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子育て家庭と1日過ごす「家庭留学」とは? 若者と子育て世代をつなぐ新しい取り組み

実際の家族留学の様子。画像提供:特定非営利活動法人manma
この記事のPOINT!
  • 子どもと接する機会の減少を背景に、家族や子育てを具体的にイメージしにくい若い世代が増えている
  • SNSでは子育てに関するネガティブな情報が広がり、不安が増幅されやすい
  • 二次情報でなく一次情報に触れることで、自分にとっての家族のあり方をイメージしやすくなる

取材:日本財団ジャーナル編集部

結婚や出産、子育てをめぐる価値観や環境は、この数十年で大きく変化しています。少子化が進むなか、将来の家族像を思い描きにくいと感じる若者も少なくありません。

こうしたなか、特定非営利活動法人manma(外部リンク)では、若者が子育て中の家庭を訪問し、実際の暮らしや子育ての様子に触れるプログラム「家族留学」を実施しています。家庭ごとの多様な価値観やライフスタイルに出合うことで、漠然とした不安を整理し、自分らしい将来像を考えるきっかけになるといいます。

今回は、同団体の代表・越智未空(おち・みそら)さんと、広報の五十嵐恵美(いがらし・えみ)さんに、家族留学の取り組みや、若者が家族を持つことに不安を抱く背景について伺いました。

manmaの代表理事を務める越智さん
manmaで広報を務める五十嵐さん

子どもと接する機会の減少が、将来の家族像を描きにくくしている

――近年、子育てや家族形成に不安を感じる若者が増えているといわれています。その背景をどのように捉えていますか。

越智さん(以下、敬称略):多くの若い世代の方と接するなかで、将来に対して漠然とした不安を抱えていると感じています。特に家族を持つことに関しては、「自分に仕事と子育てを両立できるのだろうか」「自分に子どもを育てられるのだろうか」といった不安の声をよく耳にします。

その背景の1つに、子どもと触れ合う機会の減少があると考えています。核家族化や地域コミュニティーの希薄化が進み、近所の子どもや親戚の子どもと接する機会が以前より少なくなりました。

子どもと関わった経験がほとんどないまま大人になると、いざ自分の将来を考えたときに、「子育てができる自信がない」「そもそも子どもが苦手だ」と思う人も少なくありません。子育てを身近に感じる機会が減ったことが、家族形成への不安につながっているのではないかと思います。

――自分が子育てをしている姿が想像できないのかもしれませんね。

越智:まさにその通りだと思います。世代間の違いも大きくて、子育てについて50代、60代の方にお話しすると、「何がそんなに不安なの? なんとかなるでしょう」と言われます。この「なんとかなる」という感覚を、今の若い世代は持ちにくいのかもしれません。

1980年代頃までは、地域とのつながりが比較的強く、子どもと接する機会も多く、近所の人や親戚を含めて子育てを支える環境がありました。現代は子どもと触れ合う機会が少ない分、いざ自分に子どもができたときに、「赤ちゃんがいる生活とはどのようなものなのだろう」と具体的なイメージを持ちにくい。だからこそ、「なんとかなる」と思えないのではないでしょうか。

さらに、実体験はない一方、SNSなどを通じて子育てに関する2次情報に触れる機会は増えています。特にSNSではネガティブな情報ほど拡散されやすく、「子どもができると自分の時間がなくなる」「夫婦関係が悪化する」といった話題が目につくと、家族を持つことに対する不安がさらに強まってしまうのかもしれません。

――改めて「家族留学」とはどのような取り組みなのでしょうか。

五十嵐さん(以下、敬称略):一言でいうと、「家庭版OB・OG訪問」のようなプログラムです。大学生を含む20代、30代の方が子育て家庭を訪問し、数時間にわたって家族と一緒に過ごします。子育て中の家庭の日常に触れたり、仕事と育児の両立について話を聞いたりすることで、「子育てとはどのようなものか」を体験を通して知る機会を提供しています。

五十嵐:参加にあたっては、まず事前にどのような家庭に話を聞きたいかをヒアリングします。例えば、夫婦の育児分担や育児休業の取得状況、仕事や働き方などについて希望を伺い、その内容をもとに担当者がマッチングを行います。

現在、全国に約600以上の受け入れ家庭があり、参加者の希望に合った家庭をご紹介しています。マッチング後も担当者がフォローしながら進めるため、初めての方でも安心して参加できます。

実施方法は、実際に家庭を訪問する対面形式のほか、オンライン形式もあり、それぞれの状況に合わせて参加しやすい方法を選べるようにしています。当日のスケジュールや時間もそれぞれの希望に応じて調整しています。

――家族留学を始めた経緯について教えてください。

越智:家族留学は、1994年生まれの大学生が立ち上げたプログラムです。当時はキャリア教育が広がり始めた時期でもあり、中学校での職場体験や社会人の話を聞く機会など、「仕事」について学ぶ機会は数多くありました。

でも、人生は仕事だけではありません。家庭を持ったら仕事をどう続けていくのか、パートナーシップをどのように育んでいくのか、子育てとどう向き合うのか。そうしたことについて学ぶ機会はほとんどありませんでした。

また、親世代と私たち世代では社会環境も大きく変化しています。親世代は終身雇用や性別役割分業(※)の考え方が比較的一般的でしたが、現代は共働きが当たり前で、転職も珍しくありません。

そこで、今まさに仕事と子育てに向き合っている人たちから話を聞くことで、仕事観だけでなく家族観や価値観についても学べる機会をつくれないか。そんな問題意識から、家族留学が始まりました。

『当日の過ごし方の例(対面留学)』を示すスライド画像。11時に集合、11時半にお昼の買い物、13時半に昼食と交流、15時に公園遊びという4つのステップ
家族留学の参加者は、一緒に食事をしたり、受け入れ先の子どもと遊んだりしながら過ごす。画像提供:特定非営利活動法人manma
『家族留学の効果』を示すスライド画像。参加により、子育てへの不安解消、結婚や子育てへの意欲向上、子育て家庭への理解促進が実現する。
家族留学の概要と参加者のアンケート結果。共働きとの両立に対する不安解消や、子育て家族への配慮が高まったという声が多い。画像提供:特定非営利活動法人manma

子育てに奮闘する家族に触れ、リアルな暮らしを体験

――家族留学には、どのような方が参加されていますか。

越智:就職活動を控え、将来のライフプランについて考えたい大学生や、すでに働いている20代、30代の方が多く参加されています。

プログラムをスタートした2015年頃は、参加者の約9割が女性で、主に女子大学生が中心でした。しかし、2020年頃からは男性の参加も大きく増え、現在は男女比がほぼ半々になっています。

また、一人で参加される方だけでなく、カップルや友人同士で参加されるケースも増えています。結婚を控えたカップルが、将来子どもを持つかどうかや、どのような家庭を築いていきたいかを話し合うきっかけとして参加されることもあります。

最近は岡山県や千葉県松戸市などの自治体と連携して家族留学を実施することも多く、いろいろな地域の方が参加されています。

――参加者から留学先の家族には、どのような質問が寄せられるのでしょうか。

越智:参加する方の年齢やライフステージによって質問はさまざまです。例えば、大学生の場合は、就職活動を前に将来の働き方や家庭について考えたいという方が多く、「子どもと過ごす時間が限られるなかで、「どのように親子関係を育んでいますか」「仕事と子育てを両立するなかで大切にしていることは何ですか」といった質問がよく出ます。

一方で、社会人になると、キャリアと出産・子育ての両立について、より具体的な相談が増えます。

――参加者からはどのような感想が寄せられていますか。

越智:参加後のアンケートでは、86パーセント以上の方が「結婚したい」「子どもを持ちたい」という気持ちが高まったと回答しています。また、約8割の方が、仕事と子育ての両立に対する漠然とした不安や、育児に対する自信のなさが解消されたと答えています。

ただ、私たちは、必ずしも結婚や出産を推奨したいわけではありません。実際の家庭に触れることで、一人一人が自分の人生やライフプランについて考え、納得感のある意思決定をするためのヒントになればと思っています。

最近は「子持ち様」といった造語など、立場の違いによる分断を感じさせる言葉を目にすることもあります。子どもを持つかどうかにかかわらず、子育て世代がどのような経験をしているのかを知ることで、お互いへの理解は深まるのではないでしょうか。

そうした相互理解を生み出せることも、家族留学の大きな意義だと感じています。

――受け入れ家庭にはどのような思いを持った方が多いのでしょうか。

越智:受け入れ家庭にも本当にさまざまな方がいます。ご夫婦はもちろん、シングルマザー・ファーザーの方もいます。

家族留学では、1つの家族の形を正解として示したいわけではありません。多様な家庭との出会いを通じて、参加者が自分なりの家族のあり方を考えるきっかけになればと思っています。

皆さんに共通しているのは、「自分たちの経験を次の世代に伝えたい」という思いです。

例えば、「子どもは苦手だと思っていたけれど、実際に親になってみたら想像以上にかわいかった」「子育ては大変なことも多いけれど、それ以上に幸せや喜びがあった」といった実感を、若い世代に伝えたいという声をよく聞きます。

家族留学にはカップルや友達同士のほか、1人で参加する若者も多いという。画像提供:特定非営利活動法人manma

多くの参加者が子育てへの不安が軽減。受け入れ家庭にも起こった変化

――家族留学をきっかけに生まれた関係性は、その後も続いていくのでしょうか。

五十嵐:続く方も多いです。つい先日は、受け入れ家庭の方から、「参加者だった学生さんの大学の卒業式に出席した」という話を聞いたばかりです。

実は私自身も家族留学の参加者だったんです。妊娠中に子育てへの不安が大きくなり、家族留学に参加したのですが、受け入れてくださったご家庭とは出産後も交流が続いています。

子どもが生まれてからも相談に乗っていただいたり、励ましていただいたりしていて、私にとってはまさにもう一人のお母さんのような存在です。そうした関係が続いているケースも少なくありません。

――今の時代を生きる若者が家族や子育てについて、より具体的なイメージを持てるようになるためには、何が必要だと思われますか。

越智:体験型の機会を増やしていくことが重要だと考えています。現代はSNSや動画などを通じて、家族や子育てに関する情報を得る機会はたくさんありますが、実際に自分の目で見て、感じる機会は決して多くありません。

ある参加者は、受け入れ家庭の夫婦がアイコンタクトを交わしながら質問に答える姿を見て、「本当に仲が良い夫婦なんだ」と言葉以上のリアルな空気感を肌で実感できたそうです。また、「子どもは苦手」と思い込んでいた参加者が、実際に赤ちゃんを抱っこしたり、子どもから手紙をもらったりするなかで、自然と「かわいい」と思えるようになるケースもありました。

こうした気づきは、その場に足を運んでこそ得られるものです。スマホの情報だけでは見えてこない空気感や感情、家族の絆に触れられることこそが、体験の本当の価値にほかなりません。

だからこそ、家族や子育てについて考える原点として、こうした体験型の機会を増やしていくことが大切なのだと感じます。

子育てへの不安を和らげる社会に向けて、私たち一人一人にできること

最後に子育てへの不安を和らげる社会に向けて、私たち一人一人にできることをお二人に伺いました。

[1]SNSの情報を鵜呑みにしない

「育児の過酷さ」「経済的負担」「キャリアとの両立の難しさ」といった極端でネガティブな二次情報があふれるなかで、それをそのまま受け取るのではなく、「本当にそうなのか」と一度立ち止まって考えてみることが重要

[2]子育てのポジティブな側面も伝えていく

子育て世代の側も、大変さだけでなく、「子育ての楽しさ」や「幸せ」といった実体験を意識的に次世代へ伝えていくことが、若い世代の安心感につながる

取材をしたのはちょうど、SNS上で「飲食店や公共の場で授乳ケープを使って授乳することはマナー違反なのか」という話題が広がっていたタイミングでした。

さまざまな意見が飛び交うなかで、赤ちゃんを連れて外出する親にはそれぞれの事情があり、赤ちゃんは親の都合に関係なくお腹を空かせる存在でもあることを想像できたら、もう少しやさしい眼差しが広がるのではないかと感じました。

家族留学は、そうした想像力を育むきっかけの1つになるのかもしれません。

  • 「性別役割分業(または性別役割分担)」とは、「男性は仕事、女性は家庭」というように、個人の能力にかかわらず性別を基準に社会的・家庭的な役割を区別する考え方のこと

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