日本財団ジャーナル

【障害とビジネスの新しい関係】「超短時間就労」で誰もが働きやすい環境を実現。ソフトバンクが目指す、多様な人が共に生きる社会(連載第5回)

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ソフトバンクの皆さんと日本財団ワーキンググループのメンバー
この記事のPOINT!
  • 「人を仕事に当て込む」形態が労働時間を長くし、障害者の社会参加を妨げる一因に
  • ソフトバンクでは超短時間で就労可能な制度を導入し、一人ひとりの特性を生かせる職場環境を実現
  • 時間や障害にとらわれない多様な働き方を実現し、誰もが挑戦しやすい社会を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

この連載では、企業における障害者雇用や、障害者に向けた商品・サービス開発に焦点を当て、その優れた取り組みを紹介する。障害の有無を超えて、誰もが参加できるインクルーシブな社会(※)をつくるためには、どのような視点や発想が必要かを、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。

  • 人種、性別、国籍、社会的地位、障害に関係なく、一人一人の存在が尊重される社会

取材を行うのは、日本財団で障害者の社会参加を加速するために結成された、ワーキンググループ(※)の面々。連載第5回目は、障害により長時間勤務が困難な人が企業などで働くために必要な環境を、東京大学先端科学技術研究センターと共に研究し、誰もが活躍できる社会を目指すソフトバンク株式会社(別ウィンドウで開く)の取り組みを紹介する。

  • 特定の問題の調査や計画を推進するために集められた集団

ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)人事本部の伊藤香織(いとう・かおり)さん、CSR本部の梅原(うめはら)みどりさん、宮本明子(みやもと・あきこ)さん、同じくCSR本部に所属する障害当事者である菅井光恵(すがい・みつえ)さんにお話を伺った。

※本記事には、後日手話動画を追加する予定です

「情報革命で人々を幸せに」。経営理念の先にある活動

山田:日本財団ワーキンググループの山田悠平(やまだ・ゆうへい)です。まずソフトバンクさんの採用情報(別ウィンドウで開く)を拝見した際、障害のある社員の方のインタビュー記事がとても充実していたのが印象的でした。現在、何名ぐらいの障害者の方が働いていらっしゃるのでしょうか。

伊藤さん:ソフトバンクでは、387名の障害者の方が働いております(2020年6月時点)。内訳としては肢体不自由のある方が37パーセント、聴覚障害のある方が27パーセントで、他にも内部障害、視覚障害、精神障害のある方もいらっしゃいます。

弊社は「情報革命で人々を幸せに」という経営理念のもと事業を進めています。その想いに賛同していただけて、能力がある方なら障害の有無は関係ないというのが私たちの考え方です。

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ソフトバンク人事本部の伊藤さん

山田:なるほど。ソフトバンクさんは、雇用以外にも障害のある方に向けてさまざまな取り組みをされていらっしゃいますよね。

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日本財団ワーキンググループの山田さん

梅原さん:伊藤の話にもありましたが、ソフトバンクでは、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念を軸に、どんな人でも、その人らしく活躍できる社会をつくるため、さまざまな取り組みを行っています。その一つが、東京大学先端科学技術研究センターと連携して行っている、障害のある子どもを対象とする「魔法のプロジェクト」(別ウィンドウで開く)です。

これは、ICT(情報通信技術)を活用し障害児の教育や生活を支援するもので、2009年にスタートしました。具体的には、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末を特別支援学校や特別支援学級といった教育現場で活用いただき、その有効性を検証しています。個々の弱みを補い、強みを伸ばす具体的な事例を収集・公開していくことで、学ぶ上での困り事を持つ子どもの学習や社会参加の機会を増やすことを目的としており、これまでに1,000件以上の事例が集まりました。

他にもサービスとして、3Dアニメーションで直感的に楽しく手話を学べるアプリ「ゲームで学べる手話辞典」(別ウィンドウで開く)や、困りごとを抱えるお子さんが1人で行動し本来の力を発揮できるようサポートするアプリ「アシストガイド」(別ウィンドウで開く)なども無償で提供しています。

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ソフトバンクCSR本部の梅原さん

梅原さん:障害がある子どもたちの前には、多くの壁があると思います。それを少しでも壊すお手伝いができたらと考えています。

超短時間の就労形態が、多様な働き方を実現

山田:御社で実施されている「ショートタイムワーク制度」(別ウィンドウで開く)についても教えていただけますか。

梅原さん:障害のある子どもたちが成長してぶつかるのが「就労の壁」です。どんなに能力があっても、障害により長時間勤務やマルチにタスクをこなすことが難しいという理由で、なかなか仕事に就けなかったりするケースが多いのです。表現を変えて言うのなら「日本的なメンバーシップ型雇用の壁」といってもよいかもしれません。

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日本財団ワーキンググループの質問に答えるソフトバンクの皆さん(左側)

山田:それは、どういうことでしょうか。

梅原さん:日本企業の雇用の在り方は、「人を仕事に当て込む」発想がベースにあります。例えば、正社員であれば法定労働時間である週40時間(障害者であれば30時間)という枠の中で、さまざまな仕事が割り当てられます。結果として一人の社員が複数のタスクを抱えている状態が当たり前。また、ある一定の時間以上働かないと社会参加しづらいといった背景があり、障害者でなくても、出産後の女性や高齢者など、能力があっても働けない人たちがたくさんいるものと思われます。

私たちが推進するショートタイムワーク制度は、「仕事を人に当て込む」欧米のジョブ型雇用に近いものです。この制度で大事にしている考え方は次の4つになります。

  1. しっかりと職務の定義を行い、その仕事に対して人を雇用すること
  2. 短時間からの就労が可能であること
  3. 本質的な業務以外は、柔軟に対応すること(挨拶などがなくても、仕事ができていれば問題はない)
  4. 共に働くこと

井筒:日本財団ワーキンググループの井筒節(いづつ・たかし)です。ショートタイムワーク制度は、これまでの働き方の常識を変えるような、興味深い雇用形態ですね。実際に何名の方が利用されているのでしょうか。

日本財団ワーキンググループの井筒さん

梅原さん:これまでに累計40名以上の方に就業いただいており、現在は、17名の方がこのショートタイムワーク制度を利用して働いています。週1〜4日、毎週4〜7.5時間ほどの労働時間ですね。通常勤務の社員と一緒に働いてもらった結果、「さまざまな制約があっても一緒に働ける」という社内意識をつくることもできました。

山田:他にもソフトバンクさんが大切にされていることがあれば教えてください。

梅原さん:「障害者」「企業」「社会」の3者にとってメリットがある「三方良し」のモデルをつくることです。誰かだけが得をするのではなく、みんなにとってメリットのある仕組みを構築していくことが、障害者雇用の拡大や継続性につながると考えています。

ソフトバンクが目指す「多様な人々が共に生きる社会」を示す図。。障害者は社会参加による収入、企業は人材の有効活用、社会は障害者理解の向上と労働力の増加につながることで、多様な人々が共に生きる社会をつくる。
ソフトバンクが目指す、「障害者」「企業」「社会」にとってメリットのあるインクルーシブな社会

梅原さん:実際に弊社でショートタイムワーク制度を実施したメリットとしては、業務の見直しができたこと、今まで着手できなかった作業に取りかかれたこと、社員がコアとなる仕事に集中できたことなど、企業側のメリットもたくさんありました。

誰もがさまざまなことに挑戦しやすい社会に

山田:ここからは、実際にソフトバンクで働いている障害当事者である菅井さんにもお話を伺わせてください。

菅井さん:私は2019年8月に週1日で入社し、現在は週2日、10時から16時という雇用形態で勤務しています。仕事の内容は、イントラネット(※)における記事の執筆や、メールマガジンの配信などを行っています。

  • 組織内ネットワーク
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ソフトバンクCSR本部に所属する菅井さん

山田:どんなところにお仕事のやりがいを感じていらっしゃいますか。

菅井さん:やっぱり記事に対して反響があると「書いて良かった!」という気持ちになりますね。

山田:障害のため、お仕事に取り組みづらいタイミングもあるかと思います。その際はどのように対応されているのでしょうか。

菅井さん:私はうつ病で、何かに集中し過ぎると考え過ぎて落ち込んでしまうといったことがあります。そんなときは、休憩をいただくなどフレキシブルに対応していただいています。

また、上司や他の社員さんが障害に対し理解があるところもありがたいです。菓子を手渡しながら「調子はどう?」とよく話しかけてくれる先輩がいらっしゃり、ほっと落ち着ける環境の中で働くことができています。

山田:楽しい職場環境であることが伝わってきますね。ありがとうございます。最後に、ソフトバンクさんが目指す未来像について教えてください。

梅原さん:これからは人生100年の時代。一人ひとりが、自分の得意を生かして、いろんな企業を渡り歩けるような世の中をつくっていきたいと思っています。依存先を複数つくることこそが、障害の有無にかかわらず、全ての人にとって生きやすくなり、大切なことなんじゃないかと考えています。

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誰もが働きやすい社会づくりを目指すソフトバンクの皆さん

梅原さん:そのために今力を入れているのが、ショートタイムワーク制度のテレワーク化実現と、障害の有無の枠を超えた事例の創出です。最近では、女性の活躍推進に力を入れる横浜市さんや横浜市に拠点を置く企業さんと共に、子育て中やフルタイムで働くことが難しいお母さんを対象にICTを活用した短時間雇用の実証実験(別ウィンドウで開く)を行いました。参加された多くの女性の方たちにとっても社会とのつながりが生まれ、仕事を依頼した側にとっても想像以上のスキルを提供してもらい助かったというお話を聞きました。

横浜市と横浜市に拠点を置く企業と行った実証実験結果を示すグラフ。「一緒に働く事のハードルについて」という質問に対し、2019年3月は「変わらない」50%近く、「下がった」50%弱の回答。 2019年4月は「下がった」80%程度、「とても下がった」20%程度の回答。2019年5月は「下がった」60%程度、「とても下がった」40%程度の回答。2019年6月は「下がった」15%程度、「とても下がった」85%程度の回答。環境さえ揃えることができれば、機関的・距離的な等、さまざまな制約があったとしても一緒に働けるという意識形成の一助になったか。
横浜市と横浜市に拠点を置く企業と行った実証実験結果を示すグラフ。時短かつテレワークであっても、環境を整えることで時間や距離等の制約を超えて「共に働く」という意識が形成された

梅原さん:そのようにして事例をつくり出し、どの企業でも活用できるようマニュアル化することで、社会参加に課題を抱えるより多くの人の支援ができればと思っております。

また、日本中の企業や自治体と協力し誰もが自分らしく活躍できる社会をつくるべく、ショートタイムワーク制度の普及を目指す「ショートタイムワークアライアンス」(別ウィンドウで開く)という取り組みにも力を入れています。2020年12月末時点で194法人に実施・賛同いただいています。

時間や障害にとらわれることなく一人ひとりが特性を生かして働くことができ、さまざまなことに挑戦できる社会を実現したいですね。

山田:ワクワクするような未来像ですね。本日はどうもありがとうございました。

撮影:十河英三郎

連載【障害とビジネスの新しい関係】