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新型コロナで余った食材が子どもたちの命をつなぐ。CRAZY KITCHENが取り組む「食」を通した社会貢献
- 新型コロナの影響で子どもの貧困問題が深刻化。一方で仕入れの激減により生産者も苦境に
- CRAZY KITCHENでは、生活困窮家庭の子どもと生産者の支援につながる寄付つき食材セット販売を開始
- 「食」を通して、多くの人が社会課題に関心を持ち、アクションを起こすきっかけをつくりたい
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本の子どものうち7人に1人が相対的貧困(※)状態にあることを、厚生労働省が2020年7月17日に公表した。しかし、これは2018年時点のデータとなり、その状況は、長引く新型コロナウイルスの影響でますます深刻化している。
- ※ 相対的貧困とは、その国の等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯のこと
解雇や雇い止めなどで家計が急変し、生活費が不足する家庭が増加。また、子ども食堂や学習支援といった、生活困窮家庭の子どもとその家族を支えるNPOなどの活動も、感染拡大を防ぐためいまだ自粛傾向にある。
また一方で、飲食店やホテルからの仕入れの減少やイベント中止などに伴い、食材の販路に困る生産者も増えつつある。
こうした背景を受け、オーダーメイドケータリングサービスを手掛ける株式会社CRAZY KITCHEN(クレイジー・キッチン)(別ウインドウで開く)では、生活困窮家庭の子どもたちと生産者の両方の支援につながるレシピつき食材セットのネット販売を2020年5月より始めた。
自社も新型コロナウイルスによる大打撃を受けながらこの取り組みに踏み切った背景には何があるのか。代表の土屋杏理(つちや・あんり)さんに話を伺った。
余った食材を、生活に困っている子育て家庭へ
「CRAZY KITCHENも、新型コロナウイルスによって大きなダメージを受けました。3月以降のパーティーやイベントの予約は全てキャンセル。いまもまだ厳しい状況は続いていますが、それよりも心配だったのは、急なキャンセルによって余ってしまう食材の行方でした」
このように語る土屋さんが代表を務めるCRAZY KITCHENは、「食時を、デザインする」というコンセプトのもと、料理だけでなく、空間、時間をオーダーメイドで提供するケータリングサービスを、都内を中心に展開している。
「食に関わる全ての命が輝くように」という想いのもと、食べられる側の命の終わりにもこだわり、パーティーに出す料理は「適切な量を」「丁寧に作り」「全てを食べきっていただく」ことを信条としている。
それだけに、普段から付き合いのある卸業者から、新型コロナウイルスの影響で行先のなくなった食材の話を聞いた時、居ても立ってもいられなくなったという。
「例えば、焼肉と一緒に食べるサンチュ。飲食店の休業や時間短縮営業によって、大量のサンチュが余っていました。他にも、家庭より飲食店で使われる機会が多い、ちょっと珍しい野菜などは出荷先がなく売れ残っていました。そんな話を卸業者さんから聞いた時、野菜や花、それを育てる生産者さんたちのためにも、自分たちに何かできることはないかと考えるようになりました」
同じ頃、メディアで頻繁に医療現場の厳しい状況が取り上げられるようになった。
それを目にした土屋さんたちは、行き場の失った食材を買い取り、4月から医療従事者を対象に弁当の無償配布を始めた。
食材が無駄にならないように、また食べる人に喜んでもらえるようにと、病院1つ1つにメニューの要望をヒアリングしながら、7月までの約3カ月間で約3,600個の弁当を配布したという。
「それでも畑に植えられた野菜はどんどん成長し、弁当の無償配布だけでは補いきれませんでした。まだ何かできることはないかと探していた時に、新型コロナウイルスの影響で生活に困窮する家庭や子どもたちのことを、ある記事を読んで知りました」
土屋さんが目にしたのは、Uberの公式サイトに掲載された「Uber Eatsによる難病児の家族や困窮家庭への食事の無償提供」(別ウィンドウで開く)だった。
学校の休校により、子どもたちが給食を食べる機会がなくなり、その中には家庭の事情で食事を取る機会が大きく減っている子どもも。そういった子どもたちのいる家庭を対象に、Uber Eartsが日本財団を通して食事を無償提供するという記事だった。
みんなが大変な時だからこそ、自分たちにできることを
生産者が心を込めて作った食材の救済と、生活に困窮する子どもたちへの支援を目的に、CRAZY KITCHENでは6月よりレシピ付き食材セットのネット販売を開始した。
一部商品は「寄付つき」となり、購入金額の17パーセントがNPO等が行う生活困窮家庭の子どもたちの支援活動に、食材として寄付される。
食材は、日本財団も協力するNPO法人全国こども食堂支援センター「むすびえ」が取り組む新型コロナウイルス対策支援プロジェクト(別ウィンドウで開く)を通して、フードパントリー(食品配布)を行う全国の子ども食堂へ。
また、ひとり親家庭を対象に飲食店が作った弁当を無償で配達する「INGプロジェクト2020」(別ウインドウで開く)、江戸川区を拠点に、生活困窮者へ食材の無償提供を行う「フードネット江戸川」(別ウインドウで開く)を通して、子どもたちとその家族に届けられる。
「私自身、高校生の頃に両親が離婚して、明日から生活に不安を抱える状況に陥ったことがあります。その頃は支援制度があることも知らず、“自分のやりたいこと”ではなく“お金を稼いで偉くなること”が将来の夢になりました。そんな思いもあって、子どもたちの食を応援できればと」
そんな土屋さんの原体験もあり販売されたレシピ付き食材セット(別ウィンドウで開く)。「ENJOY HOME(おうちを楽しもう!)」と記された専用ボックスには、10種類以上の旬の野菜やフルーツ、花とオリジナルレシピブックが同梱されている。
レシピの開発は、フレンチレストラン出身のシェフ・武本南(たけもと・みなみ)さんが担当。見た目は華やかでありながら、自宅にある調味料で簡単に作ることができ、大人も子どもも一緒に食べられる料理を心掛けているという。
レシピブックには生産者の情報や、主菜2品に加えて副菜の作り方も掲載するなど、食材を楽しく食べ切るためのアイデアが凝縮されている。
食を通して、社会の問題と向き合い続ける
個性的な食材とオリジナルレシピのセットは好評で、土屋さんに賛同する生産者からも感謝や喜びの声が届いている。
「生産者の皆さんは育てた野菜が無駄にならず、医療従事者の方や子どもたちに食べてもらえてうれしいと喜んでくださっています。お弁当の宅配はご近所に限定されますが、野菜だったら全国どこにでも届けられるのもメリットですね!商品を購入してくださったお客さんの中には、特別定額給付金の使い道として選んだ方もいらっしゃいました」
もともと、CRAZY KITCHENを設立した背景に、パーティーやイベントで大量の残飯が廃棄される現状を変えたいという思いがあったと話す土屋さん。「食」は、ただ空腹を満たすためだけのものではない。それを通して、特別な体験を届けたいのだと語る。
一例として、2019年から始めているケータリングプラン「サステナブルコレクション」(別ウィンドウで開く)の食材には、獣害が問題になっているイノシシの肉や、キャビア採取後に廃棄されるチョウザメなど、一般の市場に出回らず廃棄されてしまう未利用魚や害獣が使われている。
「私たちのケータリングをきっかけに食材の背景に興味を持ったり、料理をするときに選ぶ食材が変わったり、食や社会におけるさまざまな課題に関心を持って、アクションを起こす人が増えたらうれしいですね」
全ての「命」を無駄にしないために新たな体験を提供し、また同時に食や社会に関わる大切な「気付き」を促す。土屋さんたちの取り組みから学ぶことは多い。
撮影:佐藤潮
〈プロフィール〉
土屋杏理(つちや・あんり)
新卒にて広告会社に入社。営業として、アパレル会社や大手飲料メーカーを担当し、多くのテレビCM・グラフィック広告の制作、商品ブランディングに携わる。7年間の勤務後、自身のウェディングをきっかけに同社を退職、株式会社CRAZYへ創業メンバーとして参画する。CRAZY WEDDINGのトッププロデューサーとして活躍後、自身の動物や食べ物に対する価値観から、「食に関わるすべての命が輝く仕事をしよう」と、2015年にCRAZY KITCHENを立ち上げ、代表を務める。
CRAZY KITCHEN 公式サイト(別ウィンドウで開く)
レシピ付き食材セット 販売サイト(別ウィンドウで開く)
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。