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【障害とビジネスの新しい関係】職場定着率97パーセント。ベネッセグループが切り拓く障害者雇用の未来

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ベネッセグループの皆さんと日本財団ワーキンググループのメンバー
この記事のPOINT!
  • 離職率が高い障害者雇用の現状。ベネッセグループの特例子会社では職場定着率97パーセント(2021年度)を達成
  • 業務工程の見直しや個人の支援体制など、障害者が長く働き続けられる職場づくりに取り組んでいる
  • 多様な人材が活躍できる事例やノウハウを社会に発信し、障害者雇用の未来を育てる

取材:日本財団ジャーナル編集部

一人一人の「よく生きる」を実現するために、幅広い世代を対象にした教育事業や介護事業などを展開している株式会社ベネッセホールディングス(外部リンク)。障害者雇用にも積極的に取り組んでおり、グループ全体での障害者雇用率は2022年3月1日時点で2.65パーセントと、国に定められた法定雇用率(2.3パーセント)を上回っている。

また特例子会社(※)である株式会社ベネッセビジネスメイト(外部リンク)では、2022年4月1日時点で知的障害を中心に167名の障害者が働いており、その定着率は97パーセント(2021年)、10年勤続表彰者が117名にも及ぶなど多くの社員が長きにわたって活躍している。

  • 障害者の雇用の促進および安定のために特別な配慮をした子会社
円グラフ:
知的障害者 50%
精神障害者 16%
発達障害者 20%
身体障害者 14%
ベネッセビジネスメイトで働く障害者167名の種別割合(2022年4月1日現在)

厚生労働省が2017年にまとめた「障害者雇用の現状等」(外部リンク)によると、障害者の就職1年後の定着率は身体障害者と知的障害者が約6割、精神障害者は5割を切り、障害者雇用の多くの現場では高い離職率が課題となっている。そのような状況の中で、なぜベネッセグループでは、高い雇用率や定着率が実現できているのか?

ベネッセホールディングスの常務執行役員でESG・サステナビリティ推進本部の本部長を務める岡田晴奈(おかだ・はるな)さんと、ベネッセビジネスメイト代表取締役社長・茶谷宏康(ちゃたに・ひろやす)さんに、日本財団ワーキンググループ(※)のメンバーが取材を行った。

  • 日本財団において、障害者の社会参加を加速するために調査や計画を推進するメンバー

学習で困難を抱えた子どもたちをサポート

奥平:日本財団ワーキンググループの奥平真砂子(おくひら・まさこ)です。早速ですが、ベネッセグループのダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I※)の取り組みについて教えてください。

  • 人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、誰もが活躍できる社会づくり

岡田さん:以前からベネッセグループでは女性社員の活躍に力を入れており、現在、主要子会社であるベネッセコーポレーションの女性の管理職の割合は30パーセント(※)を超えています。ただ、その分「自分たちはD&Iに取り組めている」という意識が強かったこともあり、改めてD&Iについて見直そうと2022年4月にESG・サステナビリティ推進本部を設立しました。これまでも障害者雇用率は法定雇用率を上回ってはきましたが、今後はより障害のある方やLGBTQ、外国人の方の雇用など広げたいと思っています。

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ベネッセグループのD&Iへの取り組みについて話す岡田さん

奥平:障害のある子どもたちに向けた教育コンテンツの開発にも力を入れていると伺いました。

岡田さん:はい。「こどもちゃれんじ」「進研ゼミ」といったベネッセが提供する通信教育サービスは、教材を家庭にお届けして、子どもたちが主体的に取り組むというコンテンツになりますが、発達障害などがあり、ひとりで勉強に取り組むことが難しいお子さんも少なくありません。そこで、一人一人の個性や発達のスピードに合わせた学習をサポートするために、発達障害や発達障害と思われる特性のお子さまの保護者の方からの悩みや相談にお応えする「発達障害支援サイト」(外部リンク)の運営を2020年よりスタートしました。

また、現在品川区(東京都)と共同で、読み書きが苦手な学習障害(※)のある子どものために開発した学習アプリの実証実験も進めています。

  • 学習障害とは、知的発達に遅れはないが、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力に困難が生じる発達障害のこと
画像:発達障害支援サイトのTOPページ
発達障害支援サイトでは、学習上の困難に関する相談や質問に応じている

奥平:発達障害のあるお子さんを持つ親御さんにとってはとても心強いサービスですね。

岡田さん:子どもの学力はテストの結果が重視されがちですが、実は子どもの中にはたくさんの知識がインプットされていて、ただアウトプットする手段を知らないという子も多いんです。私たちは、少しでもそのお手伝いができればと。

奥平:今後、ますます必要とされるサービスだと思います。2021年にはビジネスにおける障害者インクルージョンの推進に取り組む世界的規模の経営者ネットワーク組織「The Valuable 500(ザ・バリュアブル・ファイブハンドレッド)」(外部リンク)にも加盟されました。ベネッセビジネスメイトの社員の方が見つけて、The Valuable 500への署名を推し進められたそうですね。

茶谷さん:はい。社員から話を聞き、すぐに本部へ交渉し加盟できるように進めました。社内からはベネッセグループとして障害者雇用に対する取り組みが世界的規模にまで広がったことへの喜びや誇りを感じるといった声が聞こえてきます。「これから世界と連携しながら障害者雇用を活性化していくんだ」と盛り上がりを見せていますね。

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ベネッセビジネスメイトの取り組みについて話す代表の茶谷さん

業務品質を高めながら、障害者が長く働ける仕組みを構築

奥平:ここからはベネッセビジネスメイトの取り組みについて教えてください。特例子会社はどんな事業を担っているのでしょう?

茶谷さん:ベネッセビジネスメイトでは、ベネッセグループのシェアードサービス(※)として、「業務サポート」「ファシリティサービス」「施設運営」の大きく3つの分野でサービスを展開しています。

  • シェアードサービスとは、グループ企業内の基幹業務を1カ所に集約し、グループ全体の経営効率と体質強化を図ること

ベネッセグループが入ったオフィスビルの清掃や、郵便物の仕分け・デリバリー、総務窓口の運営、データ加工や入力作業といった各種業務のサポートなど、仕事の内容は多岐にわたります。

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クリーンサービスを行うベネッセビジネスメイトの社員の皆さん。オフィス内の清掃や会議室のセッティングなどを行う
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業務サポートを行うベネッセビジネスメイトの社員

奥平:社員の皆さんの職場定着率はいかがでしょう。

茶谷さん:おかげさまで2005年の会社設立から80パーセント代を推移しており、2020年度には98パーセント、2021年度は97パーセントを達成しています。

奥平:それは驚異的な数字ですね。どのように障害のある社員の方が働きやすい環境を整えているのでしょうか?

茶谷さん:「楽ジョブ」という「仕事をラクにしよう、楽しくしよう」という取り組みに力を入れています。障害のある方が幅広く仕事に関われるように、複雑で難易度の高い業務も工程や設計から見直し、分解して、誰でも携われるシンプルな業務に変えていくことを推し進めています。

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ベネッセグループの東京本部ビル内にあるジョブサポートセンター
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ジョブサポートセンター内には手話の指文字表も掲示されている

例えば各種業務のサポートを行うジョブサポートセンターでの仕事は、以前は受付から納品まで1人で行う「業務完結型」でしたが、業務の工程を分割し、個人の特性・強みに合わせた「適正配置型」へ移行。各工程も1人だけが行うのではなく、チーム制にして急な依頼でも安心して対応できる体制につくり直しました。

図:業務の流れ
業務/受付|業務内容/お客様への提案、交渉など様々な折衝を行う。|担当/リーダークラス
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以下の工程を細分化
↓
業務/コピー・データ出力|業務内容/多種多様のコピーがあり、正確性が求められる。|担当/内部・聴覚・精神・発達
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業務/検品|業務内容/濃度・色合い・仕様をチェック。経験と集中力が必要|担当/内部・聴覚・精神・発達
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業務/後加工|業務内容/大量の折りや製本など複雑な作業。器用さ・持続性が必要。|担当/知的・精神
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業務/梱包・発送|業務内容/部数を確認しながら箱・袋に詰める作業。|担当/知的・精神
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業務/課金|業務内容/依頼票をシステム入力し請求書発行などの経理作業。|担当/知的・視覚
ジョブサポートセンターでの楽ジョブ事例。作業工程を細かく分けることで、さまざまな障害のある社員が関わることができる仕組みに。提供:株式会社ベネッセビジネスメイト

またオフィスビルの清掃では、米国のCDC(疾病防疫センター)のガイドラインに準拠した「チャレンジドハウスキーピングシステム」という衛生管理システムを導入し、障害の有無にかかわらず誰もが「ホスピタルグレード」の高い品質の清掃・衛生管理を行うことができる方法を取り入れました。一人一人の得意・苦手に合わせて作業を分担することで、体にかかる負担を少なくし、中重度の障害があっても、高齢化しても働き続けられる仕組みを構築しています。

奥平:なるほど、それが定着率の高さにつながるわけですね。そのほか、体制面などで長く働いてもらうための工夫はされていますか?

茶谷さん:はい、部門ごとに障害のある社員とその業務支援を行う指導員(※)のサポート体制を整えると共に、部門横断で定着支援を行う「人事定着推進課」のスタッフが横串で現場と連携しながらサポートを行っています。個人に合わせた業務の組み立てや創出の工夫だけでなく、研修の企画や運営のほかに、休日など業務時間外で不調を引き起こす社員も多いため、障害者就労支援センターなどの支援機関や医療機関との連携もしっかり取るようにしています。臨床心理士とも連携し、ちょっとした変化にも気付けるよう、面談の機会を多く持つようにしています。

  • 障害のある社員を育成し選出

あと、コロナ禍で特に力を入れているのが家庭との連携です。コロナ初期は自宅待機の期間を設けましたが、この期間中は定着支援の担当者や支援機関の方がご家族の方と密に連絡を取り合い、社員の状況を確認したり、必要に応じてアドバイスをしたりしていました。現在は各家庭に「壁新聞」を配付して、社員の活躍ぶりを共有。ご家族の方にも大変喜ばれています。

図:
業務・職場における⽀援
★通常のマネジメントは各所属部⾨、⽀援機関との窓⼝・研修運営などは定着推担当がサポート。
ベネッセビジネスメイト(所属部門上司/定着推進担当)←→産業医・臨床心理士←各機関、関係者との連携→支援機関(障害者職業センター就業・生活支援センターなど)←→医療機関←→学校、訓練校←生活における支援→家庭(家族・グループホーム・通勤寮)←→ベネッセビジネスメイト(所属部門上司/定着推進担当)。それぞれが連携しながら、障害のある社員を支援
障害のある社員に対する支援機関や家庭との情報共有と協力体制の図。提供:株式会社ベネッセビジネスメイト

奥平:生活支援に近いサポートまでしていらっしゃるんですね。企業でそこまで対応されているなんて驚きました。

茶谷さん:2016年に設立した就労継続支援A型事業所(※)の株式会社ベネッセソシアス(外部リンク)のノウハウを取り入れています。支援機関との協力関係がなければ障害のある社員一人一人を十分な形でサポートすることができないと実感していますね。

  • 一般企業で働くことが難しい障害や難病のある人に、就労の機会を提供すると共に、就労に関する知識や能力を向上するための訓練を行う支援事業者のこと。事業者と雇用契約を結ぶA型と、雇用契約を結ばず自分のペースで働けるB型の2種類がある

奥平:働きやすい職場づくりにおいて、支援機関と関係を築くことは重要なんですね。コロナ禍といえば、多くの企業の障害者雇用に影響を及ぼしましたが、ベネッセビジネスメイトではいかがでしたか?

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日本財団ワーキンググループメンバーの奥平さん

茶谷さん:コロナ禍の影響を受けたこの2年はテレワーク化が進み、ベネッセビジネスメイトが請け負っていた作業系の仕事も激減。在宅勤務の必要性や、データやデジタル技術を活用する業務のニーズが増え、仕事の難易度がアップしました。そこで課題となったのが、障害のある社員をサポートする指導員とチームリーダーの育成です。指導員とチームリーダーは、部門ごとに一人一人のスキルマップを作成し、基礎力・支援力・業務力など24項目を4段階でスコア化し、それぞれの強み・弱みを把握。そのスキルマップをもとに面談を行い、個別に育成計画を立て、業務ユニバーサル化やデジタル化に対応した知識やスキル、マインドをインプットするためのさまざまな研修を行いました。

その甲斐があって、コロナ禍での仕事のニーズにも対応することができ、組織の安定化を図ることができました。ベネッセビジネスメイトが担っていたパソコン業務の複雑な部分も障害のあるメンバーがRPA(※1)やVBA(※2)を開発して自動化し、より多くの障害のある社員が関われるような仕事を生み出しています。

  • 1.RPAとは「Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の略。ソフトウェアロボットによって業務を自動化できるシステムのこと
  • 2. VBAとは「Visual Basic for Applications(ビジュアルベーシック・フォー・アプリケーションズ)」の略。 Microsoft Officeシリーズに搭載されているアプリケーションソフトの拡張機能で、簡易なプログラムを記述して実行することで複雑な処理の自動化などを行なうことができるもの。また、プログラムを作るためのプログラミング言語のこと

奥平:さすが、教育を専門とするベネッセさんならではの合理的な育成の取り組みだなと感じました。

事例やノウハウを開示し、障害者が広く活躍できる社会に

奥平:ところでベネッセビジネスメイトの社員さんとベネッセグループの社員さんとの接点はあるのでしょうか。

岡田さん:コロナ以前はオフィスの清掃や郵便物のデリバリーなどを通じて日常的に接する機会がありました。また、新入社員には研修の一環としてベネッセビジネスメイトの仕事を体験する機会があり、新入社員からは障害のある社員のプロ意識の高い仕事ぶりに感銘を受けたといった声も多くもらいました。いまはリモートワークが主流になっていますので接する機会が減っていますが、もう少しグループ全体でコミュニケーションが図れるように努めたいと思います。

茶谷さん:ベネッセビジネスメイトの社員にとっても、グループ社員の方に「ありがとう」と言ってもらえることはとても励みになりますね。

奥平:先ほど案内していただいた、ベネッセビジネスメイトが運営されている社内カフェも素敵でした。

茶谷さん:2021年にオープンした「ふらっとcafe」ですね。現在、障害のある4人の社員がベーグルやハンドドリップコーヒーの提供を行っています。店名は、「いつでも気軽にふらっと立ち寄ってほしい」という思いと、「ここでは肩書きも障害の有無も関係なく“フラット”な関係で過ごしてほしい」という願いを込めて、ベネッセビジネスメイトの社員が名付けました。

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本社ビル内にある「ふらっとcafe」。昼食に訪れた社員(左)とコミュニケーションを交わすベネッセビジネスメイトの社員(右)
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ベネッセビジネスメイトの社員たちの思いが込められた「ふらっとcafe」のロゴ

奥平:ベネッセビジネスメイトのコーポレートサイトではこれまでの障害者雇用の取り組みやノウハウを「TAMATEBAKO(玉手箱)」(外部リンク)というメニュー名で公開されていますね。

茶谷さん:はい。おかげさまで企業や学校、就労移行支援施設など、職場見学のお問い合わせを数多くいただいています。私たちが挑戦してきたことを皆さんに共有することで、日本全体の障害者雇用が進み、一人でも多くの人が活躍できる場所を増やせたらという思いから、TAMATEBAKOには失敗も含めて全てさらけ出しています。企業秘密は一切ありません(笑)。

奥平:障害者の離職を防ぐために悩んでいる企業は多いので、参考になることがたくさんあると思います。

茶谷さん:これからも事例やノウハウを惜しみなく公開し、障害者雇用の未来を育てる仲間を増やし続けていくつもりです。

奥平:頼もしい限りです!本日はありがとうございました。

撮影:十河英三郎

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