日本財団ジャーナル

社会のために何ができる?が見つかるメディア

【増え続ける海洋ごみ】マスクや手袋、「コロナごみ」が海を脅かす。経済学者・原田禎夫さんに聞く、海を守るためにできること

写真
海や川の環境を汚染する使い捨てマスクなどのコロナごみ 。Dany Kurniawan/Shutterstock.com
この記事のPOINT!
  • 新型コロナ禍の影響で使い捨てマスクや手袋といったプラスチックごみが増加。海への流出も増えている
  • その商品の多くがプラスチック製であることを知らない人も多い。分かりやすい品質表示が必要
  • 環境保全には「自分の目で見て体験する」「周りの人と一緒に考える」「他者の取り組みを褒める」行動が大切

取材:日本財団ジャーナル編集部

新型コロナウイルス感染拡大による影響で、使い捨てマスクや手袋といったプラスチックごみが急増している。

いま世界的な問題となっている海洋ごみは、こういった街の中で出たごみが河川などを伝って海へ流れ込んだものが7〜8割を占めている。中でもプラスチックごみは、自然界の中で完全に分解されることなく途方もない年月をかけて海をさまよい、海に暮らす生物に対し悪影響を与え、生態系のバランスを崩す原因に。

新型コロナウイルスの感染防止対策ももちろん重要ではあるが、一方で海へ流れ込む大量のプラスチックごみを無視することはできない。しっかり感染予防をしながら、ごみを流出させないために私たちにできることとは何か。

今回は、海洋ごみ問題に詳しい大阪商業大学の原田禎夫(はらだ・さだお)准教授にお話を伺った。原田さんは、同大学で公共経済学、財政学を教える傍ら、経済学的視点から京都府を流れる保津川や桂川を含む淀川水系の環境保全活動に取り組んでいる。

特集【増え続ける海洋ごみ】記事一覧

マスクや手袋、新型コロナ禍で増えるプラごみ

「新型コロナウイルスの感染拡大は、世界各地でプラスチックごみの急増を引き起こしています。使い捨てマスクやゴム手袋、アルコール消毒液などのプラスチックケース、除菌ペーパーといった感染予防のためのごみが増えただけでなく、外出自粛によるネット通販や、飲食店からのテイクアウト・デリバリーのごみが大幅に増えているのも大きな原因です」

使い捨てマスクの多くはプラスチック素材でできており、飲食店で使う弁当容器やカップもほとんどがプラスチック製だ。ごみ処理施設も対応に追われ、操業時間を延長せざるを得ない状況に陥っている自治体も少なくないという。

写真
居を構える京都府亀岡市からオンラインで取材に応じてくれた原田さん

そう語る原田さんが2020年にまとめた論文に、イギリスではロックダウンにより家庭ごみが急増する(※1)と共に、ごみ収集の休止などにより不法投棄が300パーセント増えたという報告がされている(※2)。タイでも、2020年4月の1日当たりのプラスチックごみの排出量が60パーセント以上も増加し(※3)、ルーマニアでは、緊急事態宣言前には1日当たり10トン未満であった家庭ごみの排出量がピーク時には70トン以上になったと推計されている(※4)。

日本でも、日本容器包装リサイクル協会(東京)の調べによると、2020年度に同協会が契約する市区町村が家庭から回収し、リサイクル事業者に引き渡されたプラスチック製容器包装(プラスチックごみ)は前年比で4.1パーセントも増加。2019年度までは65万トン前後で推移していたが、2020年は6月の15パーセント増加をピークに約68万トンに上り、この10年間で最多となっている(※)。

また、新型コロナ禍によるプラスチックごみ増加の影響は海洋環境にも大きな影響を及ぼしている。香港を拠点とする海洋保護団体オーシャンズアジアが発表した報告書によると、2020年に海に流出したマスクの数は15億6,000万枚に上ると推定(※)。これは世界で製造されるマスクの約3パーセントに当たる量が海に流れ出たことになる。

写真
新型コロナウイルスの影響で大幅に増加した、使い捨てマスクなどを含むプラスチックごみ

商品の分かりやすい品質表示が必要

新型コロナウイルスの感染拡大はまだ一向に収束する兆しが見えない。私たちも感染予防に努めなければいけない中で、海洋ごみ問題を少しでも改善するために何ができるだろう。

「使用済みのマスクに関しては、一見してプラごみだと分かりにくい商品名にも問題があると考えています。使い捨てマスクに使われている不織布は『布』と付いていますが、素材表示に記載されているポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレンなどは全てプラスチックです」

同じようなことは、紙おむつや、生理用品にも言えるという原田さん。まず、品質表示やリサイクル可否に関する“誰にでも分かりやすい表示”が有効ではないかと話す。

その上で、「環境負荷の少ない植物由来の原料で作られたマスクの開発なども進んでいますが、すぐに一般に出回ることはないでしょう。まずは、自分たちにできることとして『ポイ捨てをしない』『しっかり分別する』『場面に応じて布マスクなどと使い分ける』といった、とても基本的で簡単なことを心掛けるだけでも、環境への影響は軽減されると思います」と提言する。

写真
街にポイ捨てされた使い捨てマスク。Rum Chuchaisangrat/Shutterstock.com

また、新型コロナウイルスの感染防止策として、科学的な根拠を基に考えることも重要だと言う。食品の過度なプラスチック包装なども、裏目に出ることがあると警鐘を鳴らす。

「新型コロナウイルスは、(抗菌加工されていない)プラスチック素材に付着した場合しばらく感染力を保つことが研究で明らかになっています。過度な包装はごみを増やすだけで、かえって感染リスクが高まると言えるでしょう。感染防止に努めることはもちろん大切なこと。ですが、それが本当に科学的根拠に基づいた取り組みなのかを検証し、効果がある取り組みを社会に広めていくことが重要だと考えます」

一人ひとりの小さな行動が海を守る

原田さんは大学で教鞭をとる傍ら、NPO法人プロジェクト保津川(別ウィンドウで開く)の代表理事としてプラスチックごみ問題の研究、河川におけるごみ拾いなどの実践活動に取り組んでいる。

「私が暮らしているのは、京都府亀岡市です。そこには、嵐山の『保津川下り』で有名な保津川という河川がありますが、そこでもコロナ禍が続く中でマスクや手袋といったごみを見かけることも多くなりました」

写真:プロジェクト保津川のごみ拾いイベントに参加した企業の方たち
原田さんのゼミの学生や地域住民、企業や団体など多くの人が参加するプロジェクト保津川のごみ拾い活動
写真
プロジェクト保津川の清掃活動で見つかった使い捨てマスク

20年以上前、保津川にも大量のプラスチックごみが流れ着くようになった。当初、船頭さんたちが清掃活動をボランティアで始めたが、追いつかないくらいごみの量が増え、原田さんの元へ相談に訪れた。

原田さんは「これは何とかしなければ」と思い、船頭さんをはじめ、学者や行政、一般の人々と一緒に立ち上げたのがプロジェクト保津川。2007年7月のことだ。以来、毎月定期的に地域の人たちを巻き込んでの川の清掃や、企業・団体を対象としたエコツアーの開催、環境学習の実施などに取り組んでいる。

写真
プロジェクト保津川で、ごみ拾いの参加者と共にごみを船で運ぶ船頭さん。みんなで力を合わせて環境保全に取り組んでいる

原田さんは活動に取り組む中で、大切にしていることが3つあると言う。

「まずは、『自分の目で見て、体験する』こと。『周りの人と一緒に考える』こと。たとえ一人で何をしていいか分からないときでも、周りの人に伝えることが大事だと思っています。地域の政治家さんなど、街を良くしようと活動されている方と接点をつくるのもいいでしょう。あと、『他者の取り組みを褒める』ことも大切だと思います。多くの企業が海ごみを減らそうと工夫をしながら取り組んでいますが、中には努力が足りないなど批判する声も耳にします。しかし、単に批判するだけでは何も生まれません」

何事もはじめからみんなが納得いくような取り組みを行うことは難しい。多くの人の支えや後押しがあって、さらに昇華していくものだ。

「日本にも興味深い事例があります。1 人の高校生が、とある製菓大手メーカーさんにプラスチックの過剰包装を無くすよう求めるネット署名を始めたところ、最終的には18,976筆もの署名が集まりました。これに対し製菓メーカーさんは、『署名には勇気づけられた』『方向性が一致するものであり、活動を継続していきたい』とコメントを返しました。以前、その製菓メーカーの担当者さんにお話を聞く機会があったのですが、以前から包装やトレイなどプラスチックを減らす取り組みはされていたそうです。署名活動はこうした取り組みを加速させる好事例と言えるでしょう。そんなふうに、少しずつでも理解を深め合い、力を合わせながらみんなで環境に優しい社会をつくっていけるといいですね」

マスクをポイ捨てしない。しっかり分別して捨てる。自分が得た情報を周囲の人と共有する。ごみ拾い活動に参加してみる。そんな一人ひとりの小さな行動の積み重ねが、豊かな海を守ることにつながるのだ。

〈プロフィール〉

原田禎夫(はらだ・さだお)

1975年京都府亀岡市生まれ。2005年大阪商業大学経済学部専任講師を経て、現職に。世界的に深刻化している海や川のプラスチック汚染について、内陸部からのごみの発生抑制の観点から取り組むと共に、京都・保津川をフィールドに筏流しの復活や天然鮎の復活、内水面漁業の振興など川の文化の再生と伝承に取り組んでいる。主な著書に、『現代社会の財政学』(共著/晃洋書房)、『産地の変貌と人的ネットワーク ―旭川家具産地の挑戦』(共著)、『京の筏:コモンズとしての保津川』(共著/ナカニシヤ出版)など。
大阪商業大学 原田禎夫ゼミナール 公式ページ(別ウィンドウで開く)

特集【増え続ける海洋ごみ】記事一覧

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。