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【障害とビジネスの新しい関係】雇用とビジネスの両面から「障害」のない社会に。PwC Japanグループが推進するI&D

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PwC Japanグループの皆さんと日本財団ワーキンググループのメンバー
この記事のPOINT!
  • PwC Japanグループでは、アスリートの競技生活と職業生活の2つのキャリア形成を支援
  • 障害のある社員自身がモデルとなり、リーダーも務めながら障害分野におけるプロダクト開発も展開
  • ビジネスチャンスをつかむと共に、雇用とプロダクト開発の両面から「障害」のない社会を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

いまや企業が持続的に成長し続ける上で欠かせない要素とも言えるダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I※1)。その取り組みと言えば、多くの人が女性の活躍、LGBTQ(※2)や障害者の雇用といった多様な人材を受け入れ、能力が発揮できる組織づくりを思い浮かべるだろう。しかし、サービスや商品作りにおいてもD&Iの視点は重要だ。例えば障害者やその友人、家族を合わせた市場規模(購買力)は13兆円とも言われている。

  • 1.人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、誰もが活躍できる社会づくり
  • 2.レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれたときに自身の性別に違和感がある)、クエスチョニング(自身の性別、好きになる相手の性別が分からない)の英語の頭文字を取った性的少数者の総称

世界156カ国、29万5,000人以上のグローバルネットワークを持つ「PwC」(外部リンク)では、多くの企業が抱える経営課題を解消するべく、監査や税務、コンサルティングサービスなどを提供している。

その日本におけるメンバーファーム(※)の総称であるPwC Japanグループ(外部リンク)では、さまざまな領域のプロフェッショナルが連携しながら多岐にわたる業界のクライアントを支援。近年では特にI&Dに力を入れており、「障害」に焦点を当てた新規事業の開発にも力を入れている。

  • グローバルネットワークを形成する独立した各法人

今回はPwC Japan合同会社の伊藤翔子(いとう・しょうこ)さん、障害当事者である北沢洋平(きたざわ・ようへい)さん、菊池隆朗(きくち・たかあき)さんに、日本財団ワーキンググループ(※)のメンバーが話を聞いた。

  • 日本財団において、障害者の社会参加を加速するために調査や計画を推進するメンバー

障害者アスリートの競技活動と職業生活を支援

奥平:日本財団ワーキンググループの奥平真砂子(おくひら・まさこ)です。早速ですが、PwCではD&Iの取り組みを「I&D」と表記されるのには、どのような意味があるのでしょうか?

伊藤さん:ダイバーシティ(多様性)が本来の力を発揮するためには、インクルージョン(包括)がより重要であるという考えから、取り組みの名称をPwC全体で、D&IからI&Dに変えました。単に異なる価値観やスキルを持った人がただ寄り集まっている状態では意味がなく、互いに認め合い、それぞれの個性や強みを発揮できる環境をつくることが重要だと考えています。

奥平:なるほど。では、PwC Japanグループの特徴的な障害者雇用の取り組みについてお聞かせください。

菊池:私たちは、さまざまな障害のあるメンバーがその特性を生かして活躍できる場を構築しています。障害者アスリートの採用・支援プログラム「Challenged Athlete Program(チャレンジド・アスリート・プログラム)」を2009年から導入し、2016年にはアウトソース可能な業務を請け負う障害のある社内スタッフで構成した「Office Support Team(オフィス・サポート・チーム)」を立ち上げました。この2つが大きな軸となっています。

以来、障害者雇用が積極的に進み、現在(2022年6月時点)はアスリート枠で採用された11名を含め、110名以上の障害のある社員が働いています。私自身も車いすバスケットボール選手として2016年に入社し、競技活動を支援してもらっています。

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Challenged Athlete Programについて説明する菊池さん

奥平:Challenged Athlete Programについて、もう少し詳しく聞かせていただけますか?

菊池:障害者アスリートが、仕事をしながらアスリートとしても活動をするのはとても困難です。そこでこのプログラムでは、PwC Japanグループの職員が大会でのアスリート応援企画を実施するなど、障害者を直接知る機会や関わる機会を増やし、さらには一緒に働く環境づくりや、社員一人一人のI&Dに対する理解と意識向上につなげています。

奥平:障害者アスリートの方と一般社員の方が直接触れ合う機会もあるのですか?

菊池:日常業務でのやりとりのほか、フリーアドレス制のオフィスなのでいろいろな部署の方と接する機会があります。加えて、小学校・中学校を対象に車いすバスケットボール体験会を積極的に行っているのですが、社内向けにも体験会を開催しています。親子で参加してくれる方もたくさんいらっしゃるんですよ。

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Challenged Athlete Programの一環で、中学に訪問し行われた車いすバスケットボール体験イベントの様子

奥平:そうなんですね!Challenged Athlete Programでは、競技活動と職業生活、2つのキャリア形成を同時に進める「デュアルキャリア育成」に取り組まれているとも伺ったのですが、具体的にはどのようなことをされているのでしょう?

菊池:障害者アスリートがスポーツとビジネス、両方に関わる機会と場をつくり、長期的な雇用につなげることを重視しています。例えば私の場合、入社当初は競技と会社での業務が同じくらいのボリュームでしたが、年齢と共に業務の割合が増え、いまは業務をメインにキャリアを積んでいます。こんな風に、一人一人の意欲やニーズに応じて、競技から業務へ柔軟にシフトできるようプログラムを展開しています。他にも、出社は月に1度、週に数日など、所属する部署の上司と相談しながら柔軟に働き方が決められるようになっています。

奥平:一人一人のキャリアや希望に合わせて働き方が選べたり、変えられたりするのはいいことですね。ちなみにコロナ以前からリモートワークを取り入れているそうですが、これには何か理由があるのですか?

伊藤:障害のある社員に対して多様な働き方の選択肢を用意することで、仕事を通じての自己実現や職業的な自立を図るといった大きな意義を持つという考えからです。また、自分が暮らす地域に仕事がないなど、環境が原因で働くことを諦めている障害のある方々へ雇用機会を提供することで、地方創生にもつなげたいと考えています。

障害のある当事者がリードするプロダクト開発

奥平:次に北沢さん、新たに立ち上げられたというI&Dの課題をデジタルで解決するプロジェクト(I&Dプロジェクト)についてお聞かせください。

北沢:はい。私は筋ジストロフィー(※)なのですが、このI&Dプロジェクトは、重度障害のある私自身がモデルとなり、普段の暮らしや社会の中で感じる課題についてデジタル技術を使って解決し、社会的生活の質を上げるためのプロダクトを作り、商品化することを目的としています。

  • 筋肉の筋線維の壊死、再生を主な病変とする遺伝性筋疾患の総称。国が指定する難病の1つ
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I&Dプロジェクトについて説明する北沢さん。取材にはリモートで参加

奥平:具体的にどんなデジタル技術を用いるのでしょう?

伊藤:現在は、AI、VRなどを候補に挙げて、市場調査を中心にリサーチをしている段階です。グループ全体で積極的に障害者雇用に取り組んでいることもあり、「キャリア形成」と「障害」に関連したプロダクトができないかと進めています。

奥平:まだ開発中の段階なのですね。プロジェクトメンバーはどのように構成されているのでしょう?

伊藤:北沢、菊池を含め、障害者アスリートから5名、私を含む、新しいプロダクトやビジネスモデルなどの開発を専門とする「グローバルイノベーションファクトリー」チームから4名を合わせた計9名で構成しています。北沢と菊池はプロジェクトマネージャーを務め、アイデアの創出や社内での報告会ではファシリテーターを行うなど、さまざまな場面で活躍しています。

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I&Dプロジェクトについて説明する伊藤さん

奥平:I&Dプロジェクトを進める上で、課題や苦労されている点はありますか?

菊池:2021年の6月にこのプロジェクトを立ち上げたのですが、コロナ禍の影響もありほとんど対面でミーティングをすることができず、チーム内でお互いを理解し、関係を構築するのにとても時間がかかりましたね。特に障害のある社員の特性や業務に取り組む上でのニーズはそれぞれ大きく違うため、実際に会って話してみないと分かりづらいことも多々あって……。今も定期的にオンラインでミーティングの場を持ちながら、お互いの理解を深め合いつつプロダクト開発に取り組んでいます。

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I&Dプロジェクトチームのミーティングの様子

奥平:早く世の中が落ち着いて、不自由なく対面でミーティングできるようになってほしいものですね。ところで、プロジェクトを立ち上げたことで、北沢さん自身に何か変化は起こりましたか?

北沢:私は電動車いすサッカーの選手として、これまでは競技中心の生活をしていました。ですが、I&Dプロジェクトのリーダーに抜擢され、自分の可能性を広げるチャンスができたという喜びがあります。仕事に対する責任感も増しました。コロナ禍で少しネガティブになっていたところもあったので、新しい目標を持つことができてうれしいです。

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PwC Japanグループで電動車いすサッカーの選手として活躍する北沢さん

奥平:他の社員の方たちからはどんな反応がありましたか?

伊藤:プロジェクトのことを社内報で取り上げたところ、たくさんの関心を寄せていただきました。私自身も、北沢や菊池と共に仕事に取り組むうちに、自然と彼らが「障害者」という意識はなくなり、I&Dとはこういうことなんだというポジティブな発見がありました。

奥平:素晴らしいですね。では、I&Dプロジェクトの要となる北沢さんの今後の目標をお聞かせください。

北沢:このプロジェクトを通じて、障害の有無にかかわらず、同じように仕事ができ活躍できる社会を創出したいですね。

「障害」から生まれる新たなビジネス

奥平:先ほどお話に出た伊藤さんが所属するグローバルイノベーションファクトリーについても教えてください。これまでコンサルティングや会計監査などを事業として行ってきたPwC Japanグループが、新しいプロダクトの開発に取り組むことは大きなチャレンジだと思うのですが、どんな背景があったのでしょうか?

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グローバルイノベーションファクトリーの取り組みについて質問する奥平さん

伊藤:デジタル化が進む社会において、既存のサービス以外にも新たな価値を提供できないかという思いから立ち上げられたのがグローバルイノベーションファクトリーです。具体的には、グループ内各企業のクライアントから出た声や社会のニーズを収集・分析し、それに応えるための新しいプロダクトやサービスを開発することを目指しています。国内外のスタートアップ、先進的企業、大学、NPOなどとも連携し、これまでに税務申告支援ツールや、健康増進支援のプラットフォームなどを開発しています。

奥平:I&Dプロジェクトで取り組まれている障害分野には、ビジネスの可能性を感じていらっしゃいますか?

伊藤:そうですね、グローバルな視点で見てもこれから注目すべき分野だと思っています。ビジネス市場において障害はまだまだ未開拓な分野ですので、ビジネスチャンスは十分にあると。障害当事者及び関係人口も含めると潜在的なマーケットの可能性は大きいと考えています。そのため、エンドユーザーの想定も障害当事者から周囲の関係者まで含めて広域に検討をしています。

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ビジネスにおける障害分野の可能性について語るPwC Japanグループの皆さん

奥平:私も障害にはビジネスチャンスがあると常々思ってきましたし、これから期待される分野だと思います。個人的には、これから障害分野に取り組もうと考えている企業に向けて、御社のコンサルティングの強みが活かせるのではと感じました。

伊藤:そうですね。まずは私たちが、障害の有無に関係なく「誰もが活躍できる組織」をつくることができるということを証明したいですね。そのためにはI&Dプロジェクトを成功させ、実績を積むことが重要だと考えています。そして、障害者雇用が当たり前になり、ゆくゆくは「障害者雇用」という言葉自体がなくなるような社会を目指したいですね。

奥平:これからも期待しています。今日はありがとうございました。

写真:十河英三郎