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若者の価値観から考える、個人の幸せな人生と地方創生を両立するヒント ~日本財団18歳意識調査アンケートより~
取材:日本財団ジャーナル編集部
少子高齢化社会において、地方創生は日本の最重要テーマの一つといえます。
ただでさえ減少している若者が地方から都市に流出し、地方の経済が縮小し、人手不足から生活インフラの維持も難しくなっています。他方、通信環境の整備や人工知能(AI)に代表される科学技術の発展、これらに支えられたリモートワークの拡大などで、人々の暮らし方や働き方は大きく変わりつつあります。
今後も急速に変化する社会において、次世代を担う若者は、暮らし方や働き方についてどのような価値観を持っているのでしょうか。日本財団が実施する18歳意識調査からヒントを探ってみましょう。
第52回テーマ「価値観・ライフデザイン」(別タブで開く)によれば、将来どこで暮らしたいかという質問に対し、男女とも8割以上が日本で暮らすことを希望しています。内訳をみると、大都市が4割弱、地方都市が3割強と、7割以上の若者が将来的には都市部で生活することを希望しているのです。
質問:あなたは、将来、どこで暮らしたいと考えますか。あなたの現在の考えにもっとも近いものを次の中から選んでください。

若者が都市部で暮らしたいと考える背景の一つは、仕事であると推測できます。同じ調査によれば、地方部の若者を中心に、地方部で働くことの選択肢の少なさを指摘しています(出所:「価値観・教育(地域間比較調査)」)。
例えば、「自分が就きたい仕事がある」という設問に「同意しない」と回答した割合は、和歌山県(30パーセント)、鹿児島県(25パーセント)、山梨県・兵庫県・山形県(24パーセント)など、地方部を中心に多くなっています。また、「将来の選択肢が多い」に「同意しない」と回答した割合も同じく、和歌山県(36パーセント)、岩手県・徳島県(33パーセント)、山口県・山形県・高知県(32パーセント)など地方部を中心に多くなっています。
働き方についてみると、日本では2013年の「高年齢者雇用安定法」の改正により、企業には希望者全員に65歳までの雇用が義務付けられ、2021年4月からは、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務になるなど、働く年齢が延びる傾向にあります。
若者に聞いてみると、女性は15歳時点の居住地にかかわらず半数以上が、男性は三大都市圏に居住していた者は半数近くが、「働ける限り」働きたい、と回答しています(出所:「価値観・教育(地域間比較調査)」)。
質問:あなたは、自分が何歳まで働くと思いますか。最も近いものを選択してください。

また、近年増えている新しい働き方に対する関心を聞いたところ、男女ともに、「兼業・副業・パラレルキャリア」に関心があると回答した人が6割前後に上りました(出所:第52回テーマ「価値観・ライフデザイン」)。
先に取り上げた働く年齢に対する考えと合わせてみると、若者が先行き不透明な社会のなかで将来の暮らしや経済状況に不安を抱えているようにも見えてきます。
質問:あなたは、以下に示すキャリアや働き方に、どの程度関心がありますか。

- ※ 1.兼業・副業とは、収入を増やすために、2つ以上の仕事を行うこと。パラレルキャリアとは、異なる経験を得るために2つ以上の仕事を行うこと
- ※ 2.フリーランスとは、組織に所属せず、個人で仕事を得て生計を立てること
- ※ 3.不労所得とは、投資からの収益などのように、一般的な労働を伴わずに、構築した仕組みや資産から生み出される収入のこと。不労所得生活とはこうして得たお金を使って生活することを指す
- ※ 4.FIREとは、”Financial Independence, Retire Early”の頭文字を取ったもので、「経済的自立」と「早期リタイア」を意味する
先行き不透明な経済状況の中、私たち一人ひとりが幸せに生き、かつ地域や社会全体としても成立していくためには、どのような社会の在り方が考えられるのでしょうか。
その一つの解になると期待されているのが、「二拠点居住」です。二拠点居住の定義にはいくつかありますが、最近では、「主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点(ホテル等も含む。)を設ける暮らし方」(国土交通省)といった定義がなされています。
国や自治体の目線から見ると、二地域居住の促進を通じて地方への人の流れを創出拡大することが期待でき、2024年11月には「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律」が施行されるなど、政策的な後押しが進んでいます。
他方、個人の目線から見ると、異なる地域で過ごすことで生まれる環境変化によりリフレッシュできたり、人的ネットワークが広がったり、災害時のリスクが軽減できたり、といったメリットがあるといわれています。
では、今後日本において二拠点居住は、人々の幸せな暮らしと地方創生の両方を実現する「魔法の杖」に、なりうるのでしょうか。
名古屋大学大学院国際開発研究科の佐藤峰(さとう・みね)准教授にお話を聞いてみました。

調査結果への印象
今回の調査の対象者は生まれてから今まで、経済的、社会的に不安が多い環境で育っています。その社会を映し取るように、地方も都市部も若者は閉塞感を持って生きているように感じます。不安が多い社会なので、どこに暮らそうが自分の周りを安全に保ちたいという意識が強いのではないでしょうか。
日々大学生と接していて思うのは、年々シールドが厚くなっている、コンフォートゾーンが狭くなっているということです。それは彼らのせいではないのですが、結果として若者の生きづらさにつながっているのではないでしょうか。
人口減少が進むと地方の社会サービスは崩壊していきます。病院へ行くのにも時間がかかりお産が間に合わず車の中で出産したという話も聞きますし、育児や教育の質も低下します。田舎は自然が豊かでよいといわれますが、気候変動の影響で漁業や農業も打撃を受けている現状もあります。
これらの課題に対して大人が戦っている姿が見えない場合、地方に暮らし続けることに若者が希望を持てないのも当然でしょう。
また、調査結果をみると「働ける限り働きたい」と多くの若者が考えているようですが、経済状況が悪いので働ける限り働く「以外」の選択肢がないというのが正しいのではないでしょうか。
身の回りを守ることに対する関心が強いため、昇進よりも定時で帰れるということを重視し、体を壊すまでは働かないというような、動物としての危機感を察知する能力は今までの日本人のなかでも最も強いかもしれません。
これはとても良いことであるとも思います。今の若者は「保守的」になるのがもっともである社会で育ってきているという傾向が調査結果にストレートに表れていると思います。
二拠点居住・移住における自治体と移住者のギャップ
2024年の調査では、東京圏の若者の45.6パーセントが地方移住に憧れると回答しています。他方で二拠点居住については納税していないにもかかわらず、他の拠点の公共サービスを利用することについての議論もあり、諸手を挙げて推進する自治体ばかりではありません。
国家レベルでは政策策定が進んでおり、東京都と近隣の県を中心に二拠点居住を推進していますが、期待ほどうまくいってはいないのではないでしょうか。地域住民としては自分たちの生活に直結する他の政策を実行してほしいし、自治体も二拠点居住よりも移住してもらいたいと考えているはずです。
二拠点居住はあくまでもホップ・ステップ・ジャンプの「ステップ」、つまり「ジャンプ(移住)」の前提であり、心から二拠点がウェルカムだという自治体は少ないでしょう。
二拠点居住者の層も、職種はIT関係、若い世代、子どもがいないもしくは小さい世帯など偏りがあります。また、きっかけも自治体のサービスに惹かれてきたわけではなく、人づてが多いようです。施策の充実よりも「コンシェルジュ(地元に導いてくれる存在や知り合い)」がいるかどうかが決め手になっているようです。
自治体は、地域を引っ張ってくれる存在になる若者がほしいのですが、若者は必ずしも現地に根づいて活動をするために来ているわけではなく、よい住環境(東京で暮らすより生活費が安くなるなど)を求めています。仕事とプライベートを分けたい、隠れ家的に来ているなど、自治体の理想と当事者の意図の格差が非常に大きいと思います。
自分自身のウェルビーイングを考えて来たという傾向が強く、地域のリーダーになろうとしている事例は想像よりずっと少ないのではないでしょうか。移住先に悪く思われないことは必要なため、地域行事に参加はするけれど、それ以上に地域で何かやりたい、という意思は自治体の期待ほどはないでしょう。
ですので、若者が来てくれればいいという見方だけでは政策が甘いなと感じています。二拠点居住を、自治体側は地方創生の手段、二拠点居住者側は自身のウェルビーイングの手段と考えており、両者には大きなギャップがあります。
二拠点居住・移住を推進するには
若者側が自治体側に歩み寄る必要を感じていないため、まずは若者が抱える気持ちや願望に寄り添う形のしくみづくりをするとよいのではないでしょうか。今の若者の多くが「今の生き方でいい」と考えているわけではありません。自分が心地よく安全に思えるスペースが狭かったら、生きていてしんどいでしょう。
ですので、若いうちからこのスペースを広げるような仕組みがあった方がよいと感じています。私はこれを、「エクスポージャー体験」と呼んでいるのですが、失敗してもよい環境で、「自分の外」に出ることができる経験ができる機会を増やすことです。
例えば、地域おこし協力隊に1年だけ行ったり、全学ゼミで有機農業に取り組んだり、あるいはワーキングホリデーに行ったりするなどの体験で、対応力を鍛えることです。自分の居場所やテリトリーだと思える場所が何カ所かある方が、人間は心身の可動域が広がります。
何より、他の場所から自分の居場所に戻ったときに、その場所や日々の自分の在り方を再評価することができるのではないでしょうか。
教え子のなかにも、大学時代に2週間、田舎に行くプログラムに参加したことをきっかけに、リピーターとしてその地域の関係人口になった卒業生がいます。この間久しぶりに会ったのですが、本当に成長していました。
あるいははじめは四季折々を楽しむための旅を通じて、それが関係人口になっていくような流れもあるでしょう。何かのきっかけで地域に入ってきた人たちがリピーターとして通えることが重要です。
このような取り組みは、自治体自らが行うよりも、設計や運営は民間などのイニシアティブに任せて、自治体は補助金を出すほうがうまく回るような気もします。きっかけとなるプログラムに関する情報への導線づくりも課題ですが、関係人口を増やすためには、このあたりの“入りやすさ“に取り組むことが重要ではないでしょうか。
若者が二拠点居住や移住を考える際、仕事・住居・人脈・物理的な距離という実現可能性を左右するさまざまな要因があります。しかしながら、実際に二拠点居住や移住をしている人の情報を、悩みも含めてリアルに知ることができる機会は案外ありません。住んでいる人の様子や暮らしの中で必要なライフハックのような情報も内部者には当たり前の情報すぎてSNSには載りません。
他地域からの移住者は「よそ者」であるため、新しく移住を検討している人に役立ちそうなこうした情報や、困難を含めたリアルな現状をよく知っています。その人たちと移住を検討する人々をもっと直につなぐ仕組みがあると理想的だと思います。
異質なものとの摩擦の重要性
二拠点居住を実践したとしても最終的にはどこかに拠点を定める人が多く、死ぬまで二拠点居住を続ける人はほとんどいません。車が運転できなくなったら生活できない、といったように、地方で生活することの大変さはあります。
そう思うとき、政府や自治体が考える「二拠点居住からの移住」というシナリオの現実味があまりないと思います。その意味でも、移住や二拠点居住にこだわらず関係人口を広げることが大切であり、これは若者にとっても意味があるのではないでしょうか。なぜなら自分が慣れたスペースを出ることで、自分を広げることができるからです。
例えば海外に行くと、計画的に物事が進むことのほうが少なく、予期しないことばかり起こります。自分のスペースから出ることがなければ、予期できない経験をすることもなく、その結果、予期できないことに対処する力も身に付きません。予期できないことに対処する力は、生命力につながります。
リモートワークでは、例えば会議中でも時間が来たらボタン一つで会議を終えるということができるといったように、ほとんどの物事が計画的に進みます。ワークライフバランスの点では良いことも多いですが、悪い点も同じくらいあると感じます。
世界の大半の物事が計画通りに進むものではないことを分からないまま大人になると、自分の理想や「こうでないと嫌」という考えと現実の間にギャップができてしまい、心身に影響をきたすことも多いのではないでしょうか。
他方で、受け手にとっても、外部からの人間を受け入れることはコストのように思えるかもしれないですが、ずっと同じ場所で同じ人たちとの会話ばかりではなく、そうでない人たちとの会話をするほうが考え方も活性化します。
「お互いがお互いの思考に風穴をあける」ようなコミュニケーション、「社会の風通しをよくするやり取り」は重要であり、コミュニケーション能力はそういうふうにしか育たないのではないでしょうか。「異質なものと対面したときのほどよい摩擦」が定期的にあるということは、人が健やかにしなやかに暮らしていくために、今いわれている数倍は大事なのではないかと、私自身の経験を振り返っても実感しています。
異質な世界と関わることには、不快な経験も含まれることも多いです。その場合でも、嫌なことがあったときに何が嫌だったのかを振り返ることも自分がどういう人かを考えるヒントになると思っています。
今、セルフリフレクション(内省)をしなくていいような社会の設計になっていますが、これだとキレやすい人を増やすことになってしまう気がします。振り返ることで自分の課題が見えたり、反対に、意外と自分はここまでやれるんだという意外な発見もあったりします。
「くらし」は計画・実行・評価のサイクルではなく、こうすれば全部できるというものではないですが、都市ではそれができてしまうと錯覚しがちです。都会に住む人は、都市化していない主体と身体、都市化でないモードを自分の中に持ち、ままならないことが前提の環境に身を置き、どう折り合いをつけていけるかを、クリエイティブに楽しんだら良いのではないでしょうか。
そのための一つの窓が、二拠点居住や関係人口としての長期的な関わりであるかと思います。最初は「大学の単位取得のため」といった理由でもよいが、今後はもっと若者がこうした経験をしていけると、何よりも若者のウェルビーイングのためにも、現在の日本社会の閉塞感を軽減するためにも鍵になると考えています。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。