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「ミレーナ」は避妊具なのに、生理も楽になるって本当?

避妊リング「ミレーナ」について婦人科医の宋美玄(ソン・ミヒョン)さんに聞いた
この記事のPOINT!
  • 避妊リングとして知られる「ミレーナ」は避妊だけでなく、生理にまつわるさまざまな症状を緩和
  • 「ミレーナ」を、避妊や生理痛緩和のための選択肢の1つとして検討してほしい
  • 働いていると医療機関に行く時間がない。気兼ねなく受診や通院ができる労働環境が社会には必要

取材:日本財団ジャーナル編集部

「ミレーナ」を知っていますか? 子宮内に装着するT字型の避妊具で、正式名称を「子宮内黄体ホルモン(※)放出システム(IUS)」といいます。

イラスト:子宮に装着したミレーナから黄体ホルモンが放出されている
ミレーナからは黄体ホルモンと同じ作用をする「レボノルゲストレル」という成分が放出され、子宮内膜に作用することで、約5年間、避妊や生理通の症状緩和の効果が期待できる

避妊リングの一つとしても知られているミレーナですが、生理痛や月経過多にも有効性があり、生理痛が軽くなったり、頻度が低くなったり、人によっては「生理がなくなった」と感じる人もいるそうです。

月経困難症(※)、月経過多と診断された場合は健康保険適用で1万3,000円ほどの費用がかかりますが、避妊を目的とした場合、自費診療となり4万円ほどの費用がかかるそうです。

望まぬ妊娠でリスクを被るのは常に女性であり、ピルをはじめ女性の積極的避妊のハードルが高い現状は変えていかなくてはいけません。

今回、婦人科医の宋美玄(ソン・ミヒョン)さんに、ミレーナの役割、女性の積極的避妊のハードルを下げるために必要なことなどを伺いました。

一度装着したら、効果は最長5年間。生理の煩わしさを緩和

――生理を経験している人の多くが、痛みやPMS(※)などなんらかの不調があるといわれています。また、「我慢するのが当たり前」「言っても理解されない」などの理由から、一人で我慢している人も多いと聞きます。宋さんのクリニックにもこういった悩みを抱えている方はいらっしゃいますか?

宋さん(以下、敬称略):たくさんいらっしゃいます。かつては「生理は我慢するのが当たり前」とされてきました。私は以前からメディアやSNSを通じて「生理痛は当たり前じゃない」や、「女性主体で避妊ができる」など、生理にまつわる情報やミレーナについてもたくさん発信してきたこともあって、クリニックには生理関連のお悩みで受診される方が多いです。

でも、患者さんにお話を聞くと「ほかの婦人科では対応してもらえなかった」という声も少なくないですね。

取材に応じてくれた宋美玄さん。「丸の内の森レディースクリニック」(外部リンク)で院長を務めている。画像提供:株式会社 プエルタ・デル・ソル

――かかりつけの婦人科を探すのに苦労している人もいるのですね。改めて「ミレーナ」とはどんなものか、教えてください。

宋:手のひらにのるサイズのT字型の器具で、子宮内に装着して使用します。Tの縦の部分に入っている「レボノルゲストレル」という成分が子宮内膜に直接作用することで、子宮内膜が薄くなって、着床も防ぐので避妊にもつながり、生理痛が軽くなる人もいます。約半数の人は排卵も止まります。

医師の診察・施術が必要になりますが、一度装着すると約5年間は効果が持続します。途中で取り外すことも可能です。

ミレーナ
子宮の形に合わせたT字型が特徴。主な素材は柔らかいシリコンで、先には除去用の糸が付いている

生理がある全ての女性が対象。メリット・デメリットを把握した上で選択を

――ミレーナを装着することによるメリット、デメリットはなんでしょう。向き、不向きはあるのでしょうか?

宋:重複しますが、メリットとしては避妊効果と生理の症状が軽くなることです。一度装着すれば約5年間は効果が持続するので、ピルのように毎日薬を飲む必要がなく、飲み忘れが心配な人にもおすすめです。ただ、装着初期の検診や、年に1度の定期検診が必要です。

また、ピルと違って全身に作用しないため、血管が詰まる血栓症のリスクはありません。生理痛・過多月経と診断された場合は保険が適用されるので、ピルと比べると医療費が安く済む点(※)も大きなメリットです。

経血の量も減るので、ナプキンの使用量も減り、おりものシートで十分という人もいらっしゃいます。公衆トイレの汚物入れを触るあの嫌な感じも少なくなります。

デメリットとしては、出産経験が帝王切開のみという人や、一度も性交渉をしたことがない人は子宮口が狭いため、挿入時、強い痛みを感じる場合があります。ですが、麻酔薬を使用すれば無痛で挿入することも可能です。

また、ミレーナ挿入から数日間は、出血や下腹部痛、腰痛、おりものなどの症状が出ることがありますが、時間と共に落ち着いていく方がほとんどです。ほかにも、子宮の壁にミレーナの先端が突き刺さってしまうということもあるので、初期の検診は怠らないようにしてください。

向き、不向きでいうと、向いているのは年単位で妊娠・出産を考えていない方ですね。

逆に向いていないのは、妊娠を計画している人や、痛みや内診が怖い、苦手という方です。また、子宮内にしこりなど異常がある場合も、脱出してしまうリスクが高いため、おすすめはできません。

  • 1カ月分の低用量ピルの相場価格は約2,500円。約2,500円×12カ月×5年で15万円ほどになる

――年齢制限はありますか? また、PMSや更年期障害(※)にも効果があると聞いたのですが、本当でしょうか?

宋:「低用量ピルの開始は40歳未満まで」という制限がありますが、ミレーナについては、生理がある間は年齢にかかわらず全ての人が対象です。だから「これまで踏み出せなかったけれど……」と40代に入ってから受診される方もたくさんいらっしゃいます。

先ほどもお話ししたように、「ミレーナ」を装着した場合に約半数の方は排卵がなくなるので、PMSの症状がなくなることもあります。ですが、メインのお悩みがPMSという方にはミレーナ以外の方法をおすすめすることが多いです。

更年期障害は症状を緩和するため、ホルモン補充療法というものがあります。黄体ホルモンとエストロゲンというホルモンを投与するのですが、ミレーナを装着している場合、既に黄体ホルモンは放出されているので、エストロゲンの投与だけで済むというメリットもあります。

  • 閉経前の5年間と閉経後の5年間を併せた10年間を「更年期」と呼び、更年期に現れるさまざまな症状の中で、他の病気に伴わないものを「更年期症状」という。その中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」という。主な症状に火照り、目まい、気分の落ち込みなどがある。参考:更年期障害 – 公益社団法人 日本産科婦人科学会(外部リンク)

――ほかにも注意点はありますか?

宋:「ミレーナを装着したら生理がなくなる」と思っている方もいますが、完全に生理がなくなる人は約1割で、いつもより生理が軽くなる、頻度が低くなるという方がほとんどです。

それから、ミレーナもピルも、避妊率は100パーセントではないため、注意が必要です。

ミレーナは魔法ではなく、あくまでも避妊や生理痛緩和のための選択肢の一つです。婦人科でご自身のライフスタイルや、困っていることなどを伝えた上で、合ったものを選んでください。

イメージ:かかりつけ医に相談する女性
かかりつけ医に相談し、「ミレーナ」も含めて、さまざまな方法の中から自分に合うものを検討するのが理想

――ミレーナに対して、「人工的に生理を止めるのはどうなのか?」と疑問視する声もあると聞きました。宋さんはどのように考えていますか?

宋:おそらく“人工的”という言葉の裏には「自然がいちばん」という考え方があると思うのですが、そもそも“自然”とは何か? と、考えてもらいたいです。

初潮を迎える年齢は若年化しています。江戸時代には15歳頃だったといわれていますが、その後、食生活は豊かになり栄養状態が改善され、現在は12歳頃と早まっています。

また、女性の晩婚化や出産に対する意識などが変化し、合計特殊出生率(1人の女性が一生の内に産む子どもの数の指標)は減少しました。1947年は4.54でしたが、2023年は1.20になっています。妊娠中は月経が止まるので、出産回数が減ると、その分月経の回数は増えます。

つまり、現代の女性は、昔と比べて経験する生理の回数が圧倒的に多くなっているんです。江戸時代と比べると9〜10倍ほどで、その結果、不妊症、子宮内膜症など女性特有の疾患が増えているといわれています。

そんな状況でも何もしないでいることが“自然”といえるのでしょうか?

ですので「自然だ、人工的だ」という話ではなくて、自身が健康に過ごすために、どんな方法があるのか、メリット、デメリットなども踏まえた上で、いろいろな選択肢から選んでほしいなと思います。

女性の積極的避妊のハードルが低くなることに期待

――ピルやミレーナをはじめ、女性が積極的に避妊することに対して、まだまだハードルが高いように感じます。

宋:そうですね。ただ、オンライン診療によるピル処方が可能になってから、ピルを目的に受診される女性は増えていますよ。しかし、やはり直接診察でないと、その人がピルに適しているか分からないことも多く、リスクが高いため、私はあまり推奨していません。

――オンライン診療でピルを処方してもらう人が増えた理由は、「顔を合わせるのは気まずいから」ということでしょうか?

宋:それ以上に、「忙しくて時間がない」ということが大きいと思います。私のクリニックの場合、通常の診療受付時間は16時までで、木曜日だけ18時30分まで延長しているのですが、その延長された時間帯からすぐに予約が埋まるんです。

――働いていると「平日に医療機関に行く」というのは難しいですよね……。

宋:本当にそう思います。「生理休暇」という制度がありますが、ネーミングもあって、まだまだ使いにくいですよね。じゃあ、「婦人科を受診するために有給休暇を使う」というのももったいない。

もっとフレキシブルに、医療機関に通いやすい社会に変わっていったらいいなと思います。自分がとりたいタイミングで2時間程度の休憩がとれるなど、就労環境の改善、見直しが必要ですね。

男性の中にも健康診断で要再検査と診断されているけど、忙しくて結局ほったらかし、という方も多いはずですよ。

――生理による症状は個人差が大きく、男性だけでなく、症状が軽い女性にとっても相互理解が難しいと思います。生理による苦痛をみんなが理解できるよう、一人一人にできることはなんでしょうか。

宋:ここ数年で「生理」はメディアにおいて、テーマとして取り上げられる機会が増え、話題にしやすい雰囲気になっているとは思いますが、まだまだ十分とはいえないでしょう。特に学校教育の中で、生理について、男性も女性も学ぶ機会が必要だと感じています。

イメージ:男子生徒と女子生徒のグループ授業
男女別の性教育ではなく、互いの体の仕組みを学び、理解するための取り組みが求められている

宋:また、一般的に女性は母親から生理の情報を得ることが多いと思いますが、母親が自分の経験として「生理とは痛いもの、我慢するもの」と伝えたら、子どもは「そういうものなんだ」と受け入れてしまい、婦人科につながりにくくなります。

便利な生理用品や選択肢は増えているので、社会人になってからも、生理や女性特有の健康課題について、情報をアップデートしていってほしいです。

最近では男性が生理痛を体験する研修や、女性の健康に関するセミナーを開催する企業も増えてきています。こうした波が社会全体に広がるといいですね。

編集後記

2024年2月に経済産業省ヘルスケア産業課が発表した「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(外部リンク/PDF)によると、月経随伴症状(生理痛やPMS、過多月経など)による社会全体の経済損失は約6,000億円だそうです。

社会全体が生理についての知識をアップデートし、女性が気軽に医療機関に通えるようにしたり、ピルやミレーナを利用するハードルを下げたりすることで、この経済損失は改善できるのではないかと思います。

生理の課題は、女性だけでなく「社会全体の課題」なのだと、取材を通じて感じました。

〈プロフィール〉

宋美玄(ソン・ミヒョン)

1976年生まれ。兵庫県出身。子育てと産婦人科医を両立し、メディア等への積極的露出で
“カリスマ産婦人科医”としてさまざまな女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて、女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
丸の内の森レディースクリニック 公式サイト(外部リンク)

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