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再犯を防がない限り、安全な社会をつくることはできない。出所者の再出発を支える民間ボランティア「保護司」とは?

窓際に立つ吉田さん。保護司のパンフレットを持っている
今回お話を伺った全国保護司連盟の事務局長・吉田研一郎さんの襟元には、「幸福(しあわせ)の黄色い羽根」と呼ばれる、犯罪のない明るく幸せな社会を願うシンボルが着けられていた
この記事のPOINT!
  • 「保護司」は民間ボランティアとして、罪を犯した人が社会の中で適切に更生し、再犯を防ぐための活動を行っている
  • 刑法犯により過去に検挙された人の割合を示す再犯者率は約5割と高い水準にあり、再犯者率を下げるための動きが国内で起きている
  • 犯罪が許されるわけではないが、罪を犯した人に対して表面的な見方や一方的な見方をせずに、理解を広げていくことが大切

取材:日本財団ジャーナル編集部

近年の日本において、犯罪と刑罰に関する法律である刑法に基づき検挙された人のうち再犯者が占める割合の高さが社会的な問題になっています。令和6年版「犯罪白書」(外部リンク)によると、2023年の再犯者率は約47.0パーセントにも上ることが明らかになりました。

「刑法犯 検挙人員中の再犯者人員の推移(平成16年~令和5年)」を示す棒グラフ。縦軸は人数(万人単位)で、最大40万人まで。横軸は平成16年から令和5年までの年次を示す。各年の棒グラフは上下に色分けされ、下部の緑色が「再犯者」、上部の水色が「初犯者」を表す。平成16年には再犯・初犯あわせて約39万人だったが、年々減少し、令和5年には約18万人まで減少。令和5年の数値は、再犯者が86,099人、初犯者が97,170人と記載されている。
初犯者・再犯者(※)の人数の推移(警察庁の統計による)。再犯者数は、1996年から増え続け、2006年にピークを迎えた後は減少傾向に。一方、再犯者の減少を上回るペースで初犯者が減少しているため、再犯者の割合は1997年以降上昇し続け、近年は50パーセント近くで推移。出典:令和6年版「犯罪白書」(外部リンク)
  • 「再犯者」は、刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙されたものをいう

再犯に至る要因はさまざまですが、刑務所や少年刑務所、拘置所といった刑事施設を出た後、社会に出ても仕事が決まらない、住む家がない、頼れる人がいないといった理由から、社会生活を送るのが難しいという現実があります。実際、法務省の調査によれば職業の有無は再犯率に大きな影響があり、無職者の再犯率は仕事がある人と比べて約2.4倍にも上ります。

犯罪は決して許されることではありませんが、地域社会で出所者の立ち直りを支え、再犯を防いでいかない限り、安全な社会をつくることはできません。

「職業の有無別の保護観察対象者の再犯率(令和5年保護観察終了者)」を示す棒グラフ。法務省の調査によると、有職者の再犯率が7.8%であるのに対し、無職者の再犯率は18.9%と約2.4倍であることが示されている。
職業の有無別の保護観察対象者の再犯率を示すグラフ。無職者は有職者の約2.4倍に上る。出典:全国保護司連盟「統計で見る保護司」(外部リンク)

そんな中、円滑な社会復帰や再犯防止を推進するために、日本ではさまざまな動きが起こっています。その1つが2025年6月から導入される「拘禁刑」です。

従来の刑罰は、刑事施設に拘置して刑務作業(※1)を義務付ける「懲役刑」と、刑務作業を義務付けない「禁錮刑」の2つに分かれており、刑法上では禁錮刑は懲役刑よりも軽い刑罰として定められていました。こうした区分が廃止され、新たに「拘禁刑」が創設されます。この法改正により、全ての受刑者に一律で刑務作業を行わせるのではなく、個々の受刑者の特性に応じた処遇(※2)を実施できるようになることが期待されています。

「懲役刑」「禁錮刑」が廃止され、新たに「拘禁刑」に一本化されたことを示す図。図の上側には「懲役刑(刑務作業が義務)」と「禁錮刑(刑務作業なし)」が並び、下側に矢印で「拘禁刑」に移行する様子が描かれている。拘禁刑は一律に刑務作業を義務付けるのではなく、受刑者の特性に応じて24の処遇課程から適切な課程が選ばれ、個別的な処遇が行われると説明されている。
従来の刑罰は、「懲役刑」「禁錮刑」の2つに分かれていたが、「拘禁刑」に一本化される

また日本財団では、2013年より刑務所出所者と少年院出院者に「就労」「教育」「住居」「仲間づくり」の視点で社会復帰を応援する「職親プロジェクト」(外部リンク)を行ってきました。

さらに2025年には、鈴木馨祐(すずき・けいすけ)法務大臣に対し、開放型刑務所の整備に関する提言書(外部リンク)を手交しました。この有識者との勉強会を経た提言には、受刑者が社会に近い環境で自律的に生活し、職場で働く経験を積めるなど、刑事施設での更生過程の最終段階を整備する内容が含まれています。こうした検討もまた、出所者の段階的な社会復帰を応援し、再犯率を下げることを目的としています。

今回は、地域において犯罪や非行をした人の立ち直りを支える「保護司」の具体的な活動内容や役割、そして抱えている課題などについて、全国保護司連盟(外部リンク)の事務局長・吉田研一郎(よしだ・けんいちろう)さんにお話を伺いました。

保護観察対象者の隣人として。地域で立ち直りを支える「保護司」とは

――まず、保護司とはどのようなお仕事かを教えてください。

吉田さん(以下、敬称略):保護司は犯罪や非行に関わった保護観察対象者の社会復帰を助け、犯罪や非行のない地域社会をつくるために活動を行う民間ボランティアです。

「保護観察」とは、犯罪をした人または非行のある少年が、矯正施設内ではなく社会の中で更生を目指す処遇のことを指します。こうした人たちが円滑に社会復帰できるよう指導・監督を行う保護観察官は、専門知識を基に犯罪者の処遇や犯罪予防活動を行う国家公務員で、地方更生保護委員会や保護観察所で勤務しています。

そして、保護観察官と協働しながら地域の事情に精通した民間人として更生を支えるのが、保護司の重要な役割です。保護司は一般的なボランティアとは異なり、一定の条件(※)を満たす人の中から法務大臣が委嘱します。

刑事司法手続の流れを示す図。流れは左から右へ進む構成。

1.左端に「警察など」から始まり、矢印で「検察庁」へ。

2.検察庁では「起訴猶予」または「単純猶予」などの判断があり、次に「裁判所」へ。

3.裁判所の判断後、「少年院」または「刑務所」に収容される。

4.少年院・刑務所を経た後、地方更生保護委員会が「仮釈放」や「仮退院」を審理する。

5.審理後、「仮釈放」「仮退院」などを経て、「保護観察」へと進む。

6.別ルートとして、生活環境の調整のもと「保護観察所」が関与し、保護観察を実施。

7.保護観察の枠外に「更生・緊急保護」などの支援制度も示されている。

それぞれの段階は色分けされた枠で示されており、流れを矢印で視覚的に追える構成になっている。
刑事司法手続きの流れ。刑務所からの仮釈放者や保護観察付執行猶予者、家庭裁判所で保護観察処分を受けた少年、少年院から仮退院した少年に対して保護観察が行われる。画像提供:全国保護司連盟

――具体的にはどのような活動を行うのでしょうか。

吉田:主な活動は2つあり、保護観察対象者の立ち直りを支援する「処遇活動」と、地域の方々に立ち直り支援への理解と協力を求める「地域活動」です。

処遇活動では、仮釈放中の人といった保護観察対象者と月に2、3回ほど面接を行い、生活の状況を聞いたり、相談に乗ったりします。仕事が決まっていない人がいれば、就職先を一緒に考えたり、場合によってはハローワークへ一緒に行ったりすることもあります。

また、刑務所や少年院に収容されている人の出所後の生活環境を調査し、あらかじめ受け入れ体制を整えておくことも重要な活動の1つです。

取材に応える吉田さん
全国保護司連盟の事務局長を務める傍ら、現役の保護司としても活動をする吉田さん。以前は法務省に長く勤めており、保護観察官としても勤務していた

――保護観察対象者の社会復帰に対して、なぜ保護司のような民間ボランティアの協力が必要なのでしょうか。

吉田:罪を犯した人を隣人として受け入れ、同じ目線に立って親身に接する保護司のような存在が、再犯を防ぐ上ではとても重要なのです。

保護観察官等として働く中で、多くの素晴らしい保護司の方との出会いがあったこと、公務員を退職後は自分も地域のために役立つ活動がしたかったことが、私が保護司になったきっかけになっています。

私は以前保護司として担当していた保護観察対象者の方から、保護観察の期間が終わった後、突然連絡があり、「息子が自立して彼女と生活を始めた」と報告を受けたことがあります。その方は刑務所に入ったことによりご家族との関係が崩れてしまったのですが、紆余曲折を経てまた父親としての役割が果たせるようになったのです。

保護観察対象者や出所者には、このようにちょっとした喜びや小さな不安を共有できる存在がいない人も多いため、保護司がその役割を担うわけです。

一見大したことがない役割のように思えるかもしれませんが、更生には長い時間がかかるため、うれしいことを一緒に喜び、不安を和らげてくれるような存在はとても貴重です。保護司は保護観察対象者の専門的な相談に乗るような存在ではありませんが、こういった何気ない会話ができることこそ、保護司の強みだと思っています。

実際、保護司が保護観察対象者と関わったことで、反抗的な態度を改めた、社会復帰に積極的になったといった、前向きな変化を起こした事例は、数えきれないほどたくさんあります。

――保護司をされている方は、どのようなきっかけで保護司になるのでしょうか。

吉田:きっかけはさまざまですが、PTA、自治会、青年会議所などで活動されていて勧誘を受けた方もかなりおられます。不良行為をしている少年に声をかける「街頭補導」というボランティアをしていた方もいますが、多くは、犯罪や非行とは無縁であった方です。

そのような方も、保護司の活動を通し、非行に走っていた少年が次第に穏やかな表情になり、きちんと更生の道へ歩んでいく姿を見て、やりがいを感じておられます。

なかには、少年の時に保護観察の身となり、担当の保護司と面接を重ねるうちに、その活動に感銘を受け、自らも保護司になった方もいます。

――保護司の存在は再犯防止にどの程度寄与しているのでしょうか。

吉田:統計的に明らかにするのは非常に難しいと思いますが、刑期を満了して保護観察を受けない満期釈放者に比べて、仮釈放が認められて保護観察を経た人の方が、再犯率が低いというデータがあります。

また、保護観察処分を受けた少年の約7割は、改善更生が認められて保護観察を途中で解除されています。これらは、保護観察対象者に保護司が関わることによって、再犯が抑えられているということの表れではないかと考えています。

出所受刑者の出所事由別再入率を示す2つの折れ線グラフ。左は5年以内(令和元年)、右は10年以内(平成26年)の再入率。満期釈放者(赤線)は仮釈放者(青線)より再入率が高い。5年以内では満期釈放者43.6%、仮釈放者27.4%。10年以内では満期釈放者54.5%、仮釈放者37.6%。再入率は時間経過とともに上昇している。

注釈:
1.法務省大臣官房司法法制部の資料による。
2.前刑出所後の犯罪により再入所した者で、かつ、前刑出所事由が満期釈放等又は仮釈放の者を計上している。
3.「再入率」は、①では令和元年の、②では平成26年の、各出所受刑者の人員に占める、それぞれ当該出所年から令和5年までの各年の年末までに再入所した者の人員の比率をいう。
刑事施設を出所した人のうち、出所年を含めて5年以内・10年以内に再入所した人数を示したグラフ。仮釈放者の方が満期釈放者に比べて再入所の割合が低いことが分かる。引用:令和6年版「犯罪白書」(外部リンク)

世界的に評価される日本の保護司制度。人員不足や高齢化の課題も

――日本の保護司に類似した制度は世界各国にも存在するのでしょうか。

吉田:地域社会の中で処遇を行う社会内処遇の制度は、国によってかなり異なります。タイやフィリピンでは、日本の保護司制度を参考に民間の立場の人が社会内処遇に補助的に関わるという制度を構築しています。ケニアも日本の保護司に類似した制度を作ろうとしています。日本の保護司制度に対する評価は国際的に高まっているのです。

――どんな点が評価をされているのでしょうか。

吉田:罪を犯した人の再犯を防ぐために何が効果的かについては、世界各国で研究が進められています。

現在注目されているのは、「本人が持つ強みや長所を生かし、それをさらに伸ばしていくこと」に重点を置いた処遇の在り方です。これがまさに保護観察対象者に寄り添い、本人の長所を評価するというような働きかけをしている日本の保護司の精神と同じなのではないかと、国際的にも注目を集めています。

ちなみに2025年6月から拘禁刑が施行されますが、これも受刑者の強みを生かすことに重点を置いており、「懲らしめ」のための刑罰ではなく、受刑者それぞれの特性を生かした処遇プログラムの充実が図られるといわれています。

――保護司制度の課題を教えてください。

吉田:保護司の人数が減り、高齢化していることが大きな課題です。保護司は定数が全国で5万2,500人と定められているのですが、2025年の保護司の数は4万6,043人となり定数を大きく下回っています。また、平均年齢も徐々に上がってきており、保護司の高齢化も課題です。

保護司の年齢別構成の変化を示す横棒グラフ。各年のデータは、年齢区分「40歳未満(青)」「40〜49歳(オレンジ)」「50〜59歳(グレー)」「60〜69歳(黄色)」「70歳以上(水色)」の5段階に分けられている。対象年は昭和50年、昭和60年、平成10年、平成20年、平成30年、令和5年、令和6年、令和7年。昭和50年時点では50代が最多(28.9%)だったが、令和に入ってからは60代・70歳以上の割合が急増し、令和7年には70歳以上が38.6%を占めて最多となっている。若年層(40歳未満・40〜49歳)の割合は年々減少傾向。
保護司年齢別構成の推移を示すグラフ。令和7年のデータでは70歳以上が全体の約4割を占めている。出典:全国保護司連盟「統計で見る保護司」(外部リンク)

吉田:保護司の数が少なくなっている要因の1つに、地域のつながりの希薄化があると考えています。

保護司の任期は2年と定められていますが、多くの方が再任を繰り返し、長期間にわたって活動を続けられています。再任の際には、原則として76歳未満(本人の意向により最長78歳未満)であることが条件となっています。これまでは、保護司の方が退任する時期を迎えると、地域の中で次の担い手がスムーズに決まり、その役割を継承することができていました。

しかし現在では、特に都市部において、近所に誰が住んでいるのかさえ分からないような状況も多く、次の候補者を見つけることが難しくなっているのが現状です。

もう1つの要因として、働き方の変化が挙げられます。保護司は、基本的に自分が暮らす地域で活動することになります。現在では、地域で自営業や農林業をする人が減り、通勤や残業のある会社勤めの人が増えましたし、そうした方の定年年齢も上がってきています。そのため、地域での活動に時間を割くのが難しいという人も多いのではないかと感じています。

――持続可能な保護司制度にするには、どのようなことが必要でしょうか。

吉田:法務省主催の「持続可能な保護司制度の確立に向けた検討会」(※)では、時代の変化に適応可能な保護司制度の確立に向けてさまざまな議論が重ねられました。

特に「ボランティアではなく報酬制にすべきではないか」という意見はたびたび論じられてきましたが、検討会では「隣人として保護観察対象者に寄り添う保護司の活動と報酬制はなじまないのではないか」という意見が多く聞かれました。

そもそも保護司として活動する人は地域に恩返しをしたいという感覚の方が多いため、報酬制にあまり積極的ではないのだと考えています。ただ、保護司の活動にかかる交通費などの費用も現在は必ずしも全額が支給されるわけではないため、改善を図っているところです。

――他にも保護司制度を持続可能にする試みはありますでしょうか。

吉田:自治体の広報誌を使ったり、地域団体に積極的に働きかけたりしていくことで、幅広く保護司の存在を周知できる方法を検討していく必要があると考えています。

また、保護司の研修や会議などは平日の日中に行われることも多く、現役世代が参加しづらい現状があるため、オンラインを活用できるようにしていく予定です。

一方で、企業の側にも、社会貢献活動をしたい人が積極的に活動しやすい企業風土や勤務形態を整えていただけるよう、働きかけをしていきたいと考えています。

表面的な見方をせず、想像をしてみることが大切

――罪を犯した人たちの更生への理解を深め、安全な社会を実現するために、私たちが意識すべきことを教えてください。

吉田:想像力を働かせることではないでしょうか。罪を犯した人と聞くと、とんでもない人、モンスターのような人を想像するかもしれませんが、実はそんなことはなく、一人の人間としてさまざまな側面、弱み、思いを持っている人たちです。

「Time with Hope」というキャッチコピーが中央にある、第75回 社会を明るくする運動のイラストポスター。泡の中で笑顔の子どもたちが手を伸ばし、空を見上げている。左側には、支え合いや希望についてのメッセージが書かれている。「犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ 第75回 社会を明るくする運動」と記載。右下には法務省のロゴとキャラクターのペンギンのイラストがある。
法務省では1949年(昭和24年)より、犯罪や非行の防止と罪を犯した人たちの更生への理解を深め、明るい地域社会を築こうとする「社会を明るくする運動」(外部リンク)を実施している

吉田:なかには幼少期に虐待を受けたり、ひどい家庭環境で育ったりした人も少なくありません。だからといって犯罪が許されるわけではもちろんありませんが、罪を犯した人に対して表面的な見方や一方的な見方をせずに、理解を広げていく必要があると思っています。

罪を犯した人を一人の人間として見る視点を持つことが、誰にとっても安全な社会の実現につながるのかもしれません。

編集後記

「職親プロジェクト」をきっかけに更生保護に関心を持ち、その中心的な役割を担っている保護司の活動について知りたいと思い、取材しました。

過去に罪を犯した人が近くにいると思うと不安な気持ちが生まれ、関わりたくないと思うかもしれません。しかし無関心という排除は、新たな犯罪につながりかねません。誰もが安心して暮らせる社会のために、地域社会全体で立ち直りを支える必要があると感じました。

もう一歩踏み込んで、保護司になってみたいという人は、まずは最寄りの保護観察所(外部リンク)に連絡し、相談してみてはいかがでしょうか。

撮影:永西永実

全国保護司連盟 公式サイト(外部リンク)

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