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視覚障害者の生活を支える盲導犬。ボランティア不足解消が喫緊の課題
- 盲導犬は視覚障害者の移動を支援し、自立や社会参加を促す役割を持つ
- さまざまなボランティアの協力で盲導犬事業は成り立っているが、まだまだ十分とはいえない
- 困っていたら声をかける。それが誰一人取り残さない社会につながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
目が見えない、見えにくい視覚障害者にとって、外出はなかなか気軽にできることではありません。
- ※ こちらの記事も参考に:視覚障害者の移動をサポートする「同行援護制度」。仕組みと課題を聞いた(別タブで開く)
そういった方々の大事なパートナーが盲導犬です。盲導犬は目的地に無事にたどり着けるようにするだけでなく、自立や社会参加を促す重要な役割も担っています。
しかし、一般的に「盲導犬について知る機会」というのはあまり多くありません。
今回、公益財団法人日本盲導犬協会(外部リンク)の広報・コミュニケーション部に所属する奥澤優花(おくざわ・ゆか)さんに、盲導犬やそれを取り巻く環境についてお伺いしました。
視覚障害者を支える盲導犬の主な役割
――「盲導犬の役割は、視覚障害者のサポート」と認識している人は多いかと思いますが、具体的にどのようなサポートをしているのでしょうか?
奥澤さん(以下、敬称略):具体的なサポートの内容は日本国内に11カ所ある盲導犬育成団体により細かく異なるのですが、多くの盲導犬は視覚障害者に、道の曲がり角や交差点、段差、障害物といった歩行に必要な情報を伝えるよう訓練されています。中には、駅の改札口や建物の扉の前まで誘導する盲導犬もいます。
よく、「盲導犬が道順を覚えて目的地まで連れて行ってくれる」と思われがちなのですが、そうではありません。道順を覚えるのは視覚障害者の役割です。盲導犬はその道中にある情報を伝えることがメインとなります。
――体の不自由な人をサポートする介助犬というものもありますよね。盲導犬とはどのような違いがあるのでしょうか?
奥澤:介助犬と盲導犬は、障害者をサポートするという意味では似ています。しかし、日本では盲導犬、介助犬、聴導犬の3種を「身体障害者補助犬(補助犬)」と総称しており、それぞれで役割が異なります。
介助犬は、肢体不自由者にペットボトルや携帯電話を持ってくる、落としてしまった物を拾うなど、日常生活動作のサポートが主な役割です。
聴導犬は、玄関のチャイム音、車のクラクション、非常ベルなどの音を聞き分け、聴覚障害者に伝える役割を担っています。
――盲導犬は補助犬の一種なんですね。盲導犬になれる犬種は限定されているのでしょうか?
奥澤:盲導犬になれる犬種に決まりはありません。ただ、盲導犬が止まったときや、障害物を避けて知らせるとき、小型犬だと人間の力が勝ってしまうため、犬の動作が人に伝わらないことがあります。その点では大型犬が盲導犬になりやすいですね。
また、人とコミュニケーションを取ることから、もともと猟犬であった犬種が多いようです。盲導犬の大半がラブラドール・レトリーバーで、他にもゴールデン・レトリーバーやシェパード、コリーなどが活躍しています。
盲導犬の育成に欠かせない、ボランティアの存在
――盲導犬として活動するためには、さまざまな訓練が必要だと思うのですが、どのような育成をしているのでしょうか?
奥澤:盲導犬の候補犬は、盲導犬協会が所有している繁殖犬や、他の協会、海外の繁殖犬との交配によって生まれます。生後2カ月から1歳頃までは「パピーウォーカー」というボランティアに預け、人と一緒に安心して暮らすための関係づくりと家庭でのルールを学んでいきます。
パピーウォーカーとの触れ合いを通して、犬たちは人と一緒にいることが大好きになっていきますので、とても大切な期間です。
その後、候補犬はパピーウォーカーから離れ、盲導犬としての訓練が始まります。
――盲導犬になるための訓練期間はどれくらい必要なんですか?
奥澤:平均で約1年かかり、盲導犬としてデビューするのは2歳頃からですが、訓練期間は犬によってさまざまですね。例えば、覚えが早い犬もいれば、少しずつ覚えていく犬もいるように、性格はそれぞれです。
訓練士はそれぞれの犬に合わせた訓練計画を立てて育成しています。しかし、候補犬の全頭が盲導犬になるわけではありません。
訓練中に性格面や健康面において盲導犬には向かないと判断した犬は、キャリアチェンジ犬と呼び、一般家庭に譲渡しています。盲導犬になる犬は約3~4割です。
――盲導犬になる頭数が意外と少ないことに驚きました。育成に携わるボランティアの数は、どれくらいいるのでしょうか?
奥澤:2024年4月の時点で約3,000人、ボランティアに参加していただいています。
活動内容は、盲導犬の親犬を飼育する「繁殖犬飼育ボランティア」、盲導犬候補の子犬を飼育する「パピーウォーカー」、盲導犬にならなかった犬を飼育する「キャリアチェンジ犬飼育ボランティア」、引退した盲導犬を飼育する「引退犬飼育ボランティア」とさまざまです。
しかし、盲導犬同様に、ボランティアの人数も決して多くはなく、盲導犬の育成を安定的に継続させるには難しいのが現状です。
――盲導犬の飼育ボランティアをやってみたいけれど、犬を飼うことが初めてで不安がある人は多いと思います。そういう方でもボランティアは可能なのでしょうか?
奥澤:単身世帯ではない、留守がちでないなどの一定の条件を満たしていれば、どなたでも可能です。家族で何かのボランティアをしたいと思い、盲導犬のパピーウォーカーになる選択をした方もたくさんいらっしゃいますよ。
パピーウォーカーの期間は1年と短期であるため、ぜひ多くの方にボランティアに参加していただきたいですね。
盲導犬の店内受け入れ拒否や視覚障害リハビリテーションの認知不足解消が課題
――視覚障害者にとって大切な盲導犬ですが、お店側からの受け入れ拒否もあると伺っています。
奥澤:そうですね。2023年に行った当協会の調査だと、「盲導犬の受け入れを拒否されたことがある」と回答した人が44パーセントいることが分かりました。その多くは飲食店で、次点で公共交通機関となっています。
コロナ禍に受け入れ拒否の割合は一時的に減りましたが、依然として多いのが現状です。
――受け入れ拒否にあってしまう要因はなんでしょうか?
奥澤:私たちは、多くの人が「身体障害者補助犬法(※)」を知らないこと、また特別な対応が必要なのではないかと不安になってしまうことが要因だと考えています。
協会にも問い合わせをいただくことがありますが、多くの場合「盲導犬は店内では足元で静かに待機します。安心して受け入れてください」とお伝えすると、ご理解いただけます。
盲導犬ユーザーからも、「お店から出るときには、店員さんから『本当にいい子ですね。また来てください』と言ってもらえた」という話を聞くことがあり、少しずつ理解は広まりつつあると思います。
- ※ お店や病院など不特定多数の人が利用する施設で、障害のある人のパートナーである補助犬の同伴受け入れを義務づける法律。補助犬を同伴する身体障害者は、補助犬の行動管理・衛生管理を行うことと、周囲に補助犬であるということが分かる掲示が義務づけられている
――そのほか、日本盲導犬協会が課題と感じているところはありますか?
奥澤:視覚障害者の中には、「どうすれば盲導犬の申請ができるのかが分からない」という方も多くいらっしゃいます。
盲導犬の申請に限ったことではなく、協会には「身体障害者手帳の取得方法が分からない」「これから目が見えなくなっていく中で、どのような福祉サービスがあるのか知っておきたい」「そもそもどこに問い合わせたらいいのかが分からない」といったさまざまな相談が寄せられます。
そのような方に情報を届け、困り事の解消へ向けて対応をするため、当協会には視覚障害リハビリテーション(外部リンク)の専門部署があります。盲導犬歩行だけでなく、生活全般のリハビリテーション訓練も行いますが、場合によっては、ご本人のお住まいの地域にある関係機関をご紹介することもあります。
情報提供をすると「もっと早く知りたかった」と話す方が多く、視覚障害当事者に情報が行き届いていないことを痛感します。
どんな些細なことでも、気軽にご相談いただけるとうれしいです。
――盲導犬の施設のことは知っていても、そういった窓口があることは知りませんでした。盲導犬の受け入れ拒否やボランティア不足、視覚障害者への情報不足を解消するため、協会全体で取り組んでいることはありますか?
奥澤:現在、企業や行政、学校に向けてセミナーや講演などを行っています。近年は学校の教科書に盲導犬に関する内容が掲載されるようになったり、学校に訪問して実際に授業を行ったりする回数も増えています。2023年は年間で300校以上、オンラインの講習を合わせると450校ほど開催しました。
また、土日は大型商業施設でイベントを開き、盲導犬の役割を紹介するデモンストレーションや資料配布を行いながら、盲導犬や視覚障害者をより身近に感じていただけるように取り組んでいます。
「手伝いましょうか?」の一声が、誰ひとり取り残さない社会につながる
――盲導犬への接し方が分からないという人もいるかと思います。接し方について教えてください。
奥澤:犬に接する必要はありません。盲導犬を見かけると、触る、口笛を吹く、食べ物をあげようとする方もいるかもしれませんが、盲導犬の気を引くようなことは避けていただけるとうれしいです。
盲導犬は人がとても好きなので、初対面の人でも友好的に接してしまいます。それが段差や交差点の近くだったら、思わぬ危険につながるかもしれません。
彼らの仕事を妨げないようにそっと見守ってあげてください。
――盲導犬と視覚障害者が、今より過ごしやすい社会を目指す上で、必要な一人一人の行動はなんでしょうか?
奥澤:視覚障害者や盲導犬など、普段あまり接する機会がない人がいざ目の前にしたとき、どうすればいいか分からないのは当然だと思います。しかし、受け入れ拒否のように「分からないから拒む」というのは、残念に思います。
もし交通量の多い交差点で盲導犬を連れている人や、白杖を手にしている人を見かけたら、ぜひ自ら「何かお手伝いしましょうか?」「お困り事はありませんか?」と声をかけていただきたいです。
声をかけ、コミュニケーションが生まれることで、初めて視覚障害者にも配慮された社会が広がっていくと思います。
編集後記
「接し方が分からないからこそ関心を向け、自ら関わってほしい」。奥澤さんの言葉が心に響いた取材でした。
また、本記事にはないエピソードではありますが、取材中、ハッとしたのが、タッチパネルの話でした。コロナ禍を経て、タッチパネルでの注文や決済が増加しましたが、中には視覚障害者には利用できない設計のものもあるそうです。
誰かにとっての便利は、誰かにとっての不便となっているのかもしれません。「では、誰にとっても便利とはなんだろう?」を考えるきっかけともなりました。
誰一人取り残さない社会のためには、「多様な人の声を聞くこと」が重要なのだと、改めて痛感しました。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。