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マスクと一緒に思いやりを「おすそわけ」。マスク不足に苦しむ福祉現場を支援する「おすそわけしマスク」とは

- 人と人との距離を保つのが難しい福祉現場で、深刻なマスク不足が続いている
- 「#福祉現場にもマスクを」は全国の福祉現場にマスクを無料で届ける支援の取り組み
- 購入マスクの一部を寄付する新たなプロジェクトで、一層のマスク不足の解消を目指す
取材:日本財団ジャーナル編集部
新型コロナウイルスの影響により、さまざまな現場で深刻なマスク不足が続いている。高齢者や障害がある人の生活を支える福祉現場においても同様だ。多くの施設でマスクが不足し、場合によっては、使い捨てマスクを洗ってくり返し使用せざるを得ないケースもある。
この現状を踏まえ、障害者が手がけるアート作品をプロダクト化し、ビジネスを展開する株式会社「ヘラルボニー」(別ウィンドウで開く)のほか、一般社団法人「障害攻略課」(別ウィンドウで開く)、一般社団法人「Get in touch(ゲット・イン・タッチ)」(別ウィンドウで開く)、NPO法人「D-SHiPS32(ディーシップスミニ)」(別ウィンドウで開く)の4つの福祉団体がタッグを組み、立ち上げたのが有志の寄付により、福祉現場にマスクを届ける「#福祉現場にもマスクを」(別ウィンドウで開く)プロジェクトだ。

1日でも早く、1カ所でも多くの福祉現場にマスクを届けたい
「重度の身体障害がある人の着替えや入浴、食事の介助…。福祉現場の皆さんは“ソーシャルディスタンス(社会的距離)”を保つことが難しい状況の中で働いています。しかし、ほとんどの施設でマスクが足りていないのが現状。そんな中で続けるなら、施設を閉鎖すべきだという声もあるようですが、福祉施設がなければ生きていけない方がたくさんいるのも事実なのです。そこで、私たち4つの団体が一つのチームになり、1日でも早く、1カ所でも多くの福祉現場にマスクを届けるためにこのプロジェクトを立ち上げました」
発起人の1人、俳優であり Get in touch・代表でもある東(あずま)ちづるさんはこう語る。
「#福祉現場にもマスクを」の仕組みは至ってシンプルだ。賛同者はマスクの購入や配送に必要な費用を寄付金という形で支援できるほか、マスク自体の寄付もできる。寄付金は1口2,000円からで、銀行振り込みだけでなく、クレジットカード決済やTポイントによる支払いも可能。寄付マスクについては、衛生面の問題からサージカルや不織布など市販品のみに限られる。

一方、マスクを希望する福祉現場は、公式サイトのマスク希望入力フォームから必要事項を記入するだけで申し込みが完了。対象となるのは生活介護事業所、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所、グループホーム、施設入所支援などの障害福祉サービス事業所、放課後等デイサービス、児童発達事業所やセンター、訪問看護ステーション、リハビリテーションセンターなどで、1施設につき最大500枚まで申し込むことができ、各施設には準備が整い次第、順次届けられる。
相手を思いやる気持ちが、“ギブ(Give)”の連鎖を生む
2020年4月22日の発足以来、5月11日までの20日間で集まった寄付金は532万9,623円、集まった寄付マスクは5万8,190枚。すでに193カ所の福祉現場に、5万3,420枚のマスクが届けられている。
各界から賛同者も集まっており、サポーターには歌手のさだまさしさんたちが立ち上げた「風に立つライオン基金」(別ウィンドウで開く)や、現在スペインを拠点に活躍する柴崎岳(しばさき・がく)選手をはじめとするプロサッカー選手など、多くの団体・個人が名を連ねる。
「寄付マスクと一緒に、たくさんのエールも届きました。また、実際にマスクを受け取った福祉現場の方からも多くの感謝の声をいただいています。驚いたのは、マスクをお届けした福祉現場の方から『私たちにも何かできることを』と寄付金をいただいたり、寄付の循環が生まれていることです。寄付とは、自分の財産や物品を無償で提供することですが、このプロジェクトには、そこに“気持ち”が入った、心の循環が生まれていると思うんです。もはや“寄付”という言葉では表現しきれないなと思い、寄付に濁点をつけて“ギブ(Give)”の循環と名付けました」と障害攻略課の理事・澤田智洋(さわだ・ともひろ)さん。
そんな“ギブ”の循環を加速させるために、5月13日より新たなプロジェクト「おすそわけしマスク」も立ち上げられた。

三方良しを目指す「おすそわけしマスク」
「おすそわけしマスク」は、地球環境の保全活動にも積極的に取り組む「株式会社中部日本プラスチック」(別ウィンドウで開く)代表の雪下真希子(ゆきした・まきこ)さんとさまざまな分野でプロデュース活動を行う「株式会社小国士郎事務所」代表の小国士郎(おぐに・しろう)さんによる共同プロジェクトで、賛同者が1箱55枚入りのマスクを購入すると、そのうち5枚分が自動的に福祉現場に“おすそわけ”されるというもの。雪下さんが小国さんに「マスクを調達できることになり、何か社会の役に立つ形で使いたい」と相談をしたのをきっかけに発足した。

「メディアでは、マスクが高額で販売されていることや、マスクを買い占める人の存在が悪いことのように取り上げられていますが、それぞれにいろんな事情があり、守りたい家族や社員がいると思うんです。だから、売る人、買う人、使う人、みんなが『ふふ』って笑いながら参加できるような“三方良し”の仕組みをつくりたいという思いから『おすそわけしマスク』が生まれました」
そう語る小国さんは、雪下さんから相談された時にすぐに頭に浮かんだのが、友人でもある障害攻略課の澤田さんたちが始めた「#福祉現場にマスクを」プロジェクトだったという。マスクを調達できる雪下さんと、福祉現場の声を拾って、顔の見える関係で必要としている人たちに届けることができるチームを「マッチングさせるしかない!」という強い思いで、この新たなプロジェクトがスタートした。
「おすそわけしマスク」は大人用、子ども用の2サイズがあり、各50枚入りで2,772円(税込)。1枚あたり45円と決して安価ではないが、その分、品質にこだわっていると雪下さんは話す。
「マスクの供給に協力してくれているパートナーに、もっと安くできないのかと相談したこともあります。でも、安いマスクにはそれなりの理由があるんですね。福祉現場に届けるマスクだからこそ、本当に人の命を守るためには、安心・安全なマスクでなくてはいけないと思っています」
「おすそわけしマスク」は3層構造になり、中心にメルトブロウン不織布のフィルターを使用している。サージカルではないが、CE(※1)およびFDA(※2)の認証を受けており、製品や製造現場におけるヨーロッパ、アメリカの医療要件基準を満たしている。
- ※ 1.商品がすべてのEU (欧州連合) 加盟国の基準を満たすものに付けられる基準適合マーク
- ※ アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)の略称で、食品などを取り締まるアメリカ合衆国の政府機関

この「おすそわけしマスク」は公式サイト(別ウィンドウで開く)より購入可能で、5月22日より全国の購入者・福祉現場へ配送される予定だ。マスクを希望する福祉現場は、同サイトおよび「#福祉現場にもマスクを」の公式サイト(別ウィンドウで開く)から、最大500枚まで申し込みできる。着目すべきは、マスクを必要とする福祉現場は2つのプロジェクトに同時に申し込むことができる点。すでに「#福祉現場にもマスクを」でマスクを受け取った福祉現場も「おすそわけしマスク」に申し込むことができ、合計1,000枚のマスクを受け取ることが可能となる。
マスクを通して、みんなが福祉に参加できる社会を
最後に、両プロジェクトのメンバーから送られた、福祉現場や社会に向けたメッセージを紹介したい。

中部日本プラスチック・代表の雪下真希子さん
「コロナというと悪い話ばかりが皆さんの不安をかき立てていますが、『おすそわけしマスク』をすることによって、みんながコロナという問題を共有し、世界が一つになって支え合う世の中になればと。一人じゃないよね、みんなつながっているよね、と思えるきっかけになればと願っています」
小国士郎事務所・代表の小国士郎さん
「マスクを手に取ったときに、自分と誰かがつながっていることを実感できることが大切だと思っています。買った人も、受け取った人も、誰かのことを思いながら参加する。そんな風に、誰かが誰かを思いやって、お互いのことをゆるやかに意識しながら生活できたらいいなと思っています」
障害攻略課・代表の澤田智洋さん
「僕自身のこのプロジェクトの狙いは、福祉現場といろんな人をつないで、福祉を盛り上げていくこと。新型コロナウイルスという、“みんなごと”化された問題がベースにあることで、福祉とつなぎやすい状況だなと感じています。いまはマスクが主役になっていますが、これからは福祉現場を主役にしていきたいです」
Get in touch・代表の東ちづるさん
「困ったときはお互いさま。福祉現場の皆さんは、『マスクが足りていません、困っています』ということを我慢しないで、諦めないで発信してください。これは全ての人が幸せになるために福祉があることを広く知ってもらうためのプロジェクト。みんなでSOSを出し合って、受け止め合って、支え合っていきたいと思います」
D-SHiPS32・代表の上原大祐(うえはら・だいすけ)さん
「このプロジェクトを通して、福祉現場の皆さんが声を上げながら、チームになり始めています。また、海外の企業からも寄付したいと連絡があり、世界にまで広がっているのが本当にうれしいですね。“おすそわけ”という、日本のいい文化を見つめ直すことができるのがこのプロジェクトです」
ヘラルボニー・代表の松田崇弥(まつだ・たかや)さん
「私の兄には自閉症という先天的知的障害があり、今まさに、生活介護の福祉施設でお世話になっています。福祉施設は、物理的な人間関係が切り離せない現場です。だからこそマスクを通じて、支援する方々が少しでも心が軽くなるものを届けていけたらと思っています」
福祉現場で働く人々は、さまざまな形で人に深く関わり、一人一人の社会生活の基盤を支えている。松田さんのように、身近な人が福祉施設でお世話になっているという人も少なくないだろう。マスクを通して人と人とが思いやり、心でつながる“おすそわけ”の気持ちが世界中に広がるきっかけになることを願ってやまない。
写真提供:「#福祉現場にもマスクを」事務局
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