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お酒の場で気軽に“寄付”という社会貢献ができる「KIFUBAR(キフバー)」って?

「KIFUBAR」発起人である谷田脩一郎さん
この記事のPOINT!
  • 日本人の多くが社会貢献に関心があるものの、寄付を実践している人はまだまだ少ない
  • 「KIFUBAR(キフバー)」では、ドリンク一杯を一票としてプレゼンしたNPO等の賛同団体に気軽に寄付できる
  • 寄付を身近に感じられる場や空気をつくることで、寄付文化の醸成につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

漠然と「社会の役に立ちたい」「困っている人を助けたい」と思いつつも、寄付やボランティアなど具体的なアクションは起こしたことがないという人は多いのではないでしょうか。

背景には、そもそも社会問題や課題に取り組んでいる人・団体の存在を知らない、寄付に対する心理的なハードルが高いなどの課題があるようです。

「KIFUBAR(キフバー)」(外部リンク)はそんな人たちのために生まれたバーイベント。毎回、NPO団体職員やボランティア支援者など、さまざまな社会貢献活動に取り組む人や団体が登壇し、5分間の簡単なプレゼンテーションを行います。

参加者はドリンク1杯ごとにもらえる投票用のコインを、関心を持った団体に渡すことで、ドリンク代の40パーセントがその団体に渡る仕組みになっています。

2024年6月に東京渋谷で行われた「KIFUBAR」でのプレゼンの様子

2017年11月にスタートし、累計96回以上開催、2,100名以上が参加し、空いたグラスは4,600杯以上、合計寄付金額は240万円以上に上ります。

これまで一度も寄付をしたことがない参加者や、「偶然イベントを知って、なんとなく参加してみた」人も、いつの間にか引き込まれ、積極的に寄付に参加しているといいます。

今回は発起人の谷田脩一郎(たにだ・しゅういちろう)さんに、「KIFUBAR」が生まれた背景や、イベントを運営する上で気付いたこと、社会貢献や寄付を身近に感じられる社会をつくるためにできることについて伺いました。

NPO団体の人と出会い、気軽に話を聞く場をつくりたかった

――そもそも「KIFUBAR」はどんなきっかけで始められたんでしょうか?

谷田さん(以下、敬称略):前職でNPO団体の広告運用やデジタルマーケティングの支援をしていたのですが、だんだんWEB上で寄付を集めることに心が動かなくなってしまったんです……。「リアルに寄付が生まれる瞬間を見たい!」と、思うようになったのがきっかけです。

また、さまざまなNPO団体の説明会に参加する中で、公民館のような場所で90分くらいの長時間にわたるプレゼンを聞く機会も多かったんです。関心がある人にとっては意義深いし面白いのですが、興味があるかどうかも分からない友人をこの場に誘うのは難しいなと感じていました。

説明会のように堅苦しい雰囲気ではなく、もっとカジュアルに、お酒を飲みながら、短いプレゼンテーションが聞けるような場があれば、気軽に参加してもらえるんじゃないかと思ったんです。

イベント開始前に挨拶をする谷田さん

――もうすぐ100回目を迎えるとのことですが、どうしてここまで続けてこられたのでしょうか?

谷田:はじめのうちは仕事の一環でしたが、その後、僕が転職したので、今となってはただ楽しく飲んでいるだけなんです(笑)。僕の場合、どうせ毎晩のように誰かとお酒を飲んでいるのだから、5回に1回は「KIFUBAR」でもいいじゃないかって思ったんですね。

「KIFUBAR」に集まる人たちは、誰かを傷つけるようなことや愚痴を言うことはほとんどないし、いろいろな物事に対して興味を持ってくれる人が多いので、一緒に飲んでいて気持ちがいいんですよ。

――会場や登壇者はどうやって決めているのでしょう?

谷田:会場は実際のバーを「間借り」のような形で一晩お借りすることもあれば、共感してくださった企業のオフィスをお借りすることもあります。

登壇者の選定方法はいろんなパターンがありますが、特に選定基準があるわけではなく、基本的には、「ぜひ登壇してください」というスタンスです。

僕が主催する場合はとにかく先に、場所と日程を決めて、SNSを通じて「◯月〇日にKIFUBARを開催します。登壇する団体を募集しています!」と呼びかけて募ります。

それ以外にも、テーマを決めて活動団体を探すこともあれば、他の団体とコラボレーションする際は、一緒に選定することもあります。

取材日は、渋谷にあるレストラン・バー「Graphic Grill & Bar」が会場だった

「NPO団体と寄付者」ではなく、たまたま居合わせた“人対人”の関係性

――これまで開催された「KIFUBAR」で思い出に残っているエピソードはありますか?

谷田:失敗談としては、ある時登壇した2つの動物愛護関連の団体が、あまり仲が良くなくて、思いがけない展開になってしまったことでしょうか……。

僕は勝手に「同じテーマを掲げて活動をしている団体だから、その場が盛り上がるのでは?」と考えたのですが、それぞれ「動物にとってなにが幸せか?」という解釈が違っていて、こちらが想像していた雰囲気にはなりませんでした。

NPO団体は営利目的ではないからこそ、思想をすごく大切にしています。同じテーマだからこそ共鳴することもあれば、逆もあるんだなと学びになりました。

不登校の子どもを持つ保護者だけを集めた「KIFUBAR」も印象に残っています。

参加者の方に聞いた話では、普段、友人や同僚と飲みに行っても家庭の悩みは話せないし、子どもにも申し訳ないという気持ちがあるそうなのですが、その場では皆さんがオープンマインドで、「うちもそうなの!」と共感し合っていたんです。

普段の「KIFUBAR」とはまた違った雰囲気で、こういう場を求めている人がたくさんいるんだろうな、と感じました。

――参加される方はどんな方が多いのでしょうか?

谷田:面白いことに、NPO関連の方や社会貢献に関心のあるという方は2~3割で、半数は「SNSでたまたま告知を見て来ました」とか、これまでNPOに興味もなければ、一度も寄付をしたことがないという方なんです。年代もまちまちで、20代~50代と幅広いですね。

イベント当日は老若男女にかかわらず、さまざまな人が集まっていた

――これまで社会運動に全く関心がなかった人たちが「KIFUBAR」に参加することで何か変化はありますか?

谷田: 普段、いかに数字を上げるかを考えながら仕事をしているビジネスマンにとって、非営利の活動というものは新鮮に映るのはないでしょうか。疑問も興味も持ってくれていると思います。登壇者との距離も近く、お酒が入っていることもあって、質疑応答は盛り上がり、お互いにとって価値観を刺激されているのが分かりますよ。

――初めて知ったからこそあれもこれも気になるし、タブーなども気にせずに質問をぶつけられるのかもしれませんね。登壇されたNPO団体の反応はいかがですか?

谷田:バーのように至近距離で、お互いにお酒を飲みながら自分たちの活動について話すのは初めての経験で、普段よりも話をしやすいという声が多いですね。

ただ、手応えが得られるかどうかは、プレゼンター次第です。きっちり作り込んだ報告書を用意して、「“私たち”は〜」と、組織全体を主語に話を進めていくパターンだと、お客さんの心を掴むのは難しいかもしれません。

逆に、「私がなぜこの団体にいるのか」と、プレゼンター自身が主語を“私”にして、自身の個人的な話をするプレゼンの方が盛り上がるんです。

「KIFUBAR」はあくまでも飲み会です。お客さんを楽しませるサービス精神も試されます。

プレゼンを行う登壇者

寄付への身近な場をつくることが寄付文化を醸成する

――谷田さんが「KIFUBAR」での経験を通して、気付いたことはありますか?

谷田:そうですね。どんなNPO団体も、寄付を集めるために支援者のニーズを把握して、効果的なアクションを促すために真面目に議論していると思いますが、そればかりが効果的な方法ではないように感じています。

NPOが寄付をしてくれた方に「どうして私たちの団体に寄付してくれたんですか?」とアンケートでたずねたら、大半は「活動内容に関心があった」と回答するのではないかと思います。でも、「それって、本当の理由じゃないのでは?」とも思うんです。

――どういうことでしょう?

谷田:例えば、僕がPCを購入したとして、誰かに「どうしてそのPCにしたんですか?」と聞かれたら、「軽くて、性能も良くて……」と、もっともらしく機能性とかを語ってしまうと思うんですよ。

でも、実際のところは「たまたま電気屋さんで見かけて、かっこいいなと思って、店員さんも上手におすすめしてきたから買ってしまった」というのが、理由ってこともあるじゃないですか。機能性うんぬんはあと付けで、「いいなと思っていたら、ちょうど勧められたからノリで買ってしまった」が本当の理由です。こういった回答はアンケートでは出てこないでしょう。

だから、寄付についても同じように、「たまたまネットで見たから」とか、「知り合いの知り合いが団体にいるから」とか、「友だちが寄付していたから」が行動のきっかけになっていることも多いと思うんですよね。

――確かにアンケートとなると、しっかりした回答をしてしまいがちですね。

谷田:ですよね。「KIFUBAR」はたまたま飲みに来たら、活動について情熱的に語る人がいて、「なんとなく」や「ノリ」で寄付が始まる場所なんです。

寄付ってもっと気軽にしてもいいものだと思ってます。この「なんとなく」や「ノリ」で参加してくれる人を増やしていくことが重要な気がするんですよ。

プレゼンを聞く参加者

――「KIFUBAR」としての目標はありますか?

谷田:僕自身が楽しいので、今後も「KIFUBAR」の活動は続けていくつもりです。総額で1億円寄付したいという夢はありますが、僕一人で実現するのは大変ですね(笑)。

「KIFUBAR」は“のれん分け”のような形で、やり方などのフォーマットを共有しています。ぜひ全国各地に「KIFUBAR」が広がっていって、いろんな方がそれぞれのコンセプトで開催してくれたらうれしいです。

先日、広島で開催した「KIFUBAR」では、登壇者が身内の方の戦争体験や原爆問題を取り上げていて、ハッとしました。地域ごとに、その場所ならではの活動や、みんなの関心が高い課題があると思うんですよ。

「KIFUBAR」を通して輪が広がって、つながっていったらいいなと思います。

――日本人にとって寄付はまだまだ心理的ハードルが高いと思うのですが、寄付をもっと身近にするために、私たち一人一人にできることはどんなことでしょうか?

谷田:あくまで個人的な考えですけど、真面目に向き合い過ぎないことだと思うんですよ。もちろん真面目に向き合うことは大事ですし、素晴らしいと思います。不真面目は絶対だめなんですけど(笑)。

例えば、「自分が寄付したお金が、どこでどんなふうに使われているのか」を意識し過ぎるあまり、結局寄付そのものをやめてしまったり、受け取る側もそういった「真面目な寄付者」のための発言や行動をせざるを得なくなったりする。それだと、結局、寄付文化が「真面目に向き合う人しか参加できないもの」となってしまって、どんどん縮小していってしまうと思うんですよ。

海外でアーティストがチャリティーコンサートを行うと、何十億円という金額が寄付されるということをよく聞きます。でも、寄付した人の中にはお金の使い道を気にしていない人もいると思うんですよ。「素晴らしいライブだった! 寄付したお金は、なんかいい感じに使ってくれよな」という感覚なのではないかと想像します。

これが、寄付活動が拡大していくために必要な“余白”だと僕は考えています。「飲みに行くついでに寄付しました」とか、「ふだん現金は使わないから、小銭を募金箱に入れました」といった感じで、もっと身近に感じられる寄付が生まれる文化が根付いたらいいですね。

イベント中、参加者と話す谷田さん

編集後記

谷田さんが言うように、「社会貢献したい」という思いはありながらも、難しく考え過ぎて動けなくなっている人が多いのかもしれないと感じました。

「社会を良くするために、何ができるか?」をじっくり考えることも大切ですが、寄付文化を浸透させるためには、「せっかくだから、今日この場所で出会った〇〇さんを応援しよう!」という気持ちになるような、“場”が必要なのかもしれません。

この記事をきっかけに興味を持たれた方は、ぜひ一度、「KIFUBAR」に足を運んでみてもらえればと思います。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

谷田脩一郎(たにだ・しゅういちろう)

1986年生まれ。大学卒業後、さまざま職を経て、日本最大の社会貢献プラットフォームにプランナーとして参画、老舗NGOの理事なども務める。現在は大手人材会社にてマーケティングを担当。2017年から「KIFUBAR」の活動を始める。
KIFUBAR 公式サイト(外部リンク)

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