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若者は政治と裏金のスキャンダルをどう見ているか? ~18歳意識調査アンケートより~
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団の18歳意識調査「第63回 –政治とカネ–」(外部リンク/PDF)は、若者の政治・政治家の印象の悪さを明らかにしています。
「政治はクリーンである(不正や不透明なところがない)」と答えた若者は1割程度に過ぎず、「国会議員は特権や優遇を多く受けている」と答えた若者は7割を超えています。
質問 :あなたは、今の日本の政治について、どのような印象を持っていますか。 「クリーンである(不正や不透明なところがない)」
質問:あなたは、今の日本の国会議員に対してどのような印象を持っていますか。「特権や優遇を多く受けている」
世界のどこでも、いつの時代でも、若者の社会への批判はごく普通にあると考えられます。しかし、多くの若者に「政治はクリーンではない(不正や不透明なところがある)」「国会議員は特権や優遇を多く受けている」と思わせている要因は考えてみる必要があると思われます。
コンプライアンス時代の政治資金の透明性
政治の中枢にある高齢者の若者時代には存在せず、現代の若者に強く求められているものの一つにコンプライアンスがあります。例えば、他者との関係性を不適切に利用し不正に自らの利益を得る利益相反はそれだけで退場を求められるほど厳しく罰せられる時代になってきたようです。
このようなコンプライアンス時代を生きる若者にとって、不正献金問題の答弁などで見受けられるコンプライアンス意識に欠ける高齢者の行動・発言は、自分たちの日常であれば即退場に値するものに映るかもしれません。
日本財団の調査では、政治資金問題への国会議員の発言を信頼できると答えた若者は1割程度にとどまっています。
国会議員がコンプライアンスに抵触しかねない自らの発言に「冗談であって本意ではない。何も悪いことは言っていない」と開き直っているように見える様子や「何か悪いことでも言ったのか?」と困惑している様子が放映されることによって、若者はさらに悪い印象を受けると捉えることもできます。
質問:政治資金問題について、以下に示す情報に対するあなたの信頼度を教えてください。「該当する国会議員による、メディアの取材への回答」
質問:政治資金問題について、以下に示す情報に対するあなたの信頼度を教えてください。「政治倫理審査会での弁明と質疑」
若者が求める政治資金の透明性に応えるには、収支報告書といった書面上の完備・不備もさることながら、政治資金の流れを時代の要請であるコンプライアンスの理解と、そのロジックに従って説明しようとする姿勢が政治家に求められていると考えられます。
若者が社会から求められる倫理観や社会的責任と、政治家のそれとのずれをなくしていくことが、若者の政治資金に対する不信感をなくしていくことにつながるのではないでしょうか?
ニュース“バラエティ”番組のネガティブキャンペーンの若者への影響は?
日本財団の18歳意識調査 「第54回–国会と政治家–」(外部リンク/PDF)によると、月1回程度以上政治に関する情報を収集している若者のうち、テレビから情報を得ていると回答した人は約7割と最も多いという結果になりました。
SNS世代に対してもテレビの影響は大きいと思われます。
質問:あなたは、政治に関する情報をどこから入手しますか。(複数選択式+自由記述式、前問で「月に1回未満」を選択した人以外)」
民放のテレビ局のニュース“バラエティ”番組は、視聴者受けしそうな政治的事件が起こると、どの局もスキャンダラスに日々放送する傾向が見受けられます。最近では、斎藤元彦(さいとう・もとひこ)元兵庫県知事がどのようなパワハラをしたと“言われているか”を毎日取り上げていました。
テレビを情報源とする高齢の視聴者と同様に、編集された政治に関する情報を浴びることで若者にも政治家へのネガティブイメージが先行してしまうことはやむを得ないことなのかもしれません。
では、どのようにしたら、若者に政治を判断する材料を適切に届けられるでしょうか?
株式会社社会調査研究センターの代表取締役社長で埼玉大学名誉教授の松本正生(まつもと・まさお)先生に聞いてみました。松本先生は、日本人の政治意識や世論調査研究の第一人者として、長きにわたり研究を重ねてこられました。
松本先生インタビュー
「生身の政治家が働いている姿を見せる。自分も議員を体験する」
松本正生さん(以下、敬称略):メディアから得られる間接的な情報よりも、生身の政治家が自分の働いている姿をどう見せるか、が重要だと思います。
最近では、特に地方議会では、議員のなり手がいないことが問題になっています。そこで、一部の地域では、地方議員が地元の小中学校などを訪問し、政治について子どもたちの興味関心を喚起するための活動を始めています。
議員の方から子どもたちに向けてアクションを取るこうした動きは、若者の政治に対する関心が薄いことへの危機感の裏返しとも見ることができます。このような活動が周辺地域にも伝わっていくと、それによって若者の意識も変わっていくのかもしれません。
例えば、愛知県新城市は「若者議会」を設置しており、市長直轄の取り組みとして若者が政策検討を行っています。若者議会は予算の使い道を若者自らが考え政策立案し、議会の承認を得て、市の事業として実施されます。
つまり、若者は「選ぶ」だけではなく、「選ばれる」側として政策形成に関与しているのです。「投票しましょう」だけではなく、自身が政策を考える側を体験することが大切です。このことに気づき始めている自治体がメディアなどに取り上げられることで、全国にこうした動きが広がっていくとよいのではないでしょうか。
「選挙の授業の体験を通して、子どもたちも、教える若者も学ぶ」
松本:私のゼミでは10年近く、地元の公立小中学校に行って模擬投票をやってきました。この活動を始めたきっかけは、2016年に選挙権年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる公職選挙法改正がなされたことです。
小学校6年生であれば、数年以内に選挙権を得るということであり、そう遠い話ではないので活動を始めました。選挙の授業を行うゼミの大学生には、「小学生が相手でも、レベルを下げずにやるように」と言っています。
模擬投票はこれまでに各学年でやっていますが、実際の候補者が訴えるような政策をそのまま説明したとしても、小学生6年生であれば1つや2つは、理解できるものがあります。この年代が一番素直に、スポンジが水を吸うように反応してくれます。
日本の場合、中高生になると受験に関心が向いて視野が狭くなりがちなので、その前の時期に政治の体験ができると良いと考えています。ただ、選挙の授業は1回のみの体験であるため、ずっとその内容を覚えているかどうかは分かりません。したがって、体験した小学生が家に帰った時に、「難しかった」と言ってくれれば良いと思っています。
「大人と同じ体験をし、それを通じて自分なりの達成感を得る」ということがとても大切で、達成感を得れば「もう少しやってみよう」という欲が出てくるものです。子どもたちは大人が思っている以上にできるし、刺激を受けて変わっていきます。これは、私が活動に立ち会っていていつも実感していることです。
一方、選挙の授業を行う学生にとっての意味合いですが、最初から関心があってやっているというよりも、就職活動のエントリーシート対策という面が強いのが実態です。しかしながら、最初の動機は打算でも、活動を続けるなかで何人か「化ける」学生もいるので、そうした人材を活かすようにすればよいと思っています。
政治とお金の仕組みを学校できちんと教育する
松本先生がおっしゃるように、教育の場での体験は政治への関心と理解を高める効果があることでしょう。政治とお金の基礎知識として、政治家が政治家として活動するためには政治資金は必要不可欠であることを子どもたちや若者が選挙権を得る前に学ぶことが大切ではなかろうか、と松本先生のお話から捉えることができるのではないでしょうか。
高齢者の若者時代には存在せず、現代の若者が学童期に学んでいるものに金融経済教育があります。他国には大きく遅れましたが、最近になってわが国でも金融経済教育が小中学校でようやく導入されるようになりました。
政治とお金はどうでしょうか? 税金の仕組みは学びますが、政治活動とお金の仕組みまでは手が届いていないと思われます。
そこで、1)学童・学生期に政治活動とお金の仕組みを学ぶ機会を提供し国民の政治とお金のリテラシーを向上させる、それと同時に、2)政治家はその学びに使ったフレームワークに沿って国民に政治活動とお金の流れを説明する、という案が考えられます。
国民と政治家が共通言語を持った上で、政治家は説明責任を果たし、国民は説明を理解する方向性はコンプライアンス時代に適合したものとなり、透明性の高い政治として若者からの信頼を得られるようになると思われます。
これまでは政治におけるお金の仕組みを国民が知らない方が政治家にとっては都合がよかったのかもしれませんが、自分の頭で妥当性を考えられる賢い国民を増やそうとする方がより良い社会に向かうと考えられます。
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