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東京レインボープライドが向かう、LGBTQなど性的マイノリティだけじゃない「誰もが」生きやすい社会

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東京レインボープライド共同代表理事の杉山文野さん(左)と山田なつみさん(右)。2022年4月〜6月にかけて開催されたイベントには女装パフォーマー、ライターとしても活躍するブルボンヌさん(中央)も参加
この記事のPOINT!
  • ダイバーシティー(多様性)への理解は広がってきたが、インクルージョン(平等性)が不足している
  • 東京レインボープライドでは「らしく、たのしく、ほこらしく」をモットーに、「自分らしくいる」ことの大切さを発信
  • 法整備等を後押しし、LGBTQなどの性的マイノリティに限らず「誰もが」生きやすい社会の実現を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

2022年6月15日、東京都議会で同性愛者、トランスジェンダー(自身の性別に違和感がある人)といった性的マイノリティのカップルの関係を公的に認める「東京都パートナーシップ宣誓制度」(外部リンク)を盛り込んだ改正人権尊重条例が可決された。

11月1日より運用が開始(届出受付は10月11日より開始予定)される同制度の対象となるのは、事実婚を含め配偶者のいない18歳以上の成人同士で、双方もしくは一方が都内在住か在勤・在学する人たち。宣誓をしたカップルには2人の名前が記載された受理証明書を発行され、希望すれば子どもの名前も記載される。

また受理証明書の活用については、都営住宅への入居申し込みが可能となるほか、現時点(2022年8月)では都民向けサービス事業においての活用、都内区市町村との証明書の相互活用、民間事業者の各種サービスや従業員の福利厚生での活用などが検討されている。

しかし、法律等により国が対象者を規定している事業は対象外となり、同性婚が認められたわけではなく、パートナーの資産相続や医療措置の同意など、異性婚カップルと同等の権利を得ることはまだまだ難しい。

今回は、毎年4月に東京・代々木公園で性的マイノリティへの理解を推進するイベント「東京レインボープライド プライドパレード&プライドフェスティバル」をはじめする各種イベントを開催し、すべての人が「より自分らしく」生きられる社会の実現を目指して活動する特定非営利活動法人東京レインボープライド(外部リンク)の共同代表理事である、杉山文野(すぎやま・ふみの)さんと山田(やまだ)なつみさんにお話を伺った。

SDGs(※1)が世界の潮流となり、ダイバーシティ&インクルージョン(※2)の取り組みが広がる中で、誰にも公平な社会を実現するための課題とは何か?

  • 1.「Sustainable Development Goals」の略。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標
  • 2.人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、誰もが活躍できる社会づくり

「自分らしく」いることが難しい社会

「はじめて東京レインボープライドに参加したのは2012 年。友人に誘われて、ボランティアとして加わりました。驚いたのは、ボランティア向けの事前説明会で『生きづらい』と話していた当事者の方たちが、イベント当日は、笑顔で生き生きとしていたことでした。最後に『今日一日だけは、自分らしくいられる日なんだよね』と言われ、日常に戻っていく彼らをみて、誰かに対し偏見や差別のある社会を変えたいと感じたんです」

2012年に初めて東京レインボープライドに参加したときのことを振り返る山田さん。彼女自身レズビアンではあるが、周りの理解もあり、困難に直面した経験はあまりなかった。しかし、他の当事者たちの言葉を耳にして危機感を抱いたという。

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2019年に東京レインボープライドの共同代表理事に就任した山田さん

同じく共同代表理事を務めるトランスジェンダーの杉山さんは、冒頭の「東京都パートナーシップ宣誓制度」の創設にも尽力し、渋谷区の同性パートナーシップ制度制定に関わった人物として知られる。

「活動家と紹介されることが多いのですが、僕は僕ですと言っていたら活動家と言われるようになっていた」という杉山さんは、これまで感じた苦しみを次のように語る。

「まず大変だったのは、子どもの頃に『こうなりたい』と思えるロールモデル的な大人がいなくて、自分がどんな大人になればいいのか分からないことでした。進学していじめの対象となり、自分自身のことを『いけない存在なんだ』と感じたこともあります。また就職活動でも、履歴書はどちらの性別に◯をすればいいか分からなかったし、この先もパートナーに何かあったとしても、婚姻関係がないことから医療の同意すらすることができないなど、まだまだ悩みは多いですね」

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東京レインボープライドの共同代表理事を務めながら、多様性に関する講演や企業研修など多岐にわたって活動する杉山さん

お2人とも「自分らしくありたい」「自分らしく生きられる社会をつくりたい」という想いが活動の根底にある。そして、これは性的マイノリティの人たちに限った話ではないと、杉山さんは言う。

「男らしさや女らしさ、父親はこうするもの、母親はこうあるべきものといった従来からの価値観に縛られて、息苦しさを感じながら生きている人って多いと思うんです」

自分らしくあれるパレードが、社会を変えていく

東京で、日本で初めてのプライドパレードが開催されたのは1994年8月のこと。2011年には任意団体・東京レインボープライドが発足し、2012 年からは東京・代々木公園で毎年イベントが開催されるようになった(2020年・2021年はコロナ禍のためオンラインイベントとして開催)。

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2022年4月22日〜24日に開催された「プライドフェスティバル」の様子。3日間で約6万9,000人が参加した

東京レインボープライドでは3つのミッションを掲げている。

  • 可視化:多様な性が存在することをすべての人に見えるようにし、理解を促進する。
  • 場づくり:多様なセクシュアリティの人たちの交流が生まれる場をつくり、全国へ、世界へ、未来へと、LGBTQコミュニティをつなげる。
  • 課題の解消:LGBTQ(※)に対する差別や課題を解消し、Happy!な社会の実現に向け行動する。
  • レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれた時から自身の性別に違和感がある)、クエスチョニング(自身の性別、好きになる相手の性別が分からない)の英語の頭文字を取った性的少数者の総称

開催当初の参加者は4,500人程度だったが、新型コロナウイルスが感染拡大する前の2019年には20万人を超える人たちが参加。40倍以上の人たちが集まった理由を杉山さんはこう語る。

「当初の参加者は、性的マイノリティ当事者の方が多かったのですが、最近ではアライ(当事者支援しようとする人)の方がずいぶんと増えました。お子さん連れで参加されるご家族の方などもいらっしゃいますし、最近は会社ぐるみで参加される方も多いです。誰もが今の社会に何らかの違和感や生きづらさを感じているところもあるんじゃないでしょうか。同時に、性的マイノリティに対する認知や理解が広がっているんだと、強く感じます。はじめの頃は皆さん『LGBT? 何ですか、それ?』みたいな反応でしたから、時代の変化を感じますね」

2022年は「繋がる、見える、変わる」をテーマに、4月22日から6月26日まで約2カ月にわたってイベントを展開。4月には恒例の「プライドパレード&プライドフェスティバル」が3年ぶりにリアルで開催され、6月のプライドマンス(※)には企業の人事やダイバーシティ担当者等向けの「プライドカンファレンス」、一般の方向けのオンラインイベント「プライドトークライブ」が実施された。

  • 性的マイノリティへの理解や知識を促進する期間。日本やアメリカなど世界各地でLGBTQの権利を啓発する活動・イベントが実施される
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2022年の「プライドフェスティバル」より、4月22日の初日に開催されたシンポジウム「LGBTQと法整備 ~同性婚、差別禁止法、性同一性障害特例法の現状と課題~」の様子
写真:クロージングのステージ上に立つ出演アーティストたち
2022年の「プライドフェスティバル」では豪華アーティストによるさまざまなステージを展開
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2022年の「プライドパレード」の様子。先頭には杉山さん(右)と山田さん(中央)の姿も
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2022年の「プライドパレード」には、タレントのryuchellさん(右)、ベビーヴァギーさん(左)、女装パフォーマー、ライターのブルボンヌさん(中央)の姿も

「今年のイベントテーマに関しては、事前打ち合わせの中で一番多く出てきたキーワードが『繋がる』『見える』『変わる』の3つだったんです。私たちは、さまざまな繋がりの中で生きています。コロナ禍で社会が変わり、人と人との繋がりが薄れる一方で新しい繋がり方が生まれる中で見えてきた大切なこと、すべての人が安心して安全に生きていける世界に変わっていく必要があるという想いを、皆さんと分かち合えたらと思いました」

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2022年6月25日~26日に開催された「プライドトークライブ」の様子

誰もが公平に生きられる法律をつくる空気をつくる

東京レインボープライドの3つのミッションのうち、「可視化」「場づくり」については、効果が見えてきたため、今後は「課題の解決」に注力したいと杉山さんは話す。

「日本国憲法では『すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。(以下省略)』(14条1項)と言われていますが、現在の日本では同性同士は、好きな人と法のもとでは結婚もできませんし、治療や手術する際に必要な医療行為の同意もできません。それって公平ではないし、LGBTQはすべての国民に含まれないの?となってしまいます。ダイバーシティ&インクルージョンという言葉は皆さんもよく耳にされるかと思いますが、個人的な考えとしては、多様性を認め合うダイバーシティは少しづつ進んでいると思うんです。でも、社会的に包摂するインクルージョンが圧倒的に足りていない。結婚や教育、就職、あらゆる面でみんなと同じように権利が保障される社会にする必要があると考えています。そのためにはより多くの人から理解と共感を得ねばなりません。私たちの活動を通じて法律や制度をつくる空気をつくっていけたらと考えています」

誰にとっても「らしく、たのしく、ほこらしく」生きられる公平な社会づくりのために、私たち一人一人ができることとは何だろう?

「ぜひ、東京レインボープライドのイベントやTRP公式YouTubeなどで配信されるオンラインセミナーなどにも気軽に参加してほしいです。TRPスクールという『アライ』や『同性婚』などのテーマを分かりやすく解説したコンテンツも用意しています。そして、そこで皆さんが実際に感じたことを、ぜひ周りの人と話し合ってもらえるとうれしいです。これだけでも、あなたの近くにいる性的マイノリティ当事者の方は『自分には味方がいる』と安心できると思うんです」と山田さん。

杉山さんも「まずは、自分がアライである」と発信することから始めてほしいと語る。

「自分が『アライ』と言ってもいいのか……など、公言することにためらう人がいるのですが、セクシュアリティが目に見えにくいように、アライの人の存在も目に見えにくいです。普段から、自分が味方であるという『ウェルカミングアウト』をして、アライであることを可視化することはとても大切なことだと思います。関連するニュースの記事をSNSでシェアするでもいいですし、こんな話を聞いたよと話題にするのでもいい。一人の頑張りには限りがあります。でも、その仲間が100人、1,000人って増えていくことで社会を変えていけると思うんです」

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誰にとっても生きやすい社会づくりを目指す、杉山文野さん(右)と山田なつみさん

頭の中では、多くの人が多様性の大切さについて受け入れていることだろう。それももちろん大切だが、理解だけでなく行動が伴わなければ、社会はなかなか変わらない。誰もが同じ権利を経て、生きやすい社会にしていくために、あなたのできる行動から始めてみてほしい。

写真提供:特定非営利活動法人 東京レインボープライド

〈プロフィール〉

杉山文野(すぎやま・ふみの)

フェンシング元女子日本代表。早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了。日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ制度制定に関わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。現在は子育てにも奮闘中。
特定非営利活動法人東京レインボープライド 公式サイト(外部リンク)

山田なつみ(やまだ・なつみ)

2013 年よりNPO 法人東京レインボープライドに運営スタッフとして活動を開始し、2019 年10 月に共同代表理事に就任。普段は会社員として勤務している。

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。