【多様性×テクノロジー】“かけるだけ”で文字が読める眼鏡誕生のきっかけは父親(オトン)?

写真:左はOTON GLASS、右は島影さん
視覚障害をサポートする眼鏡型機器を開発した島影圭佑さん

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 日本では人口の高齢化に伴い、視覚に障害のある人が増えている
  • 「OTON GLASS(オトングラス)」は、文字に関する多くの課題を解決する可能性を秘めている
  • アイウエア事業を展開する株式会社ジンズとの事業協力で、さらに多くの人の手に行き渡ることが期待される

障害や高齢、難病など、さまざまな理由から生きづらさを抱えている人たちの暮らしを、テクノロジーの力で良くしようと日々研究開発に努めている人たちがいる。その取り組みを紹介するのがこの連載「多様性×テクノロジー」だ。

株式会社オトングラス代表の島影圭佑(しまかげ・けいすけ)さんは、視覚障害者の文字を「読む」能力を拡張する眼鏡型機器「OTON GLASS」を開発。筑波大学の助教も務め、デザイナーとして、研究者として、そして起業家として各界から注目されている。

島影さんに、OTON GLASSを開発した背景や今後のビジョンを伺った。

簡単な操作で文字が読めるOTON GLASS開発のきっかけは、父の失読症

OTON GLASSは、眼鏡に搭載されたカメラで撮影した文字を音声に変換することで、目が見えなくても瞬時に文字の内容を理解できるようになる。視覚障害に関するサポート機器の中でも、これほど操作が簡単で携帯しやすいものは珍しい。

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ボタン一つで文字を認識し読み上げてくれる眼鏡型機器、OTON GLASS。このモデルでは3Dプリントしたメガネの眉間部分にカメラを内蔵している

島影さんがこの眼鏡型機器を着想したのは大学生時代。プロダクトデザインを専攻していた彼は、デザインが社会に与える影響に深い関心があった。

人間や社会が抱える複雑な問題を解決し、人々の生活を大きく変える製品を自分の手で作り出したい。そんなことを考えていた折に、父親が脳梗塞で倒れた。その後遺症で、字が読めなくなる「失読症」となる。

イメージ図:OTON GLASSの仕組み
OTON GLASSは、搭載するカメラで撮影した写真からクラウド上で文字を抽出し、音声データに変換、再生する仕組みになっている
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大学生の頃からOTON GLASSの研究開発を続けている島影さん

父のため、1人の作り手として何ができるだろう。さまざまなアプローチ方法を考えた末にたどり着いたのが、音声で視覚障害をサポートする眼鏡型機器だった。

「形状が眼鏡型に収束したのは、父の診察に同行したときのことです。父が病院で手渡されたアンケートを読み取ることができず、医師がアンケート項目を読み上げ、父が質問に答えるというやり取りを目にしました。そのとき、視点と同一にあるカメラで読み取った文字を音声に変換し、ささやいてくれる機器があれば、1人で文字情報を把握できるのではないかと考えました。眼鏡型ならカメラや音声出力装置を合理的に実装できると考えたんです」

拡大読書器など目が見えづらい人のために開発された製品は既に存在していたが、簡単に操作できて手軽に持ち運べるものはなかった。そこでエンジニアやデザイナーの友人たちとチームを組み、卒業制作をとして作り始めたものが現在のOTON GLASSの原型になっている。

製品名もキャッチーだ。

「お父さんを意味する“オトン”と“音”をかけた、ダジャレみたいな名前なんです(笑)」

写真:OTON GLASSの名前の由来について話す島影さん
OTON GLASSという名前には、父親への思いも込められている

島影さんの父親はリハビリによって失読症が改善し、OTON GLASSは必要なくなった。

「でもOTON GLASSを開発し、ブラッシュアップしていく過程で、視覚障害の当事者の方たちに『こういったものは今までなかった。ぜひ使ってみたい』という言葉をいただいたんです。そこで、父には不要なものとなりましたが、開発を続けることを決めました」

2017年4月、島影さんは金沢21世紀美術館でOTON GLASSの展覧会を開催し、多くの視覚障害者や福祉、医療関係者と話す機会を得る。OTON GLASSが必要な人はきっといるはず、という漠然とした想像が、大きな社会ニーズがあることを確信した。

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21世紀美術館の展示会で、製品を手に取る来場者

「そのことをきっかけに、視覚障害のある友達もできました。友人としても、彼らの抱える問題を解決したいと思うようになったんです」

高齢化が加速している日本では、高齢化に伴う病気の発症が原因となって視覚障害になる人が増えている。それまで目に不自由のなかった人が年齢を重ねるにつれて視覚に障害が出てくると、生活が困難になることは明白だ。現在は視覚障害者に向けた文字を読み上げるアプリなどもある。しかしスマートフォンの操作に慣れていない上、視覚に障害があるためスマートフォンのフラットなスクリーンが使いづらい高齢者にとっては、使いこなすことが難しい。

「OTON GLASSを作る上で意識したのは、高齢者の方も使いやすい単純なインターフェースにすることです。国や自治体から届く書類やハガキ、外食のメニュー表など、日常の中で避けては通れない文字が“ただ眼鏡をかけただけで”読める。それぐらい単純な仕組みでないと実生活の中で使いづらいし、広く普及はできないと考えました」

社会問題を解決しながら事業を継続させる鍵は「社会性と事業性」のバランス

島影さんは2018年、日本財団がソーシャルイノベーション(社会問題に対する革新的な解決法)の創出に取り組む人材やチームの支援するために実施した「日本財団ソーシャルイノベーションアワード」に応募し、優秀賞を獲得。参加して得られたものは、賞以上に大きかったという。

「ソーシャルイノベーションアワードには、さまざまなフィールドから社会課題に取り組む人々が、受賞者を決定するためのプレゼンテーションを聞きに訪れます。だから、僕が今取り組んでいることを、異なるフィールドの人々にOTON GLASSが与えるソーシャルインパクトを分かりやすく伝えるにはどうすれば効果的か、じっくり考え、検証する良い機会になりました」

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「日本財団ソーシャルイノベーションアワード2018」でプレゼンテーションをする島影さん

また、ずっと心の中に留めていた事業に対する考えを鮮明にし、世間に表明できたことも、大きなメリットだったという。現在の日本において、スタートアップは、事業性を最重要視している場合がほとんど。一方でNPOなどの団体は、社会性を何より大切にしている。

しかし「社会性か事業性、どちらかを選べと問われたら、『どっちも必要だよ!』というのが、僕がたどり着いた答えです」と島影さん。

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「企業が社会問題を解決するには、社会性と事業性の両方が大切」と語る島影さん

「社会課題の解決は難易度が高く、まだまだクリアしなければいけない課題がたくさんあります。けれど、結局“何のため”“誰のため”に事業をしているのか?と原点に立ち返り、自分に問うたびに、事業性も社会性も等しく重要だと実感するんです」

OTON GLASSで、高齢化が進む日本のピンチをチャンスにしたい

さまざまな課題を抱えながらも、オトングラスは着実に前へ進んでいる。先日、人気のアイウエアブランド「JINS」を展開する株式会社ジンズからの資金調達を実施し、事業協力を開始したのだ。

OTON GLASSはこれまで、文字の認識・読み上げ機能をメガネに内蔵する形で製造してきた。しかし、事業協力のリリースと共に発表された新しいモデルは、メガネにOTON GLASSの機能が外付けできるアタッチメント型に改良されている。これによりかけやすさが向上し生産コストが抑えられることでより多くの人の手に届くことが期待される。

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メガネのフレームに、カメラが搭載されたアタッチメントを装着する新型OTON GLASS
写真;OTON GLASSを装着し、名刺に書かれた文字を音声に変換する島影さん
OTON GLASSは、一般的な墨字であれば高い精度で読み上げることが可能

さらに島影さんは、OTON GLASSが日本の少子高齢化への対策となる、と力説する。

「僕は、文字を現代社会における重要な“インフラ”の一つと捉えています。文字が読めなくなると、働いたり、生活したり、いろいろなことが難しくなります。そこで、今後増えるであろう視覚に障害のある高齢者世代の方が、テクノロジーの力によって読む能力を“拡張”し、どんどん社会参画を果たせばどうでしょう。いま日本が抱える少子高齢化やそれに伴う労働者不足というピンチは、むしろ日本が世界のモデルになるチャンスになる。そう思いませんか?」

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

島影圭佑(しまかげ・けいすけ)

1991年生まれ。首都大学東京在学時、父の失読症をきっかけにOTON GLASSの研究開発を始める。2014年、情報科学芸術大学院大学に進学すると同時に、株式会社オトングラスを設立。2018年から筑波大学助教に着任。慶應義塾大学博士課程にも在籍中。
株式会社オトングラス 公式サイト(外部リンク

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