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自分にだって社会は変えられる! 生徒の思考を深め、自信を育む探究活動とは?
- 東京都立大泉高等学校附属中学校では、中高一貫の6年間を通して社会課題と向き合う探究活動を実施
- 生徒自らがテーマを掲げ、調査や実践活動を通して思考を深めると共に、自信を身につけていく
- 大きな問題でも諦めずに「できることから始める」ことで関わる人も変えていく
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団が2019年に行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」(別タブで開く)。若者が自分の国や社会に対しどのような思いを抱いているか、国際比較を行うために、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツと日本の17〜19歳各1,000人を対象に行ったものです。
その調査で浮き彫りになったのは、日本の若者の国や社会への期待値や希望の低さ。例えば、「将来の夢を持っている」という若者は、他国は全て80パーセントを上回りましたが、日本は60.1パーセントと20パーセント以上も低い結果に。
また、「自分で国や社会を変えられると思う」と答えたのは18.3パーセント、「自分の国の将来は良くなる」と答えたのは9.6パーセントと、他国と比較して日本の若者は将来に希望を抱いていない結果が見て取れました。
この調査結果に課題意識を持ったのが東京都立大泉高等学校附属中学校(外部リンク)の先生たち。このままにはしておけないと奮起し、2020年度より、中高一貫の6年間を通して取り組む「探究活動」(別タブで開く)をスタートさせました。
生徒自らが研究課題を掲げ、現場に赴き調査や実践活動を行いながら、課題を解決するための思考力と実行力を身につけるカリキュラムになります。
そして2023年度からは、中学校1年生から高校2年生までの5学年合同で1年間における探究活動の成果を発表する「OIZUMI AWARD(オオイズミ・アワード)」を実施。その第2回目が2024年1月27日に開催されました。
生徒たちが扱うテーマは実にさまざま。「LGBTQ」「障害」「ヤングケアラー」などの社会課題にフォーカスを当てる生徒もいれば、「推理小説」「ヴィラン、ギター」など個人的な興味関心を掘り下げる生徒も。
ただ共通しているのは、どの生徒も真摯であるということです。自ら掲げたテーマと向き合い、校外に出て、当事者や関係者への調査や実践活動を通して思索を積み重ねてきたことが伝わってきます。
今記事ではその中から、自分たちにとても身近な「教師の労働問題」「フードロス問題」に取り組んだ中学3年生の2チームにお話を伺いました。
「教師の労働問題」の解決は「生徒の声」が鍵
まずお話を伺うのは、タイトル「ひとりの教師、無数の使命~教師の長時間労働を減らすために~」を発表した池田江里菜(いけだ・えりな)さん、小林奈央(こばやし・なお)さん、佐川昊花里(さがわ・ひかり)さん、島田咲耶(しまだ・さくや)さんの4人。「教師になりたい」という夢を持つメンバーもいるそうで、「教師の労働問題」は、自分にも関係のあるものとして捉えていたようです。
――「教師の労働問題」に着目した理由について教えてください。
池田さん(以下、敬称略):私は小学生の頃から先生になりたいと思っていたんです。でも友達からは「先生って本当に大変そう」と言われることが多くて……。
確かに先生の労働環境は問題になっていますけど、それで先生が減ってしまったら教育の質が落ちてしまう。だから先生になることを諦める人が少しでも減るように、労働問題を解決したいなと思いました。今回のテーマは自分の夢にも結びつくものだったんです。
小林さん(以下、敬称略):教師の長時間労働が問題になっていることを知ったのは、中学1年生の時でした。先生って、どうしてそんなに大変な仕事を頑張れるんだろう?と思っていました。
私はこの学校の先生たちが大好きで尊敬しているので、そんな先生たちの環境を少しでも良くできたらと思い、このテーマに賛同したんです。
――この問題を調べていく中で見えてきたもの、印象に残ったことなどはありますか?
島田さん(以下、敬称略):先生たち自身が環境を変えられていない、変えたくても変えられない状況にあるのではないかと感じました。だからこそ、先生たちだけじゃなくて、例えば、教育委員会とか私たち生徒からも「こういうふうに変えてほしい」と意見することが大事なのかなと……。
教師の労働問題を解決するために、いろんな方向から意見が出たらいいなと思います。
――言いたくても言えない先生もいるかもしれませんね。
佐川さん(以下、敬称略):そのために、「職員室の透明化」を図ったらいいのではないかと思います。国会はそこで何をしているのか放送されていますよね。それと同じように、職員室でも何をしているのか分かるようにしたらいいのではないかなって。
そうすれば無駄なものも分かるかもしれないし、私たちも先生のために声を上げやすくなると思います。
――アクションの1つとして、教師のリアルな姿を伝える映像作品も作られたそうですね。
島田:先生たちにアンケートを取り、それをもとに一日の流れが分かるような映像を作りました。実際の教室を撮影現場として使ったんですが、リアルさを伝えたかったので雰囲気づくりがとても大変だったことを覚えています。
――今回の探究活動を通して得られたものや、今後の目標なども聞かせてください。
小林:先生や校長先生、教育委員会へのリサーチ活動を通じて、生徒から先生や保護者、地域に働きかけていくことも大事という結論に至ったんですが、一方で私たち自身が周りに協力してもらうことの大変さ、難しさを実感しました。
そういった大変さをいかに改善していくかが大切だと気づいたので、今後はその気づきを活かしていきたいです。
島田:私は元々、(日本財団の18歳意識調査結果のように)社会を変えられるとは思っていなかったんです。自分ひとりの力で何かできるわけがないって自信がなくて。
だけど探究活動に取り組んでみて、課題を抱える当事者や関係する人々、地域などにアプローチするためのプロセスが大事なんだなと気づきました。まだひとりでアクションを起こすまで自信はありませんが、この経験を将来につないでいきたいです。
佐川:高校生になったら働き方改革をもっと突き詰めて調べていきたいですし、もしも将来、学校の先生になったとしたら、今度は内側から変えていきたいと思います。
フードロスは大きな問題。でも自分たちでできることが多くある
続いてお話を伺うのは、タイトル「『食べる』を『学ぶ』-食品ロス削減のための幼小中別教育と意識改革-」を発表した、井口世那(いぐち・せな)さん、関根茉耶(せきね・まや)さん、長野未侑(ながの・みう)さん、永光晴葵(ながみつ・はるあ)さんの4人。一人一人が非常に快活で物怖じしない発表ぶりは、他の生徒たちを沸かせていました。
――日本財団が実施した「18歳意識調査」の中で、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と答えた人は26.9パーセントと非常に低い数字でした。皆さんは今回、「フードロス問題」に取り組まれましたが、意識の変化はありましたか?
長野さん(以下、敬称略):アクションを行ってみて思ったのは、調査や実践活動で関わった大人の方々がとても協力的だということです。勇気を持って行動してみると、みんなが協力してくれる。だから、私たちでも社会を変えられるんじゃないか、って思うようになりました。
井口さん(以下、敬称略):最初は「自分に何かできるのか?」と不安に思っていました。でもアクションを起こしてみると、関わる相手の意識が変わるんです。だから、自分にもできるかもしれないって。
――そもそも「フードロス問題」に注目した理由を教えてください。
永光さん(以下、敬称略):私たちはみんな、食べることが大好き! でもニュースを見ていると、食べ物がたくさん無駄になっていることが問題になっている。なので、自然とフードロス問題を扱ってみようと思いました。
関根さん(以下、敬称略):食べることもそうですし、私は料理することも大好きです。料理をしているときは楽しいし、自分で作ったものはおいしく感じます。
一方でそれを感じられない人もいます。飢餓や食べられない状況にある人もいます。それをどうやったら解決できるんだろうと思ったのが、フードロス問題に注目したきっかけでした。
――調べていく中で見えてきたものはありますか?
井口さん:フードロスって小さい頃から耳にしていて。でもその頃のイメージは、飲食店やコンビニの食べ物が大量に捨てられている、という印象でした。ただ、実は家庭での食べ残しも大きな問題になっていて、そこに気づいてから、私たちはそれに焦点を当てました。
家庭での食べ残しもフードロスにつながっているんだと知ってからは、なるべくご飯を残さないように意識が変わりました。当事者意識を持てるようになったと思います。
――そんな問題を子どもたちに伝えるために、紙芝居も作ったんですよね。
永光:過去に職場体験で幼稚園に行かせてもらったことがあって、そのつながりを活かして、幼稚園の子たちに向けて紙芝居を作り、読み聞かせ活動を行いました。
すると後日、保護者の方からたくさんご連絡をいただきました。「好き嫌いが減った」「きれいに食べるようになった」とか、食べ物に対する子どもたちの意識が変わったというような声がとても多くて、すごく嬉しかったです。
長野:そのような実体験もあって、自分たちでも他者に影響を与えられるんだって自信がつきました。
関根:ただ、子どもたちに向けてアクションを起こすのは大変でした。理解しやすい内容にしなくちゃいけないですし、相手に伝えるためにはどういう言葉を使えばいいのか、どんな見せ方をすればいいのかすごく考えさせられました。
――今回の探究活動で得られたものはなんですか?
井口:この4人でやってきたことで得られた一番大きなものは「自信」だと思います。最初は社会課題なんてどうでもいい……みたいな気持ちもあったんですけど、いざやってみて、自分たちでも誰かの意識を変えられるということを知ると、すごく意欲が湧いてきました。
だから高校生になっても、探究活動に力を入れていきたいと思っています。
永光:私は「自分の考えを言葉にする力」を得られたと思っています。それと、普段はあまり関わりのない大人にお願いする勇気も身につきました。だから今回の経験を活かして、探究を発表できる、学校以外の場に応募してみようと計画しています。
実は以前にも応募したことがあって。それは最終審査まで通ったものの、受賞するまでに至りませんでした。ただ、私たちなら受賞できるって信じているので、また挑戦するつもりです。
編集後記
「社会課題」と聞くと、なんだかハードルの高いもののように思えてしまいます。でも、本当にそうなのか。東京都立大泉高等学校附属中学校の皆さんのお話を伺い、それが“思い込み”であることに気づかされました。
もしも「変えたい」と強く思う社会課題があるならば、臆することなんてない。変わるか変わらないかを考える前に、自分にできるアクションを起こすことが何よりも大切なのでしょう。そうしたアクションの連鎖が、やがては社会に大きなインパクトを与える可能性も秘めているのです。
探究活動に励む中学生たちを見習って、私たち大人も自分なりの課題を見つけてみませんか?
撮影:十河英三郎
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。