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ファッションの裏にある環境汚染、人権問題。中高大学生が発信する「やさしい」服作り

写真:右から時計回りで、やさしいせいふくのメンバー(9人)、やさしいせいふくが行うワークショップの様子、黒板にかかった「「やさしいてぃーしゃつ」
Tシャツ作りを通して、環境問題や人権問題の発信活動を行うやさしいせいふくの皆さん
この記事のPOINT!
  • 環境汚染や人権問題など、ファッション産業が抱える課題は多岐にわたる
  • 中高大学生たちが服作りや発信活動を通して、課題の周知と誰にでもできる行動を促す
  • 「問題を知る」「服を大切に着る」そんな行動を意識するだけでも世界は良くなる

取材:日本財団ジャーナル編集部

最先端のトレンドを取り入れたアイテムを、短期間で大量生産、大量消費する現代のファッション産業。おしゃれなアイテムをリーズナブルな価格で手に入れられることはとても魅力的だが、その裏には深刻な問題が隠れている。

例えば、環境への負荷。意外に思う人も多いかもしれないが、ファッション産業は、製造時に排出する二酸化炭素や使用する水の多さ、原料の栽培や染色などによる土壌・水質汚染など、国際的に大きな問題となっている。また、賃金が低い途上国で生産することでコストを削減しているが、現場で働く人たちの労働環境は決して健全とは言えない。

今回紹介する「やさしいせいふく」(外部リンク)は、ファッション産業が抱える問題をより多くの人に知ってもらうための発信活動と、環境と人にやさしい服作りを行っている、中高大学生らで結成された学生団体だ。創設メンバーである大学1年生の西上慧(にしかみ・さとし)さん、島崎恵茉(しまざき・えま)さんと、高校2年生の竹田陽(たけだ・みなみ)さんに、自分たちが向き合う課題と活動内容、目指す社会像について話を伺った。

華やかなファッション産業の裏にある環境汚染、人権問題

2013年4月24日、バングラデシュの首都近郊にあった縫製工場が入ったビル、ラナプラザが倒壊。「ラナプラザの悲劇」と呼ばれるこの事件は、ファッション業界の抱える問題を世界中に知らしめたことでも知られている。

銀行や商店のほか、いくつもの縫製工場が入っていたラナプラザビル。この事故では、1,100名以上の尊い命が失われ、2,500人以上の負傷者と500名以上の行方不明者を出す大惨事となった。

実は、倒壊する前日にビルでは危険な亀裂が見つかっており、ビルの使用中止の警告が出されていた。それにもかかわらず、オーナーは警告を無視して従業員を長時間働かせ続けた結果、翌朝ビルが倒壊。調査の結果、5階よりも上の階は違法に増築されたものだということも分かった。

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世界中に衝撃を与えたラナプラザ倒壊の様子。Sk Hasan Ali/Shutterstock.com

この縫製工場には、安い賃金を目当てにいくつもの世界の名だたるファッションブランドが発注しており、劣悪な労働環境が引き起こしたファッション業界最悪の事件とも呼ばれている。

竹田さん「この事故はファッション産業に関わる人にとっては、とても有名なものですが、氷山の一角に過ぎません。世界には、私たちの服を作るために安い賃金で長時間にわたって働かされている労働者が現在もいるのです」

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ファッション産業における人権問題について語る高校生の竹田さん

やさしいせいふくのメンバーが、人権問題と同様に、深刻な問題として向き合っているのが環境問題だ。

ファッション産業は世界で2番目の環境汚染産業と言われており、原材料の調達、生地・衣服の製造、輸送から廃棄に至るまで、各段階で環境に大きな負荷を与えている。

環境省の調べ(外部リンク)によると、原材料調達から製造段階(紡績、染色、裁断、縫製、輸送)までの日本における服1着当たりの二酸化炭素(CO2)の排出量は約25.5キログラム(ペットボトル約255本製造分)、水の消費量は約2,300リットル(浴槽約11杯分)に上り、原料となる植物の栽培や染色などでは化学肥料や薬品による土壌汚染や水質汚染も引き起こす。また、家庭から手放される服の量は年間約75万トン。そのうち50万トンがごみとして廃棄されるという。

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服1着あたりの換算
・CO2排出量約25.5キログラム→ペットボトル(500ミリリットル)約255本製造分
・水消費量約2,300リットル→浴槽約11杯分
※2019年時点における服の国内供給量約35.3億着をもとに算出しています

服の着数換算
・端材等排出量約45,000トン→服約1.8億着分
※服1着は0.25キログラムとして計算しています
※実際には端材はその多くがリサイクルされています
環境省「サステナブルファッション」のサイトより

西上さん「私たちが一番問題と考えるのは、この事実について多くの人が知らないということです。また、知っていても意識高い系的な目で見られがちで『どうにかしなくちゃ!』と声を上げにくい空気があり、行動する人が少ない。やさしいせいふくは、そんな状況を少しでも変えたいと思って生まれたプロジェクトなのです」

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やさしいせいふくの創設メンバーである西上さん

やさしいせいふくの結成のきっかけは、2019年に開催された「アースデイ東京2019※」。持続可能な社会づくりのために創造的な教育を実践する先生と生徒を応援するプロジェクト「SDGs for School」を通じて、ファッション産業の裏にある問題を知り、有志で集まって勉強会を始めたのが原点だという。

  • 「アースデイ東京」とは、毎年4月22日の地球のことを考えて行動する日『アースデイ』を祝して開催される環境イベント

その後、新型コロナウイルスの影響で余儀なくオンラインに移行したのが、逆に良かったと振り返るのは、創設メンバーの一人である島崎さん。

島崎さん「いろいろな高校の生徒が参加していたので、むしろオンラインの方が集まりやりやすかったんです。学校の授業も余裕があったので、ほぼ毎日勉強会を開いたり、ファッション産業に関わる企業の方にお話を聞いたりしていました」

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コロナ禍でのやさしいせいふくの活動について話す島崎さん

そんな取り組みを通して「自分たちで社会を変えよう」とスタートさせたのが、環境問題や人権問題を考える機会を提供する発信活動だ。そして2022年4月からは、学校を対象に人にも環境にもやさしい学生のためのイベントTシャツの販売を開始した。

Tシャツをきっかけに世界の問題と誰にでもできる行動を発信

島崎さん「私たちが作るのは、『自然にやさしい』『人にやさしい』『世界にやさしい』Tシャツです。同世代に服飾産業に生じている問題を伝える手段として文化祭や体育祭といったイベントで着る Tシャツを販売しています。こだわりは環境や人権に配慮した製品であることを示す国際認証(GOTS※)を取得しているインド産のオーガニックコットンを使用していること、またサプライチェーンの透明性を確保するため、実際にインドの農家の方とオンラインで話をしたり工場を見学したりしたことです。水を使わず印刷することのできるデジタルプリントを用いて好きな柄をプリントでき、サイズ展開も着丈や身丈と細かく設定しているので、体に心地良くフィットするT シャツになっています。サイズ表記に関しても性別や体系で表さず、1から5の数字で取り扱っています」

  • Global Organic Textile Standard の略。有機栽培を原料とする繊維で作られた、環境と社会に配慮して加工・流通された製品であることを示す国際基準
写真:「やさしいてぃーしゃつ」を着用する学生たち。右端は「やさしいてぃーしゃつ」のみ
やさしいせいふくでデザイン、販売する「やさしいてぃーしゃつ」。写真提供:やさしいせいふく

従来のTシャツの多くは、通常は原料の原産国から購入者の手元に届くまで、輸入業者、縫製工場、ファッションブランド、卸売会社、教材のカタログ会社といった多くの下請け企業を経由するところを、やさしいせいふくが縫製工場と学校の間に入ることで価格を抑え、縫製工場の従業員に正当な対価を支払う仕組みになっている。

左画像:
原産国→輸入業者・商社→Tシャツブランド→卸売会社→素材カタログ会社
・工程が多く、生産背景がみえにくい
・購買者側に近づくほど儲かる仕組み

右画像:
Tシャツ開発イメージ
現地→やさしいせいふく・イベントTシャツ→学校
従来の学校で使用する服の栽培から購入までの工程(左)と、やさしいせいふくの工程比較。画像提供:やさしいせいふく

ただTシャツ作りは、あくまでも発信活動を行うきっかけの1つだと西上さんは言う。自分たちの取り組みに興味を示してくれた学校やTシャツを発注する学校を対象に、ファッション産業が抱える社会課題や、学生団体として活動することの意義などを伝えるワークショップや講演会を積極的に展開している。

西上さん「これまでに大阪や山梨の高校や、東京・八王子にある中学校で、お話をする機会をいただきました」

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2021年8月に東京八王子にある中学校でワークショップ(左)と講演会を実施した時の様子。写真提供:やさしいせいふく

やさしいせいふくの活動は多数のメディアでも取り上げられ、企業や行政の人たちと意見交換を行う機会も増えてきたという。

竹田さん「この活動をやっていて一番うれしかったのが、活動に関わる人たちの変化です。私たちの活動に賛同しメンバーとして加わってくれたり、公演を聞いてくださった学生さんが『私はこんなアクションを取りたい』と意見を言ってくれたり、Tシャツ作りの目的である『たくさんの人に知ってもらい、行動してもらうこと』ができていると、実感しています」

島崎さん、西上さんも「妹が関心を持ってくれた」「服飾業界の方から『業界を元気づけてもらっている』とお礼を言われました」と笑顔で語る。

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2020年に経済産業省に訪問し、ファッション産業が抱えている問題や自分たちの活動の展望について説明した時の様子。写真提供:やさしいせいふく

服は消費するものではない。服の生産構造の変革を目指す

これからのやさしいせいふくの活動目標について話を聞くと、島崎さんは立ち上げた当初と何も変わらないと語る。

島崎さん「私たちには『自然にやさしい(Good for the Environment)』『人にやさしい(Good for People』『世界にやさしい(Good for the World)』という3つの理念があります。服作りはその目標を実現するための手段です。Tシャツの販売を拡大しつつ、より多くの人たち、特に私たちと同世代の人たちにファッション産業が抱える課題について知ってもらえるよう努めたいと思います」

環境と人権に配慮したTシャツ作りと発信活動を通して、ファッション産業の課題である服の生産構造の変革を促したいと意気込む。

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Tシャツ作りについて打ち合わせを行うやさしいせいふくの皆さん。写真提供:やさしいせいふく

そして西上さんは、私たちのファッションへの向き合い方についてメッセージをくれた。

西上さん「衣食住という言葉もあるように、服は私たちにとって生活必需品です。でも、豊かな国の人だけが豊富で安いファッションを楽しみ、それ以外の人が苦しい思いをするのは、おかしいと思います。この問題を知り、今手元にある服をしっかりと見直し、長く大切に着ることが、このおかしい状況を変えていくきっかけになるのではないかと。日本には1億2,000万人以上の人たちが暮らしています。その一人一人が少しでも行動を変えることができれば、社会はずっと良くなると考えます」

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春休みを利用して、オンラインで取材を受けてくれたやさしいせいふくの3人

世界が抱える環境問題や人権問題の解決に向けて、中高生、大学生たちが知恵を絞り、工夫を凝らしながら取り組んでいる。私たち大人がこの問題を見過ごしてしまって良いのだろうか?「環境や社会に配慮したものを買う」「服を大切に着る」そんな簡単なことからでも、今日から始めてみてはいかがだろうか。

やさしいせいふく 公式サイト(外部リンク)

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