社会のために何ができる?が見つかるメディア
【10代の性と妊娠】「予期せぬ妊娠」をした女性を孤立させず、支えられる社会に。NPO法人ピッコラーレが目指す「安心できる」場づくり
- 虐待死のうち約半数は0歳児。その原因は若年女性による「予期しない」「計画していない」妊娠が高い割合を占める
- NPO法人ピッコラーレでは、相談窓口や居場所の運営により、妊娠した女性がさまざまなサポートを得ながら、社会の中に自分の居場所を見つけるための支援活動を展開
- 「予期せぬ妊娠」をする女性の増加や孤立を防ぐためには、社会が一体となって取り組む必要がある
取材:日本財団ジャーナル編集部
おめでたいニュースであるはずの「妊娠」。しかし日本では、妊娠をきっかけにさまざまな問題を抱え、社会の中で孤立してしまう女性が、若年層で目立っている。ここ最近では、新型コロナウイルスによる自粛の影響で、10代女性からの妊娠相談が急増しているという。
「自己責任」「淫らな行為」と批判されたり、タブー視されたりすることが多い「予期せぬ妊娠」。それは本当に、当人たちのせいで片付けられる問題なのだろうか。
連載「10代の性と妊娠」では、妊娠相談窓口を行う支援団体への取材を通して、予期せぬ妊娠の背景にある問題、それを解決するためのヒントを探る。
今回は、妊娠に関する相談支援窓口「にんしんSOS東京」を運営する特定非営利活動法人「ピッコラーレ」(別ウィンドウで開く)の代表・中島(なかじま)かおりさんに話を聞いた。
「予期せぬ妊娠」の背景にある問題
「私たちは、主に中学生や高校生といった10代の若者による妊娠のことを『若年妊娠』と言っています。妊婦になった10代の子が産みたいと言ったとき、私たちの社会は彼女とお腹の子の妊娠期や出産、そしてその後の子育てを、どんなふうに支えることができるでしょうか。妊娠は1人ではできないにもかかわらず、大人たちからの『子どもが子どもを産むなんて』という非難が、まだ子どもである10代の妊婦にだけ向けられています。彼女たちが妊娠をしたかもしれないと不安に思っても、その戸惑いや悩みを一人きりで抱え込まざるを得ない社会の中で、全ての子どもを困難から守ることができるでしょうか」
ニュースなどでも話題になっているが、特にここ数カ月は、新型コロナウイルスによる自粛の影響で10代からの妊娠相談が増えていると中島さんは話す。
「休校により、従来2月、3月の学期末に行われることの多い性教育を受けられなかった子どもたちがいます。そういった子たちは、知識を得る機会を失い、男の子も女の子も正しい避妊ができていません。また、休業の影響でアルバイトの収入が減ったり、外出しづらかったりする状況からコンドームやピルが買えない。心配な症状があったとしても受診費用が自費で高額であることに加えて、親に知られてしまうことや感染を恐れて病院の受診をためらってしまう。DVや家族との折り合いが悪くて家庭に居場所がなく、彼氏やSNSで出会った誰かのところに逃げ込んだ結果、デートDVや性暴力に遭ってしまう…。といったように、妊娠相談が増えた背景には、さまざまな要因が絡み合っています」
さらに、学校が休校になったことで、親しい友達や学校の保健室の先生といった、キーパーソンとなる親以外の誰かに相談することが難しい、常に家には誰かがいてこっそり電話などで相談することができない、といった状況も重なり、生理が止まってかなり時間が経ってからの相談が目立つという。「今はまだ産めない」。たとえそう思っていたとしても、中絶をするのには相手の同意が必要なことや、費用も高額なことから誰かの助けがなければそのまま妊娠を継続することになり、産む以外の選択肢がない状況になる場合もある。
若年妊娠のリスクは大きい。10代では子宮や骨盤が十分に成長していないことがあり、妊娠・出産すること自体、母体や胎児にとって大きなリスクが伴う。20代以降の妊娠に比べ、ホルモンバランスも不安定で、体調や精神面の管理も難しい。さらに、周囲から理解や協力を得ることが難しく、経済的にも自立できていないことから、妊娠をきっかけに孤立してしまう女性が数多くいる。
図表:若年妊婦の社会との関与の割合
「妊娠は必ず誰かの助けを必要とする出来事で、心身だけでなく周りの環境も大きく変化をします。若年でなかったとしてもとても一人だけで抱えきれる問題ではありませんよね。私たちの相談窓口に寄せられる15歳〜19歳の相談の約80パーセントは、『生理が来ない』『避妊ピルが必要』といった、妊娠不安に対し性教育的な助言をする相談です。15パーセントが妊娠発覚後の相談になります。一方で、15歳以下の子どもたちからの相談で目立つのは、もうすでに妊娠をしていて、しかも週数が進んでいるケース。15歳未満になると、性に関する無知から妊娠に気付くのが遅れて、70パーセントが妊娠発覚後の相談になるのです」
図表:ピッコラーレの年代別相談内容の割合
その根本には、子どもたちに対し性教育を学ぶ機会が社会に用意できていないことが原因にあると、中島さんは指摘する。
「彼女・彼らは性についてほとんど何も教わっていないので、そもそも性行為がどんな行為なのか、性行為をしたら妊娠する、あるいは妊娠すると生理が止まるということすら知らない子も多い。だから、気付かないうちにどんどん妊娠が進んでしまい、『部活中に体がだるいから、病院に行ってレントゲンを撮ったら赤ちゃんが写っていた』というようなことが起こってしまいます」
日本は小学校から中学校までの義務教育の中で、「避妊」に関する教育プログラムがなく、文部科学省が定める「学習指導要領」では「性行為」については「学ばない」ことが定められている。その理由として、性教育によって子どもたちの性的な関心が増し、性行動が早まることを懸念する「寝た子を起こす」という考えからだ。
「相談者さんは女性ばかりでなく、男性も15パーセントほどいます。妊娠で悩んでいるのは男の子も一緒で、大切な彼女の体を守りたいから、避妊方法や性交に関する細かな質問を投げかけてきます。子どもたちの性的な関心が増すのは、子どもから大人へ心身が変化することに伴い起きることで、(個人差はあるけれど)自然なことですよね。相談窓口でいつも感じるのは、『みんな自分の身体に起きている変化について知りたいと思っている』ということ。そして、自分や彼女の体を守りたいと思っているし、守るための手段を得たいけれどどこにいけばいいのか分からないで困っているということです。そんな子どもたちに対して、私たち社会が応えられていないままで良いのでしょうか」
また、性教育不足と合わせて、日本は海外と比べて、若年層が避妊するための手段も少なく、妊娠をしてしまった場合のサポートも乏しい状態だと、中島さんは言う。
「にんしんSOS東京では、『1.体や性に関する正しい知識を伝える』 『2.低用量ピルや緊急避妊ピルなどコンドーム以外にもさまざまな避妊方法があることを伝える』『3.どのようにそれらにアクセスすることができるかを一緒に考える』ことにより、教育の不足を補う機能を果たしているとも言えるかもしれません。例えば、避妊の失敗をしたと相談をしてきた子に緊急避妊ピルという手段があることを伝えても、次の日に部活が終わって自転車で近くの産婦人科に行ったら『高校生には処方しない』と怒られた、と言って泣いてまた相談に来る。そして一緒に処方してくれる病院を探す、ということもあります。にんしんSOS東京の役割は、正しい知識を伝えることだけでなく、実際に彼女たちが避妊行動をとることができるように支えること。現場にいると、性教育の充実はもちろん、避妊行動を支える制度の整備の両方が必要だと強く感じます」
日本の場合、ピルの値段は数千円と高額で、未成年が購入することは難しく、出産や中絶は基本的には医療保険の適応外であり、多額の費用が掛かる。こういった社会の背景には、世間体や外聞といった他人の視線を気にする日本特有の「恥の文化」や、妊娠や出産を妊婦だけに「自己責任」と押し付ける構造的な問題があるのではないかと、中島さんは推測する。
「困っているのは子どもだけではないはずです。誰もがリプロダクティブヘルスアンドライツ(性と生殖に関する健康と権利)を守ることができる社会をつくる必要があると感じます」
彼らが妊娠不安を抱く背景には、親子関係がうまくいっていない、虐待、貧困などの課題が複雑に絡み合っている場合も少なくない。今回の新型コロナウイルスによる騒動は、改めて若年妊娠に関する制度や社会の在り方を考える良い機会と言えるのではないだろうか。
「悲しいお産」をなくすために
中島さんは、助産師として働いていた頃、子どもの虐待死で最も多いのは「生まれたその日に亡くなる赤ちゃん」という事実を知る。妊娠は1人ではできないはずなのに、誰にも相談できないまま妊娠期を過ごし、その結果一人きりで出産したり、赤ちゃんを亡くしてしまったりする「悲しいお産」をなくしたいという思いで、2015年に前身団体となる妊娠葛藤相談窓口「にんしんSOS東京」を発足。2018年に、公益性の高い事業をさらに幅広く展開していくことを目的にNPO法人ピッコラーレを設立した。
図表:児童虐待による死亡事例の推移
発足時は、助産師6名、社会福祉士1名体制でのスタートだったが、少しずつメンバーが増え、現在は助産師、看護師、保健師、医師、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師、保育士、教員と、さまざまな分野の専門家たちが、相談支援員として活動している。また、孤立する妊婦が安心して過ごすことができるように、医・食・住やさまざまなつながりを提供する「居場所づくり」、さまざまな視点から妊娠葛藤問題を考え合うための「研修・啓発」活動、相談窓口から見える社会課題解決のための「調査・政策提言」などにも取り組んでいる。
「私たちの窓口では、『ああした方がいい』『こうした方がいい』と一方的にお話するではなく、妊娠葛藤という悩みを聞くことを通して、当事者の方が『これまでの人生の中で背負っているさまざまな荷物を少しでも軽くする』ことを第一に心掛けています」
「居場所づくり」は、居場所がなく漂流する妊婦に安心と休息と希望を届けたいという思いから2年前から取り組み始めた。特に10代で妊娠し居場所を失ってしまうと、連携先機関が見つからず、これまでは子どもシェルター(※)など民間団体につなぐことで何とか彼女たちの居場所を確保していた。
- ※ ※ネグレクトや児童虐待など日常的に暴力被害を受けている子どもたちを、家庭から一時的に避難し受け入れる児童福祉施設
「そこで、私たち自身が認定NPO法人『PIECES』(別ウィンドウで開く)さんと協働で『project HOME』(別ウィンドウで開く)というプロジェクトを立ち上げ、2020年4月、東京・豊島区に1軒家を借りて、全国で初めて若年妊婦さんのための居場所事業をスタートさせました。『いつでもおいで』と言える場所にしようと、妊娠の週数にかかわらず、私たちとつながったその日から無料で利用することができます。衣・食・住の心配をすることなく、安全なこの場所で、安心してこれからのことを考える時間を確保してほしいと思っています」
また、そこでは「保健室」を設け、10代の若者を中心に妊娠や避妊に関する相談、コンドームのサンプル提供なども行っている。
「保健室に訪れる若者がインフルエンサーとなって、性に関する正しい知識や困ったときにはにんしんSOS東京という相談先があることを周囲に広めてくれたらと思い、活動に取り組んでいます」
妊娠を機に「糸を紡ぎ直す」手助けを
「『ピッコラーレ』という名前は、『ピコ』(「おへそ」「中心・核」を意味するハワイ語)と『コッコラーレ』(「寄り添う」を意味するイタリア語)を組み合わせた造語です。私たちが出会うのは、たくさんの悩みや困難を抱えながらも自分自身の力で生き抜いてきた女性たち。その背景には、虐待や貧困といった自分一人ではどうすることもできないたくさんの社会課題があります。そんな彼女たちのSOSをしっかり受け取り、妊娠をきっかけに社会とのつながりを紡ぎ直すことができればと考えています」
そのために中島さんは、性教育の拡充と同時に、出産や中絶への医療保険の適用といった制度改革にも力を入れていきたいと話す。
「新型コロナウイルスの影響で、これまでタブー視され、見て見ぬ振りをされていた問題に、光が当てられつつあります。全ての妊婦が安心して暮らすことができ、必要な医療を受けて健やかに妊娠期を過ごせるよう、現場で起きていることや彼女たちの姿を発信していきたいと思います」
国としても若年妊婦等への支援を手厚くする方針ではあるが、実施主体は地方自治体で費用も半分負担しなければいけないため、なかなか進まない可能性がある。
そのような状況下、日本財団では2020年7月より妊娠SOS相談窓口推進事業(別ウィンドウで開く)に着手。予期せぬ妊娠をした女性が気軽に相談できる窓口や居場所の拡充と共に、相談スキルの質の向上を目指した研修の推進に取り組んでいる。
予期せぬ妊娠をした女性への支援は、妊婦である女性と子どもの命を守ると共に、彼らの自立にもつながる。妊娠を当事者だけに自己責任だと押し付けるのではなく、家庭や学校だけでなく、社会が一体となって取り組んでいくことが、何よりも重要だと考える。
〈プロフィール〉
中島かおり(なかじま・かおり)
NPO法人ピッコラーレ/旧一般社団法人にんしんSOS東京・代表理事
第2子の出産をきっかけに助産師を目指し、その後病院や助産院で助産師として働く。 妊娠から出産、子育てを継続的に伴走する助産師でありたいと地域で活動する傍ら、 特定非営利活動法人ピッコラーレ(旧:一般社団法人にんしん SOS 東京)の運営に代表として携わる。 著書に『漂流女子』朝日新聞出版(2017年)がある。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。