未来のために何ができる?が見つかるメディア
学生にも大学にもコスパが良いオンライン大学 ~日本財団18歳意識調査アンケートより~
取材:日本財団ジャーナル編集部
「オンボード大学に行きたいです」
三者面談で希望進路の答えに詰まって、ぼくは、つい昨日スマホで知ったばかりのオンライン大学の名前を口に出してしまった。
「え?」と先生。ママはいつも以上に大きな目を一瞬ぼくに向けたみたいだが、すぐに視線は申し訳なさを表すようなうつむき加減の定位置に戻り、ぼくの発言はなきものとなった。思いつきで口から出ただけなので、なきものとなるのは構わない。
ただ、特に行きたい学校があるわけではないなか、昨日見たオンボード大学がキラキラして見えたのは事実だった。
オンボード大学は普通の大学ではなくこれからの情報社会に必要なさまざまな科目を学べるらしい。ぼくは、AI、アニメやゲーム、アプリ開発やウェブサービスなどのデジタル関係を学びたいとぼんやりと思っていたのだが、オンボード大学はそれら全てが入っていた。
理系志望の友だちに「先端のプログラミングを学べるらしいよ」と言われた。プログラミングがどういうものか、文系のぼくにはよく分からないけれど……。
ぼくは、小学校は遅刻したり休んだり、中学校はテストだけ行って他の日は休んだりしていた。人にじろじろ見られている気がして人前に出ることが昔から苦手で、友だちが少ないとは思わないけど一人でいる方が好きだった。
ただ、一人でも勉強は出来た。テストはいつも学年トップクラスで、高校は内申点をあまり気にせずに入れてくれるところへ進んだ。
高校でもテストとか今回のような面談にしか学校には来ない。入学して最初の頃だけママに連れられて出席した。人前は相変わらずで苦痛だったが、ぼくのような素行不良を受け入れてくれるような学校だ。
ぼくがほとんど分かっていることを先生が繰り返し説明するだけの授業は全く面白くなかった。それが何よりも苦痛だった。大学に進んで勉強はしたい、しかし授業に出て人と関わることはおそらく耐えられないかもしれない。そのような点でもオンボード大学はぼくには魅力的に映った。
日本財団18歳意識調査 第67回テーマ「価値観・教育(地域間比較調査)」(別タブで開く)では、進学しない理由と進学意欲が湧く要素を聞いています。
質問:あなたが大学等に進学する予定がない理由/しなかった理由として、どのようなものがありますか。以下の中からあてはまるものを全て選択してください。(単一回答)

質問:どのようなことがあれば、あなたの大学進学意欲は高まりますか。以下のうち、あなたの進学意欲を高めるものがあれば全て選択してください。(単一回答)

どの地域でも回答は共通しており、進学しない理由のトップ5には「学費が高い」「できるだけ早く自分で稼いで生活したい」「進学して学びたいことがない、行きたいと思える進学先がない」、進学意欲を高める要素のトップ5には「自分自身の興味、関心に合致する大学がある」「学びたい科目が柔軟に選択できる大学がある」「綺麗なキャンパスに通える」が入ります。
物語の主人公の「学びたいことがある」という想いには納得感があります。
一方、三大都市圏中心部の回答にだけ進学意欲を高める要素の3位に「自宅から通える大学がある」が入っています。他の地域ではトップ5に入りません。交通の便が悪い地方の若者の方が通学しやすさを求めると考えがちですが、自宅から大学に通う要望が少ないのは非常に興味深いです。
回答の選択肢には「オンラインで学べる大学がある」もありましたが、「綺麗なキャンパスに通える」が上位に入っていることから、オンライン大学を志望するのはまだ少数派といえるでしょう。
帰りにオンボード大学を教えてくれた理系志望の友だちにばったり会った。
「わたし、オンボード大学考えていたけど、普通の大学に行くことにしたわ」
「なんで?」
「そのまま言えば、キラキラしたキャンパスライフって言うのかな。綺麗なキャンパスで友だちとキャーキャー楽しく過ごしたいじゃない? たぶん親から離れて4年間も通うんだし……。理系は忙しくてそんな時間がどれだけあるか分からないんでなおさら。あと……」
「あと?」
「わたし、自己管理に自信がないんだ。オンライン大学って、自分がしっかりしていないと勉強しなくなるって話を聞いたことがある。文系なら出席して卒業して大学卒の資格をもらうだけって手もあるけどさ。理系だとついて行けなくなって留年とかなりそう。あおいちゃんは大丈夫だと思うけど、がんばってね」
「うん。ちゃんと自分で決めたんだね。よかった」
家に向かう間、自己管理ってどのようなことだろうか? と考えていた。最近は生成AIがこのような話の相手になってくれる。
「自己管理ってどんなこと?」
「自己管理のポイントを挙げてみます。1.目標設定と達成 2.時間管理 3.健康管理 4.お金の管理……」
うん、もういい。大体分かった。ポイントだけ教えてくれて、話を最後まで聞かなくても怒らない生成AIはずっといい友だちでいられそうだ。
学びたいことは明確だし、キラキラとか要らないし、これまで一人で勉強できたから時間管理は出来るし、世間的には不登校は健康じゃないみたいだけど自分は健康だと思う。うん、大丈夫。
学習の自己管理意識に関しては興味深い調査があります。OECD加盟国(37カ国)の15歳を調査対象とするPISA(Programme for International Student Assessment、生徒の学習到達度調査)2022は記述式の生徒質問調査も実施しています。
問61「今後、あなたの学校が再び休校した場合、以下のことを行う自信はどれほどありますか。」にて、日本の生徒が「①とても自信がある」「②自信がある」と回答した合計値は、問「自力で学校の勉強をこなす」では41.6パーセント(OECD平均は71.5パーセント)、問「自分でオンラインの学習リソース(素材)を探す」では32.6パーセント(OECD平均=72.7パーセント)と、集計可能な34カ国の中で最下位です。
信州大学・学術研究院(教育学系)の伏木久始(ふせぎ・ひさし)教授は、子ども社会体験共創交流会(株式会社日本総合研究所主催 2024年12月2日)の講演にて、「PISAの数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシーにおいてわが国は世界最高水準の学力を誇るのですが、その学力は主体的、自律的に学ぶ姿勢や能力ではなく、教えられたこと(他律的に学んだこと)を覚えてきちんと答える勤勉さと、求められることを正確に解答できる能力が高い」とお話されました。
「ただいま」
「あおいちゃん、さっきのオンボード大学って何?」
家に帰るとママが聞いてきた。
「文部科学省から新たに認可されたオンライン大学、学校に足を運ばなくてもよい、大学卒業の資格が取れる、学費は安い、そして、これまでの大学にはないこれからの社会で活躍するための新しい科目を学べる、自分が学びたいことがそこにはある……」
と気がつけば昨日知ったばかりとは思えない、オンボード大学に勧誘しているかのような熱っぽい説明をしていた。言霊だろうか。口に出すことでより一層自分もそう思うようになったようだ。
「ふーん。で……」
ママは頭がよい。理解が早いので余計な説明の時間が要らないから助かる。学校に行かなくてもぼくがテストでよい点数を取れるのはママの遺伝だと思っている。学費を出してくれていることもさることながら、本当は「ぼくはもっとできるはず」とも思っているだろうから本当に申し訳ない。
ただ、人づきあいの悪さも遺伝してしまったようで、ママはぼくに申し訳ないと思っているようだ(思っていてほしいと願う)。
「大卒の資格をもらったとして、就職はできるの?」
「自治体や企業と連携したプログラムがあってインターンを提供しているし、キャリアサポートも……」
「ぼくは人前に出ないままで、社会に出てコミュニケーションとれるの?」
「うーん……」
「他にもオンライン大学ってあるの?」
「ゼミはあるの?」
「入試の偏差値いくつ?」
(このあたりからぼくの情報処理のキャパを超えて、無になった)
「学費は? 国立大学より10万円安い……オンラインなら半額以下でいいはずよね!」
「オンラインだと結構時間浮くよね。浮いた時間で何するの?」
脳と口がつながっているようなスピードで言葉が連射された。おそらく三者面談中からオンボード大学への疑問が湧いていたのだろう。ママが自分自身でも多少なりともオンボード大学に興味をもって、ぼくの考えを理解しようとしていることを感じられた。
普通の大人であれば、これらを質問として投げかけるのではなく、おそらく自分の不安と否定を示すための理由として使うと思う。この時、もし頭ごなしに否定されていたらぼくは部屋に引きこもってしまったことだろう。どっちにしても引きこもりだけど……。
自分のママがママでよかったと思う瞬間だ。ストレスがかからないので、とても助かる。
「後悔しないようにやってみたらいいよ」
昔ぼくが「もう学校に通いたくない」と言った時と同じ言葉で終わった。あとは、学んで卒業した後にどうなりたいのかという目標を設定しないといけないか。ちゃんと考えてみよう。
でも、これはオンライン大学に限ったことではなく、どんな学生にも必要なことだよね。オンライン大学の方がコスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)は絶対に良いと思うんだよね。
ただ、「半額以下」「浮いた時間」ってどういう意味だろう?
学者で大学院大学至善館特命教授の橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)先生にオンライン大学の将来性や課題をお聞きしました。

――オンライン大学についてご意見をお聞かせください。
橋爪さん(以下、敬称略):オンライン大学には非常にポテンシャルがある。まず授業料が安くできる。そして授業の質を高くできる。
授業料を安くできる理由は、オンラインには教室という制約がないから。
例えば、私がいた大学では500人が入れる教室が講堂しかなかった。オンラインであればスピーカー1人に対して、学生が5,000人でも5万人でも入れる。PCはほぼ皆が持っていて、通信環境が整備されているとなれば、接続さえできればよい。追加費用はほぼゼロだ。
他にコストがかかるところといえば教員の人件費ということになるが、オンラインによってこれまでの教員対学生の人数比が1対10だったところを1対100、1対1000にできれば学費を10分の1、100分の1にできる。
入学試験がなぜあるのかというと、教室のキャパシティの制約があるからである。オンライン大学になれば入試すらなくなる可能性もある。
授業の質を高くできる理由は、カラオケの普及と似ている。第一興商が神戸でカラオケを最初につくり、1970~1980年ごろ社会に普及していった。
カラオケは一度コンテンツを作れば、カラオケの機械さえあればどの場所でも同じコンテンツを導入できる。また、お店にとっては、それまでお願いしていた「流し」の歌手に依頼するよりも導入しやすく、管理もしやすい。そして、カラオケを何万人もの人が何回も使うよう普及して「流し」が一掃された。
その結果、コンテンツに何が起きたか。それまでは音だけだったものが、歌に合った映像を作って挿入したり、歌詞を音と同時に字幕で流したりするようになった。「流し」をやめて浮いたお金をコンテンツの作り込みにかけるようになった。つまり、コンテンツの質が高まっていったのだ。
オンラインによって、授業のコンテンツもこれと同じことが起こる。
今、日本の大学は約800校あるが、例えば「憲法概論」のような一般教養科目の授業を教える先生がそれぞれの大学にいるとして、教える場所が各大学の敷地となると日本全体で800人の先生が必要になるため、非常勤のような専門性が低い先生でも雇われるようになる。
しかし、オンライン授業になると800人も要らなくなる。誰の授業を使ってもよいのだ。日本のなかで一番識見が高く、信頼でき、話がうまい人がいい先生。その先生が、コンテンツを作って授業を行い、それを共用すればよい。すると、その授業の上位3番手くらいの先生までは良いが、20番手、30番手にはお呼びがかからなくなる。
結果、極めて優れた限られた先生だけが残り、そして、雇用をやめて浮いたお金をコンテンツの作り込みにかけられるため、授業の質を高くすることができる。
これはお笑い芸人の出演にも似ている。寄席という場所があるから、その出演枠を埋めるために名も知らない芸人にも出番がある。オンラインであるテレビに出られるのはひと握りの売れっ子芸人だ。本質をわかりやすく、面白く伝えられる「芸」が大事になるということだ。
高等教育の費用が安くなることは社会全体にとって大変いいことだ。親の負担が減る。
子どもが高等教育を受ける年代の親は、その親の介護や住宅ローンなどの経済負担があるなかでさらに学費を負担している。親元を離れて通学するとなると子どもの仕送り(家賃や交通費など)が必要になる。
今の日本は、このような費用を支払える経済状態ではない。これからの社会においてオンライン大学はあるべき姿であり、また、未来の大学は基本的にオンラインになると考えておいたほうがよい。
――オンライン大学時代の大学のあり方はどのようなものでしょうか?
橋爪:各大学がそれぞれオンライン化するのは無駄である。
文系の学部3年生くらいまで科目はオンライン化できるのではないか。ほとんどの文系には実験はなく、かなりの部分は本を読むことが必要。だから図書館が必要だったが、最近では図書館がオンライン化されているところもある。
本へのアクセスが民主化されたことにより、教授の権威が少なくなった。ドイツがグーテンベルク計画というものをやっている。名が知れた著作物がすべてオンライン化され無料で公開されている。
このように知の民主化が非常に進むと個別の大学は要らなくなる。単位の3/4は大学共通の授業を受けてオンラインで取得し、その後は各大学が主催するゼミに参加すればよい。既得権益がある人たちはこうした改革に反対するだろうが、少子化や格差社会における教育の合理化のためだから仕方ないことだ。
他方、教育と違って研究は合理化ができない。大学の教員は教育も研究も両方やっている人が多いが、実際には忙しすぎて研究していない。
教育の空いた時間とエネルギーを使って研究に全力投球してほしい。それこそが日本が生き残っていくための価値の源泉であるはずだ。そこで勝負しなければ、将来世代に、豊かな先進国での生活を提供することはできない。今はそこがおざなりになっている。
遠い将来、どういう産業構造になるかはわからないが、どのようなプロフェッショナルが必要になるか、その育成計画をどうするか。大学は単なる職業学校ではなく、未来を作るという側面がある。
オンライン時代の大学の未来を描くのは、若者と未来を作る大学の経営者の共同作業になるだろう。入学定員がなくなり、入試がなくなり、それにより偏差値がなくなって序列が変わる。大学の使命を見つけ、若者に呼びかけてやる気を出し、一生懸命頑張るという大学が良い大学になり、それを怠った大学は気がついたら人が集まらなくなるだろう。
――オンライン化によるコミュニケーションの減少をどう思いますか?
橋爪:パーソナルコミュニケーションというのはリアルタイムで言葉を使うためにとても大切である。
スピーカーが1万人を相手に話しているときには、それは「マスメディア」になってしまう。顔は知っているが話している人は聞き手の顔がわからない。リアルタイムでリアクションが取れるということは言葉の基本、知識の基本、人間関係の基本、学問の基本でもあるので、非常に貴重なこと。
そうしたことを大学の特色として、例えば早稲田や慶應は大学を再組織すればいい。
ゼミは少人数のオンキャンパスのインパーソンのコミュニケーション。オンラインで誰でも聴講できるが、実際にキャンパスに行ってゼミに出る、ここが一番大切。オンラインの場合は質問ができないといった、さまざまな問題が起こる可能性はある。その場合は、大学がオンラインになるゆえに空いている教室でティーチングアシスタントが質問を受ければよい。
インパーソンの関係はわざわざ作らないといけない。教育の本質は、「嬉しくて楽しい」こと。全部オンラインになってしまうと心配なのが、給食を一緒に食べたり、掃除当番をしたり、といった日本人の美徳とされていることがオンラインだとできないということ。
だから、これは別のプロジェクトでやればよい。小・中・高はオンライン化していく。クラスがあり、学年があり、皆仲良くしなさい、という前提がなくなる。小・中・高で授業のために教室に行かないといけない、皆が一緒に同じことを勉強しなければならないのは教員の都合であって、生徒の自主性とは関係ない。
しかし、オンラインにAIを組み合わせると学びの個別最適化ができる。これにより落ちこぼれという概念はなくなる。こうした学びには算数や英語が向いている。また、AIが知識を面白く教えればよい。こうなっていくと自然と反対に人と話したいという欲望が出てくるはず。だから、そういうチャンスを別に作ればよい。
例えば、地方で学校が空いているのであれば、行きたい子どもはそういうところに長期間行けばいい。教員が見守るなかオンラインで勉強して、それ以外の時間は、例えば釣りや冒険など、そこでしかできないやりたいことをやればいい。オンライン+AIによって時間が捻出できるから、場所を変えてさまざまな体験学習ができる。
人間と人間の交わりの要素とオンラインの絶大な利点をどう組み合わせるか。これをあまり真剣に考えている人の話を聞いたことがない。
一番大事なのは何かができるようになることではない。私は教育とは“大人になって何をやるか、その足腰が定まること” “やりたいことが見つかること”“次の世代を任せられる若い人を育てること”だと考える。
以上
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。