日本財団ジャーナル

【増え続ける海洋ごみ】超異分野チームで課題をビジネスに。プロジェクト・イッカクの海洋ごみゼロへの挑戦(特集第4回)

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「プロジェクト・イッカク」のプロジェクト・リーダー、上野裕子さん(左)とプロジェクト・マネージャーの篠澤裕介さん(右)
この記事のPOINT!
  • ごみの分別やリサイクルが進んだ日本では、一人一人の意識の変化だけでは海洋ごみ問題を早急に解決することは困難
  • 「プロジェクト・イッカク」は、海洋ごみ削減につながるビジネスの創出で問題解決を加速させる
  • 異なる分野の専門家たちが一つになることで、画期的な取り組みが生まれる

取材:日本財団ジャーナル編集部

私たちの海がごみで溢れようとしている。世界に合計1億5,000万トン以上(※1)の量が存在し、毎年約800万トン(※2)に及ぶ量が新たに流れ出ていると推定される。特集「増え続ける海洋ごみ」では、人間が生み出すごみから海と生き物たちを守るためのさまざまな取り組みを通して私たちにできることを考え、伝えていきたい。

  • 1.参考:WWFジャパンWEBサイト「海洋プラスチック問題について」、McKinsey & Company and Ocean Conservancy(2015)
  • 2.参考:WWFジャパンWEBサイト「海洋プラスチック問題について」、Neufeld,L.,et al.(2016)

「プロジェクト・イッカク」(別ウィンドウで開く)は、日本財団とJASTO (別ウィンドウで開く)株式会社リバネス(別ウィンドウで開く)が中心になって立ち上げたプロジェクトで、テクノロジーを集結した“超異分野チーム”で、海洋ごみを削減するためのビジネスの創出に取り組んでいる。

今回は、リバネスで同プロジェクト・リーダーを務める上野裕子(うえの・ゆうこ)さんとプロジェクト・マネージャーを務める篠澤裕介(しのざわ・ゆうすけ)さんに、取り組み内容と、海洋ごみ問題を解決するためのヒントにつながる話を伺った。

異なる専門分野の掛け合わせで、海洋ごみを削減

リバネスは、「科学技術の発展と、地球貢献を実現する」をビジョンに、小中高生向けの教育開発や、若手研究者の人材育成や研究支援、ベンチャーの海外進出支援など、科学技術領域におけるさまざまな事業を手掛けている。

日本財団とは、2015年より海洋調査・研究に関わる人材育成や技術開発に共に取り組んできた。「プロジェクト・イッカク」は、2017年より開催している優れた海洋技術と起業家の発掘育成を目的としたビジネスプランコンテスト「マリンテックグランプリ」をきっかけに誕生。日本財団が推進する、一人一人が海洋ごみの問題を自分事化し、「これ以上海にごみを出さない」という社会全体の意識を高めるため、産官学民が協力し合う取り組み「CHANGE FOR THE BLUE」(別ウィンドウで開く)の一環として2019年にスタートした。

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「プロジェクト・イッカク」の公式サイト(別ウィンドウで開く)

篠澤さん「ここ数年の間に、海洋分野に携わるベンチャー企業が増え、AIやドローンなどの新しいテクノロジーも参入しています。いろんなジャンルで活躍する企業や人材を組み合わせたら、海洋ごみの問題を解決するための革新的な取り組みができるのではないかと考えました」

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「プロジェクト・イッカク」誕生のきっかけを話す篠澤さん

「プロジェクト・イッカク」は、海の一角獣「ユニコーン」と、成功したベンチャー企業を指す「ユニコーン企業」をかけてネーミングしたプロジェクト。「海洋ごみ問題の根本は生産、消費、廃棄を原理とする経済システムそのものにある」という考えのもと、「これ以上、海にごみを出さない」循環型の経済システムの構築を目指し、海洋ごみ削減の「施策」ではなく、「新たなビジネスの創出」することを目的としている。

篠澤さん「ごみの分別やリサイクルが進んだ日本において、一人一人の意識の変化だけでは海ごみ問題の解決を早めることはなかなか難しい。であれば、そもそもごみを出さないビジネスを一からつくり、それを世の中に広げていくことができれば、海ごみ問題も大きく前進するのではないかと考えたんです」

イラスト:「プロジェクト・イッカク」が目指す循環型の社会を示す図。「生産」したものを「消費」し「廃棄」するといった直線的にモノが流れる経済(リニア・エコノミー)から、「生鮮」したものを「消費」し「リサイクル」する循環型の経済(サキュラー・エコノミー)を目指す。
「プロジェクト・イッカク」が目指す、循環型の経済システム

2019年7月に「プロジェクト・イッカク」への参加者を募ったところ、学術機関、町工場、中小企業、スタートアップなど62チームがエントリー。その中から宇宙、AI、ドローン、バイオテクノロジー、観光ビジネスといったさまざまな分野の専門家で形成された8つの“超異分野チームが生まれ、さらにそこから3つのチームが採択された。

イラスト:「プロジェクト・イッカク」に集結した超分野チーム。宇宙技術、ドローン、IoT、AI、再資源化・プラント、バイオテクノロジー、観光ビジネス、プロダクトデザイン、新素材開発、環境調査など。
「プロジェクト・イッカク」には、最新テクノロジーから観光ビジネスまで幅広い分野にまたがる専門家たちが集結

上野さん「どのチームも私たちが掲げる『海洋ごみを解決しよう。これ以上、海にごみを出さない』という理念は一致していましたが、それぞれが持っているテクノロジーも、やりたいこともバラバラ。でも、それこそが強みなんです。改めてチームを見ると、『他社と自分たちの知識や技術を組み合わせたら何ができるだろう』と、ワクワクしながら考えられる柔軟性のある方たちが揃ったと感じています」

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「プロジェクト・イッカク」で生まれた超異分野チームの強みを語る上野さん

「テクノロジー」に「感動体験」。超異分野チームの取り組みとは

ここでプロジェクト・イッカクから生まれた3つのチームの取り組みについて紹介したい。

衛星、ドローンを使って効率的にごみ回収・漂着予測

「衛星・ドローンによるごみ漂着状況診断システムの構築」を目指すチーム「CCSD(Coastal Cleanup Satellite and Drone)」は、沿岸部のごみ漂着状況を、衛星、ドローン、定点観測装置などを用いた、長期・網羅的な観測および詳細分析が可能な海ごみ診断システムの開発を行っている。

現在は、衛星画像による漂着ごみの検知精度や、ドローンによる空撮方法の実証実験を行っている他、国内9カ所にカメラを設置し、定点観測することで漂着するごみの量がどのように変化するかなどを調査している。

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衛星・ドローンによるごみ漂着状況診断システムのイメージ
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漂着ごみの解析画像。左が元データ、右が発砲スチロールをアノテーション(タグ付け)した画像。撮影:長崎大学 解析:株式会社Ridge-i

上野さん「各自治体でも毎年予算を設けて清掃活動に取り組んではいるのですが、それだけでは日本全体の海ごみの現状が把握しづらいんです。海ごみがどこからやってきて、どのように増えるのかを可視化することでより把握することができれば、根本的な解決にもつながるんじゃないかと思います」

将来的には、各自治体だけでなく海外への導入を目指し、地球レベルでの効率的なごみ回収・漂着予測の実現も目指している。

自律分散型のごみ処理システムで、ごみをエネルギーに変換

「自律分散ごみ処理システムの開発」を目指すチーム「Decentralized Energy」では、分別不要かつごみをエネルギーに変換する移動型ごみ処理システムの開発を手掛けており、「ごみの焼却施設は大型であるほど効率が良く、環境にも優しい」と言われる中で、常識を覆す画期的な取り組みを行っている。

トラックの荷台に載る小型サイズのごみ処理装置は、亜臨界水処理と炭化処理、生物型処理を組み合わせることで、塩分を含む海洋ごみでも低分子まで分解し、さらにこのごみ残渣(※)に含まれるマイクロプラスチックを除去が可能となる。その処理物をペレット型燃料やメタンガス発酵でバイオガスに変換することで、再生エネルギーとして活用するという構想だ。

  • ごみの処理後に残る不溶物
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自律分散ごみ処理システムのイメージ

篠澤さん「ごみを処理すると燃料になるという仕組みが新しいですよね。実は、実際に燃料として使えるかという点についても、すでに電力会社等と検証を進めています。あとは一定量が採取できるようになれば、ビジネスとして成立するところまで進んでいます」

これが実現すれば、大型のごみ焼却施設の設置が難しい地域でも活用できる。ごみ処理やエネルギービジネスによる地域活性化や、震災や集中豪雨といった災害時の瓦礫の処理などにも大きく役立つだろう。

海ごみ拾いとごみのリサイクルで、心に残る製品を

「海洋プラごみをリサイクル原料とした、人の心に残る製品の開発」を目指すチーム「Material Circulator」は、沖縄を拠点に、海ごみ問題に悩む地元の人々や観光客を海ごみ拾い活動に巻き込み、回収したごみをリサイクル可能な再資源に変換。心に残るストーリー性豊かな製品を開発し、消費者に届ける仕組みを構築している。

海水や汚れが付着したプラスチックごみはリサイクルすることがとても難しい。だからこそ、常識にとらわれない発想が必要だ。

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海洋プラスチックごみを再資源化し、心に残る製品を開発・提供する仕組みのイメージ

上野さん「観光客の方に有料のごみ袋を買っていただき、アクティビティとしてごみ拾いに参加してもらうんです。お金を払ってごみ拾いに参加してもらうなんて、常識ではありえないですよね。まずは分かりやすい仕組みづくりとして、海洋ごみから生まれたアイテムでごみ拾いをしてもらおうと、ごみ袋の開発に取り組んでいます。この他にも、商品のアイデアがたくさん出ています」

海洋ごみ問題を「自分事化」するメンバーたちの思い

「プロジェクト・イッカク」のメンバーは、ただビジネスを生み出すのではなく、それぞれがごみ問題に対する熱い思いを抱いて参加している。

「CCSD」のチームリーダーであるAI技術で衛星部品開発を行う株式会社天の技(あまのぎ)の工藤(くどう)さんは、農業に衛星画像が活用されていることから、広大な海のごみ問題にも転用できるのではないかと考えたという。

「Decentralized Energy」のチームリーダーであるサステイナブルエネルギー開発株式会社の光山(みつやま)さんは、宮城県仙台市を拠点に三世代にわたって廃棄物処理事業を営んでいる。東日本大震災の際、避難所で処理できずに積もっていくごみを前に無力さを感じ、移動式のごみ焼却システムをつくりたいと研究を重ねてきた。

「Material circulator」のチームリーダーでジーエルイー合同会社の金城(きんじょう)さんは、生まれ育った沖縄の海を守りたいという思いから、自然素材100パーセントの「サンゴに優しい日焼け止め」を開発し、2018年度「生物多様性アクション大賞」の審査員賞にも選ばれている。

また、「プロジェクト・イッカク」を率いるリバネスの上野さんは、活動を通じて出会った北海道南西部にある奥尻島の住人からの電話が忘れられないという。

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地域やいろんな企業を巻き込んで、プロジェクトを大きくしていきたいと話す上野さん

上野さん「島がごみだらけで何とかしたいという一心で電話をしてきてくだいました。そこで私たちは、現状を把握するべく実際に島へ。現場は想像していた以上にひどい状況で、そんな中でその住人の方は一人で戦っていたんです。この現状を何とかしなくてはという思いを新たにしましたね」

それぞれのチームで研究・開発が進められる中で、今後課題となるのはその事業をビジネス化すること。しかし、今はまだ部分的にしか検証できておらず、果てしなく広い海のごみ問題に対し、少人数で形成された3チームだけでは到底太刀打ちできない。

上野さん「今後は、さらに多くの人を巻き込んでいけたらと考えています。今回のチームは2020年の11月まで活動を続けますが、10月に再度審査を行って、ビジネスとして成立させるために新たなメンバーを加えることも検討しています。このプロジェクトが本当にビジネスになるのかどうか、やってみなければ分かりません。世間に対して、既存の方法だけが全てじゃないことを示し続けて、新しいビジネスモデルを提示していくつもりです」

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「プロジェクト・イッカク」のユニフォーム。背中にはプロジェクトの象徴である“海のユニコーン”と呼ばれるイッカクがデザインされている

異なる分野で磨き上げた知識や技術を持ったメンバーが垣根を超えて、一つの問題に取り組むからこそ、画期的かつ普遍性のある解決方法と、新たなビジネスが生まれつつある。ただ、そこに行き着くまでには、専門用語や価値観の壁を超えなければならず、決して容易な道のりではなかった。「これ以上、海にごみを出さない」という共通した信念があるからこそ、チームが一つになり、前へ進むことができたのだという。

私たちも、たとえ高い知識や技術を持ち合わせていなくても、まずは海洋ごみの問題を自分ごと化することから始めてみよう。同じ思いを持ってみんなで取り組めば、きっと豊かな海を未来へ受け継ぐことができるはずだ。

撮影:十河英三郎

特集【増え続ける海洋ごみ】

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