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外遊びが減少。多世代が「遊び」でつながる地域のコミュニティ拠点としての「冒険遊び場」が必要な理由とは?

泥んこになって遊ぶ子どもたち。画像提供:NPO法人PLAYTANK
この記事のPOINT!
  • 外で2時間以上遊んでいる子どもはわずか9パーセント。子どもの外遊び離れが加速
  • 外遊びで得られる知恵や経験は、子どもたちの「未来を創る力」を育む
  • 地域の子どもと保護者を優しく見守る寛容な気持ちが、日本の未来を変える

取材:日本財団ジャーナル編集部

外で遊ぶ子どもが減りつつあります。

遊具の撤去やボール遊びが禁止されている公園が増加し、中には「子どもの声がうるさい」という苦情を受けて廃止される公園もあります。また、子どもが外に出かけたとしてもゲームやスマホを手に楽しんだり、商業施設内のプレイルームで遊んだりするなど、昔と比べて外遊びのあり方自体に変化がみられます。

そんな「外遊び離れ」は、子どもの健康や成長にどのような影響を与えているのでしょうか?

今回は、子どもが暮らす「まち」のどこででも、自由な外遊びができるようになることを目標に「冒険遊び場(※)」づくりに取り組んでいる、NPO法人PLAYTANK(外部リンク)代表の中川奈緒美(なかがわ・なおみ)さんに、子どもが健やかに育つ上で外遊びが果たす役割や、子どもの外遊び離れを防ぐために私たちにできることについて、お話を伺いました。

取材に応じる中川さん。取材はPLAYTANKが運営するプレーパーク「練馬区立こどもの森」(外部リンク)で行った。写真提供:NPO法人PLAYTANK
  • 地域の大人が地域の子どものためにつくる、禁止事項が少ない、子どもが自由に遊べる場。現在日本全国に350カ所あり、多くは市民活動だが、自治体事業も増えている。別名「プレーパーク」とも呼ばれる。

探求心、実行力、問題解決力の低下——外遊び離れがもたらす子どもへの影響

――近年、子どもの外遊び離れが加速していると聞きます。実際に外で遊ぶ子どもは減っているのでしょうか?

中川さん(以下、敬称略):はい、減っています。PLAYTANKが2018年に行ったアンケート調査では、親世代、シニア世代ともに「子どもの頃、平日にどれくらい外で遊んでいましたか?」という質問に対して、2〜3時間という回答が一番多かったのですが、子どもに一番多い回答は0〜30分になっていました。その後、この状況が改善したとは思えません。

この結果は、小学校が土曜日・日曜日休みになって、平日の授業時間が長くなったことが一番の理由ですが、他にも習い事や塾のスケジュールが合わなくて、一緒に遊ぶ友だちがいない、室内でも一人でも楽しめるゲームやYouTube等の登場で、遊びの選択肢が広がった、治安や交通状況の悪化から未就学児だけでは外で遊べないなど、理由はいくつもあります。

またこの何年かは、熱中症予防のため、保育園、学校などの施設で、夏期は外で遊べない日が増えました。こうした気候変化も、子どもの外遊び離れが加速する一因です。

円グラフ:子ども、親世代、シニア世代に「子どものころ、平日にどれくらい外で遊んでいましたか?」と聞いた結果。

■子ども
・0~30分は35パーセント
・30分~1時間は29パーセント
・1~2時間は28パーセント
・2~3時間は9パーセント

■親世代
・0~30分は2パーセント
・30分~1時間は7パーセント
・1~2時間は37パーセント
・2~3時間は47パーセント
・3~4時間は6パーセント
・4~5時間は1パーセント

■シニア世代
・0~30分は1パーセント
・30分~1時間は2パーセント
・1~2時間は14パーセント
・2~3時間は44パーセント
・3~4時間は28パーセント
・4~5時間は8パーセント
・5時間以上は2パーセント

男性イラスト「シニア世代は82%、親世代は54%、平日も外で2時間以上遊んでいたんだね」

女性イラスト「今の子どもは9%…。確かにうちの子も、平日は習い事がけっこうあるからかななあ…」
2018年にPLAYTANKが約300人を対象に行なった外遊びに関するアンケート結果。平日2時間以上外で遊ぶ子どもはわずか9パーセント、親世代やシニア世代と比べると圧倒的に少ない。画像提供:NPO法人PLAYTANK

――外で遊ぶ時間が減ったことで、子どもの成長にどのような影響が出てきているのでしょうか?

中川:子どもの体と心の成長への影響は確実にあると思います。特に子どもの「生きる力」が、弱くなっているように感じます。「非認知能力(※)」ともいわれていますね。

非認知能力とは、何が起こるか分からない未来の社会を、自分で切り開いていくために必要な力で、これは誰かに教えてもらって身に付くものではありません。子ども自身が、主体的に成功と失敗を積み重ねることで蓄えていく力なのですが、その大切な機会を損失してしまっているのが現状です。

かつては、外遊びで異なる年齢の子どもが一緒に遊んだり、時には仲違いや、失敗を重ねたり、生きていく力を遊びながら学んでいく環境が当たり前だったんです。

遊んでいる子どもから飛び出す「これなんだ?」「どうしよう?」といった声は、探求や思考を。「あ! いいこと思いついた!」は、創造力や臨機応変な対応が身に付く合図だと私たちは考えています。

――昨今は公園に設置する遊具の撤去や遊び方の制限もみられます。

中川:そうですね。老朽化に伴う遊具の撤去は仕方のないことですが、代わりに設置される遊具が安全優先で、子どもの興味関心を刺激しない、「やりたい!」が生まれない環境になってしまうことは残念ですね。近隣からの苦情で、「大きな声を出さないように遊ぼう」といった主旨の看板まで立つ公園があることも残念です。

非認知能力が低下すると、「失敗してもいいから挑戦してみよう」という意欲が湧かなくなります。挑戦する機会が少ないからか、最初から正解や成功する方法を知りたがる子どもが増えている気がします。

――そんな子どもたちの課題を解決するためにPLAYTANKを立ち上げたんですね。

中川:はい。最初は、2003年に子どもたちの外遊び離れを懸念した私と友人で立ち上げた「光が丘プレーパーク」(外部リンク)という市民活動から始まりました。

もともとわが子のために始めた活動でしたが、続けていく中で、この「子どもが外で自由に遊べない」という問題は全国的に広がっていることに気付き、2011年にNPO法人あそびっこネットワークを立ち上げ、2019年に現在のPLAYTANKに改名しました。

「光が丘プレーパーク」の模様。どちらも公園の禁止事項が免除されており、たき火、穴掘り、ドラム缶風呂等、子どもの「やりたい!」を実現できることが魅力。写真提供:PLAYTANK

――現在PLAYTANKはどのような事業を展開しているのでしょうか?

中川:まずは、練馬が「子どもが外で遊んで育つまち」になるために、区からの委託や補助を受けて、外遊び場を運営したり、プレーパークの立ち上げをサポートしたりしています。

市民活動から始まり20年続けた「光が丘プレーパーク」は、2024年から地域の保護者たちが新しい市民団体をつくり、PLAYTANKと共催ということになっています。

また、週7日開催の「練馬区立こどもの森」といって、子どもが自然や地域の人と交流しながら育つことを目指す「公立の冒険遊び場」の施設運営も、他の企業との合同事業として行っています。練馬の原風景である、農家の屋敷林の跡地を活用した、畑や果樹もある環境です。

そして、放課後を学童保育で過ごす子どもが増えたことを受けて、「練馬区立こどもの森」で毎日遊ぶ学童保育事業も、区の補助を受け運営しています。

「練馬区立こどもの森」で遊ぶ子どもたち。写真提供:NPO法人PLAYTANK

中川:また、新しい子育て支援の形として、練馬区内の8カ所の公園で自由な外遊びができる、外遊び型子育てのひろば「おひさまぴよぴよ」という区の事業を受託しています。こうした事業により、子どもの外遊び離れの予防につながればと思います。

公園で土遊びをする母子たち
0〜3歳の親子を対象にした「おひさまぴよぴよ」は練馬区の委託事業でもある。写真提供:NPO法人PLAYTANK

インクルーシブな居場所が、未来を創る力を育む

――PLAYTANKが運営する外遊び場で、共通して力を入れていることはなんですか? 

中川:「遊ぶ」でつながる「地域のコミュニティ拠点」になることです。特に、幅広い世代が集う冒険遊び場/プレーパークでは、世代を超えて地域の子どもと大人がつながることを目指しています。例えば、自分の親以外の保護者や、近隣在住のシニア世代の方との交流ですね。

冒険遊び場/プレーパークで働く専門スタッフ「プレーリーダー」は、大工仕事が得意、生き物に詳しいなど、さまざまな特技がある大人と子どもが交流できるように努めています。親や先生にも話せないことがあっても、楽しい時間を共有した師匠・仲間でもある大人には、話せるということもあるそうです。

カンナの使い方が上手い人の手さばきを、見て覚える小学生。写真提供:NPO法人PLAYTANK

中川:また、冒険遊び場/プレーパークは、不登校の子や発達凸凹(※)の子も遊びに来ていますが、そういう子たちだけを集めることはしていません。誰でもOKで、無料で自由で楽しい。ただ、「遊ぶ」で人と人がつながる場です。

だからこそ、いつのまにかインクルーシブな場所になって、みんなの居場所にもなる。そして、子どもたちはさまざまな人や出来事と関わり、生きる力、非認知能力、つまり「未来を創る力」を育んでいきます。

こうした人と人のつながりが、これからの社会では特に、求められるのではないでしょうか?

――実際に冒険遊び場/プレーパークを体験した保護者からは、どのような声が寄せられていますか?

中川:「ママにべったりだった息子が、いろんな年代の子と遊べるようになった」「親子で一息つける場所」「周りの大人が一緒にわが子を育ててくれている感じがする」といった声をいただいていますね。

またお父さんからは「パパ友ができた」という声もあります。冒険遊び場/プレーパークは大人にとっても、社会的地位や垣根を超えた知り合いができる場所なんです。

公園の中で「うちの子をまわりの大人がそだててくれる」というボードを持った母子
冒険遊び場/プレーパークの参加者から寄せられた声。写真提供:NPO法人PLAYTANK

――他の地域にも、外遊びが広がるサポートをしているのですね。

中川:はい。千葉県習志野市と東京都港区では、「外遊び型子育てひろば」のような、乳幼児親子の遊び場事業の立ち上げをサポートしました。群馬県富岡市と東京都中野区では現在進行形で、プレーパークの立ち上げをサポートしています。

ただ、地域によって抱えている課題や目指す方向性が異なります。大切にしているのは、自治体と地域住民がどうやって課題を一緒に解決していくか、どのような遊び場が子どもにとって良いのかを考える機会を設けることですね。

――今後も、多くの親子に参加していただきたいと思う一方、安心して外遊びができる社会にするには、運営する側のリソースや支援も増やしていく必要があるかと思いました。

中川:おっしゃる通りで、こうした支援を継続していくためには支援する側の人的・経済的リソースがしっかり確保されることが重要です。

冒険遊び場/プレーパークは、不登校支援や児童発達支援のように、自治体事業の予算枠に当てはまらない事業なので、各自治体の予算確保努力に頼るしかありません。

各冒険遊び場/プレーパークの運営者が、活動の意義を広める広報ができればいいのですが……。私たちも他の団体さんも、なかなか手が回っていないというのが現状です。業界として、こうしたリソースも増やしていく必要もありますね。

外で遊ぶ子どもと保護者に、優しい眼差しを向けてほしい

――子どもが安心して外遊びに夢中になれる社会をつくるために、必要なことはなんでしょうか?

中川:「子どもは社会の宝」という認識が、当たり前になることだと思います。

近所の子どもと大人が顔見知りで、大人がわが子以外の子どもたちの成長を気にかけて、喜べる。家の前でのんびり日向ぼっこをしていたら、学校帰りの子どもたちが声をかけてくれる、たわいもない話ができる。

子どもが外で遊ぶ声が響く「まち」は、子どもにはもちろん、どの世代の人も安心で温かな、人とのつながりがある「まち」になるのではないでしょうか?

また、冒険遊び場は誰でもつくれます! 私は20年前、ママ友3人で立ち上げました。3人いれば、できちゃいますよ(笑)!

穴掘り遊びの模様。みんなで掘って、こんなに大きく! 達成感あふれる写真。画像提供:NPO法人PLAYTANK

編集後記

先日、昔よく遊んでいた公園に足を運んでみると、思い出の詰まった遊具は撤去され、ボール遊びも大きい声を出すことも禁止されていました。とても悲しくなると共に、今の子どもは外でどのように遊んでいるだろうと疑問を抱きました。

「外で遊ぶのは危険」という点ばかりが注目され、そこで得られるものから目が背けられがちな今だからこそ、中川さんたちの活動は今後の子どもの未来につながるものなのだと感じました。いつかまた思い出の公園が、子どもたちの笑い声であふれることを願うばかりです。

〈プロフィール〉

中川奈緒美(なかがわ・なおみ)

1965年生まれ。立教大学卒。化粧品会社で商品ブランドマネージャ―職を経験した後、出産と夫の転勤を機に新潟県上越市で出産、子育て当事者として子育て支援団体(現NPO法人マミーズネット)の立ち上げに関わる。その後東京に戻り、保育園の立ち上げと運営、一時保育室と子育てひろば室の運営に携わり、2003年に市民活動の冒険遊び場をはじめ、2011年にはNPO法人化して理事長に就任、現在に至る。
NPO法人PLAYTANK 公式サイト(外部リンク)

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