日本財団ジャーナル

【ソーシャル人】助けてほしい人と手助けしたい人をマッチング。&HANDが目指す「やさしさの生まれる社会」

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視覚障害者向けイベント「サイトワールド」で「&HAND」の体験会を実施したタキザワさん(写真左)
この記事のPOINT!
  • 街中にはさまざまな困難を抱えている人がいるが、見知らぬ誰かに助けを求めることは難しいもの
  • 「&HAND」は、外出先で困っている人と手助けしたい人をLINEでマッチングするサービス
  • 障害や困難を抱えた人たちと一緒に、やさしさからやさしさが生まれる社会づくりを目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

電車やバスで急に体調が悪くなるといった経験は誰にでもあるはず。そんなときに、「優先席に座らせてください」とあなたは素直に言えるだろうか。携帯を見ながら音楽を聞いている人も多いし、満員電車などでは移動自体が難しい。

日本財団がソーシャルイノベーション(社会問題に対する革新的な解決法)の創出に取り組む人材やチームを支援するために実施した「日本財団ソーシャルイノベーションアワード2019」(別ウィンドウで開く)。そのファイナリストとして選ばれた一般社団法人「PLAYERS」(別ウィンドウで開く)を主宰するタキザワケイタさんが生み出したサービス「&HAND(アンドハンド)」(別ウィンドウで開く) は、妊婦や障害者など外出に不安や困難を抱えた人と、それを手助けしたいと思っている人をマッチングするサービス。今回は、タキザワさんに「&HAND」を生み出した背景にある課題や、開発・実用化にかける思いについて話を聞いた。

妊婦や障害者がSOSを出しにくい世の中

「妻が妊娠するまで知らなかったのですが、妊婦さんって妊娠初期から大変なつわり(食欲不振、吐き気、嘔吐などの消化器系の異常)に苦しまれている方が結構いらっしゃるんです。でも、お腹が大きくないから、優先席にも座りづらいし、周りも気付くことができない…。だから、つらいのをグッと堪えて我慢されている方も多い。私には娘がいますが、自分の娘が大人になって妊婦になった時、もっとやさしい社会になっていてほしいと思ったんです」

そんな思いのもと完成したのが「&HAND」のプロトタイプとなる「スマートマタニティマーク」。妊婦さんと席を譲りたいと思っている人をマッチングするサービスで、電車やバスで立っているのもつらい妊婦さんがデバイスを ON にすると、周囲にいるアプリをインストールしたサポーターのスマホに通知が届く。サポーターが「席をゆずる」ボタンを押すと、妊婦さんのデバイスが点滅し、サポーターとマッチングするというものだ。

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左が妊婦が携帯するデバイス、右がアプリのプロトタイプ
写真:「席をゆずる」ボタンを押すサポーター
妊婦がデバイスをONにすると近くにいるサポーターに通知が届く

タキザワさんは、「スマートマタニティマーク」を発表した際に、たくさんの方から「早く実用化してほしい」「障害者用も作ってほしい」との声が寄せられたため、対象者を広げて本格的に実用化を目指すことを決めたという。

「僕らもプロトタイプで終わらせずに、社会実装したいという思いがありました。そして、改めて今の社会を見直した時に、もっと助けられる人を広げられたらと考えたんです。そして、たどり着いたのが、妊婦さんだけでなく、高齢者や障害者、外国人旅行者など外出で困った方々がいつでも助けを求められる&HANDでした」

「&HAND」は、外出時に手助けを必要とする人と、周囲の手助けをしたいと思っている人をビーコン(発信機)とLINE でマッチングするサービス。手助けを必要とする人はビーコンを内蔵したデバイスを携帯し、必要な状況でONにすると、周囲のサポーターのLINEにサポート依頼が届く。サポーターはチャットボット(※)を通じて相手の状況が分かり、具体的な行動を起こすことができる。例えば、席を譲ってほしい妊婦に限らず、介助を必要とする視覚障害者や車いすユーザー、交通手段を教えてほしい外国人旅行者など、いろんな困難を抱えた人をサポートする仕組みになっている。

  • AIを活用した自動会話プログラム
「&HAND」の仕組みを示したイラスト。手助けを必要とする人がデバイスをONにすると、電波受信したサポーターのLINEにメッセージが届く。つながったらLINE Chatbotを通じてやりとりする。
「&HAND」の仕組み
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羽田空港で行われた「&HAND」の実証実験の様子。写真は赤ちゃんを抱えた母親のベビーカーを代わりに移動するサポーター

誰しも街の中で見知らぬ人に「助けてほしい」と声を掛けづらいもの。しかし、世の中には「困っている」人がいれば「手を貸したい」という人も必ずいる。「&HAND」はそういった人々の「善意の輪」を広げるサービスなのだ。

当事者との共創で「使ってもらえる」サービスが生まれる

ユーザーから「ずっとこんなサービスを待ち望んでいた」と言われるサービスを生み出すタキザワさん。そのアイデアはどのようにして生まれ、形にしていくのだろう。

「私たちPLAYERSは、課題発見からそれを解決するプロダクトやサービスのプロトタイプ開発、企業と連携した実証実験まで一貫して行っています。具体的には、障害者の方や妊婦さんといった当事者の方とワークショップを実施し、そこから見つかった課題を解決するアイデアを一緒に考案したり、プロトタイプの検証と改善を繰り返していきます」

プロトタイプができたら、当事者にそれを体験してもらいフィードバックを得て、改善を繰り返しながら実用性を高めていく。ときにはプロジェクトに共感した企業と組んで、実用化を目指すこともあるという。

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当事者も一緒になってアイデアを出し合うワークショップの様子。中央に立つのがタキザワさん

「『障害』をテーマにしたとき、課題は明確なのでアイデアは生まれやすいんです。でも、実用化へのハードルが高い。同じ障害を抱えていても、人それぞれ問題やニーズは異なります。だから、私たちは当事者との共創を大切にしているのです」

特にプロダクトを作る過程において、メンバー間のコミュニケーションを重視していると語るタキザワさん。

「はじめは障害者の方とどう接したら良いのか分からず、戸惑いがありました。でも、実際に会ってお話してみると魅力的な方がたくさんいて、これまでの自分がいかに『障害者』というフィルター越しに見ていたのかを思い知り、障害者の方へのイメージがガラッと変わりました。視覚障害者の方は光のない世界、聴覚障害者の方は音のない世界のプロなんです。自分の知らない世界を知っているプロとの共創は『何か新しいものが生まれそう』な予感がして、ワクワクしましたね」

以前に視覚障害者をブラインドサッカーの大会に招待して実施した「&HAND」の体験会では、トイレに行きたくなるからビールを飲むのを控えたり、グッズを購入するのを我慢したりしているといった、視覚障害者が抱える悩みについて、具体的に知ることができたとタキザワさんは話す。

「中には、『初めてスポーツ観戦を心から楽しむことができた』という方もいらっしゃいました。そんな方たちを&HANDで支援していきたいと思っています。オリンピック、パラリンピックは延期になってしまいましたが、障害の有無にかかわらず全ての人がスポーツやイベントを楽しめるサービスにしていきたいですね」

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ブラインドサッカーの大会で実施した「&HAND」体験会の様子。写真は、視覚障害者とサポーター

障害や困難を抱えた人たちの気持ちを思いやれる社会に

「&HAND」を通して「やさしさからやさしさが生まれる社会」を目指すタキザワさん。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、ソーシャルディスタンスが必要となる今、実用化に向けて検討する方向性も少し変化しているという。

「&HANDは対面でサポートするサービスなので、コロナ禍においては積極的に利用しにくい状況です。また、障害の有無に関わらず、他人に対してやさしくなりにくい時期なのかもしれません。そういった意味でも、いま一度『やさしさとは?』を問い直してみたいと思っています」

自粛が求められ、ワークショップやイベントもオンラインが主流になりつつある今、誰もが障害のある人に似た状況とも言えるとタキザワさんは語る。

「自粛によって私たちが感じている不自由な日常は、障害者の方にとっては当たり前の日常です。そういった意味では、不自由な日常で生きてこられた障害者の方から学べることは多いはずです。また、WEB会議ツールでカメラやマイクをOFFにすれば、視覚障害者の方や聴覚障害者の方とフラットに対話することができる。今は困難な状況ですが、当事者の方と共創しながら『やさしい社会』をつくっていきたいですね」

写真提供:一般社団法人PLAYERS

〈プロフィール〉

タキザワ ケイタ

PLAYWORKS Inc.代表 一般社団法人PLAYERS・&HANDプログラムリーダー、ワークショップデザイナーとして企業が抱えるさまざまな問題を解決に導く傍ら、多様なプロフェショナルからなるプロボノチームPLAYERS を主宰し、社会課題の解決に取り組んでいる。筑波大学・非常勤講師、青山学院大学・ワークショップデザイナー育成プログラム講師。
一般社団法人 PLAYERS 公式サイト(別ウィンドウで開く)
&HAND 公式サイト(別ウィンドウで開く)