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寄付に安心があたりまえの社会へ——日本非営利組織評価センター・佐藤大吾さんが進める「グッドギビングマーク制度」とは ?
- NPOは「市場原理」では救えない人々を支援し、寄付や助成金を主な資金源とする
- 「信頼の欠如」が最大の壁。健全なNPOであっても「ネットのうわさ」に悩まされている
- 第三者が客観的に審査する「グッドギビングマーク制度」が信頼の新基準になっている
取材:日本財団ジャーナル
あなたは「NPO」と聞いて、どんな印象を持ちますか?
社会のために活動している大切な団体だと思う一方で、「何をしているのか分かりにくい」「本当に信頼できるの?」と感じたことはないでしょうか。
NPOは、行政や企業だけでは手が届きにくい社会課題に向き合う、いまの社会に欠かせない存在です。でも活動内容が見えにくいことから、評価や信頼を得づらく、資金や人手が集まりにくいという現実もあります。
そんな課題を変えようと、NPOの信頼性を“見える化”する取り組みを進めているのが、公益財団法人 日本非営利組織評価センター(以下、JCNE)です。第三者の立場からNPOを評価し、2025年春には信頼性を認証する「グッドギビングマーク制度」をスタートさせました。
理事長の佐藤大吾(さとう・だいご)さんは、25年以上にわたりNPOの現場を見つめ続けてきた人物。「NPOがもっと信頼されれば、社会はもっと良くなるはず」と考え続けてきました。
NPOの信頼性が高まると、私たちの暮らしはどう変わるのか。寄付やボランティアは、もっと身近なものになるのか。誰もが生きやすい社会をつくるために、私たちにできることを佐藤さんに伺いました。

NPOは「受益者負担の原則」が成立しない領域を担う、社会に不可欠な存在
——そもそも現代社会において、「NPO」の必要性とはどこにあるのでしょうか。
佐藤さん(以下、敬称略):最近は株式会社であっても、単なる利益の追求にとどまらず社会課題の解決を目指す「パーパス経営(※)」を掲げる企業が増えています。ただ、NPOとの決定的な違いは「ビジネスモデル」にあります。
例えば、おにぎりを作っている会社は、代金を「食べる人」からいただきます。おにぎりという商品を受け取る人が、代わりに金銭を支払う「1対1の関係」が成立している。これを私は「受益者負担の原則」と呼んでいます。この原則が成立するのは株式会社の世界です。
しかし、ホームレスを支援する活動では、おにぎりを提供しても食べる人から代金を回収できません。こういった分野では、原材料費や人件費などのコストを、寄付や助成といった「おにぎりを食べない第三者」に負担してもらわなければなりません。
このような「市場原理が成立しない分野」が世の中には確実に存在しています。そこで採算性に縛られず、寄付という善意のお金を使って助けを必要としている全ての人に対して活動できることが、非営利組織であるNPOの社会における必要性だと思っています。
――市場原理で救えない人々をサポートするのは「行政」の役目では? と考える人もいるかもしれません。NPOだからこそできる役割についてお聞かせください。
佐藤: 行政の支援が追いつかない場所というのは確実に存在します。そこでNPOは先んじて現場に入り、当事者の抱えるリアルな課題を知って、解決のモデルを先行実装できます。最終的にはそのデータをもとに政策を提言し、社会全体の制度を更新していくことができます。
特定の誰かを助ける「点」の活動を、より多くの人々、つまり「まだ出会っていない不特定多数」にも支援が届くよう社会全体の仕組みに変えていく。この「次の公共」をデザインすることこそが、NPOの本質的な役割であると私は考えています。
ここで重要なのは、「他人の善意の資金を預かる」仕組みで成り立つ組織にとって、信頼は活動の「基礎」であり、存立するための前提条件だということです。
どれほど立派な活動をしていても、運営の安心感が伝わらなければ支援という名の「善意の水」は流れてきません。「信頼」というインフラを整えることがあって初めて、NPOは社会を変えるスタートラインに立てるのです。
- ※ 「パーパス経営」とは、社会における存在意義(Purpose)を明確にし、それを軸として事業を行う経営モデルのこと


「文化は変えられる」。 星取り表で見えた、日本に足りない「評価の仕組み」
――佐藤さんは25年以上にわたり、一貫してNPOの運営や資金調達に携わって来られました。その根底にある思いについてお聞かせいただけますか。
佐藤: 始まりは、大学生時代に企業向けインターンシップ事業を行う株式会社を立ち上げたことです。そのうち、議員事務所や行政、NPOでもインターンを体験したい、という要望が届くようになりました。
しかし双方に利がある企業インターンシップと違って、これらの組織は学生を受け入れるための予算を持っていません。「1対1の関係」ではビジネスが成立しないです。
やむを得ず赤字覚悟で実施したところ、学生や受け入れ先からは非常に好評で、「後輩にも体験させたい」「うちにも学生を紹介してほしい」という問い合わせがたくさん届きました。
社会的ニーズは高いのに、資金の問題で続けられない。この構造を何とかしたいと考えた時、大学の恩師で「NPO法」の制定に関わった山内直人(やまうち・なおと)教授から「その不採算部門を切り離して、NPO法人にしてみたら」と助言をいただきました。そうして生まれたのが私の最初のNPO法人ドットジェイピーでした。
その後、NPOの経営者仲間が増えて行くなかで、彼らの多くが共通して資金面の悩みを抱えている事実に直面します。というのも、株式会社であればベンチャーキャピタルからの出資や銀行融資といったファイナンス手法が確立されています。しかし、当時のNPOには寄付や助成金などの限られた手段以外に、まとまった資金を調達する術がほとんどありませんでした。
――その原体験が、NPOがどうやって運営資金を獲得していくか、という課題意識につながった、ということでしょうか。
佐藤:海外に目を向けると、驚くほど規模が大きく、多くの寄付金を集めて安定した運営を行っているNPOがたくさんあります。日本の環境と何が違うのか、解決策を探るために日本・アメリカ・イギリスの寄付環境を比較する星取り表を作りました。
よく「英米はキリスト教で寄付文化があるからお金が集まるんだ」という声も聞きます。しかし、日本でも伊勢神宮の式年遷宮の際には数百億円以上も寄付が集まります。問題の本質は「宗教」の違いではありませんでした。比較の結果、明らかな違いが現れたのは「ルール」と「ツール」でした。
例えば、いただいた寄付金の財務情報を公開する「ルール」。英米では義務化されていますが、当時の日本では役所に行かなければ閲覧できず、ウェブ公開の義務もありませんでした。また、ネットで簡単に寄付決済ができる「ツール」についても、英米では当たり前に整備されていましたが、当時の日本ではまだ使えませんでした。
こうした×印をひとつずつ○に変えていけば、日本にもNPOに対する寄付文化が根付くはず。それが私の立てた仮説でした。そして、星取り表の中に残った日本に足りない大きな仕組みの1つが、「第三者による非営利組織の評価機関」の存在です。
――確かに、日本ではいまだに「NPOは資金をどう使っているか分からない」といったイメージを持たれやすい現状があります。「第三者による評価の欠如」についてどのような課題を感じていますか。
佐藤:昔から「マネーロンダリングにNPOが使われている」といった都市伝説のような話がありますが、実際にはほとんど事件化されていません。
しかし、権威のある人物が「理論上はあり得る」と言うだけで一般の方は信じてしまいますし、「あのNPOはうさんくさい」といったネット上のうわさ話に対抗するのは至難の技です。NPO自体が「当団体は潔白です」と言ったところで、本人による証明には客観性が伴いません。
実際にあった事例ですが、あるNPOが銀行融資を申し込んだ際、銀行側がネット調査の過程で怪しい書き込みを見つけ、事実確認もないまま「お断り」で終わってしまったことがありました。融資の担当者はわざわざ「これは本当ですか?」なんて聞いてくれません。団体には反論のチャンスすら与えられません。
これはあまりに理不尽で悔しいことです。だからこそ、私たちのような第三者が支援者や銀行、企業に成り代わって、あえて「耳の痛い話」まで含めて徹底的に調査を行います。そういった事実確認の上で「チェック済み」というお墨付きを出すことができれば、それが健全な団体をフェイクニュースや誹謗中傷から守る「盾」になります。

「グッドギビングマーク」は支援者を守り、健全な団体を支える「盾」
――不当な攻撃から団体を守る「盾」という発想は、今の時代非常に重要ですね。その具体的な仕組みとしてスタートした「グッドギビングマーク制度」について教えてください。
佐藤:ひと言で言えば、NPOが適切なガバナンスを行っていることを専門の評価員が客観的に証明する「信頼の証」です。最大の特徴は、これまで私たちが取り組んできた「NPOの信頼性向上」という目的に加え、「支援者保護」を明確な目的に掲げている点にあります。
金融業界には、一般の預金者や投資家がプロにだまされないための「預金者保護」「投資家保護」という厳しいルールがあります。対して、寄付の世界ではこうした概念が希薄でした。
善意でお金や時間を差し出している支援者が、もし不適切な運営によって裏切られたとしたら、金銭的にも心理的にも大きなショックを受けます。そこで専門知識を持たない一般の方に代わって、第三者機関であるJCNEが事前に「身体検査(KYC)」を済ませておこう、という発想です。
――具体的には、どのような基準で審査されているのでしょうか?
佐藤:大きく5つのカテゴリー、14の基準で審査します。例えば「団体確認・ガバナンス」では、理事会が形骸化せず適切に機能しているか。「コンプライアンス」では、不正経理やハラスメント対策、そして特に企業や行政が重視する「反社会的勢力との断絶」ができているか。「資金管理・情報公開」では、寄付金の使途が透明で適切に管理されているか、といった点を確認します。
これは「素晴らしい団体を表彰する」性質のものではありません。他者の資金を預かる組織として「当たり前のことが当たり前にできているか」を証明する、いわば組織の健康診断のようなものです。マイナス要素を持つ団体を排除し、安心を担保するための「フィルター」だと考えてください。
――「グッドギビングマーク」を取得することで、どのようなメリットがありますか。
佐藤:まず、企業や助成団体にとっては、独自の審査コストを大幅に削減できるメリットがあります。というのも、制度設計の段階で企業500社へのアンケートや膨大な助成申請書を分析し、各社・助成団体が共通して確認している項目を抽出しました。その結果、基礎的な団体審査を一括代行できる仕組みが完成しました。
現在、このマークを審査に活用している助成プログラムの年間総額は614億円に達しており、いわば信用調査のシェアリングサービスのような機能を果たしています。実際に認証を受けたNPOからも、「自ら潔白を証明するのは難しかったが、第三者がやってくれるのでありがたい」という声をいただいています。
団体側にとっては、客観的な評価基準によって信頼性を示せることが大きなメリットです。そして一般の寄付者やボランティアの方にとっても、「この団体は第三者のチェックを受けている」という安心感が得られます。支援先を選ぶときの判断材料になりますし、「寄付をしたいけどなんとなく不安」とためらっていた方の背中を押すことにもつながります。
――この制度が広く定着した先に、佐藤さんはどのような社会の姿を描いていますか。
佐藤:同じ基準で全ジャンル、全地域の団体を評価することで、NPOの中でも「相場観の醸成」ができると考えています。
例えば、「人件費の割合は何パーセントが妥当」といった正解は基本的にありません。ただ、さまざまな団体のデータを蓄積して見せることで、寄付者や助成団体、企業といった支援する側が、自分なりの考えや判断の尺度を持つことができるようになります。その助けになる役割を果たしたいんです。
NPOにとっても、「人件費が高過ぎるのではないか」などの疑問を投げかけられたとき、類似団体との比較データを見せることができれば、根拠を持って説明できます。これによって、NPOが政府や企業と対等に渡り合える土壌が整いますし、政策提言もしやすくなります。
今は「マークを取得している団体が目立つ」状態ですが、いずれは「取っていない団体がおかしい」と思われるレベルまで逆転させたい。そのためにはまず、企業や助成団体の方に「マークの有無を確認してください」と働きかけ続けています。
最終的な目標は、信頼情報の公開が当然の義務となる社会へと進化させていくこと。NPOを単なる「善意の集まり」から、現場、政策、市民をつないで「次の公共」を設計する社会変革のインフラへと変えていく、それがJCNEのミッションだと思っています。

安心して支援できる社会をつくるために、私たち一人一人ができること
社会課題に取り組むNPOを安心して支援できる社会にするために、私たち一人一人にできるアクションを佐藤さんに伺いました。
[1]少額でいいので、寄付を体験してみる
寄付は「社会のために何かしたい」という善意によって行われるもの。自分にお金が返ってこない行為を人はなかなか選ばないかもしれない。だからこそ、まずは少額でいいので実際に寄付をしてみること。それによって自分の心がどう動いたか、寄付した団体からどのような反響があるかを実体験することが寄付文化をつくる最初の一歩になる
[2]支援の現場でボランティアやインターン体験をする
世の中には膨大な社会課題があり、一人の力は無力であるように思えることも多い。しかしボランティアなどで実際の支援現場に足を運んでみると、社会課題のリアルを肌で感じることができるほか、「自分にできる等身大の支援」がうっすらと見えてくるはず。この「私にもできる」という感覚を多くの市民が持つことが、社会を変える力になる
[3]支援団体に「なぜグッドギビングマークを取らないのですか?」と問いかける
支援者からの問いかけによって、NPO側には「ガバナンスをきちんと整えなければ……」と意識変革を促す良いプレッシャーが生まれる。支援者からのこういった問いかけが増えることで、信頼情報の公開がNPOにとって「当然の義務」である、という世の意識が醸成され、より安心して支援ができるインフラが整っていく

今回の取材を通じて、佐藤さんが繰り返し強調されていたのは「文化は変えられる」という言葉でした。
「150年前まで日本人は牛肉を食べていなかったけれど、今では当たり前に食べています。星取り表の×を○に変えていけば、寄付の文化も必ず根づくはず」。その言葉から、NPOの信頼向上に腰を据えて取り組もうという強い信念が伝わってきました。
もし、疑念によってせき止められていた「善意の水」が、社会の隅々まで流れ、NPOが「潔白の証明」という重荷から解放されたら? 彼らの本来の役割である「まだ出会っていない不特定多数」を救うための仕組みづくりが加速していく、そんな未来が見てみたいと感じました。
撮影:永西永実
佐藤大吾(さとう・だいご)
佐藤大吾(さとう・だいご)
1973年大阪生まれ。大阪大学在学中に起業、その後中退。1998年、NPO法人ドットジェイピーを設立。大学生を対象に、議員事務所・大使館・NPO等でのインターンシッププログラムを全国で展開。これまでに5万人が参加し、約250人が議員に就任するなど、社会的リーダーを多数輩出。2010年、英国発の世界最大の寄付サイト「JustGiving」を日本に誘致し、日本代表に就任。国内最大規模の寄付プラットフォームへと成長させる。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授、大阪芸術大学客員教授、公益財団法人日本非営利組織評価センター理事長、NPO法人ドットジェイピー 理事長、一般社団法人42Tokyo副理事長兼事務局長など兼任。
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