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早期発見が肝心。若者こそ知ってほしい認知症の予備知識

早期発見のため高齢者だけではなく、若者も認知症について知っておくべき
この記事のPOINT!
  • 認知症とは脳の機能が低下し、日常生活や仕事に支障をきたす状態を指す
  • 若年性認知症とは65歳未満で発症する認知症。高齢者に比べ、就労や家族の負担増が問題に
  • 認知症への理解を深め、周りの人の変化に敏感になることが支えにつながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

記憶や判断などを行う脳の認知機能が低下し、日常生活や仕事に支障をきたす状態を指す認知症。

認知症は加齢に伴って有病率が増えて、65歳以上の高齢者に多くみられます。しかし、65歳未満で発症する「若年性認知症」も、日本には3.57万人(※)いると推計されています。

若年性認知症の最も多い原因疾患は、高齢者と同じくアルツハイマー型認知症です。

そのアルツハイマー型認知症に2023年8月、新たな進展が。日本とアメリカの製薬会社が共同で開発した新薬の「レカネマブ」が日本国内で承認されました。

しかし、薬だけで認知症の問題が解決するわけではありません。家族や友人が認知症と診断されたとき、どのような社会支援があり、何をするべきなのでしょうか? また、早期発見のためには何ができるのでしょうか?

今回、NPO法人若年認知症サポートセンター(外部リンク)の理事長を務める宮永和夫(みやなが・かずお)さん、厚東知成(ことう・ともなり)さん、小野寺敦志(おのでら・あつし)さんに、若者にも知っておいてほしい認知症の概要や、必要なケアについて伺いました。

オンラインでお話を伺った宮永さん(左)、小野寺さん(中)、厚東さん(右)

物忘れだけではない認知症の症状

――認知症とは一体どのような病気なのでしょうか?

厚東さん(以下、敬称略):認知症とは総称で、脳に何らかの異常が起こることで認知機能が低下し、日常生活に支障をきたしている状態を指します。

認知症の原因となる病気はさまざまありますが、アミロイドβや異常リン酸化タウと呼ばれるタンパク質が脳に蓄積して、神経細胞が徐々に脱落し、脳萎縮が進行する「アルツハイマー型認知症」が若年性認知症全体の約5割を占めています。

――では、認知症の症状とはどういったものなのでしょうか?

厚東:一般的には物忘れ(記憶障害)の印象が強いと思いますが、それ以外にも注意力が低下したり、効率よく作業の段取りを組めなくなったり、時間や場所が分からなくなったりするなど、いろいろな症状があります。言葉や行動の障害、幻覚や運動障害から始まる認知症もあります。

イメージ:認知症の男性と女性

就労継続に困難を抱え、支援を必要とする人も

――認知症と若年性認知症には、何か違いはあるのでしょうか?

厚東:若年性認知症とは18歳~64歳と早期に発症する認知症のことを指します。老年期の認知症と症状は基本的に似ています。ただしアルツハイマー型認知症でいえば、物忘れだけでなく、空間を把握する力や言語を理解して使う力が目立って低下するなど、典型的でない症状を示すこともあります。

また高齢者と違って、まだ仕事を続けている、いわゆる現役世代で発症した場合に、それに伴った社会的な困難が浮き彫りになります。

まず挙げられるのが経済的な問題でしょう。若年性認知症では、病気が進むにつれて仕事の上での配慮が多く必要になり、ほとんどの方は収入が減ってしまいます。経済的支援は、若年性認知症と診断された方に対して、最初に取り組むべき課題です。

また、若年性認知症を発症後、2年半後には6割の方が退職しているというデータがあります。まだ働き続けたい方には、配置転換や業務の配慮、ジョブコーチ(※)の活用等によって就労可能な期間を伸ばしながら、退職後の活動やケアに備えていくことが支援の目標です。

――従業員が認知症になった場合、勤め先では何らかの支援を行ってくれるものでしょうか?

厚東:公務員は就業上の配慮を得られやすいと感じます。一般企業の場合だと、企業の規模や職種等によって支援の手厚さはさまざまだと思います。

小野寺さん(以下、敬称略):認知症の進行具合に合わせた業務を一般企業がその都度提供できるかどうかというと難しいでしょうね。近年はどこの企業も体力が減っています、特に中小企業の場合にはそれが顕著かなと思います。

ジョブコーチに相談をする男性
ジョブコーチ制度を活用するなど、働き方の変化を検討することが重要

――その他にはどのような問題があるのでしょうか?

厚東:若年性認知症では、ご家族への支援も欠かせません。例えば大黒柱だった父親が認知症を発症した場合、妻や子どもが代わって一家を経済的に支えなくてはいけません。同時に父母世代の介護が重なっていれば、妻が多重介護の状態に追いやられてしまうこともしばしばありますね。

宮永さん(以下、敬称略):また、子どもにも心理的負担がかかります。本来人生のロールモデルになるべき親が認知症になってしまうことで、非常に複雑な思いを抱えることになります。周りとは違う環境だからこそ誰にも相談できないということもあるでしょう。

また、子どもが親を介護しなくてはいけなくなり、学校に通えなくなるヤングケアラー(※)問題にもつながることがあります。

――では、若年性認知症と診断された場合、どのような支援を活用すればよいのでしょうか?

厚東:認知症は進行の度合いによって、生活や労働の能力が変化します。症状に合わせた働き方や、社会福祉制度の活用を検討してください。例えば、一般就労が難しくなれば、障害者雇用制度を利用することも考えられます。

また、働くこと自体が難しくなってきた場合には、休職と傷病手当金の申請を行うこともあります。医療面では自立支援医療制度(※)を利用することで、医療費の補助・減額が可能です。初診から6カ月以上の経過で精神保健福祉手帳、1年6カ月以上で障害年金の受給資格が得られます。

まずはこういった制度を知って活用し、経済的な負担感を少しでも軽くするといいでしょう。

  • 心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度

家族会や支援コーディネーターによる家族支援も重要

――家族への支援も必要になると思います。どのような支援があるのでしょうか?

厚東:同じ若年性認知症の家族を持つ人たちの「家族会」が持つ力は大きいと思います。

現在も関東では「若年性認知症家族会 彩星(ほし)の会」(外部リンク)が、関西では「大阪府若年認知症支援の会 愛都(アート)の会」(外部リンク)などが活動をしています。家族会に参加するとお互いに知識を交換したり、精神的な支えや絆を得たり、病気の進行を実際に見て聞いて理解したり、多くの経験が得られます。

また、診断されたばかりで、若年性認知症に対する備えがない本人・家族には、まず現状を伺い、今、何が必要なのかを一緒に考えてくれるワンストップの相談窓口があります。

それが各都道府県に一人以上は配置されている「若年性認知症支援コーディネーター」です。最初の全体的な相談を受けて、その人にとって重要な社会福祉制度や機関につなげます。地域でのインフォーマル(公的機関ではない)な取り組みも紹介してくれます。

まだ若年性認知症支援コーディネーターの人数が少ない点は課題ですが、若年性認知症と診断されたが、今後の生活がどうなっていくか全く分からずに不安だ、という方はまずご相談ください。初めての受診から診断後の生活まで、あらゆる場面で相談に乗ってくれます。

――家族の負担を軽減させるためにも、介護保険制度は利用できないのでしょうか?

宮永:認知症の場合、40歳以上であれば特定疾患として介護保険が利用可能です。市区町村が介護の必要度を確認し、基準を満たしていれば介護サービスが受けられるようになりますが、軽度の認知症の場合は使えないこともあるんです。

そのため、介護サービスが受けられるようになるのは、認知症の診断を受けてからおよそ4~5年かかるといわれています。

新薬「レカネマブ」に抱く期待、抱える課題

――アルツハイマー型認知症の新薬としてレカネマブが2023年8月に日本国内で承認されました。この薬の特徴についてお聞かせください。

厚東:これまで認知症に使用されている薬は、基本的に神経細胞が脱落すること自体を抑制するわけではなく、今ある神経細胞の働きを促進させるというものでした。

対してレカネマブはアミロイドβについての抗体薬で、アルツハイマー型認知症の発症に深く関わっているアミロイドβを除去することで、病状の進行を遅らせる薬になっています。

従来薬とレカネマブの違いを表したイラスト。従来薬は神経細胞の働きを促進させるのに対して、レカネマブはアミロイドβを除去する
従来薬とレカネマブの違い

――実際にレカネマブの効果は出ているのでしょうか?

厚東:軽度のアルツハイマー型認知症、またその前段階の方に投与したところ、プラセボ(※)と比較して、全般臨床症状(CDR-SBという指標での評価)の悪化が約27パーセント抑制されたという結果が出ています。

しかし、そもそもアミロイドβが過剰に生成されるのを抑えるわけではありません。根本治療薬ではなく、あくまで進行を遅らせる薬と考えてください。

  • 本物の薬と見分けがつかない、有効成分の入っていない偽薬のこと。プラセボでも服用することで病気の症状が改善することがあるため、臨床試験では実薬服用者とプラセボ服用者の両者を比較することにより、実薬の効果を明確に評価することができる

――レカネマブの使用にあたり、抱えている課題などはありますか?

厚東:レカネマブの適用を判断するにあたって、使用前には検査が必要です。脳内に実際にアミロイドβが蓄積しているかどうか調べるために、アミロイドPET検査や髄液検査が必須なのですが、アミロイドPETは検査費用が高額で、髄液検査は体への負荷がかかる場合があります。

またレカネマブは2週間に1回、約1時間かけて点滴しますので、繰り返しの通院が必要になります。こうした負担に対して、レカネマブの効果が見合うものになるか注目しています。

また、レカネマブを使用した患者の一定数には、微小な脳出血・脳浮腫が起こることが知られています。治療の初期に見られることが多く、頭痛などを引き起こすことがありますが、大半は無症状で時間とともに回復が見られます。

しかし、0.6〜0.8パーセントの確率で、けいれんや意識障害など生命を脅かす重篤な副作用を起こすとされ、頭部MRI検査を治療の開始前と治療中に定期的に行います。

個人的には、病態の本筋に踏み込んだ薬ができたことは大きな前進だと思います。今後の展開に期待です。

初期症状を知り、自分も周りも変化に敏感になり、助け合うことが大切

――誰もが早期に「若年性認知症かもしれない」と気付けるようにするためには、どのような心掛けが必要なのでしょうか?

厚東:若年性認知症は、記憶障害や物忘れから始まるとは限りません。ですから、記憶障害以外の症状にも注目してください。

例えば、最近仕事の段取りが悪くなった、料理など家事の手際が悪くなった、やる気が起きない、うつのような症状が出てきたなどは、後から振り返って認知症の始まりだったと分かることがあります。

イメージ:医者に相談する男性
認知症は早期発見が重要

――若年性認知症の早期発見ができる人が増えるよう、読者一人一人ができることは何でしょうか?

厚東:ご家族やご友人、身近な方に対して抱いた違和感を見逃さないことが大事だと思います。また認知症は「あまり自覚がない」というイメージを持たれがちですが、実際には初期の認知症で、自分自身でも「何かがおかしいかも……」と感じていることが多いものです。

ですから周りの方は「疲れているだけだよ」と片付けるのではなく、「認知症の初期症状の可能性があるかも」と疑問を持った場合には、早い段階でかかりつけ医や、精神科・心療内科等の医師に相談することを勧めてあげてください。

多くの人がアルツハイマー型認知症をはじめとして、さまざまなタイプの認知症の知識を得ることは大切です。

取材後記

認知症にも、記憶障害・物忘れ以外の症状があるのだと知ることができた取材となりました。こうした記事を通して知識を再確認することは、当事者やその家族だけでなく身近な人のためにできることを増やす第一歩になると思います。

まだ根本的な治療が見つからない難しい病気ではあるものの、周りの理解と協力があれば助けになることもあるはず。まずは周りの人の変化に敏感になり「最近どう?」と声をかけてみることから始めてみませんか。

特定非営利活動法人 若年認知症サポートセンター公式サイト(外部リンク)

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