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障害を理由に海遊びを諦めない。誰もが安心・安全に遊べるユニバーサルビーチとは?

須磨ユニバーサルビーチプロジェクトの集合写真
須磨ユニバーサルビーチプロジェクトでは障害の有無にかかわらず、誰もが海を楽しめるよう活動を行っている。画像提供:須磨ユニバーサルビーチプロジェクト
この記事のPOINT!
  • 身体に障害のある人やその家族が海遊びを楽しむには、乗り越えなければいけない困難が複数ある
  • 環境が整えば車いす利用者でも海で遊べる。小さな成功体験が新たな挑戦につながる
  • 誰もが「障害があるからできない」といった固定観念を捨て「できる方法」を考えることが選択肢を増やす

取材:日本財団ジャーナル編集部

夏になると賑わう海水浴場。多くの人が海で泳ぎ、浜辺で楽しんだことがあるのではないでしょうか。

しかし、体の自由がきかないといった障害がある、車いすの人が海を楽しむためには、物理的な面も含めさまざまな壁が立ちふさがります。そんな現状を変えようとしているのが、「NPO法人 須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」(外部リンク)です。

「ユニバーサルビーチ」とは、身体に障害のある人やお年寄りであっても、自由に、安全に、そして快適に活動できるビーチのこと。

須磨ユニバーサルビーチプロジェクトで代表理事を務める木戸俊介(きど・しゅんすけ)さんは「障害者に物理的なバリアはたくさんあっても、乗り越えられない心理的なバリアはない」と話します。

木戸さんにユニバーサルビーチを実現させるために必要なものや、障害者の選択肢が広がるために私たちができることについて話を伺いました。

「NPO法人須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」代表理事の木戸さん。2015年、交通事故により車いすユーザーとなる。画像提供:須磨ユニバーサルビーチプロジェクト

誰かの力を借りることや「なんとなく危ない」という声が、障害者にとっての壁に

――身体に障害のある人やその家族にとって、「海で遊ぶ」ことは、ハードルが高いと聞きました。

木戸さん(以下、敬称略):そうですね。まず、一般的な車いすでは浜辺を通ろうとすると車輪が砂に埋まって動かせなくなるという物理的なハードルがあります。

また、家族や友人におぶってもらえば浜辺に行けますが、それに対する罪悪感みたいなものもあるんですよ。私も以前旅行で熱海へ訪れた時、家族の力を借りて浜辺まで連れて行ってもらったのですが、「申し訳ない」という気持ちになりました。物理的にも心理的にもハードルがあるんです。

あと、車いすの場合、着替えも困難ですし、医師から何となく「危ないからやめておいた方がいい」と言われて、海に行くことを諦めている方も多くいらっしゃると思います。

イメージ:海岸にある車いす
車いすユーザーが一人で海に行くには多くの困難がある

――そもそも、身体に障害のある人やその家族の選択肢の中に「海で遊ぶ」ということがないんですね……。木戸さんがそのようなハードルをなくして、ユニバーサルビーチを実現させたいと思ったきっかけは何でしょうか?

木戸:きっかけはオーストラリアにあるユニバーサルビーチを訪れたことでした。車いすに乗ったまま浜辺まで行けて、水陸両用の車いすの貸し出しもしていたので、海に入って遊ぶことができたんです。一緒に行った友人とめっちゃ遊んで、車いすでも入れる更衣室でそのまま着替えて帰るっていう……。健常者の時のように海を楽しめたんです。

できないと思っていたことが、再度、自分の力でできるようになったことがとても嬉しくて。もともと健常者の僕ですらこんなに嬉しいのだから、先天的に障害があって、海を諦めていた人が海遊びを体験できるようになったらもっと嬉しいだろうなと思うようになり、日本でユニバーサルビーチを展開しようと決めました。

――それで「須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」を立ち上げたんですね。具体的にはどのような活動を行っているのでしょうか?

木戸:僕の故郷でもあり、初めてプロジェクトを行った神戸市にある須磨ビーチを、日本一素敵なユニバーサルビーチにする活動を行っています。

また、その須磨での成功事例をもとに、全国にユニバーサルビーチを普及させるべく、出張ユニバーサルビーチや、地元でユニバーサルビーチを開設するためのノウハウを学ぶ講習会なども行っており、2023年12月時点で、全国56カ所の海でユニバーサルビーチを開催してきました。

他にも、海だけでなく車いすで山へ遊びに行ったり、畑仕事の体験ができたりするようなイベントを手掛けており、身体に障害があってもやりたいことを諦めず、さまざまなアクティビティに参加できる人が増えるよう活動を広げています。

車いすで農作業体験ができる須磨ユニバーサルファームの模様。画像提供:須磨ユニバーサルビーチプロジェクト

「できない」を「できた!」に変えていきたい

――車いす利用者が海を楽しめるようにするには、どのような道具が必要になるのでしょうか?

木戸:まずは車輪が砂にのまれないようビーチマットが必要になります。マットを敷いて波打ち際まで行けるようになると、「海に入りたい」という気持ちにもなりますので、水陸両用のアウトドア用車いす「ヒッポキャンプ」というものも用意しています。

ビーチマットとヒッポキャンプ。画像提供:須磨ユニバーサルビーチプロジェクト

――それらの道具があれば、どこの海でもユニバーサルビーチとして楽しめるということでしょうか?

木戸:いえ、安全のため講習を受けたスタッフが必要です。また、自治体やさまざまな団体との連携も必須になります。ビーチマットを敷くには海を管理している自治体・管理者の許可が必要ですし、地元のライフセーバーに協力してもらうことや、バリアフリーに配慮された更衣室も必要になります。

須磨ビーチの場合、神戸市が管理している障害者用施設にご協力いただき、着替えはそちらで行えるようになっているのですが、最初からそういった仕組みをつくることは難しいですよね。なので、出張ユニバーサルビーチのときは、仮設テントを立て、その中で着替えてもらうようにしています。

須磨ビーチには障害のある人向けのトイレ・シャワーが常設されている(後方にある建物)。画像提供:須磨ユニバーサルビーチプロジェクト

――道具だけでなく、さまざまな人や団体の協力が必要になるんですね。

木戸:そうですね。ただ、基本的にはどこの海であってもユニバーサルビーチにできると思います。最初から完璧なユニバーサルビーチを目指す必要はありません。できる範囲でいいので、最低限の環境を整えていただいて、まず「できない」を「できた」にすることが重要です。

――実際にユニバーサルビーチを利用した方からはどのような声が届いているのでしょうか?

木戸:印象に残っているのは、初めて海水浴にチャレンジした女の子の表情とその父親の行動です。

その家族は偶然ユニバーサルビーチを知って、なんとなく参加したということだったんです。だから、父親は最初、波打ち際で写真を撮るだけだったんですけど、初めて海を体験した娘の感情爆発の笑顔を見て、服のまま海に入っていっちゃったんですよ。「もうたまんないっすわ。服は乾かして帰ります」って(笑)。

服のまま海に入ってしまったという父親とその娘。画像提供:須磨ユニバーサルビーチプロジェクト

木戸:言葉の感想よりも、衝動的に出てしまう行動や感情というのが印象的でした。私自身も本当に嬉しかったです。

この「できないと思っていたことができた」っていう成功体験は、次のチャレンジにつながるんですよ。「海には入れた。じゃあ、次、〇〇をやるにはどうすればいいだろう?」と、前向きに考えられるようになるきっかけになるんじゃないかと思います。

はじめから「〇〇だから無理」と決めつけるのではなく、前向きに方法を考えていけるようになってほしいですね。

車いすでのツリーイング(ロープを使った木登り)の様子。車いすだからといってできないことはない。画像提供:須磨ユニバーサルビーチプロジェクト

障害者には挑戦意欲を、健常者には肯定的な考え方を持ってほしい

――とても素晴らしい取り組みですね。こういった活動が世の中に広がっていくためには、どんなことが必要でしょうか?

木戸:障害者自身がもっと「いろいろなことに挑戦してみたい」という気持ちを伝えていくことが必要だと思います。と同時にユニバーサルビーチプロジェクトのことを知らない人たちに知ってもらう施策が必要だと思うので、積極的に進めていきたいですね。

まずは2030年までに各都道府県の1カ所、ユニバーサルビーチをつくることを目標にしています。全ての都道府県に1つでもユニバーサルビーチがあれば、障害者とその家族が楽しめる場所として選択肢が増えますし、それは「障害があっても、できないことはない」という気持ちを高めてくれると思います。

今後、ユニバーサルビーチの設置を考えている自治体があれば、全力で支援していきたいです。

――障害者の選択肢が少ない現状を変えていくために、私たち一人一人ができることは何でしょうか?

木戸:まず大切なのは、「どうせできない」ではなく、「どうやったらできるようになるのか?」を障害者と一緒に考えていくことだと思います。その考え方が障害者の選択肢を増やしていくことでしょう。

あとは、とりあえず肯定すること。僕らの活動を説明すると、「危なくないですか?」って人と、「面白そうですね! どうやるんですか?」って人の2種類に分かれるんですよ。前者の人は最初からチャレンジすることすら否定しているんです。とにかく肯定的に「どうすればできるか?」っていうのを考えられる人が増えてほしいなと思います。

オンラインでの取材に応じていただいた木戸さん

木戸:あとは、大きな商業施設などでは障害者専用エレベーターとか、「障害者優先」って大きく書いて、空間や動線が分けられているじゃないですか。多分、それをしている限り一生分かり合えないんじゃないかと……。

障害の有無にかかわらず、ぶつかることも含めて一緒に何かを行動しないと分かり合えないですよね? 私たちもビーチマットを敷くときに、管理者から「真ん中だと危ないんで、こちらで……」って端っこに案内されるんですけど、それだと真の意味でのユニバーサルではないんですよね。

海で遊べるようにするっていうのはあくまで手段の1つで、そこから生まれるコミュニケーションも含めて、「ユニバーサル」であることが大切だと思うんです。もし近くでユニバーサルビーチを見かけたら、積極的にビーチマットの上を歩いてほしいし、周りの人とも関わってもらいたいと思います。

編集後記

今回の取材を通して、「障害」に対し無意識のうちに諦めた発想をしてしまっていることの多さに気付かされました。

障害の有無にかかわらず、誰もがいろんなことを自由に選択できる社会にするためには、当事者はもちろん、その周囲の人たちが固定観念にとらわれず、まずは「できることから始めてみる」。そうして成功体験を重ねていくことが、重要なんだということを学びました。

〈プロフィール〉

木戸俊介(きど・しゅんすけ)

1986年、兵庫県神戸市生まれ。筑波大学を卒業後、広告代理店で8年間勤務。2015年、交通事故による胸椎損傷から下半身が完全麻痺。アメリカ、オーストラリアでのリハビリ留学後、イベントプロデュースや企業のマーケティング活動を支援するコンテンツプロデューサーとして独立。2017年にNPO法人 須磨ユニバーサルビーチプロジェクトを設立した。キッチンカー事業「キッチンHERO(ヒロ)」、スポーツ×教育事業「HUMAN DEVELOPMENT ACADEMY」など活動は多岐にわたる。
須磨ユニバーサルビーチプロジェクト 公式サイト(外部リンク)

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