤遥

〈プロフィール〉

林篤志(はやし・あつし)

ポスト資本主義社会を具現化するための社会OS「Next Commons Lab」をつくる。2016年、一般社団法人Next Commons Labを設立。自治体・企業・起業家など多様なセクターと協業しながら、新たな社会システムの構築を目指す。日本財団 特別ソーシャルイノベーターに選出(2016)。Forbes Japan ローカル・イノベーター・アワード 地方を変えるキーマン55人に選出(2017)。
Next Commons Lab 公式サイト(別ウィンドウで開く)