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受刑者同士の対話で再犯を減らす――刑務所の新しい教育プログラム「回復共同体TC」とは?
- 厳罰だけでは再犯防止は困難。受刑者の社会復帰をどう支えるかが課題となっている
- 島根あさひ社会復帰促進センターでは、対話で内省を促す「回復共同体(TC)」を実践し、再入率の低下につなげている
- 厳罰だけでは再犯は防げないことを知り、感情を言葉にできる対話の場を育むことが大切
取材:日本財団ジャーナル編集部
厳罰化だけで、再犯は防げるのでしょうか。
罪を犯した人が社会に戻ったとき、再び犯罪をしてしまえば、その影響は当事者だけでなく、被害者や地域社会にも及びます。だからこそ今、「どうすれば再犯を防げるのか」が社会全体の課題として問われています。
近年、日本の刑事政策の現場では、厳罰化だけでは再犯防止につながらないという認識が広がり、受刑者の背景や特性に応じて更生や回復を支援する取り組みが重視されるようになりました。
その1つが、島根県の官民協働刑事施設「島根あさひ社会復帰促進センター」で導入されている「回復共同体(Therapeutic Community、以下TC)」。対等な関係の集団で対話を重ねながら、参加者が自身の過去や問題と向き合い、回復を目指すプログラムです。
この取り組みは、2020年公開のドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』で広く知られるようになりました。受刑者が葛藤を言葉にしながら変化していく姿は、当時大きな反響を呼びました。
この記事では、同センターのTC立ち上げに関わった同志社大学の毛利真弓(もうり・まゆみ)教授(外部リンク)に、その実践の内容や受刑者の変化、そして刑務所という現場が抱える課題について伺いました。

共に暮らし、共に学ぶ。対話を通じて自分を見つめ直す
――TCの概要や成り立ちについて教えてください。
毛利さん(以下、敬称略):TCは元々、刑務所に特化したものではありません。精神科病院や地域社会の中で、犯罪や依存症から回復するための手法として始まり、世界各国で展開されている支援モデルです。
治す側、治される側という上下関係をできるだけ取り払い、徹底的にグループでの対話を重ねることで、自らの問題と向き合って全人格的な成長を目指します。
前提にあるのは、「一緒に住む」ということです。島根あさひ社会復帰促進センターは刑務所なので自由な出入りはできませんが、その中でも「共に暮らし、共に学ぶ」というコンセプトを重視しました。
――同センターでは、TCをどのように実践したのでしょうか。
毛利:参加を希望した人が定員58名のユニットで共同生活を送りながら、午前と午後で半分ずつのグループに分かれて教育プログラムに参加してもらいます。生活と教育が一体になっているということです。
ですから、教育プログラムの対話の場でどれだけ立派なことを語っていても、日常生活の中でルールを守らなかったり、不誠実な態度をとったりすれば、すぐに周囲に見抜かれてしまいます。教育の場だけで「いい顔」をすることはできません。共に暮らしているからこそ、言葉と行動の一致が問われるのです。
そうした生活の中で、誰かとけんかした、誰かに対してネガティブな気持ちを持っている、といったリアルな出来事を素材に、自分の考え方や態度、人付き合いを見つめ直していける。そこが大きな特徴だと思います。
――従来の刑務所のシステムとは、どのような違いがあるのでしょうか。
毛利:最近は法律が変わり雰囲気が変わりましたが、かつての刑務所では、受刑者同士が深く話し合うことや、個人的な話をするのは、好ましくないという考え方があったと思います。話し合いは争いのもとになりかねない、出所後にまた一緒に罪を犯すかもしれない、そうした発想があります。
TCは教育の一部として対話を組み込んでいるという点で、新しい取り組みではないかと思います。

テキスト学習とコミュニティーへの貢献によって成長を促す
――教育プログラムの中身について教えてください。
毛利:大きく分けて2つあります。1つは朝と夕方に全員で行うミーティング。もう1つはグループごとのテキスト学習です。
ミーティングでは、刑務所内で実際に起きた出来事や、取り上げるべきテーマを題材に、各々が感じたことを話し合います。
テキストは基本的に2種類使用します。1つは、同センターで導入されたTCの参考となったアメリカの回復施設「アミティ(※)」の教材で、過去の経験や家族関係、感情の状態を振り返ります。
もう1つは、世界的に再犯防止に効果があるといわれている、認知行動療法を基盤とする自分たちで作った教材です。思考や行動パターンの癖、犯罪に至る流れを構造的に分析し、「どこで止められたか」「どこで考えを変えられたか」を整理していきます。
- ※ 「アミティ」とは、アメリカ・アリゾナ州に拠点がある依存症回復の施設。1980年代に依存症当事者によって立ち上げられ、「回復共同体モデル(TC)」を確立した
――プログラムはどのように進んでいくのでしょうか。
毛利:3カ月を1クールとする段階性です。最初の3カ月は新人として学ぶことに専念し、次の3カ月では新しく入った人を支える立場になります。
単なる受講者ではなく、コミュニティーの一員として役割が変わっていきます。最終的には、コミュニティー全体の生活に目を配り、カリキュラムを教える役割へと責任が広がっていきます。
テキストは各クールで変わらず、同じ内容を繰り返し扱います。読むたびに理解が深まり、生活の中で実践し、また振り返る。その「テキストによる内省」と「コミュニティーへの貢献」という両輪で、成長を促していく仕組みになっています。

和を尊ぶ文化の中で、「対話」への抵抗を乗り越える
――同センターにTCが導入された背景とその目的について教えてください。
毛利:官民協働の刑務所を設けたいという国の方針があり、民間からさまざまな試みが提案される中で、採用されたのがTCです。
科学的に再犯低下の根拠を示していたことに加え、「管理」に重きを置いた従来の刑務所とは異なり、改善や更生に力を入れた処遇モデルを構築するという目的がありました。
――TCは元々アメリカやイギリスで実践されていた手法ですが、日本で導入する難しさはありましたか。
毛利:最も大きかったのは、対話そのものへの抵抗感です。日本では、相反するさまざまな気持ちを言語化したり、葛藤を語ったりすることにためらいが強く、感情を表に出すのははしたない、我慢して丸く収まるならそれでよい、といった感覚が根付いています。
それから、参加する受刑者が話し合いを勝ち負けで捉えてしまう傾向があったり、葛藤や感情を口にすることに対して、どうしてもネガティブな結果を想像してしまったりするという難しさはありました。
実際、けんかした相手と気持ちを吐露し合った結果、関係が良くなるという経験を持つ人は多くないですよね。
――その問題を、どのように乗り越えたのでしょうか。
毛利:まずは職員にもTCを体験してもらい、少しずつ理解を深めてもらうようにしました。また、グループが成熟するまでは全員に発言の機会を設け、自由に話せる安全な場づくりを丁寧に進めました。
アメリカのような率直なコミュニケーションとは異なり、日本では、親密さと距離感のバランスを重視する文化があります。その特性を踏まえながら、コミュニティーを育てていきました。
多くの受刑者に共通する「自分の声を聞いてもらえなかった」体験
――TCに参加する受刑者の背景には、どのような傾向がありますか。
毛利:ざっくりいうと、共通しているのは、自分の声を十分に聞いてもらえなかったということです。
「聞いてもらえなさ」の度合いは人それぞれで、虐待の環境にあった人もいれば、一見すると中流家庭だけれども親からの期待や抑圧があって弱音を吐けない人もいます。被差別部落で育ち、社会の中で自分の痛みを声に出す経験が乏しかった人もいました。
またTC希望者に対して2015年までに行ったPTSDのスクリーニング検査(※)では、36.4パーセントの人にPTSDの可能性が見られました。多くの人が、何らかの心理的な傷を抱えたまま生きてきたといえます(2023年までのまとめでは42.6パーセント)。
- ※ PTSDの可能性があるかどうかを簡易的に調べる質問テスト
――受刑者は加害者でありながら、多くは何らかの被害者でもあるということですね。
毛利:はい。こうした背景の話をすると、「同じ経験をしても犯罪をしない人もいる」という反応を受けることがあります。もちろん、その通りです。
ただ、受刑者には「運悪く誰にも出会えなかった」という面があるのだと思います。しんどい環境の中でも、話を聞いてくれる人や、声をかけてくれる人など、つながりを持てる誰かがいたかどうかで、人生が違ってくるところはあると思います。
――そうした受刑者が、刑務所で直面する困難にはどんなものがあるのでしょうか。
毛利:法律も変わりつつあり、待遇も変化してきていると期待しますが、基本的に刑務所は自由を奪われている場所です。全てを指示され、その通りに動いているだけで生活が成り立つため、「主体的に考えて構築する力」が奪われやすいともいえます。
私が勤めていた刑務所では、大きな声で怒鳴られたり、雑に扱われたりする中で、心を病んでいく人もいました。そうした状況下で、「自分は犯罪者だから仕方がない」と卑屈になっていく人もいます。
それから、刑務所の特殊で厳格なルールの中で生き延びるために、幼稚でネガティブな行動が引き出される場合もあります。ルールが厳しいからこそ、隠れて悪さをしたり、目先の楽しさを追い求めたり、徒党を組んで誰かをいじめたり……。そうした環境になじまざるを得ず、社会性が落ちていく側面もあると思います。

感情を言葉にし、対話する姿勢が関係性を変える
――実際にTCを経験した受刑者には、どのような変化がありましたか。
毛利:社会的な問題解決スキルは比較的早く伸びます。多くの人が6カ月ほどで、衝動的に行動する前に立ち止まり、考えられるようになります。
一方で、トラウマに関する感情を言語化する力をつけるには時間を要しますが、トラウマ群(IES-R25点以上)でも1年半ほど継続すると改善が見られました。
例えば、以前は怒鳴ったり黙り込んだりしていた人が、自分の気持ちを言葉で伝えられるようになる。衝突を避けて逃げるのではなく、話し合おうとする姿勢が生まれてくる。表情も次第にやわらかくなり、周囲との関係性が変わる。そうした中で、自己肯定感が回復していく様子が見て取れますね。
――再犯への影響については、どのような結果が出ていますか。
毛利:刑務所への再入率が低いという結果が出ています。TCの受講者148人と、年齢や罪種、再犯リスクなどをマッチング(※)させたTC非受講者148人の比較では、受講者の刑務所再入所率が9.5パーセント、非受講者が19.6パーセントと差がありました(統計的有意差あり、2018年の研究)。
より最近の調査では、あくまで単純比較になりますが、刑務所初入者の2年以内の再入率が6.2~7.8パーセント(令和6年度犯罪白書)なのに対し、6カ月以上にわたってTCに参加した人の再入率は2.4パーセントでした。
- ※ 「マッチング」とは、比べる前に「なるべく似た人同士」を選び直す方法。もともとの条件が違っていると結果も変わってしまうため、年齢やリスクの高さなどが同じくらいの人をそろえて、より公平に比較できるようにする

主体的に選び、社会と調整する力が再犯を抑止する
――これまでの活動を通して、犯罪をした人が更生するためには、どのようなことが必要だと考えていますか。
毛利:抽象的かもしれませんが「自分で考えて選択する力を育てること」だと思います。罪を犯した人の中には、人生のさまざまな場面で自ら取捨選択をすることが苦手な人も少なくない印象があります。
彼らは、「悪い存在」「足りない存在」として扱われ続け、間違っている点を正すように説教を受けがちです。そうした指示に従うことに慣れてしまうと、うまくいかなかったときに、自分で責任を引き受けることが難しくなってしまう。
だからこそ、人生がどう転んでも、自己否定に傾いたり、被害者意識を持ったりせず、自分の選択として責任を引き受けられるよう、自ら考え、選択できるようになることが重要だと思います。
――TCを経験し、社会に戻った人たちは、そうした力が身についているのでしょうか。
毛利:以前、TCを経て出所した人たちにインタビューをしたところ、再犯に至っていない人の多くが、「考える力」と「感情を表現する力」が身についたと答えていました。感情を表現できるようになるということは、自分と他者の折り合いがつけられるようになるということです。
感情を表現しないでいると、「我慢するか、思い通りにしようとするか、爆発するか」といった極端な反応に偏りやすくなります。しかし、「言葉にしてもよい」と思えるようになると、少しずつ折り合いをつける方向に向かっていけます。
その結果、不適切な手段に飛びつかず、立ち止まって、適切な我慢や調整をしながら生きていく力が身につく。それが再犯防止につながっているのだと考えています。
再犯を防ぐには、出所後の居場所や人とのつながりも大切です。ただ、居場所があっても、以前と同じ考え方や振る舞いのままではうまくいかない場面がある。そんなときに、「これは前と同じパターンだ」と気づき、どう考えるべきかを自分で問い直す力が必要なのだと思います。

被害者の代弁者ではなく、再犯を防ぐ立場としての支援
――加害者の回復支援に関して、「被害者感情をどう考えるのか」という議論は根強いと感じます。実際に支援に関わる中で、罪を犯した人を罰しようとする社会の感情にどのように向き合ってきましたか。
毛利:厳罰を望む人が一定数いるのは仕方ないし、感情面では理解できる部分もあります。
ただ、罰によってしんどい思いをさせても再犯は減らない、ということは研究で明らかになっています。また、被害者の痛みを知るのは、タイミングや方法を間違えると逆効果になることもありえます。
私はそうした処罰感情や議論に向き合うよりも、データと実践に基づいて、再犯防止につながる実質的な支援を積み重ねることに集中してきました。
実際に回復プログラムに取り組む受刑者の姿を見て、犯罪に至った背景を知ることで、見方が変わる人もいます。そうした機会を積み重ねながら、「犯罪は処罰だけでは解決しない」という視点を持つ社会にしていきたいと思っています。
――では、被害者の視点とはどのように向き合ってきましたか。
毛利:被害者側の視点については難しさがあります。被害者が癒され、十分な支援を受けられる制度を整えていくことは重要です。一方で、それは加害者支援とは別の領域の課題だという認識を持っています。
刑務所では、「歯を見せて笑うな」「被害者のことを考えろ」といった指導が行われることがあります。ただ、被害者の気持ちは本人にしか分からないものだと思います。勝手に第三者が被害者の感情を代弁するのも、それはそれで被害者への尊重を欠く行為だと思っています。
もちろん、加害者が自らの行為によって生じた被害に向き合う支援もしますし、向き合うべきだと思えばそう伝えます。しかし、支援に関わる人は被害者の代弁者ではないのと同時に、どちらかの味方でもありません。
私自身も被害者の方の話を聞くと、「被害者はこんなに辛い思いをしているのに……」と心が揺れる部分もあります。しかし、私たちは事件の当事者ではないから、冷静に支援に関わることができます。だからこそ、感情の切り分けをして、バランスを保ちたいと考えています。

再犯を生まない社会をつくるために、一人一人ができること
再犯を生まない社会をつくるために、私たち一人一人に何ができるのかについて、毛利さんに3つのアドバイスを伺いました。
[1]「厳罰=再犯防止」ではないことを知る
犯罪をした人に対して、「罰を重くすれば問題は解決する」というイメージを持ちやすいが、罰を与えるだけでは再犯は減らないことが研究でも示されている。まずは、加害者の背景や回復支援の試みについて関心を持ち、正しい知識を得ることが大切
[2]身近ないじめや人権侵害を見逃さない
加害者の多くは、虐待やいじめ、過度な期待、社会的な差別など、何らかの被害を経験してきた側面もある。いじめや人権侵害を目にしたときに声を上げ、被害に遭っている人の声を聞く。そうした小さな行動が、将来的な犯罪や孤立を防ぐきっかけになる
[3]対話の場を身近につくり、コミュニケーションを深める
犯罪に至る背景の1つには、感情をうまく言葉にできず、「我慢するか、爆発(犯行)するか」の極端な選択に傾きやすいことがある。互いの気持ちを言葉にして伝え合える対話の場を、身近なコミュニティーでつくり、コミュニケーションを深めていくことが、犯罪を抑止につながる
犯罪者に対する罰しようという感情は、再犯防止につながらないばかりか、罪を犯した人を追い詰め、回復の機会から遠ざけた結果、さらなる犯罪を生み出しているのではないか。そんな問いを抱いた時に、映画『プリズン・サークル』と出合い、TCの取り組みをもっと知りたいと考え、毛利さんに取材を申し込みました。
取材の中で印象的だったのは、再犯を生まないために社会に必要なことを尋ねた際の、毛利さんの言葉です。
「社会全体で犯罪をした人への偏見をなくそうとすることは大切ですが、それ以上に、偏見を受けたときに孤立せずに対処することが重要です。『こんなことがあってね……』と気持ちを打ち明けられる場所があるだけでも、人はずいぶん違ってきます」
TCを修了した人たちは、現在もつながりを保ち続けているといいます。社会全体の偏見を一気になくそうと意気込むよりも、身近な誰かの声に耳を傾け、自分自身が気持ちを吐き出せる場になること。その積み重ねこそが、再犯を防ぐ力につながっていくのかもしれません。
〈プロフィール〉
毛利真弓(もうり・まゆみ)
同志社大学心理学部教授、公認心理師、臨床心理士。名古屋少年鑑別所法務技官兼法務教官、株式会社大林組/官民協働刑務所島根あさひ社会復帰促進センター社会復帰支援員を歴任。専門は非行・犯罪臨床心理学。回復共同体を用いた犯罪者の回復支援、性問題行動を起こした人の査定と処遇について実践と研究を行っている。著書に『刑務所に回復共同体をつくる』(青土社)、『性問題行動のある子どもへの対応-治療教育の現場から』(誠信書房)、『学校に尊重の対話の文化をつくる-修復的実践プレイブック』(翻訳、明石書店)など。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。