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子どもの事故の9割は防げる? 保護者だけに頼らない事故予防の仕組みを考える

Safe Kids Japanの公式サイト。画像提供:NPO法人Safe Kids Japan
この記事のPOINT!
  • 子どもの事故は「不慮の事故」が主要な死因の1つであり、約9割は予防できるとされている
  • 保護者の注意や見守りだけに頼る事故予防には限界がある
  • 行政や企業、地域などが役割を分担し、事故を防ぐ仕組みづくりが重要

取材:日本財団ジャーナル編集部

食品による窒息や異物の誤飲、ベランダや遊具からの転落、浴槽での溺水、交通事故……。子どもの身近では、命に関わる事故が後を絶ちません。令和7年のこども家庭庁の資料(※1)によると、1~4歳と5~9歳の死因は「不慮の事故」が第2位、10~14歳では第3位となっています。

「子どもの事故の約9割は、適切な対策を講じることで防ぐことができます」

NPO法人Safe Kids Japan(外部リンク)の理事長・大野美喜子(おおの・みきこ)さんはそう語ります。

では、なぜ防げるはずの事故は繰り返されてしまうのでしょうか。事故を減らすために私たちが知っておきたいこと、そして子どもの命を守る「仕組みづくり」のヒントを伺いました。

今回、お話を伺ったNPO法人Safe Kids Japanの理事長・大野さん。画像提供:NPO法人Safe Kids Japan

子どもの事故は、なぜ繰り返されるのか

――早速ですが、子どもの事故には、どのような特徴や傾向がありますか。

大野さん(以下、敬称略):事故の傾向そのものは昔からあまり変わっていません。

例えば、家庭内では階段からの転落や浴槽での溺水、最近ではニュースで報じられることも多いベランダからの転落など、命に関わる事故が起きています。

また、時代とともに新しい生活用品や育児用品が普及すると、それにともなう事例もみられるようになります。

他にも、節分の時期には豆による窒息や誤飲、暖かくなる5月頃からは溺水、冬にはストーブなどによるやけどなど、季節によって増える事故もあります。

――子どもの事故が減らない背景には、どのような課題があるのでしょうか。

大野:子どもは発達段階によって思いもよらない行動を取るので、一定のリスクがあるのは事実です。ただ、この10年で子どもの死亡数は約7割減り、年間200人を下回るまでになりました。

しかし、救急搬送される子どもの数はほとんど減っていません。つまり、死亡数は減っているものの、事故そのものは減っていないということです。

私が子どもの事故予防の活動に携わるなかで感じているのは、これまでの対策が「危ないので気をつけましょう」「きちんと見守りましょう」といった、保護者の行動や見守りに頼るものが中心だったということです。

事故を減らすためには、これまでのように保護者の見守りだけではなく、製品の安全性を高めたり、法整備を進めたりする必要があります。

――対策や制度によって、大きく減った事故の例はありますか。

大野:最も分かりやすいのはチャイルドシートです。現在は使用が義務化され、子どもを車に乗せるときはチャイルドシートを使うことが当たり前になりました。

また、飲酒運転への規制強化も交通事故の減少につながっています。さらに、車自体の安全性能も向上しました。

こうした取り組みによって交通事故全体が大きく減り、それが子どもの死亡数の減少につながった大きな要因の1つだと思います。

家庭内で起こりやすい子どもの事故を描いた8つのイラストです。洗剤や薬・小物の誤飲、ブラインドの紐の絡まり、お風呂での転倒、火傷、家具の転倒など、日常に潜む危険な状況がまとめられています
家庭のなかにも外にも、子どもの事故の危険が潜んでいる。画像提供:NPO法人Safe Kids Japan

事故予防の負担を保護者だけに背負わせない「仕組みづくり」

――Safe Kids Japan(以下、SKJ)の設立背景や活動内容について教えてください。

大野:SKJは、子どもの事故予防に取り組む国際組織「Safe Kids Worldwide」の日本の拠点として2014年に設立されました。

活動は大きく3つあります。1つは、事故が起きるメカニズムなどを明らかにする調査・研究です。2つ目は、その研究成果をもとに、こども家庭庁への提言や企業への改善提案を行うアドボカシー(提唱)活動。3つ目が、子どもや保護者、保育士などを対象に事故予防の大切さを伝える啓発活動です。

――SKJが考える、「予防できる事故」を防ぐ方法とはどのようなものでしょうか。

大野:事故予防で私が特に大切だと考えているのは、安全対策の負担を社会全体で分担するという考え方です。

これまでは、保護者がどんな危険があるかを知り、それを予防するための安全グッズを選んで設置し、子どもを見守るといった事故を防ぐための負担を多く担ってきました。

しかし、保護者だけに頼るのではなく、企業や行政など、それぞれが役割を担う仕組みをつくることが重要だと考えています。

その一例が、ニューヨーク市の窓ガードです。約50年前、ニューヨークでは子どもの窓からの転落が大きな問題になっていました。それを受けて、現在では、10歳以下の子どもがいる家庭は子どもがいることを届け出た上で、賃貸住宅の管理者には窓には柵のような「窓ガード」の設置が義務付けられています。転落を防ぐための対策を、保護者だけが担うのではなく、保護者、住宅管理者、行政がそれぞれ役割を担う仕組みになっているのです。

日本でも、少しずつですが、同じような考え方にもとづく取り組みが進んでいます。例えば、電気ケトルは、倒してもお湯がこぼれにくい安全な製品が増えています。製品自体が安全になることで、やけどのリスクを減らせるようになりました。

また、チャイルドシートを車へ簡単かつ確実に固定できる国際規格「ISOFIX(アイソフィックス)」が普及し、以前よりも正しく取り付けやすくなりました。保護者がチャイルドシートを適切に使用する責任に変わりはありませんが、自動車メーカーの技術開発や環境整備が進んだことで、安全対策にかかる負担は大きく軽減されています。

事故を防ぐためには、保護者や個人に行動変容を促すだけでなく、企業や行政を含め、社会全体で役割を分担できる仕組みをつくっていくことが、これからますます重要になると思います。

――SKJでは保育、教育、子育て支援に関わる団体や保護者向けなどさまざまなセミナーを開催していますが、そのなかで見えてきた課題はありますか。

大野:これは自分自身の反省でもあるのですが、活動を始めた当初は、保護者の方に「こういう事故が起きています」「こうした対策をしましょう」と、事故の傾向や対策を伝えることに取り組んできました。

しかし、実際にはそれだけでは十分ではありませんでした。セミナーを通して、事故予防の必要性は理解していても、行動に移るまでにはさまざまな壁があることが分かってきたのです。

例えば、ベランダからの転落対策として補助錠を設置することが必要だと分かっていても、そこに至るまでには「どの商品を選ぶのか」「どのように設置するのか」といった、いくつものハードルがあります。

最近では、仕組み化という考え方のもと、保護者の方に何を伝えるかだけではなく、事故予防を社会に根付かせるために、どこに課題があり、行動にともなう負担をどのように分担できるのかを伝えています。

子どもの転落事故防止のための『窓やベランダ出入口に取り付ける補助錠の選び方』を解説した図解
SKJが作成した補助錠の選び方リーフレット(※2)。画像提供:NPO法人Safe Kids Japan

事故が起きる背景を知り、「防げる仕組み」を社会に広げる

――子どもの死亡事故は、どの程度防げるものなのでしょうか。

大野:子どもの事故は、海水浴でのライフジャケット着用、階段からの転落防止のための柵の設置など、国際的には有効性が確認された予防策を適切に実施すれば約9割は予防可能とされています。

「こうしていれば防げたのに」という事故は少なくありません。しかし、階段の柵やベランダの補助錠など、必要性が分かっていても、設置している家庭は多くないのが現状です。

「たくさんの事故事例があるのに、なぜ対策してくれないのか」と非難するのは簡単ですが、実際には手間や費用の負担があり、対策を継続することは簡単ではありません。

だからこそ、人の行動変容だけに頼るのではなく、保護者が対策をしやすい、あるいは対策をしなくても安全が確保される仕組みをつくることが大切です。

例えば、窓は最初から一定以上開かない構造になっていれば、補助錠を取り付ける必要はありません。企業が安全な製品を開発したり、住宅そのものを安全な設計にしたりすることで、保護者の負担を減らすことができます。

――SKJの公式サイトではサッカーゴールによる事故についても言及されていました。具体的には、どのような状況で事故が起きているのでしょうか。

大野:サッカーゴールの事故の多くは、子どもがぶら下がったことをきっかけに、ゴールが倒れて下敷きになることで起こります。

子どもたちに「ぶら下がってはいけない」と伝えることは大切ですが、そもそも、文部科学省の規定でサッカーゴールは固定しなければならないと定められているんです。

それでも事故は起こります。ルールがあるにもかかわらず運用できていないのであれば、なぜできないのかを考えなくてはなりません。固定するための器具がないのか、教師が規定を知らないのか、運動会などの理由でたまたま移動させていたのか。複数の要因が重なった結果として事故が起きていると考えられます。

単に学校側にルールの徹底を促すだけでは、事故予防にはつながりません。なぜ固定できていないのかを調査し、先生方が確実に固定できる仕組みをつくることが大切だと考えています。

現在は鉄製のゴールが主流ですが、ゴールとしての機能を保ちながら、より安全な素材や構造に変えていくことも必要だと思います。

繰り返しになりますが、これまでの事故予防では、「正しい知識を伝えて対策実施を促す」ことに重点が置かれてきました。もちろんそれも大切ですが、人の認識や行動変容だけに頼るには限界があります。

だからこそ、保護者に対策実施を求めるだけではなく、行政や企業を含めた社会全体で対策の負担を分担し、事故を防ぎやすい環境を整えていくことが必要だと考えています。

校庭に置かれたサッカーゴール
サッカーゴールが倒れた際、約3トンもの力がかかるという。画像引用:SKJのYouTube(※3)

「予防できる事故」を1つでも減らすために私たちにできること。

最後に、大野さんに「予防できる事故」を1つでも減らし、子どもが安全に成長できる社会をつくるために私たち一人一人にできることを伺いました。

[1]子どもの事故に関係ない人はいないと考える

家族に子どもがいなくても、企業で子どもに関わる製品開発に携わっていたり、近所の道を通学する小学生にすれ違ったりするといったように子どもと関わっている。そのため、「社会全体で事故を防ぐ負担を分担する」という考え方のなかで、自分はどこを担えるのかを考えることが重要

[2]自分にできることから行動する

普段の生活のなかで「見通しが悪い」「ここは危ないかもしれない」といった気づきによって、子どもたちにヘルメットの着用を呼びかけたり、危険な場所だと知らせたり、と自分にできることはある。
一人一人の小さな行動の積み重ねが、子どもの安全につながる

編集後記

取材を通して印象的だったのは、「事故を防ぐ責任を、保護者だけに背負わせない」という視点でした。

子どもに起こりやすい事故の事例や予防策はSafe Kids Japanの公式サイトでも分かりやすく掲載されています。家庭や地域でできる事故予防のヒントとして、ぜひ一度チェックしてみてください。

NPO法人Safe Kids Japan 公式サイト(外部リンク)

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。
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