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なぜ痴漢は日本で多発する? 満員電車、男尊女卑社会、依存症がキーワード

イラスト:痴漢に遭遇しおびえる女性
日本では日常的に痴漢行為が行われ、多くの被害者を生んでいる
この記事のPOINT!
  • 日本は痴漢大国といわれ、日常的に多くの人が被害に遭っている
  • 目的は、「性欲を満たすため」だけではなく、「支配欲」「達成感」「優越感」が動機となっている
  • 第三者の介入で痴漢行為は90パーセント以上止められる。見て見ぬふりをしないことが重要

取材:日本財団ジャーナル編集部

痴漢大国といわれるほど、毎日のように多くの痴漢行為が発生している日本。

2024年の警察庁の調査(外部リンク/PDF)によると、2023年の痴漢検挙件数は2,254件に上り、「意外と少ない?」と感じる人もいるかもしれませんが、痴漢は被害を受けても泣き寝入りする人が多いため、実数とは異なっています。

実際、2023年に東京都が行った痴漢に関する調査(外部リンク)によると、女性の約45パーセント、男性の約9パーセントが「これまでに痴漢被害に遭ったことがある」と答えています。そして、被害者の内4割が「被害に遭った際に我慢した、何もできなかった」と回答しており、検挙件数は氷山の一角だということが分かると思います。

今回、「男が痴漢になる理由(イースト・プレス)」(外部リンク)の著者であり、榎本クリニック(外部リンク)でこれまで3,000人(ほとんどが男性)に及ぶ性犯罪加害者の再犯防止プログラムを担当してきた、西川口榎本クリニック副院長で精神保健福祉士・社会福祉士でもある斉藤章佳(さいとう・あきよし)さんに、痴漢の実態についてお話を伺いました。

痴漢加害者と聞くと多くの人は、「性欲を抑えきれない男性」をイメージしがちです。しかし、斉藤さんは「痴漢は性的な欲求や衝動によってだけで引き起こされるものではない」と指摘します。

取材に応じてくれた斉藤さん

満員電車、性教育の遅れ……。日本が痴漢大国である理由

――そもそも、なぜ日本は痴漢が多いのでしょうか。

斉藤さん(以下、敬称略):一番大きな理由は満員電車だと思います。痴漢とは混雑した場所で、相手の同意を得ずに性的接触をする行為のことですが、日本以外でも起こってはいます。

痴漢のバリエーション。痴漢行為には多くの種類があり、「胸を揉むだけが痴漢ではない」と説明しているイラスト。

匂いを嗅ぐ
キスをする
舐める
スカートをめくる、ズボンを脱がす
ブラジャーやスカートのホックを外す
衣服を切られる
卑猥な画像や動画を見せられる、送られる
組んだ腕の下から胸を触る、肘で胸に触る、新聞や鞄で隠して触る
性器に触れさせる、性器を見せる、自撮りを見せる
手を握られる
カバンやポケットに使用済みの避妊具を入れられる
去り際に胸やお尻を触る


まずは身の回りでどんなことが起きているか知ってください。痴漢には生活、性別、体型、服装、性格に関係ありません。
痴漢行為のさまざまなバリエーション。画像提供:斉藤章佳

斉藤:ただ、日本の都市部では、朝や夜のラッシュの時間帯に著しく電車が混雑していて、これは他の国と比べてもあまり例がありません。世界の乗降客数が多い駅ランキングを見ても、ほとんどが日本の駅です。

痴漢の起こりやすい時間帯も通勤や退勤ラッシュの時間。同じようなスーツを着ている男性がたくさんいる電車は、加害者にとって匿名性の高い空間です。この比率が逆だったら、男性は痴漢行為を行いづらいと思います。

イメージ画像:満員電車
2015年の犯罪白書(外部リンク)によると、性犯罪の受刑者の99.8パーセントは男性となっている(強制わいせつのみの男女比は不明)

――他にも日本で痴漢が多い理由はあるのでしょうか。

斉藤:包括的性教育がきちんと行われているか、という差も大きいと思います。

先進国の場合は、子どもの頃から性的同意(※)のことや、「自分の体は自分のものである(性的自己決定権)」ということを伝える包括的な性教育が進んでいますが、日本ではあまり積極的に取り組まれていません。

また、日本は幼い頃から、男らしさや女らしさのようなジェンダー規範の刷り込みが、家庭や学校、社会、メディアの中でずっと繰り返されていて、女性が声を上げづらかったり、男性に忖度しないといけなかったりするなど、男尊女卑的な価値観が根強く残っています。

その結果、「痴漢をされているかもしれない」と思っても、自分の体を守ることよりも先に、「間違っていたらどうしよう」「報復されるかも」「電車を止めてしまうかも」「自意識過剰だと思われたら嫌だな」などと考え、声を上げられない人がほとんどです。

「自分が犠牲になればこの場がなんとかうまく収まる」と考え、周囲に迎合的になって、泣き寝入りを選択するケースが多いです。加害者はそれを把握した上で痴漢行為を繰り返すので、痴漢被害はなかなか明るみに出ません。

また、減ってきてはいますが、電車の中吊り広告や、成人向け雑誌など、女性を性的欲求充足の道具やはけ口として消費するものが生活の身近にあり、痴漢を含む性犯罪を過小評価する要因は社会側にもたくさんあるといえるでしょう。

  • 性的な行為に対して、お互いが積極的に望んでいるかを確認する行為
斉藤さんの著書の数々。最新の著書は「男尊女卑依存症社会(亜紀書房)」(外部リンク)で、依存症の根底には、男性優位の社会があることを解説している

――「いいじゃん。触られたからといって、減るもんじゃないし……」という、言い訳のようなフレーズも耳にしたことがあります。

斉藤:そうですね。「痴漢」という言葉自体も、テレビや雑誌などでエンタメのネタのように消費されてきた歴史もあり、非常に軽い印象があります。重大な性暴力であるという共通認識が薄く、加害者の行為責任を曖昧にしていると思います。

これでは、加害者も「”痴漢”くらい大丈夫だろう」という認識になってしまうので、「電車内性犯罪」「電車内性暴力」というような呼称にして、加害者の行為責任を明確にすべきです。

また、基本的に痴漢行為は、初犯で実刑となることはほとんどありません。

――そうなんですか……。 痴漢ってすごく軽く扱われているように感じます。

斉藤:そうなんです。加害者にとってもローリスク・ハイリターンな行為だといえます。

ただ、2023年の法改正で、同意のない状況での性的接触が処罰されることになり、2024年5月に初めて痴漢行為に対して、不同意性交罪扱いとして、初犯で実刑判決が下されました。

やっと社会が痴漢を重大な性暴力として認識したといえる判決でした。

痴漢の目的はストレス発散。性欲由来は一部でしかない

――斉藤さんの著書の中で、「性暴力を性欲の問題のみに矮小化して捉えると、その本質を見誤る」と書かれていました。では、なぜ痴漢は痴漢行為におよぶのでしょうか。

斉藤:痴漢と聞くと「性欲を抑えきれないモンスターのような存在」をイメージしがちですが、加害者に「なぜ痴漢をしたのか?」と動機を聞くと、「性欲が抑えきれなかったから」という人は少数派です。返ってくる答えは「支配欲」「達成感」「優越感」などでした。

これは実際に私が、約3,000人の性犯罪加害者の再犯防止プログラムに当たって分かったことですが、加害者は何らかのストレス(生きづらさ)を抱えていて、痴漢行為によってそれを一時的に緩和しているんです。

――痴漢行為はストレス発散のためということですか。

斉藤:そうですね。そう聞いてもなかなか理解できないと思います。

おぞましいことですが、痴漢加害をする男性の多くが、「痴漢をされて喜ぶ女性もいる」「ちょっとくらい触ったところで、何かが減るわけではない」というような、本人にとって都合のいい認知の枠組みを持っています。

これを「認知の歪み」というのですが、問題行動を継続するために自分を正当化しながら痴漢行為におよび、女性を支配したような気持ちになって、一時的に自分を満たしているわけです。

また、優越感と表現した加害者は、「こんなこと自分にしかできない」と話します。

さらに、痴漢行為というのは、捕まったら社会的な死が待っているわけですから、そこに大きなリスクがあります。だからこそ、行為前の期待感が高まり、脳内報酬系のドーパミン(脳内麻薬)分泌が活発になるのです。

この緊張と緊張の緩和の繰り返しが、彼らが日頃抱えているしんどさや緊張感を和らげるという内的プロセスにつながっています。

性欲や性衝動の発動が痴漢行為の引き金の一つにもなっているとは思いますが、それだけではなく、複合的な快楽が凝縮した行為が痴漢であるというのが私の見解です。

――ご著書の中で痴漢は依存症の側面を持っていると指摘しています。そういった行為を繰り返すうちに嗜癖(しへき)行動(※)になるということでしょうか。

斉藤:はい。まず依存症の構造についてご説明すると、依存症には2段階モデルという考え方があります。

人はなぜ依存症になるのでしょうか。依存症になる人は、それまでの人生で、幼少期の虐待、学生時代のいじめ、知的・発達課題を抱えていたことから学校や社会で不適応を起こすといった、何らかの傷つき体験や生きづらさを抱えている、いわゆる小児期逆境体験のスコアが高い人が多いと先行研究で明らかになっています。また、社会から期待されたジェンダー規範に過剰適応し、男らしさや女らしさに悩み苦しんでいる場合もあります。

これが依存症になる人の生きづらさの根っこであり、一次障害と考えます。

そういう中で、人生のある部分でつまづいたり、不適応を起こしたりしたとき、ある特定の行為や物質によって、一時的に本人が抱えている生きづらさや、しんどさが低減、または緩和される。そして、その行為や物質に溺れていくのが依存症としての二次障害です。

ですから、痴漢も繰り返すうちに行為依存になっていきます。もちろん、性的欲求が満たされたところで痴漢行為が止まることはありません。

行為依存から回復していくには、生きづらさの根本の部分へのアプローチや癒しが必要で、そこに治療の中で向き合っていくわけです。

  • 一般的にニコチン、アルコール、薬物、ギャンブル、ゲームなどを「やめたくてもやめられない」状態のことを依存症というが、医学的には嗜癖という用語を使用する
斉藤さんは「再発防止」「薬物療法」「性加害行動に責任をとる」の三本柱を軸に、加害者の再犯防止プログラムに当たっている

斉藤:じゃあ、痴漢行為をする人は、小児期逆境体験が必ずあるかと聞かれると、そうとも言えない側面があるのが、痴漢加害者の特徴です。

私がこれまで治療にあたった約3,000人の内、痴漢加害者のデータを見ると、痴漢をする人はごく普通の家庭で生まれ育ち、四大卒で、妻子ありという、「どこにでもいる普通の男性」という印象が強くあります。

家庭ではいい夫であり、いい父である人が、日々のストレス対処がうまくできず、それへの対処行動として、痴漢行為を選択しているんです。そういう意味で行為依存は、不適切なストレス対処行動が習慣化した状態といえます。

斉藤さんがこれまでに再犯防止プログラムを通じて対応してきた痴漢加害者のデータ(2006~2020)

再犯防止プログラムを受けた痴漢加害者のデータを職業、学歴、結婚歴ごとにまとめたものです。回答者数は932人。

1. 受診時の職業
会社員:53パーセント
無職:27パーセント
学生:7パーセント
自営業:6パーセント
公務員:5パーセント
アルバイト:1パーセント
その他:1パーセント

2. 学歴(円グラフ)
大学卒:51パーセント
高卒:19パーセント
専門卒:11パーセント
在学中:6パーセント
大学院卒:6パーセント
不明:2パーセント
中卒:5パーセント

3. 結婚歴(円グラフ)
既婚:46パーセント
同棲中:2パーセント
婚約中:2パーセント
その他(既婚の内訳に含む):2パーセント
未婚:37パーセント
離婚:7パーセント
別居:4パーセント
斉藤さんがこれまでに再犯防止プログラムを通して対応してきた痴漢加害者のデータ。受診時の会社員率は53パーセントだが、痴漢行為によって無職になる人も多く、痴漢をした当時会社員だった人は80パーセントくらいになるという。データ提供:榎本クリニック

斉藤:ただ、痴漢行為の原因を過去のトラウマや、過度に性依存症と病気扱いすると、加害者は痴漢行為を正当化してしまうため、注意が必要です。

一方で痴漢加害者のご家族には、プログラムを継続することによって加害行為が止まる可能性が高まることを知っていただきたいと思います。

――斉藤さんが痴漢加害者に行っている治療についても教えてください。

斉藤:治療には3段階ありまして、まずは再犯しないためのスキルを認知行動療法で学びます。次に認知の歪みへアプローチをします。

最後の3段階目で、被害者に対する責任をとる、謝罪・贖罪に向き合う、そして、生育歴の中で経験したトラウマ体験や生きづらさにアプローチしていきます。順番はとても大切で、これを最初に扱うと、「自分にもつらい過去があったんだから加害行為をしても仕方ない」という世界観につながってしまうんです。

――プログラムを続けると、依存症は治っていくのでしょうか?

斉藤:回復はしますが、完治は困難であり、「やめ続けることをいかに維持していくか」が依存症のプログラムです。治療の最終段階までくると、ある程度はやめている期間が長くなりますが、睡眠不足(Sleep)、イライラする(Angry)、孤独である(Lonely)、疲れている(Tried)、など普段の生活サイクルが不安定になってくると、犯行サイクルのトリガーを引いてしまい再加害におよんでしまうことがあります。これらの頭文字をとって「SALT(サルト)」といいます。

規則正しい生活、食事、心身のメンテナンスをすることなども、とても大切な治療の一部です。

見て見ぬふりをやめて、当事者としての一歩を踏み出してほしい

――痴漢行為をする理由について、持っていたイメージと実態とが異なり、驚くことばかりでした。それでは、痴漢をなくすため、私たち一人一人ができることはどんなことでしょうか。

斉藤:東京都が2023年に行った「令和5年 痴漢被害実態把握調査」(外部リンク/PDF)では、第三者が何らかの介入をするだけで90パーセント以上の痴漢行為が止まるという結果が出ており、見て見ぬふりをしないことが重要だと思います。

痴漢をされているかもしれない人に対して「大丈夫?」という言葉をかけるだけでも痴漢行為が止まりますので、勇気を出して一歩を踏み出してほしいと思います。現在は痴漢撃退機能がついたスマホアプリもあります。

「痴漢です。助けてください」の画面と「ちかんされていませんか?」の画面がボタンで切り替えられる。「やめてください!」と音声が流れる機能も
警視庁防犯アプリ「デジポリス」の痴漢撃退機能の説明。参考:防犯アプリ デジポリス|警視庁(外部リンク)

斉藤:また、認知の歪みは加害者だけでなく、社会全体も内包しています。

例えば、子どもや友人が露出の多い服装をしていると、「そんな服装だと痴漢に遭うよ」というような言葉を掛ける人がいます。こういった言葉は、たとえ言った本人にその気はなくても「露出の多い服装をしていたのだから、痴漢に遭っても仕方ない」「性犯罪の被害者にも落ち度はある」という空気をつくり出してしまっているように思います。

そして、「露出の多い服装だと痴漢に遭いやすい」というのも、紋切り型の被害者像でしかなく、実態とはずれています。痴漢の大多数は捕まらないよう、気が弱そうで、おとなしそうな、目立たない「泣き寝入りしそうな女性」を狙っているんです。露出の多い女性を狙っているわけではありません。これは他の性犯罪でも同様です。

痴漢をなくすには、社会全体が性犯罪についてイメージではなく、正確に実態を理解する必要があります。まず、性犯罪について、性欲だけが原因ではなく、背景に男尊女卑の価値観や、行為依存の問題などがあることを理解した上で、どうしたら痴漢がなくなるのかという議論を皆さんとできればいいと思います。

編集後記

女性にとって痴漢は「自分が被害者になるかもしれない」という意味で、とても身近なものだと思います。一方で、多くの男性は「女性の約2人に1人が痴漢被害の経験がある」という調査結果に、「そんなにいるの?」と驚くのではないでしょうか。性犯罪、特に痴漢に関しては、男女で全く意識が異なると思い、今回、斉藤さんにお話を伺いました。

取材を通して、痴漢加害の背景にあるさまざまな要因が分かりました。第三者の介入で痴漢行為の90パーセント以上は止められるとのことで、見て見ぬふりをせず、痴漢を許さない人が増えることで、痴漢の起こらない社会になること望みます。

撮影:永西永実

〈プロフィール〉

斉藤章佳(さいとう・あきよし)

精神保健福祉士・社会福祉士。西川口榎本クリニック副院長。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックで、アルコール依存症を中心に、ギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で、現在まで3000名を超える性犯罪者の再犯防止プログラムに関わる。痴漢について専門的に書かれた日本初の著書「男が痴漢になる理由」(イーストプレス)をはじめ、共著に「50歳からの性教育」(河出書房新書)、「性暴力の加害者となった君よ、すぐに許されると思うなかれ」(ブックマン社)がある。
西川口榎本クリニック 公式サイト(外部リンク)

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