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「これも学習マンガだ!」新たな50作品発表。里中満智子さん他有識者が語るマンガが秘めた魅力、可能性

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「これも学習マンガだ!」新たな50作品を発表するイベントに登壇した漫画家・里中満智子さん(写真右から2人目)をはじめとする有識者の皆さん
この記事のPOINT!
  • 世の中には優れたマンガが数多くあるが、良作が埋もれてしまう、何を読めばいいか分からないといった声も
  • 「これも学習マンガだ!」プロジェクトは、楽しみながら学べるマンガを選書し、国内外に普及することを目的とする
  • 知恵や知識が詰まったマンガは、自分の世界を広げるだけでなく、他者への理解力を高めるのに役立つ

取材:日本財団ジャーナル編集部

少女マンガ界の大御所・里中満智子(さとなか・まちこ)さんや“ホリエモン”こと堀江貴文(ほりえ・たかふみ)さんといった有識者たちが検討を重ねて選んだ作品を世に届ける、「これも学習マンガだ!〜世界発見プロジェクト〜」(別ウィンドウで開く)。2015年に選書100冊を発表してから5年、既に200冊もの良書が選ばれてきたが、2020年12月2日、日本財団ビルにて新たな50作品が発表された。

当日はその発表に加え、同プロジェクトの選書委員長を務める里中満智子さんや、事務局長を務める「レインボーバード」(別ウィンドウで開く)代表・山内康裕(やまうち・やすひろ)さん、マンガ好きで有名なニッポン放送のアナウンサー吉田尚記(よしだ・ひさのり)さん、さらには『ゴルゴ13』など数々のヒット作を生み出す劇画界の大御所さいとう・たかをさんをスペシャルゲストに迎えて、「withコロナのマンガと学び」と題したトークイベントも開催。マンガが秘めたさまざまな可能性を深掘りし、マンガの持つ魅力に改めて気付かせてくれた。

マンガは学びの幅を広げてくれる

「世の中には素敵なマンガがたくさんあります。でもラインナップが豊かであるが故に、良作が埋もれてしまう、何を読んでいいか分からなくなる、といったこともありますよね。私たちが『これも学習マンガだ!』で選ぶのは、普段私たちがエンターテインメントとして読み親しんでいるマンガの中で、学びの幅を広げてくれる作品です。ぜひこれを機会に手に取ってみてください」

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「これも学習マンガだ!」に加わった50作品について語る里中満智子さん

少女マンガ界の巨匠・里中満智子さんの挨拶で始まった「これも学習マンガだ!」新たな50作品の発表イベント。続いてマンガの魅力を語ったのは、このプロジェクトの発起人の一人でもある日本財団の本山勝寛(もとやま・かつひろ)さんだ。

「マンガは日本が誇るべき文化の1つです。分かりやすくて共感力があります。2015年に『これも学習マンガだ!』をスタートしてから、360カ所以上の図書館に選書を置いていただくこともできました。今回は、皆さんの声を受けて、学びが楽しくなり、世界が広がる50冊を選んでいます」

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イベント会場には今回選ばれた50作品がズラリ

面白くて、ためになる「これも学習マンガだ!」。新型コロナウイルスの影響で家にいる時間が長くなりつつある今、ぜひ子どもも大人も読んでほしい作品ばかりだ。

選書に時勢が反映された50作品

それでは、新たに選ばれた作品(※)の一部をご紹介しよう。

  • 全ての作品は記事の最後で紹介しています
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今回選書されたマンガ

『映像研には手を出すな!』、『約束のネバーランド』といった有名作品から、『昭和天皇物語』などのドキュメンタリー性の高い作品や、『MARCH(マーチ)』といった海外作品、『ヘテロゲニア リンギスティコ~異種族言語学入門~』といった異文化交流に触れた作品など、さまざまなジャンルに及ぶ。

ジャンルごとの作品数は、「文学」5作品、「生命と世界」3作品、「芸術」3作品、「社会」4作品、「職業」5作品、「歴史」7作品、「戦争」4作品、「生活」2作品、「科学・学習」6作品、「スポーツ」4作品、「多様性」7作品と、これまでの11ジャンルを拡充する形で選書されている。

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新型コロナウイルスの感染防止のため、人数を制限して行われたイベント会場

「結果的に、歴史や科学、多様性といった分野が厚くなっているのは、コロナ禍で歴史を振り返ったり、科学に関心を持つ機会が多かったり、SDGsなどが関係しているものと思われます」と語るのは、プロジェクト事務局長の山内康裕さん。選書に時勢が反映されている点も興味深い。

他者への理解力を高めるのにも役立つ

イベントの後半では、里中満智子さん、山内康裕さん、吉田尚記さん、さいとう・たかをさん(オンライン参加)によるトークセッションを展開。まず、マンガの持つ可能性を自身の体験と合わせて熱く語ったのは里中満智子さん。

「マンガが持つ素晴らしい力は、自分のペースで読み進められ、一人ひとりのキャラクターに感情移入できるところ。私が漫画家を志したのは、手塚治虫(てづか・おさむ)先生の『鉄腕アトム』に出会ったことがきっかけです。手塚先生のすごいところは、主人公だけでなく、敵方のロボットが抱えている事情についても丁寧に描写しているところ。それを読んで、敵方のロボットに感情移入した私は泣きながらページを繰っていたのを覚えています。マンガを通して、相手にも相手の事情や考えがあるのだと言うことを心から実感できた体験でしたね。私は、人生で何かに悩んだときなど『アトムだったらこうする』と考えることもありました。そういった点を踏まえて、マンガは人間形成において影響があると感じています」

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熱いマンガ論が交わされたトークイベントの様子。写真左から山内康裕さん、里中満智子さん、吉田尚記さん

ラジオのパーソナリティとして活躍し、書店員を中心とした有志による選考員・実行委員が一番旬なマンガを選ぶ「マンガ大賞」(別ウィンドウで開く)の発起人でもある吉田尚記さんは、マンガとラジオの共通点と違いについて「やろうと思えば1人で成立するのが、マンガとラジオのいいところ。誰でも簡単に始められます。ただ、ラジオは音がとても大切な要素になりますが、何かを伝えるときに時間がかかったりします、その点マンガは、ビジュアルでストレートに伝えられるところが素敵だと思います」と話す。

スペシャルゲストとしてオンラインで参加したさいとう・たかをさんは、「学び」について「僕は真の教育とは『考えること』だと思います。1足す1は2というのを覚えるのではなく、なぜ2になるのかを考えること、と言えばいいのかな。さまざまなことを見て聞いて、それが自分の栄養になっていくのだと思う。マンガもただ絵やセリフを眺めるのではなく、『なぜそれを描いたか』『作者はどんな気持ちで描いているのか』を考えると、より深い理解につながると思いますね」と意見を語る。

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『ゴルゴ13』の生みの親であるさいとう・たかをさんもオンラインで参加

里中満智子さんは、マンガを読むだけではなく自分で描いてみることも他者への理解力を高める上で役に立つと言う。

「大人でもいいのですが、できれば思春期のうちに複数のキャラクターが出てくるマンガを描くことをおすすめします。それぞれのキャラクターに感情移入しながら描くことで、実生活においても他人の考え方や思考に関心が持てるようになると思うんです」

その点に着目し、山内康裕さんは実際にワークショップを手掛けている。

「里中先生のおっしゃるとおり、マンガを描くという行為は、他者理解を深める上でとても役に立ちます。僕たちのワークショップでは、まず主人公である自分の喜怒哀楽をはっきりさせて、それとは正反対の喜怒哀楽を持ったキャラクターを作っていくようにしています」

withコロナ時代におけるマンガとの付き合い方

「人にとって物語は欠かせないもの。物語の持つ力こそが、人が何のために生きるかを教えてくれて、その表現の一つがマンガなのだと思います」と確信に満ちた口調で話す里中満智子さん。

「いわゆる名作とは、二度読み三度読みと、多角的なアプローチができるマンガです。引きこもりも大いに結構。自身の糧となる作品を見つけて、何度も読み返してみてはいかがでしょうか」

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物語が持つ力の大切さについて語る里中満智子さん

最後に、登壇者からのメッセージがボードに描かれ発表された。

里中満智子さん「子供だけではなく大人も一緒に!(読もう)」

山内康裕さん「多読で(未来が)拓ける」

吉田尚記さん「何才から勉強をはじめてもいいじゃない!!」

改めてマンガの持つ奥深さについて気付かされたトークセッション。マンガは自分が知らない知恵や知識を楽しみながら吸収できるだけでなく、相手を思いやる気持ち、生きることの意味など、いろんなことを教えてくれる。

ぜひ、時間があれば読者の皆さんも今回選ばれた50作品を手に取って読んでみてほしい。きっと新しい世界を発見できるはずだから。

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撮影:十河英三郎

【2020年度選書50作品】

文学(5作品)

  • 『金魚屋古書店』芳崎せいむ
  • 『バンド・デシネ 異邦人』アルベール・カミュ、ジャック・フェランデス、青柳悦子
  • 『文豪春秋』ドリヤス工場
  • 『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』ハロルド作石
  • 『ほしとんで』本田

生命と世界(3作品)

  • 『不思議な少年』山下和美
  • 『銀河の死なない子供たちへ』施川ユウキ
  • 『約束のネバーランド』白井カイウ、出水ぽすか

芸術(3作品)

  • 『映像研には手を出すな!』大童澄瞳
  • 『ブルーピリオド』山口つばさ
  • 『アルテ』大久保圭

社会(4作品)

  • 『未来のアラブ人――中東の子ども時代(1978―1984)』リアド サトゥフ、鵜野孝紀
  • ハコヅメ~交番女子の逆襲~』泰三子
  • 『ゴールデンゴールド』堀尾省太
  • 『マイホームヒーロー』山川直輝、朝基まさし

職業(5作品)

  • 『恋と国会』西炯子
  • 『薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~』日向夏、倉田三ノ路、しのとうこ
  • 『US-2 救難飛行艇開発物語』月島冬二
  • 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』恵三朗、草水敏
  • 『とろける鉄工所』野村宗弘

歴史(7作品)

  • 『MARCH』ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン、ネイト・パウエル、押野素子
  • 『その女、ジルバ』有間しのぶ
  • 『新九郎、奔る!』ゆうきまさみ
  • 『阿・吽』おかざき真里
  • 『国境のエミーリャ』池田邦彦
  • 『昭和天皇物語』半藤一利、能條純一、永福一成
  • 『レイリ』岩明均、室井大資

戦争(4作品)

  • 『草 日本軍「慰安婦」のリビング・ヒストリー』キム・ジェンドリ・グムスク、都築寿美枝、李昤京
  • 『塹壕の戦争:1914-1918』タルディ、藤原貞朗
  • 『カジムヌガタイ』比嘉慂
  • 『風太郎不戦日記』山田風太郎、勝田文

生活(2作品)

  • 『話し足りないことはない?―対人不安が和らぐグループセラピー』アンナ・フィスケ、枇谷玲子
  • 『ミステリと言う勿れ』田村由美

科学・学習(6作品)

  • 『天地創造デザイン部』蛇蔵、鈴木ツタ、たら子
  • 『AIの遺電子』山田胡瓜
  • 『漫画 君たちはどう生きるか』吉野源三郎、羽賀翔一
  • 『ここは今から倫理です。』雨瀬シオリ
  • 『Dr.STONE』稲垣理一郎、Boichi
  • 『はじめアルゴリズム』三原和人

スポーツ(4作品)

  • 『ダンス・ダンス・ダンスール』ジョージ朝倉
  • 『大地の子 みやり』かざま鋭二、坂田信弘
  • 『マネーフットボール』能田達規
  • 『ましろ日』香川まさひと、若狭星

多様性(7作品)

  • 『キュロテ 世界の偉大な15人の女性たち』ペネロープ・バジュー、関澄かおる
  • 『アスペルカノジョ』萩本創八、森田蓮次
  • 『ヘテロゲニア リンギスティコ~異種族言語学入門~』瀬野反人
  • 『さよならミニスカート』牧野あおい
  • 『しまなみ誰そ彼』鎌谷悠希
  • 『サトコとナダ』ユペチカ
  • 『違国日記』ヤマシタトモコ

作品内容、推薦コメントは「これも学習マンガだ!〜世界発見プロジェクト〜」公式サイト(別ウィンドウで開く)をご確認ください。

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