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発達障害者同士で結婚。アスペルガー症候群の妻が語る「障害」と上手に付き合うためのルール
- 西出弥加さんはアスペルガー症候群(※)。人との適切な距離がつかめず、生きづらさを抱えていた
- 同じ発達障害のある夫と結婚。互いの「障害」と上手に付き合うためのルールを設けた
- 「カップルとはちょっと違う」。だけど、お互いを補完し合う大事な関係を築いている
執筆:日本財団ジャーナル編集部
- ※ 社会性・コミュニケーション・想像力・共感性・イメージすることに困難を抱え、こだわりの強さ、感覚の過敏などを特徴とする、知能や言語の遅れがない障害。自閉スペクトラム症
「発達障害」は脳機能の発達が関係する障害で、障害の程度や年齢、生活環境などによっても症状はさまざま。他人とのコミュニケーションや対人関係を築くのが苦手な傾向にあり、その行動や態度は「自分勝手」「変わった人」「困った人」などと誤解されやすい。そのため、養育者が育児の悩みを抱えたり、本人が生きづらさを感じたりすることがある。
文部科学省が2012年に全国(岩手、宮城、福島の3県除く)の公立小・中学校の通常学級に在籍する児童生徒に実施した調査によると、全体の6.5パーセントに発達障害の疑いがみられた。また厚生労働省の「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」では、医師から発達障害と診断された人は48万1,000人にも上り、実数はそれ以上と予測される。
画家・グラフィックデザイナーとして活躍する西出弥加(にしで・さやか)さんと、訪問介護士として働く西出光(にしで・ひかる)は、発達障害者同士で結婚。互いが生きやすいよう少し変わった夫婦生活を送っている。
- ※ こちらの記事も参考に:ADHDの夫が語る。障害を受け入れて得た信頼とパートナー (別タブで開く)
今記事では、アスペルガー症候群の妻、弥加さんに。彼女が日々向き合う困難、これまで歩んできた中で見つけた自分らしい生き方や夫婦の在り方について話を伺った。
※この記事は、日本財団公式YouTubeチャンネル「ONEDAYs」の動画「【発達障害の夫婦①】デザイナーの妻に1日密着してみた | アスペルガー症候群」(外部リンク)を編集したものです。
「アスペルガーという名刺」を渡せるようになって楽になった
弥加さんは、自身の症状をイラストにして次のように説明する。
「人との距離が0か100になりがちで中間がないんです。『この人には10パーセントで対応するけど、この人には90パーセントを使う』、そうやって人との距離をコントロールしてる人がいますよね。でも、私は100か0。だから、大事な人が5人いたら500パーセントの力で関わってしまうんです。なので、とても疲れてしまうんです」
他者からは理解されにくいアスペルガー症候群、その原因は現在も特定されていない。
「体調不良は基本毎日です。自分がいて、その横にアスペルガーの自分がいる。自分が2人いる感じですね。アスペルガーの自分が『眠い』と言ったら寝ないといけないし、『起きたい』と言ったら起きないといけない……みたいな感覚で。逆らおうとするとものすごい体調不良になるんです」
「幼い頃から、自分の意思とは別に体を支配する存在がいた」と弥加さんは語る。その得体の知れない何かに「アスペルガー症候群」と診断が下ったのは27歳の時だった。
「診断名がとてもほしかった。体調不良といっても風邪ではないし、どう説明したらいいのか分からないまま。でも、今は『私はアスペルガーです』と、他人に名刺を渡せるようになった感じで楽になりました」
フリーランスのグラフィックデザイナーという職業は、「人とうまく話せなかったので、この道しかなかったのかも」と笑顔で話す。
「一番多い仕事の依頼が『ペットが亡くなったからそのペットを描いて』とか、『亡くなった人を動物に置き換えて自分なりに描いて』って言われることが多い。飾る絵というより人に寄り添う絵を描きたいというか。寂しいと思ったときに必ずそこにいる存在、みたいな絵を描きたいですね」
弥加さんは、以前会社員として働いていたが、とある理由で辞めることになった。
「少しの期間だけデザイン事務所にいました。部屋にラジオが流れるおしゃれなオフィスで。でも、その音が気になってしまって……。環境になじめませんでした」
発達障害の特徴として、聴覚が過敏、一度に複数の作業ができないなど、さまざまな症状が確認されている。
- ※ こちらの記事も参考に:不登校の子支える第三の居場所。「発達障害増え、学校の仕組みに限界」(別タブで開く)
少し変わった夫との共同生活
弥加さんには訪問介護士として働く西出光さんという夫がいる。実は光さんもまた注意欠陥・多動性障害(ADHD※)という発達障害の当事者だ
- ※ 発達年齢に比べて落ち着きがない、待てない、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった症状に特性がある
2人はSNSを通じて出会い、3年前に結婚した。弥加さんの部屋は光さんのための工夫がしてある。
例えば、キッチンの調味料入れ。光さんは「中身が見えないと“ない”」と認識してしまうため、全て透明のボトルに詰め替えた。また、トイレの棚には大量のトイレットペーパーが見えるように並べられている。光さんが大量に買ってしまったため、わざと一目で見える場所に並べたという。
2人とも他人とのコミュニケーションが苦手なゆえ、1週間で一緒にいる時間はたったの3時間。とても短いように思えるが、彼らはこの関係についてどう考えているのだろうか。
「お互いが楽なペース、楽な距離感でいるのが一番いいなと思っています。これまで、そういった感覚を理解し合えたのは弥加さんだけでした」と光さん。対して弥加さんは次のように話す。
「この関係が寂しいっていう感情はないですね。光を守るには結婚しかなかったんですよ。別に結婚じゃなくても、弟契約とか妹契約があったらそれでよかった。契約があれば扶養義務が発生するから、楽。義務じゃなくて権利だと『どこまで?』となってしまって……、そういう曖昧なのは得意じゃないんです。光くんにとって、私は『大事なお母さん』みたいな感じじゃないですかね?」
一緒に夕食を食べていても、特に会話はない。夕食を食べた後も2人は別行動だ。弥加さんは光さんについてこう話す。
「恋愛感情は持ってません。光に結婚したい人が今いないみたいなので、夫婦関係を続けています。よく光とは『旦那さんがほしいね』って話してるんですよ。私がお母さんで、光が息子。だから、もう1人、お父さん的な人がいたらいいねって」
光がネガティブな森の木を刈り取ってくれた
少し不思議な関係にも思える2人だが、強い信頼で結ばれている。弥加さんはイラストを用いて、光さんとの関係性について解説する。
「私はこれまで、否定の言葉をたくさん言われ続けてきた人生だったので、『できない』とか『無理』みたいな否定の種が、自分の心の中に埋まってしまいました。それが成長して、『お前には無理だ』っていう木になって、森になってしまった」
「でも、光くんに出会ってから、『大丈夫だよ』ってポジティブな言葉をもらえるようになったんです。こんなにいっぱいポジティブな言葉を与えてくれる人は初めてで。そして、育ってしまったネガティブな植物を『全部草刈りしよう』って頑張ってくれた。最終的には、ネガティブ森の木を1人で全部引っこ抜いてくれたんです」
「そして、『ポジティブの種も自分の足元に埋まっていた』ということが分かったのが、つい最近。光はそれに水やりもしてくれています。光が私の心に『もう大丈夫』って言ってくれた気がするんです」
「カップルとは、ちょっと違うんですけど……」と話しながら、弥加さんは涙を拭いた。
弥加さんと光さんの少し不思議にも思える夫婦生活では、各々が自身の障害を自覚し、お互いを補完し合っている。「障害と上手く付き合っていく」と決めた2人だから築くことができた最適の関係だ。
世の中には障害のある人だけでなく、多様な人が存在する。それぞれに困難を抱えながら精一杯生きている。みんなが生きやすい社会にするためには、「他者を思いやる気持ち」が大切なのだと、弥加さんの話を聞いて改めて感じた。
【発達障害の夫婦①】デザイナーの妻に1日密着してみた | アスペルガー症候群」(動画:外部リンク)
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