ブラインドサッカー日本代表・高田監督による「常識の枠を壊し、混ざり合う」指導

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選手たちに戦術を説明する高田監督

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • ブラインドサッカーは、スポーツを通して「人間の持つ可能性を感じられる」
  • 「障がい者だからできない」を「どうすればできるか」に思考を変えることで、可能性が劇的に広がる
  • 多様な人々の混ざり合いやつながり合いが、日本代表チームの強さをつくっている

人が得る情報の約80%は、視覚に頼ったものだと言われている。そんな視界の全てを遮られながらも、激しいプレーを繰り広げる「ブラインドサッカー」。2020年夏に開催される、東京パラリンピックの公式種目として注目が集まっている競技でもある。

ブラインドサッカーとはどういった競技なのか。視界を覆われた状態で巧みなプレーをすることができる理由、そしてパラリンピックに向けた日本代表チームの戦略とは?ブラインドサッカー日本代表チームの高田敏志(たかだ・さとし)監督に直撃した。

掛け声は「ボイ(Voy)!」。音で蹴るブラインドサッカー

――まずは、ブラインドサッカーという競技について教えてください。

高田監督:ブラインドサッカーは、フットサルをもとに考案されたスポーツで、アイマスクを装着した選手たちが、ボールの音を頼りにお互いのゴールを狙います。ピッチ内でプレーする5人の他に、相手ゴールの後ろに立ちゴールの位置や距離などを伝える「ガイド(コーラー)」と呼ばれる役割や、ピッチの中盤から全体指示を出す監督もカウントすると、7人制の競技とも言えますね。

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激しくぶつかり合う選手たちと、ゴール裏で指示を出すガイド(写真右端)
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ボールを奪い合う選手たちと、ピッチの中盤から指示を出す高田監督(写真左から2番目)

――なるほど。「音」がとても重要になってくる競技なのですね。

高田監督:はい。「音を頼りにプレーするサッカー」と言ってもいいですね。ブラインドサッカーのボールは特別なもので、転がると音が鳴るようにできています。また、相手チームのボールを奪いに行くときは、「ボイ(Voy)!」(スペイン語で「行くぞ!」の意味。ブラインドサッカーはスペイン発祥)と掛け声を出し、相手の注意を引き、不意の衝突が起こらないようにします。

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ブラインドサッカーで使用するボールとアイマスク

――普段は、どのような練習をしているのでしょうか。

高田監督:はじめは、ボールの扱い方から丁寧に指導します。生まれつき目が見えない選手や、途中から視力を失った選手、眼球自体がない選手など、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーがいるので、練習方法も千差万別。生まれてからサッカーを一度も見たことがない選手もいますので、そんな選手には「上げた片足を曲げて、ここで腰を反って…」など一つ一つの動作を細かく伝えていきます。

――選手、一人一人に合った教え方が必要になってくるのですね。

高田監督:そうです。目が見えれば自分でサッカーの試合や本などを見て学ぶこともできますが、目の見えない選手はそれができず、自分が覚えたテクニックをひたすら繰り返すしかありません。なので、僕たちの大事な仕事の一つは、選手たちのプレーにおける選択肢を増やす手伝いとも言えますね。

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選手の手を取り指導する高田監督

――監督が考えるブラインドサッカーの魅力とは何でしょうか。

高田監督:「人が持つ可能性に触れられること」ですね。目が見えていないのに「何でこんなパスが取れるの?」「何でこんなドリブルができるの?」と、選手、そして人間が持つポテンシャルに驚かされることだらけです。

日本代表チームを支えるのは、多様なスタッフや技術コーチたち

――実際に試合を見てみると、全く何も見えない状況なのに、仲間の位置やボールの位置を把握しながら、全速力で走っている選手の姿に驚きました。どうすれば、あのようなプレーができるのでしょうか。

高田監督:練習をしながら、自分が音で把握できる範囲を徐々に広げていくんです。はじめは「ボールと自分」、次は「ボールと自分と味方」、最後に「ボールと自分と味方と相手」といったように。見えないボールを感じ、走るべき方向を意識し、味方や相手、監督の声で動く。視覚以外の器官をフル活用させる必要がある競技がブラインドサッカーです。それでも、選手同士のボディコンタクトや、フェンスに激突するなどといったアクシデントもよく起こります。そこで大切になってくるのが、フィジカルやメンタルのトレーニングです。

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選手たちをけがから守るために多様な人々の協力が大切だと語る高田監督

――具体的には、どういったトレーニングをするのですか。

高田監督:フィジカルトレーニングでは、ぶつかったときの受け身のとり方や、いなし方、安全な転び方などを学びます。一方、そういったけがを恐れず、前に突き進むメンタルを作り上げるのが、メンタルトレーニングです。日本代表チームは、受け身のとり方を教えてくれるフィジカルコーチや、メンタルを鍛えるメンタルトレーナー、その他にも、管理栄養士、メディカルスタッフ、分析スタッフ、ボイストレーナーなどたくさんの方々に支えられているのです。ここまでいろんな方々を巻き込んでいるチームは世界にはないと思いますね。

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トレーナー(写真中央)と一緒に目一杯の力で体を押し合うトレーニングに励む選手たち

意識の変化が戦い方を変えた

――高田監督は、もともとサッカー界からブラインドサッカーの監督に就任されましたが、その経緯について教えてください。

高田監督:2016年のリオデジャネイロパラリンピックを目指すチームに、ゴールキーパーコーチをやってほしいと頼まれたのがきっかけです。ブラインドサッカーと言いながら、これまでサッカー界とのつながりがほとんどなかったことに驚きました。その後、東京パラリンピックでメダル獲得を目指す日本代表チームに、監督として参加することになりました。

――監督を務める中で、心境の変化などはありましたか。

高田監督:はじめは、ブラインドサッカー=障がい者のためのスポーツという認識がありました。しかし、選手たちと向き合っていくうちに、彼らの人間性や、試合における頭の回転の良さに触れ、アスリートとしてリスペクトする気持ちが次第に高まっていきました。そして「障がい者だから」という、私たちの意識が彼らの可能性を狭めてしまっているのではないか、と考えるようになりました。

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選手たちを指導する高田監督

――先入観を捨て、指導法にはどんな変化が?

高田監督:僕が実際に見たり聞いたりしたサッカーの知識を、選手たちと共有する機会が増えました。ヨーロッパやブラジルなどで活躍するプロのサッカー選手たちがやる練習方法について話し、あの選手や監督はこうやって相手にプレッシャーを掛けているといった話をすると、選手たちも面白がって聞いてくれるんですよ。あとは「これまでの常識じゃできないだろう」と思われるパスの練習なども積極的にとり入れました。

――具体的には、どのようなパス練習なのでしょうか。

高田監督:「スルーパス」と呼ばれるテクニックで、味方が走り込むスペースに向かって、相手チームの選手たちの間にパスを通すものです。サッカーでは、ゴールに直結する重要なパスの一つと言われています。

――目が見えていても難しいテクニックのようですが、どうやって練習をされるのか教えてください。

高田監督:スルーパスも、もとをただせば「音を頼りにボールを取りにいく」ことに変わりはないんです。なので、まずは音を頼りにボールを取る練習を繰り返します。そしてそれを、敵味方に分かれてどんどん高度化していくんです。彼らとの練習を通して、できない「言い訳」を探すのではなく、「どうやったらできるか」を考えれば、自ずと道は拓けることを学びました。

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時間があれば海外にまで足を伸ばし、他チームの偵察や戦法について最新の情報を取り入れていると言う高田監督

――選手たちにはどんな変化が起きましたか。

高田監督:ブラインドサッカーをこれまで以上に楽しんでプレーしている印象を受けます。実際に選手たちから、「上達しているのを実感できる」といった声を聞きますね。戦略やテクニックについても積極的に質問されます。これまで成績が振るわなかった日本代表チームに、変化が起こり、一つの目標によってチームがまとまって行くのを感じますね。

日本代表チームを「レジェンド」に。東京2020パラリンピックに懸ける思い

――東京2020パラリンピックに向けての戦略について教えてください。

高田監督:まずは、選手たちに「どう戦いたいか」を聞きました。ブラインドサッカーがパラリンピック公式種目になったのは2004年のアテネ大会から。しかし、日本は一度も出場したことがないんです。世界におけるブラインドサッカーのレベルはかなり高く、サッカー同様、選手たちは国境を越えて他国の有名チームに所属し、高い報酬をもらっています。しかし、日本では練習するグラウンドの確保でさえ難しい状態。まずは、そんな状況の中で頑張ってきた選手たちの気持ちを大事にしたい、と思いました。

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ブラインドサッカー日本代表チーム。選手たちは、国からのサポートが厚い他国の選手と違い、それぞれが社会で働きながらブラインドサッカーに取り組んでいる。(C)JBFA

――選手たちは何と?

高田監督:「これまでは、ひたすら守りに徹してきたけど、自分たちから攻めて勝ちたい」と。日本は世界一走るチームとして知られ、守備には定評があるんです。しかし、そこから点に結びつけるのが難しかった。4年後には、攻めて勝てるチームに。そこからパラリンピックに向けた戦略づくりが始まりました。

「IBSA ブラインドサッカーアジア選手権 2019」で銅メダルを獲得して喜ぶブラインドサッカー男子日本代表
「IBSA ブラインドサッカーアジア選手権 2019」で見事銅メダルを勝ち取ったブラインドサッカー男子日本代表。(C)JBFA/H.Wanibe

攻めるためには、ボールが足元にないといけない。ボールを奪うにはある程度の守備能力がないといけません。それには、選手個人の実力アップが不可欠なのです。なので、期間を2年ごとに分け、前半2年は個々の選手の能力の底上げに、後半2年はチーム全体の実力アップに努めることにしました。

個人の実力アップができたら、あとはチーム全体での連携です。そこで、鍵になってくるのは「いかに試合で主導権を持ち続けるか」。始めは思いっきり攻めて、後半バテたっていいんです。チーム内でその状況をしっかりと把握し「後半、攻められたらこう守る」という方針通りにプレーできてさえいれば。ピッチを味方のゴールから相手チームのゴールまで3つのエリアに分けて、相手チームを想定したシミュレーションを何度も繰り返しました。4年分綿密に計画し、その通りこなしてきているので、試合で負けても負けた理由や、その対処法は全て把握しているつもりです。全ては、2020年にパラリンピックで金メダルを取るために。

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ブラインドサッカーの常識にとらわれず、選手たちの可能性をこれまで以上に広げたいと語る高田監督

――ありがとうございます。最後に、パラリンピックに向けての意気込みを聞かせてください。

高田監督:最終ゴールはもちろん金メダルです。しかし、僕としては選手たちがパラリンピックまでに万全の準備を整え、自信をも持ってピッチに立ってくれれば、これほど嬉しいことはないです。選手たちが僕に言っていた「人が持つ可能性」を証明する手伝いが少しでもできると嬉しいですね。

撮影:永西永実(インタビュー写真のみ)

〈プロフィール〉

高田敏志(たかだ・さとし)

現役時代はゴールキーパーとして活躍。高校時代は交野FCのゴールキーパーとして、第9回全国クラブ選手権で3位入賞。2013年、ブラインドサッカー日本代表のゴールキーパーコーチに就任し、2015年11月からは監督として関わる。トップアスリートやコーチのマネジメント業務を行う、株式会社アレナトーレの代表取締役でもある。
日本ブラインドサッカー協会 公式サイト(別ウィンドウで開く)

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