日本財団ジャーナル

【障害とビジネスの新しい関係】一人ひとりの「やりたい」がつくるカラフルな世界。電通が目指すインクルーシブな社会(連載第6回)

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左から電通・執行役員の大内さん、日本財団ワーキンググループの奥平さん、電通ダイバーシティ・ラボの林さん、半澤さん
この記事のPOINT!
  • 社会を動かすイノベーションの原点には「多様性」がある
  • 電通では、社員自らの意志や関心から、電通ダイバーシティ・ラボをはじめ多様なプロジェクトが生まれている
  • 性別、障害、国籍…一方的なタグをなくし、一人ひとりが「自分らしく」いられる社会を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

この連載では、企業における障害者雇用や、障害者に向けた商品・サービス開発に焦点を当て、その優れた取り組みを紹介する。障害の有無を超えて、誰もが参加できるインクルーシブな社会(※)をつくるためには、どのような視点や発想が必要かを、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。

  • 人種、性別、国籍、社会的地位、障害に関係なく、一人一人の存在が尊重される社会

取材を行うのは、日本財団で障害者の社会参加を加速するために結成された、ワーキンググループ(※1)の面々。第6回目は、日本の広告業界をリードする株式会社電通(別ウィンドウで開く)が、ダイバーシティ&インクルージョン(※2)領域に対応する研究組織として2011年に立ち上げた「電通ダイバーシティ・ラボ」(別ウィンドウで開く)の取り組みを中心に紹介する。

  • 1.特定の問題の調査や計画を推進するために集められた集団注釈
  • 2.人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、誰もが活躍できる社会づくり

電通で執行役員を務める大内智重子(おおうち・ちえこ)さん、電通ダイバーシティ・ラボの戦略ユニットリーダーである林孝裕(はやし・たかひろ)さん、電通ダイバーシティ・ラボの取り組みから生まれた「多様性」をテーマとするウェブマガジン「cococolor(ココカラー)」(別ウィンドウで開く)の編集長を務める半澤絵里奈(はんざわ・えりな)さんに話を伺った。

【手話言語動画版】

イノベーションの原点は「多様性」

奥平:日本財団ワーキンググループの奥平真砂子(おくひら・まさこ)です。さっそくですが、御社のダイバーシティ&インクルージョンに対する取り組みについて教えてください。

大内さん:電通には、ダイバーシティ&インクルージョンの研究・社会実装に取り組むチームや社員が多数おります。中でも、電通ダイバーシティ・ラボは、企業がダイバーシティ&インクルージョンを推し進める上で抱える課題解決やソリューションを開発する研究組織として創設されました。

といっても実際に立ち上げたのは社内の有志で、会社が「これをやってください」とお願いしたわけではありません。社員が自主的に、気付きや課題意識を持ち、仲間を集めてプロジェクト化し、それを会社が応援しているという関係です。

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ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みについて語る電通・執行役員の大内さん

奥平:現場の方の想いから生まれたのですね。

大内さん:はい。現場の自主性や、やる気を大事にするのは電通の社風でもありますし、クライアントの方々からもダイバーシティ&インクルージョンを進める上で、いろいろと相談を受けていたという背景もあります。実は、今皆さんがいらっしゃるこちらのフロアもダイバーシティ&インクルージョンを取り入れた設計になっています。

写真:会議室の扉
インタビューを行った会議室の扉は、スライド式と引き戸タイプを設け誰もが開閉しやすく工夫されている。扉の色も変えて視覚的にも分かりやすくしている

奥平:他にはどのような活動をされているのですか。

大内さん:LGBT(※)に関する調査をはじめ、クライアント企業の皆さんとLGBTや障害との関わり方を考えたり、一人の人間に焦点を当てた商品開発を手掛けたり。後は、電通ダイバーシティ・ラボ以外にも、視覚が不自由な方の立場になれるような暗闇体験研修、目が見える人も見えない人も読める点字の開発などさまざまな取り組みに従事している社員がいますね。

  • レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれたときに自身の性別に違和感がある)の英語の頭文字を取った性的少数者の総称
写真:エレベーター内の操作パネル
電通のエレベーターには、社員の一人が開発した読める点字が活用されている
写真:ワークスペース
フロアに並べられたデスクや机は、多様な選択肢が用意され、一方で共通して少しの力でも動かせるよう軽い素材でできたものがセレクトされている

奥平:興味深い取り組みばかりですね。社員の方から「やりたい」といった意見や多種多様なプロジェクトが生まれてくる理由は何でしょう。

大内さん:電通では「イノベーションの原点は多様性」だという考えがあります。また、「対話」を大切にしているというのも理由にあるかもしれません。

奥平:対話ですか。

大内さん:はい。課題やアイデアって一人で机に向かっていて出てくるものではありませんよね。街を歩いている時や、誰かとの対話の中で気が付くものなのではないでしょうか。電通では、クライアントさんとの「対話」はもちろん、特例子会社である「電通そらり」(別ウィンドウで開く)の方が運営する「そらりカフェ」が社内にあり、個人的にも、そういったコミュニケーションの中で得る気付きは多いと感じています。

奥平:なるほど、対話で気が付いた課題を解決するというわけですね。

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電通が大切にする「対話」について質問する日本財団ワーキンググループの奥平さん

大内さん:そうです。1対1の関係を深めていくことの重要性。目の前の人に目を向けて、課題を解決したり喜ばせたりすることで、たくさんの人にインパクトがあるサービスや事業が生まれるのだと思います。社会はそのようにして、変わっていくものなのではないでしょうか。

奥平:おっしゃるとおりですね。突っ込んだ質問になりますが、電通ダイバーシティ・ラボをはじめとするプロジェクトの予算はどうしているのでしょう。

大内さん:プロジェクト用のホームページを作るなど最低限の予算は会社から出ています。また、顧客企業や他企業と協業していくケースもあります。

CSR(※)という言葉は、企業によっていろいろな意味を持ちます。完全に慈善活動として行っているところや、こういった分野で儲けてはいけないという認識もあるようですが、本来企業が社会に対して価値を提供し対価をもらうのがビジネスの本質です。ダイバーシティ&インクルージョンの取組みも、企業のビジネスと連携させ、たくさんの方を巻き込んでいった方が、社会的なインパクトも大きく、持続性のある取り組みになると考えています。

  • Corporate Social Responsibilityの略。企業の社会的責任

奥平:複数社の協業から、社会を良くするための新しいビジネスの芽がどんどん生まれてくることを考えると、ワクワクしますね。

現場の「やりたい」から生まれた、多様性の研究組織

奥平:ここからは、実際に電通ダイバーシティ・ラボで活動される林さんと半澤さんにお話を伺います。

林さん:電通ダイバーシティ・ラボは、部署横断的に100名以上のメンバーで運営している社内最大のラボ(研究組織)になります。メンバーは電通社員や、グループ会社だけでなく、社外の方も参加され、年齢も性別もバックグラウンドもバラバラなのが特徴ですね。

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一級建築士といった資格も持つ林さん

奥平:さまざまなプロジェクトはどのようにして生まれ、運営されているのでしょうか。

林さん:メンバーの誰かが「これは課題だな」と思ったものがあれば、社内外で同じことに関心のある人などを巻き込んで、プロジェクトを生み出していますね。その中には、社内向けの取り組みもあれば、クライアント向けの取り組みもあり、電通自身の経営改革的なものも含めプロジェクトは多岐に渡ります。

また、ラボはオンラインなども活用し定期的に会議の場や情報交換の場を設けるなどして運営しています。

写真:ディスプレイに表示された数々のプロジェクト名。GLOCAL BRAINS、みんなの文字、cococolor、みんスポ、みんなの会議、みんなのサイネージ、EMPOWER、ふだんクエスト、越境ワーカーshiodome、ないマン、Inclusive Marketing、INCLUSIVE HINT!、かいしゃぱーく、DIALOGUE IN SILENCE、DIALOGUE IN THE PARK、みんなのダイバーシティ調査、WEnnovators、DIVERSITY is Beautiful、I'm an ALLY.、LIFE UNIT
電通ダイバーシティ・ラボが関わる多様なプロジェクト

半澤さん:私も気が付いたらメンバーになっていました(笑)。

林さん:気が付いたら、といった流れは結構多いですね(笑)。メンバーそれぞれが自分が会社から与えられた職務の傍らで取り組んでおり、ラボの活動はあくまでも個人の「やりたい」という想いがあって成立している組織なので、年次や経験に関係なく、はじめにやると決めた人がプロデューサーとなります。これは社会課題などに関心のある若手社員にとっても良い経験になると考えています。

奥平:電通ダイバーシティ・ラボから誕生したウェブマガジン「cococolor」のお仕事についても教えてください。

半澤さん:編集長をしている半澤です。「cococolor」は2013年にスタートしたのですが、当初は障害、LGBTといった2つの領域を扱うことが多かったです。ですが、ダイバーシティの考え方は常に進化し続けているので、今はテクノロジーであったり、ファッションであったり、コロナであったり、時流をとらえた記事を発信し続けるよう心掛けています。

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「cococolor」編集長の半澤さん

奥平:どのような体制で運営されているのですか。

半澤さん:編集部は約70名のメンバーで構成され、所属部署はもちろん、職種、年齢、活動地域もさまざま。中には当社を退社した社員やクライアントもいます。記事の企画や構成、執筆まで基本的に自分たちで何でもやっていますね。打ち合わせでも「これを取材したい!」というアイデアが、メンバーから次々に上がってきます。

奥平:「cococolor」は電通さんにとってどのような存在なのでしょう。

半澤さん:「cococolor」は個々の「やりたい」や「知りたい」「みんなに伝えたい」という思いがベースになっているので、ビジネスという枠組みを超えて企業さんともピュアに向き合うことができています。取材先の方からは「よく言いたいことを伝えてくれた」という言葉をいただくことも少なくありません。

林さん:そういう意味では、電通としていろんな企業の方と信頼関係を築く上でも重要な役割を果たしているのではないでしょうか。

半澤さん:また「cococolor」の記事は、多様性を大事にするという意味であえてトンマナを統一していません。また誰が書いた記事なのか実名や写真を載せるようにもしています。個々のつながりや、活動の幅を広げる、強みをつくる上でも非常に役立っていると思いますね。

写真:cococolorのトップページ
「cococolor」では、エンターテインメント視点でヒト、モノ、コトを扱った多様性豊かな記事を発信

奥平:現場の皆さんが生き生きとして取り組んでいらっしゃる様子が、よく伝わってきました。

一人ひとりが「自分らしく」いられるタグのない社会

奥平:電通さんは、インクルーシブ社会の実現を目指し企業における障害者の社会参加を推進する世界的な運動「The Valuable 500」(※別ウィンドウで開く)にも署名をされていますが、その背景についても教えてください。

大内さん:まず、署名をすることで、社内外に対してコミットすることができたと考えています。また、The Valuable 500は同じ目的を掲げる企業のつながりであるとも考えています。ぜひ一緒に考え、悩み、より良い社会のために力を合わせたい。そのためのきっかけになればと思っています。

奥平:最後に電通さんが電通ダイバーシティ・ラボなどダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みを通して、目指す社会についてお聞かせください。

大内さん:抽象的なお話になってしまうかもしれませんが、私たち一人ひとりには「健常者」「日本人」「女性」などといったさまざまな「タグ」が他者から付けられているように思います。でも実際は、タグはとても表面的なもので、例えばコピーライターだけどミュージシャンもしている人がいるように、人はもっと多様で複雑なものだと思うのです。

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執行役員の大内さん(写真右)に電通が目指す社会づくりについて話を聞く奥平さん

奥平:確かにタグ付けは便利な一方で、その人自身を見ているかというと、そうではありませんよね。

大内さん:はい。タグにとらわれず、「多様な個人」の「多様な側面」を素直に出していける。それに対して人と人とが向き合って「いいね」「すごいね」と言い合える世の中になったら、と考えています。いろんな人や価値観があるからこそ、世界は美しいのではないでしょうか。

奥平:「多様性」についていろいろ考えさせられた一日でした。ありがとうございました。

撮影:十河英三郎

連載【障害とビジネスの新しい関係】