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【障害とビジネスの新しい関係】1店舗1人以上を目標に障害者を採用。ファーストリテイリングが取り組む障害特性を活かす職場づくり

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株式会社ファーストリテイリングの社員の皆さんと日本財団ワーキンググループのメンバー
この記事のPOINT!
  • ユニクロ、ジーユーでは1店舗1人以上を目標に、障害者雇用とやりがいを持って働ける環境づくりに取り組んでいる
  • フォロー体制を整え、本人の意志も尊重しながら、一人一人の障害特性を活かす社内の障害理解の促進と共に就労支援機関と連携し、障害者が安定して働ける環境をつくる
  • 社内の障害理解の促進と共に就労支援機関と連携し、障害者が安定して働ける環境をつくる

取材:日本財団ジャーナル編集部

「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というコーポレートステートメントを掲げ、「ユニクロ」「ジーユー」「セオリー」といったファッションブランドをグローバルに展開している株式会社ファーストリテイリング(外部リンク)。2001年に障害者雇用を本格的に開始し、ユニクロ、ジーユーでは「1店舗1名以上」の採用目標を掲げ、2012年以降は国内8割以上の店舗で達成している。

現在(2021年12月時点)、国内のグループ全体で1,100名以上の障害者が勤務。障害者雇用率制度(※1)で定められた2.3パーセントの法定雇用率(※2)を半分以上の企業が達成できていない中で、ファーストリテイリングでは4.6パーセント(2021年度)の雇用を実現している。果たして、どのように雇用を生み出しているのだろうか。日本財団ワーキンググループ(※3)のメンバーが取材を行った。

  • 1. 障害者雇用率制度とは、民間企業や国、地方公共団体は、障害者雇用率に相当する人数以上の障害者を雇用しなければならないとする制度
  • 2.会社全体の常用労働者に対する障害者の法律上満たすべき割合。2021年3月以降から民間企業には2.3パーセント以上の障害者雇用が義務付けられている
  • 日本財団において、障害者の社会参加を加速するために調査や計画を推進するメンバー

人事部・労務チームのリーダーを務める谷口大司(たにぐち・だいじ)さんと同部署の田畑美珠希(たはた・みずき)さんにお話を伺った。

トップリーダーが実感した障害者雇用のメリット

奥平:日本財団ワーキンググループの奥平真砂子(おくひら・まさこ)です。早速ですが、ファーストリテイリングさんの障害者雇用率はとても高いですね。

谷口さん:ありがとうございます。2021年度の障害者雇用率は4.6パーセントでした。大きな特徴としては、特例子会社(※)を設けずに国内各地にある店舗で活躍していただいている点でしょうか。

  • 障害者の雇用促進、雇用の安定を図るために設立された会社
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障害者雇用に関する取り組みについて説明する、人事部・労務チームの谷口さん

奥平:法定雇用率の2倍を上回る雇用を実現しているのですね。求人や採用はどのように行われているのですか?

谷口さん:求人は各地域のハローワークを通じて行っています。応募してくださった方については、店舗での実習や面談を経て選考、採用という流れになります。選考・採用するに当たって皆さんの障害特性を理解する必要がありますので、応募時には可能な限り就労パスポート(※)の提出をお願いしています。

  • 2019年に厚生労働省によって様式が作成された、障害者が働く上での自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮などについて、支援機関と一緒に整理し、事業主などに分かりやすく伝えるためのツール
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ファーストリテイリングの取り組みに以前から高い関心を持っていた奥平さん

奥平:国の機関や制度等をうまく活用されているのですね。ファーストリテイリングさんはかなり前から積極的に障害者雇用に取り組んでいる印象があります。

谷口さん:障害者雇用を始めたのは1994年からで、本格的に採用するようになったのは2001年以降ですね。きっかけは、ある店舗で障害のある方を採用したところ、従業員が自主的にその方をサポートするようになり、店舗全体のコミュニケーションが活発化し仕事の効率も上がったことから、社長の柳井正(やない・ただし)の方針で「各店舗に1人以上採用する」という目標を掲げるようになりました。

奥平:障害者雇用について、企業のトップが大きな可能性を感じていることと、現場も自主的にサポートに取り組んでいることは素晴らしいですね。

谷口さん:はい。グローバル企業としても、多様性を受け入れる姿勢はとても重要ですね。障害のある方を雇用するにはどんなことに配慮が必要か、どうやって進めていくかを一人一人が考え、工夫することは、全ての社員にとってより良い環境づくりにつながると思っています。

奥平:海外の店舗でも障害者雇用は進んでいるのでしょうか。

谷口さん:国によって制度や障害に対する考え方が違っており、把握しきれていない部分もあるのですが、マレーシアなど積極的に雇用を進めている国もあります。 

一人一人の障害特性を活かした働き方

田畑さん:私は店舗での店長経験を経て2020年に人事部・労務チームに異動しました。私が入社した2015年は店舗に障害のあるスタッフがいる環境は当たり前で、チームの仲間として一緒に働いていました。

その頃は「合理的配慮※」という言葉もよく知らなかったんですが、いまの部署に配属されてから、店舗で当たり前のようにやっていたことが合理的配慮だったことに気付きました。

  • 障害の有無にかかわらず、誰もが平等に権利を享受しできるよう、個人の特徴や状況に応じた調整を行うこと
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店長時代の経験を振り返る、人事部・労務チームの田畑さん

奥平:店長をされていた時は、具体的にどのような配慮や工夫をされていたのでしょうか?

田畑さん:知的障害のある方と働く機会が多かったのですが、特に意識していたのは、指示を出すときにできるだけ分かりやすい言葉で、簡潔に伝えること。理解がしやすいように努めることで誤解やミスも減り、障害者スタッフの達成感や自信にもつながります。口頭の指示だけでは不安というスタッフには、「午前中は〇〇の業務をやりましょう」など1日のメニューを作って共有するということもしていました。

奥平:障害のあるスタッフの方は、店舗ではどのようなお仕事をされているのですか?

田畑さん:商品の陳列や品出し、補正といったバックヤード業務が中心になりますが、接客をしたいというスタッフが売り場に出て、お客さま対応をしている店舗もあります。

難しい対応が求められる場合もありますので、そんなときは「他のスタッフをお呼びしますのでお待ちください」と書かれたカードをお渡しし、お客さまにもご理解をいただきながら、障害のあるスタッフが安心して仕事に取り組める工夫をしています。

また、ある店舗では、スタッフ同士が密にコミュニケーションを取れるようにUDトーク(※)を導入したところ、店舗からは「筆談では伝えきれない細かな業務についても指示ができるようになった」という声がありました。

  • 会話を音声認識技術を使ってリアルタイムに文字表示し、ろう者・難聴者とのコミュニケーションを補助的に行うためのスマートフォン用アプリ
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谷口さん、田畑さんに障害者スタッフの働く事例について話を聞く日本財団ワーキンググループのメンバー(右)

奥平:細やかな配慮をされているのですね。精神障害がある方に対してはどんな事例がありますか?

田畑さん:私が一緒に働いていたスタッフは、1人での接客は難しかったのですが、ファッションが大好きなおしゃれな方だったので、マネキンの着せ替え担当を専任でお願いしていました。ただ、マネキンは売り場に置かれているので、売り場で作業している際にお客さまに声を掛けられる可能性もあります。そこで、他のスタッフとペアを組んで作業するように体制を整えたところ、障害がないスタッフにとってもいろいろ気付きが得られる機会になったという声がありました。

奥平:一人一人の特性を活かしてお仕事されているんですね

田畑さん:店舗によって状況が違いますが、売り場での業務はスキルアップにもつながるので、フォロー体制をしっかり整え、職域の拡大も進めていけたらと考えています。

障害者の雇用定着には、就労支援機関との連携も重要

奥平:本部では障害者理解を深めるために何か工夫はされていますか?

谷口さん:店長やエリアマネージャーなど管理職を対象に研修を行っています。障害者雇用に関する制度の成り立ちや背景と共に、障害よりもまずその人自身を知ることの大切さを伝え、障害のある従業員が能力と可能性を広げるための環境づくりに力を入れています。

奥平:現在、障害者雇用で課題を感じている部分はありますか?

谷口さん:まだまだ課題はたくさんあります。管理職だけでなく店舗ごとでも研修に取り組むことや、障害のある社員が少ない本部でもさらに理解を進める必要があると感じています。中でも大きな課題は、障害のあるスタッフが安定して勤務できないケースへの対応ですね。

奥平:そんなときはどのように対応されているのでしょう?

谷口さん:心身の不調や人間関係の問題など、勤怠が安定しない理由はさまざまで、現場だけでは対応しきれないこともあります。そのため就労支援機関(外部リンク※)の方にもご協力いただき、その人にとって何が問題なのか、どうすれば解決できるかを一緒に考えるようにしています。

  • 障害者一人一人の特性に配慮した職業指導、職業紹介等の職業リハビリテーションを、医療・保健福祉・教育等の関係機関の連携のもとに実施

奥平:就労支援機関にはそういった役割もあるんですね。

谷口さん:はい。私たちは基本的に、障害のある方を採用する際には就労支援機関への登録をお願いしています。就労支援機関は障害のある方のためのものと思われていますが、企業に向けた支援も主な役割の1つです。職場実習期間中のサポートや、雇用後のフォローアップなどさまざまな相談に応じているので、企業と就労支援機関との連携は障害者雇用をスムーズに進め、一人一人を適切にサポートする上で大切なことだと思います。

奥平:障害者雇用に苦戦している企業の方にもぜひ活用していただきたいですね。本日は、ありがとうございました。

撮影:十河英三郎

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