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大切なのは「誰もが参加できること」。世界ゆるスポーツ協会・澤田智洋さんが追求するスポーツの可能性
- 運動が苦手な人や障害がある人も楽しめるように考案された「ゆるスポーツ」がアツい!
- 若手クリエイターたちが手掛ける各競技には、それぞれ社会課題を意識したコンセプトがある
- 「ゆるスポーツ」を通して互いの違いを認め合える、許容性の高い社会を目指す
取材:日本財団ジャーナル編集部
「ゾンビサッカー」「イモムシラグビー」「こたつホッケー」「ハンドソープボール」…。スポーツが苦手でも、障害があっても、誰もが楽しめる「ゆるスポーツ」が話題になっている。
2016年4月に設立した一般社団法人「世界ゆるスポーツ協会(以下、世界ゆるスポーツ協会)」によって生み出された競技は、これまで70種類以上(2019年7月現在)。世界ゆるスポーツ協会の代表理事を務める澤田智洋(さわだ・ともひろ)さんに、ゆるスポーツの開発・普及に取り組む思い、目指す社会について話を伺った。
老若男女、障害者も健常者も!みんなが楽しめる「ゆるスポーツ」
「ゆるスポーツは、年齢や性別、運動神経や運動経験、障害の有無にかかわらず、誰もが楽しめるように考え出したもの。一番の魅力と言えるのは、競技名やルール、ポップなウェアなど“笑える”ポイントがたくさんあり、みんなでワイワイ楽しめるところですね。真剣なプレーの中に笑いの要素を入れることで、ミスが怖くなくなりますし、たとえ失敗しても周りの人を笑わせることができるので、自信につながるんです」
そう語る澤田さんは、大手広告代理店に勤めながら、スポーツクリエーター、福祉クリエーターとして、ゆるスポーツの開発や普及活動などを行っている。
競技の一つひとつに斬新なアイデアが盛り込まれ実に面白い。例えば、中心にブラックホール(穴)が空いたラケットを使う「ブラックホール卓球」は、卓球が上手な(ラケットの中心部分で打てる)人ほど難易度がアップする。
また、こたつに投影されたみかんを湯呑みで弾いて相手ゴールに入れる「こたつホッケー」は、座ったままの状態でプレーを楽しみながら腕全体の伸縮運動ができるなど、笑えるポイントを押さえながらも誰もが公平に、健康的に楽しめる、しっかりとしたコンセプトがあるのだ。
「どんな障害がある人でも、プレーできるスポーツが複数あるように開発に取り組んでいます。いくつかできるものの中から好きなスポーツを選べるのって、競技する人にとって大きな意味があると思うんですよね。気分や体調に合わせて種目を変えたり、新しいものに挑戦してみたり…。そうすることで気軽に楽しめて、精神的にも余裕を持てるようになると思うんです」
トップテクノロジーをポップに!スポーツに使われる最新技術に注目
ゆるスポーツでは、テクノロジーとスポーツの融合を楽しむこともできる。人のちょっとした動きを感知できる特製チェアや、世界最速・精度を誇る顔認証技術、映像を投影できる特殊なガラススクリーンなど、さまざまな技術を体験できる近未来性も魅力の一つだ。
「日本の良いところは、抹茶味やほうじ茶味のチョコレートのように、モノにもダイバーシティがあるところだと思うんです。この国にはさまざまな技術がありますが、世に知られていないものもたくさんあります。そういったテクノロジーをゆるスポーツを通じて多くの人に知ってもらうことで、スポーツの可能性や、技術を手掛ける企業の認知度を広めていければ」と澤田さんは語る。
ゆるスポーツは、参加者や技術を手掛ける企業だけでなく、競技を手掛ける側にとってもメリットがある。アンバサダーにアスリートたちを起用し、参加者との交流の場を設けることで、各々が取り組むスポーツについても認知度を高めることができるのだ。また、若手クリエイターたちに活躍の場を提供し、スポーツの構想を練ってもらうなど、かかわる人みんなが笑顔になれるのが「ゆるスポーツ」なのだ。
ゆるスポーツを通じて、互いの違いを認め合える優しい社会をつくりたい
魅力あふれる「ゆるスポーツ」だが、何がきっかけで生まれたのだろう。
「僕自身、子どもの頃からスポーツが苦手でして…。足が速い子をうらやんだ思い出もありますし、体育館とかスポーツ系の場所に行くのも憂鬱(ゆううつ)なんです(笑)。自己救済的な感じで始めたのですが、調べていくうちに日本人の半数近くがスポーツをしていないという事実を知ったんです。よく考えてみれば、スポーツ業界って運動が得意な人に焦点を当てていることが多く、半分のスポーツが苦手な人たちが、取りこぼされているのではないかと思ったのがきっかけですね」
運動が苦手な人や、高齢者、障害があって健常者と同じように動けない人たちを澤田さんは「スポーツ弱者」と定義づける。
「僕もこの中に入るのですが“スポーツ音痴”、という言葉からは何も生まれませんよね。社会的弱者のように“スポーツ弱者”と再定義することで社会問題化され、注目を浴びるようになるんです」
ゆるスポーツを開発する過程では、必ずスポーツが苦手な人にプレーしてもらい、フィードバックをもらうようにしている。スポーツが苦手だからこそ、障害がある人の視点から見るからこそ、数々の工夫が凝らされ、笑いに満ちたスポーツが生まれてくるのかと考えると、とても興味深い。
「ゆるスポーツを通して、互いの違いを認め合える社会をつくっていけたらと考えています。ゆるスポーツをいくつかプレーすることで、視覚障害がある人に近い体験や、下半身不随のような状態を擬似的に体験できるんです。また、同じチームの仲間にもそういう人がいたりします。そういった経験を積むことで、一人ひとりの許容のストライクゾーンを広げられたらと考えています」
どうなるか分からないから面白い!ゆるスポーツの未来
2019年、「ゆるスポーツ」は国境を超え、海外へと進出する。
「2019年の秋からエストニアに進出するべく、準備を進めています。エストニアは人口130万人ほどの国で、電子国家としても有名。学校の書類なんかも全てデジタルで、他の先進国と比べても約50年先を進んでいると言われているんです。バルト3国の中でも最も北にあり、寒さの厳しいエストニアでは、長い冬に楽しめるスポーツを提供できたらと考えています」
アメリカや中国などたくさんの国や団体からオファーがある中、エストニアを選んだ理由については、「スポーツの一番の魅力って、結果がどうなるか予想がつかないところにあると思うんです。そういう意味でエストニアは、全く予想がつかない。でも、だからこそスポーツ的でいいなと思いました」と笑顔で語る。
「世の中にはいろんな人が暮らしていて、生きづらさを感じることもあると思います。そんな時は、今目の前にあることにとらわれず、自分自身がもっと楽しくなるように“自給自足”をすればいいのではないでしょうか。スポーツが苦手なら自分が得意なスポーツを、楽器が苦手なら自分が楽しめる楽器を作れば良いんです!社会の常識にとらわれず、小学2年生の2学期くらいの柔軟な頭で面白そうなことを考えられれば、多くの人が楽しく暮らせる世の中になるのではないかと考えています」
違いを認め合いながら、自分が面白いと思ったことを発信していく社会。ゆるスポーツの普及と合わせて、一緒にそんなムーブメントが広まっていけば面白い。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
澤田智洋(さわだ・ともひろ)
1981年生まれ。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後17歳の時に帰国。2004年広告代理店入社。映画「ダークナイト・ライジング」の『伝説が、壮絶に、終わる。』などのコピーを手掛けながら、多岐にわたるビジネスをプロデュースしている。誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ」協会代表理事。一人を起点にプロダクトを開発する「041」プロデューサー。視覚障害者アテンドロボット「NIN_NIN」プロデューサー。義足女性のファッションショー「切断ヴィーナスショー」プロデューサー。高知県の「高知家」コンセプター。
世界ゆるスポーツ協会 公式サイト(別ウィンドウで開く)
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