障害・年齢・運動神経不問!みんなが笑顔になる「ゆるスポーツ」を現役大学生が体験してみた

写真:ゆるスポーツを体験中の満尾さんと深海さん
話題のゆるスポーツを現役大学生が体験

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 「ゆるスポーツ」は、障害がある人や運動が苦手な人目線で生み出された新スポーツ
  • “弱さを強さに変える”競技も多く、誰もが活躍できる
  • 競技によって障害のある人の立場も体験でき、配慮も自然と学べる

2020年東京オリンピック・パラリンピックのチケット販売が始まり、スポーツへの関心が高まりつつある、2019年5月19日。その熱に負けないほどの盛り上がりを見せた、とあるスポーツイベントに潜入した。

その名も「ゆるスポーツランド2019」。会場には、老若男女、健常者、障害者といった総勢約400人の参加者が集い、ゲストの、日本を代表するトップアスリートたちと共に、3時間半にわたって計23種類の競技が行われた。

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開会式での参加者全員の集合写真

ゆるスポーツとは一体どんなスポーツなのか。どのような魅力があるのか。大学生の2人が実際に体験してみた。

障害があっても、運動が苦手でも、誰もが楽しめる新スポーツ

「ゆるスポーツ。それは、年齢・性別・運動神経に関わらず、だれもが楽しめる新スポーツ」

ゆるスポーツランドを主催する世界ゆるスポーツ協会の公式サイトにはこのような説明がある。「誰もが平等に楽しむことができ、勝ったらうれしい、負けても楽しい。」これまでにはないスポーツである、と。百聞は一見に如かず。さっそくその魅力を探ってみた。

今回、「ゆるスポーツランド2019」を体験・レポートしてくれるのは、千葉大学に通う満尾亮介(みつお・りょうすけ)さんと、法政大学所属の深海友介(ふかうみ・ゆうすけ)さんの2人。満尾さんは、小中学校は野球、高校では弓道、大学ではテニスや卓球などさまざまなスポーツを経験、深海さんは幼稚園から高校3年生まで、サッカーに打ち込み関東大会優勝という経歴を持つ。

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ガッツポーズでやる気を見せる深海さん(左)、満尾さん(右)

協議前に抱負を聞いてみると、「初めて体験する競技ばかりなので、楽しみです!」と満尾さん。深海さんは「スポーツを通して笑顔になれたらいいなと思います」とコメントをしてくれた。

鬼ごっこを楽しみながら災害時の助け合いを学べる「エモ鬼(EMO-ONI)」

まず2人が向かったのは「エモ鬼(EMO-ONI)」の会場。これは、一言でいえば「ちょっと変わった鬼ごっこ」だ。

「怒り(赤)」や「ふつう(緑)」など、4つの表情と色に変化する特製マスク「エモさんフェイス」。これをかぶった鬼役から安全な場所まで逃げることができるかを楽しむスポーツだ。プレイヤーはエモさんチームと、避難者チームに分かれ、避難者チームは、片脚しか使えない、音が聞こえないなど、ハンディーを負った中で逃げなくてはならない。

[ルール]

  1. 両チームは真ん中で輪になる
  2. すると突然エモさんの顔が変化し、怒り出す
  3. 避難者チームはエモさんに捕まらないように、助け合いながら避難所ゾーンへ逃げる。逆に、エモさんは避難者チームを追いかける
  4. エモさんにタッチされた避難者はアウト!エモさんゾーンに入る
  5. 避難者チームの全員が避難所ゾーンかエモさんゾーンに入ったら、1ラウンド終了(ゲームは3ラウンド制)
  6. ラウンドの間に、チーム内でどうやったら全員が逃げられるかを考えよう
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エモさんフェイスをかぶったプレーヤー。エモさんの表情の変化に合わせて避難者チームは逃げなければいけない

災害時に、障害のある人や高齢者など、どのようにお互い助け合ってより多くの仲間を救出できるかといった、状況判断力も身に付く画期的なスポーツなのだ。

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防音のヘッドホンを装着し、音が聞こえない状態の深海さん。片脚でしか移動できない条件でゲームを行う満尾さん

エモさんの動きは驚くほど速い。耳や脚、目(目隠し)などのハンディーを負って自分が逃げるだけでも大変なのに、仲間を助ける余裕はなかなかない。声を掛け合ったり、アイコンタクトを送ったりと、チームの結束力や、状況判断力も問われる競技なのだ。

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「怒り」の表情で参加者を追いかけるエモさん
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エモさんの動きに翻弄(ほんろう)され、ついに捕まってしまった満尾さん

「目が見えない、片脚しか使えないという設定もありましたが、特に音が聞こえないハンディーがある場合が難しかったです。お互いに声を掛け合っていても、孤立しやすいので、もっと身振り手振りで伝えるなど、助ける際の配慮が必要だと感じました」と深海さん。何が起こるか分からない災害時。けがをすることも、障害がある人を助けることもあるだろう。そんな時、相手に対する配慮や判断力を学べるのがエモ鬼なのだ。

ブラインドサッカーの魅力をゆるく楽しめる「ゾンビサッカー」

お次は「ゾンビサッカー」。これはゾンビチームと生身の人間チームに分かれて競う競技で、テープで区切られた「サバイバルエリア」内で試合を行う。

[ルール]

  • 生身の人間チーム
    1. 目は見えている。音のなる鈴を体に付ける
    2. 生身の人間チーム同士で、常に悲鳴を上げ続ける特製ボールをパスしなければならない
    3. ゾンビに捕まるとサバイバルエリア外へ退場
    4. ボールがサバイバルエリアから出てしまった場合、ボールを出した人が急いでボールを取りに行く。他の人間はボールが戻ってくるまでその場でフリーズし、鈴を鳴らし続ける
  • ゾンビチーム
    1. ゾンビマスクをかぶり、目は見えていない
    2. 両手を前に挙げて、ゾンビっぽい呻き声を上げながら移動しなければならない
    3. 生身の人間に触るか、ボールを取りに行くことが目的
    4. 審判の合図で、人間を捕まえた際は、みんなで手を合わせて「いただきます」と心を一つに叫ぶ

試合は、生身の人間チームがボールを取られるか、全員タッチされて滅亡させられるとゾンビチームの勝ち。生身の人間チームは制限時間まで誰かが生き残れば勝ちとなる。

参加者は生身の人間チームとゾンビチームの両方を体験することができるが、それぞれに難しさがある。まず、人間側は予測できないゾンビの動きを避けつつ、狭いサバイバルエリアの中でパスを回し続けなくてはならない上に、ゾンビと人間同士の距離感を同時に意識しなくてはならない。

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アイマスクを着ける満尾さんと深海さん。この上からゾンビマスクをかぶる

一方ゾンビたちは、前進するだけでも大変だ。頼りのボールのうめき声も会場の騒音にかき消されてしまう。

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ゾンビに扮する満尾さん。ゾンビチームは手を前に出して、うめき声を出さなくてはならないのもユニークなルールだ
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さすがはサッカー青年。華麗なボールさばきを見せながらゾンビを交わす深海さん

「目隠しをすると不安になって、思った以上に動けなくなってしまいました。ゾンビ同士でぶつかることもありました」と満尾さん。「ボールの叫び声を聞こうとしても、会場の音にかき消されて全然聞こえませんでした。視覚障害のある人は実生活でも大変なんだろうなと感じました。東京のように人が多く、雑音も多い場所ならなおさらですよね」と深海さんは感想を述べる。

本格的なブラインドサッカーでも、危険な衝突を避けるため声の掛け合いや、状況を知らせるための選手のポジションを設け、静かに観戦するというルール(ゴールが決まったときは、大歓声を送れる)などがあり、配慮が求められる。競技を楽しむためには、ちょっとした思いやりが必要になってくるのだ。

動きづらさも、スポーツにすればこんなに楽しい!「イモムシラグビー」

会場の中心。派手なユニフォームで注目を浴びていたのが「イモムシラグビー」だ。カラフルなイモムシウェアに身を包み、マットの上をゴロゴロ転がる参加者たち。はたから見ていると、とても平和的で微笑ましい光景なのだが、参加した後の2人が感想は違った。

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専用のイモムシウェアを装着する満尾さんと深海さん。床に擦れて痛くならないように、腕には厚手のサポーターを巻く

「そんなに重さはないけど、ウェアがとにかく動きづらかったです」と深海さん。満尾さんも「めちゃくちゃ暑いし、ほふく前進で進むので腕がかなり疲れました」というだけに、ゆるいのは見た目だけのようだ。これは、下半身が使えない状態で行う競技なのだ。

[ルール]

  1. 5対5に分かれ、前後半5分ずつで試合を行う
  2. 基本動作は、ほふく前進か転がるかのみ
  3. 得点は2種類。L字型エリアのトライゾーンにボールを押さえたら2点。スローラインより後ろからボールを転がし、コーンの間、ロープの下を通したら3点
  4. パスは基本ゴロ。前もOK。空中パスは後ろのみOK
  5. ディフェンスはボールを持っているプレーヤーにタッチ(背中・腕・膝下のみ)。 タッチされたらボールをパス。5タッチで攻守交替
  6. ラフプレーをした場合は、その場でひっくり返って1プレイ分「イモムシフリーズ」
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味方にボールをパスする深海さん。試合中の移動は、ほふく前進か転がるかの二択
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ボールをナイスキャッチ!試合で見せ場をつくる満尾さん

試合は白熱したが、残念ながらあと一歩届かず、深海さん満尾さんのいるチームは負けた。

「スペースがあまりないので、後ろにいる人と前に出る人を分けるなど、しっかりポジションを構成できたら良かったな」と試合を振り返る深海さん。「タッチダウンをアシストできて楽しかったです。体の動きが制限されるので、人を頼ることが多かった分、得点時はチームでの喜びも大きかったです」と満尾さんは達成感を得られたようだ。普段使わない筋肉の使い方をする競技なので、大変ではあるものの、だからこその面白さや奥深さがあるのだろう。

上手なほど不利になる?ブリの街のご当地スポーツ「ハンギョボール」

出世魚として知られるブリは、一生で4回その呼び名が変わる。地域によって名前に違いあるが、富山の冬の味覚「ひみ寒ぶり」で有名な富山県氷見(ひみ)市では、コズクラ、フクラギ、ガンド、ブリと成長するつれ呼び名を変えて区別するのだとか。

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コートの脇にずらりと並ぶさまざまなサイズのブリ人形

そして、氷見市のもう一つの名物がハンドボール。その60年以上の歴史の中で幾多の強豪チーム、強豪選手を輩出してきた。

そんな氷見市の2大名物が、ゆるスポーツと出会い、誕生したのが「ハンギョボール」だ。ブリを脇に挟んだ側の腕だけを使って行うハンドボールで、ゴールを決めると脇に抱えたブリが「出世(巨大化)」していく。

[ルール]

  1. ブリを脇に挟んだ側の手を必ず使ってボールを投げる。守備は、逆の手でもドリブル可。ゴールキーパーは両脇にウキを挟む
  2. 試合時間は前後半7分ハーフ。休憩は3分間
  3. ゴールを決めると脇に抱えたブリが「出世(巨大化)」。ゴールをした時は味方チーム全員で「出世」とコールする
  4. 反則をすると「冷蔵庫」へ送られ、相手がゴールを決めると全員復帰できる
  5. 試合終了後、保持している魚に割り振られている得点の計算を行い、チーム内の合計点を競う

試合中は富山の方言や漁師言葉を使ったコールも。ハンドボールのルールでオーバーステップを指す「しょわしない(せわしない)」やラインクロスを指す「おーど(大雑把)」など、方言にも詳しくなれる。

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ガチンコプレーを繰り広げ会場を盛り上げた一流アスリートたち

試合では、得点が入るたびにブリが大きくなり動きを制限されるので、上級者ほど難易度が上がる。声を掛け合ったり、アイコンタクトを送ったり、ハンドボール同様にチームワークの重要性も高くなる。

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このあと見事に得点を決めた満尾さん
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ジャッジをする審判。ブリの大きさと数で得点が算出され、勝敗が決まる

結果は、深海さん、満尾さんが参加したチームの勝ち。しかし、どちらのチームのメンバーも晴れやかな表情だ。

「得点するごとに能力の差が縮まるので、誰でも楽しめる」と深海さん。満尾さんも「魚が大きくなるにつれて持ちにくくなるので大変でしたが、声など掛け合ってフォローし合いました」と、2人ともプレーを堪能できたようだ。

当日は他にも、体の動きを感知する特殊な椅子に座ったまま、バーチャルプレーヤーを操作して走る速さを競う「緩急走」や、帽子の上にボールを乗せて敵をかわしつつトライを決める「ハットラグビー」、誰が一番“遅く”100センチを完走するかを競う「100cm走」など、さまざまな競技を2人は体験した。

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「ハットラグビー」で、敵チームに挟まれ窮地に追い込まれるが、とても楽しそうな深海さん

最後に、1日のゆるスポーツ体験を彼らに振り返ってもらうと、「会場に来るまでは、子どもが多いんだろうと思っていましたが、実際はさまざまな人たちが参加していて、子どもも大人も障害者も健常者も、スポーツを通してみんな笑顔を浮かべていたのがとても印象的でした。それがゆるスポーツの持つ力なんですね」と満尾さん。深海さんも「スポーツって競技が面白くなるまでに、ある程度練習が必要な場合が多いと思うんです。でも、ゆるスポーツなら5分くらいルールを聞いたら誰でもすぐにプレーできるところが素晴らしいと思います」と、2人はゆるスポーツの魅力を存分に楽しめたようだ。

キャッチーなネーミングと、競技自体の面白さはもとより、笑いやハンディーを介在させることで、ミスや失敗が怖くなくなるゆるスポーツ。「仲間ハズレをつくらない」といった理念をもとに作られた新しいスポーツのスタイルは、今後もたくさんの人を笑顔にしていくだろう。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

一般社団法人世界ゆるスポーツ協会

「スポーツ弱者を、世界からなくす」ことをコンセプトに、2015年4月に発足。誰でも楽しめる新しいスポーツジャンルを創り出すことを追求し、ベビーバスケ、ハンドソープボール、スポーツかるたなど、40種類以上(2019年5月現在)の種目を開発し、普及に取り組む。高齢者でも障害者でも参加でき、技術やアイデア力を活かしたスポーツを生むことで、日本のみならず世界中の社会課題解決につながることを目指して活動中。2017年、日本財団が社会のためにスポーツマンシップを発揮した選手やチーム、団体を表彰する「HEROs AWARD 2017」を受賞。代表は、大手広告代理店でコピーライターとしても活躍する澤田智洋(さわだ・ともひろ)さん。
世界ゆるスポーツ協会 公式サイト(別ウィンドウで開く)

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