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「人生の筋書き」が消えた世界をどう生きるか。18歳意識調査から読み解く若者の結婚・家族観
取材:日本財団ジャーナル編集部
2025年11月から12月に日本財団が行った18歳意識調査 第77回「価値観・ライフデザイン」(別タブで開く)では、結婚や子どもなどの将来のライフデザインを具体的に描くことができずにいる若者の姿が見られました。
2022年12月に同じ内容で行った第52回調査と比較して、その迷いが一層広がっている様子がうかがえます。
「人生において大切にしたいこと」を3つまで尋ねたところ、前回調査から「家族」が7ポイント減少してトップから転落し、「自身の好きなことややりたいこと・趣味」がトップに変化しました。また、「恋愛」も6ポイント減少しました。
質問:あなたの人生において、大切にしたいと思っていることは何ですか。上位3つを選んでください。

将来については、結婚を「したい」「どちらかといえばしたい」と回答した割合が7ポイント、実際に結婚を「必ずすると思う」「たぶんすると思う」と回答した割合が6ポイント減少しました。
質問:あなたは、将来結婚したいと思いますか(事実婚を含む)。(選択式・単一)

質問:あなたは、実際には、自分は将来結婚すると思いますか(事実婚を含む)。(選択式・単一)

同様に、子育てについては、将来子どもを「持ちたい」「どちらかといえば持ちたい」と回答した割合が7ポイント、実際に子どもを「必ず持つと思う」「たぶん持つと思う」と回答した割合は7ポイント減少しました。
質問:あなたは将来、子どもを持ちたいと思いますか。(選択式・単一)

質問:あなたは、実際には、自分は将来、子どもを持つと思いますか。(選択式・単一)

「事実婚」「選択的夫婦別姓」「パートナーシップ宣誓制度」といった多様なパートナーシップのありかたについては、いずれも半数以上が「賛成である」「どちらかといえば賛成である」と回答しましたが、男女ともに、「賛成である」と回答した割合は前回調査から減少傾向でした。
質問:あなたは、事実婚、選択的夫婦別姓制度、パートナーシップ制度について、どのように考えますか。(「賛成である」「どちらかといえば賛成である」と答えた割合)(選択式・複数)

- ※ 1「事実婚」とは、婚姻届を提出せず、婚姻の意思をもって、共同生活を送ること
- ※ 2.「選択的夫婦別姓制度」とは、希望する夫婦が結婚後にそれぞれの結婚前の氏を名乗ることも認めるもの。出典:法務省
- ※ 3.「パートナーシップ宣誓制度」とは、各自治体が同性同士のカップルを婚姻に相当する関係と認め証明書を発行する制度のこと。出典:日本LGBTサポート協会
若者が、結婚や子育てなどのライフデザインを具体的に描きにくくなっている背景には、どのような変化があるのでしょうか。
家族社会学を研究されている、兵庫教育大学の永田夏来(ながた・なつき)先生にお話を伺いました。永田先生のご著書『生涯未婚時代』の中でも、結婚が「絶対にするもの」ではなくなったというライフコースの変化について分析されています。

「人生の筋書き」が消えた世界
私の著書『生涯未婚時代』のなかで、年齢に応じた人生の筋書きが消失したことを指摘しました。
従来は、就職して、ある程度の年齢になったら結婚し、子どもを持ち…と、ほとんどの人が決まった順序でライフイベントを辿っていました。しかし現在では、生涯未婚率が上昇し、子どもを持たない人も珍しくなく、結婚や子どもは誰にも必ず訪れるイベントではなくなっています。
今回の調査で見られた若者の態度も、このような変化とよく合致しています。
「人生で大切にしたいこと(最大3つまで)」では前回の調査と比較して「家族」や「恋愛」の重要度が下がっており、若者が結婚を人生において必須のものとは感じなくなっていることがうかがえます。年齢に応じた筋書きが消失するなかで、「家族」の減少により「自身の好きなことややりたいこと・趣味」がトップになったように、自分自身への関心は残ることも納得です。
ただし、年齢に応じた人生の筋書きの消失は、必ずしも「誰もが自由に自分の人生を描けるようになった」というポジティブな意味ではないことに留意が必要です。
「家族」や「恋愛」の重要度が下がった一方で、「自身の好きなことややりたいこと・趣味」は増えてはいません。また、数字を注意深く見ていくと、各項目を選択した人の割合の合計が3年前よりも下がっており、3つまで複数選択できる中で、ひとりの回答者が選んだ選択肢の数の平均値が少なくなっていることがわかります。
「人生において大切にしたいこと」が少なくなっている、あるいは「大切にしたいこと」として表明しづらくなっているのではないかと推測します。加えて、報告書に掲載されている「人生において大切にしたいこと(1位として選んだもの)」では、家庭の社会経済的地位が最も低い層で「大切にしたいものはない」と答えた割合が突出して多い点も気になります。
人生の筋書きが消失する中で、地図のない世界に放り出され、目的地を定めることができずに戸惑う若者の姿が浮かびました。
データが示す、結婚・子育てに対する男女の温度差
3年前と比較して、結婚や子育てを希望する人や実際にすると思う人が減少しており、若者にとって結婚や子育てが人生設計の自明な前提ではなくなったことが表れています。
ここでも、結婚や子どもを希望すると答えた割合が減ったことを、選好の変化としてポジティブに捉えることには慎重にならなければなりません。
結婚・子育てともに、希望すると答えた割合が実際にすると思うと答えた割合を上回っており、希望はするけど叶わないと感じている若者が一定の割合で存在しているからです。また、報告書の中で指摘されているとおり、結婚を「必ずする」と見通せるかどうかが、家庭の社会経済的地位によって分かれることも見過ごせません。
特に男性では、結婚を「必ずする」「多分する」と答えた人が減った一方で、「わからない」が増えています。子どもについては、「わからない」に加えて「絶対に持たないと思う」も増加しています。結婚しない理由、子どもを持たない理由はいずれもパートナーの不在が筆頭で、自発的に結婚しない・子どもを持たないのではなく、相手がいないからできない・持てないという状況がうかがえます。
女性は、結婚を「必ずする」と答えた割合が変わらないまま、「したい」という希望だけが下がっており、結婚を必ず通過するライフイベントとは見なさなくなった一方で、現実的な選択肢として手元に置き続けているように見えます。
子どもに関する女性の態度は、読み方が難しいですね。「持たない」と答えた割合が増えたのに対し、子どもを持たない理由は軒並み減っています。子どもを持たないことを自ら選択する女性が増えた可能性もありますが、母数となる「持たない」層が増加したことでそれぞれの理由が薄まった可能性や、明確な理由を持たないまま「持たない」と考える女性が増えた可能性もあります。
この調査だけでは、「持たなくていい」のか、「持ちたいけど持てない」のかまでは読み切れません。
筋書きのない世界における「新しい家族のありかた」とは
現在では共働き世帯が増え、離婚や再婚も珍しいことではありませんが、かつては夫が働き、妻が家庭を守る専業主婦世帯が主流で、夫婦は一生を添い遂げるのが一般的でした。こうした戦後に広まった家族のモデルを、家族社会学では「近代家族」と呼びます。
さらに遡り、農業が主流だった時代には、家業を軸に親世代と同居する暮らしが広く見られ、女性も労働力として農作業などを担っていました。このように、家族のあり方は社会の変化に応じて変わっていくもので、今後も時代にあった新しい形を考えていく必要があります。
新しい家族のあり方のひとつとして、今回の調査でも、多様なパートナーシップのあり方について尋ねています。「事実婚」「選択的夫婦別姓制度」「パートナーシップ宣誓制度」ともに、女性の方が男性よりも賛成する人が多く、男性の方が多様な家族の形に戸惑いを抱えている様子がうかがえます。
なお、男女ともに賛成する人の割合が前回調査よりも低くなっていますが、多様性への関心が低下しているわけではないと考えます。
前回の調査が行われた2022年は、選択的夫婦別姓や同性婚などの報道が盛り上がっていましたが、その後制度化は進んでいません。このような状況では、若者にとって「自分ごと」になりにくいでしょう。結婚が「するかしないかわからないもの」になったことで、争点としての重要度が下がったとも考えられます。
家族の機能という視点で考えると、近代家族においては、子育てや介護、心のよりどころや居場所など、多くの機能を家族が担うことが前提とされてきました。保育園や介護サービスなどの公的な制度もありますが、依然としてケアの機能は家族に集中しています。
このため、仮に多様なパートナーシップが結婚に代わる制度として認められたとしても、ケアが家族に押し込められている構造は変わらない点には注意が必要です。例えばSNSなどを介したつながりやシェアハウスなど、家族以外の人間関係が心のよりどころや居場所としての機能を担っている例は現にあり、こうした動きは今後ますます強くなっていくと思います。
それによって結婚が不要になるとまでは言い切れませんが、近代家族に押し込められていたケアの機能の代替が進み、分散されていくことを期待したいです。
若者の心のブレーキは社会を映す鏡
結婚や家族に限らず、調査結果全体を通じて、「無理はしない」あるいは「本当はこうしたいけど諦める」といった若者の態度が読み取れることがとても気になりました。やはり、若者が夢を持ち、いろいろなことに挑戦できるようであってほしい。そのためには、失敗してももう一度やり直せる、寛容な社会でなければなりません。
若者は、今の社会に寛容さがないことを敏感に察知しているように見えます。報道やSNSなどで接する情報の影響もあるでしょうが、そもそも、日本の将来に明るい展望を抱きにくい状況はここ30年ほど続いているので、そのような時代を生きてきた親や学校の先生などの周りの大人の影響も大きいのではないでしょうか。
若者がもっと挑戦できる社会にすることや、多様な選択肢を認めることが本当に必要なのだという、社会に対する切実な問題提起として、この調査結果を受け止めるべきだと思います。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。