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「よく知らないから」で排斥しないために。犯罪の実態を知る機会をもっと若者に ~18歳意識調査アンケートより~
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団は、2026年5月、「犯罪・再犯・拘禁刑」(別タブで開く)をテーマに80回目の18歳意識調査を実施しました。有識者に印象に残った調査結果についてインタビューを通してお考えをお聞きしています。
「犯罪・再犯・拘禁刑」調査では、近年の犯罪件数の変化について、全体の70パーセント強が「増えている」(※)と回答しました。
- ※ 「増えている」、「どちらかといえば増えている」の合計
質問:近年の日本における犯罪の件数は、どう変化していると感じますか。あなたの印象に最も近いものを選んでください。

近年の犯罪の凶悪さや悪質さの変化についても、全体の70パーセント強が「凶悪化・悪質化している」(※)と回答しました。
- ※ 「凶悪化・悪質化している」、「どちらかといえば凶悪化・悪質化している」の合計
質問:近年の日本における犯罪の凶悪さや悪質さは、どう変化していると感じますか。あなたの印象に最も近いものを選んでください。

また、日本における「再犯者率」(検挙人員に占める再犯者人員の割合)が2015年から2024年まで46~50パーセントの間で推移していることの背景についても聞いたところ、「本人の努力や反省、更生しようという意志が不十分である」が最も多く、全体の約50パーセントが選択しました。
「出所者を受け入れるための社会側の体制(仕事や住居の確保等)が不十分である」が次に多く、全体の40パーセント弱が選択しました。
質問:「検挙される人のうち半数程度が再犯者である」という状況を生み出している背景について、あなたの考えに近いものを2つまで選んでください。

これらの18歳意識調査結果について、神奈川大学法学部教授の新海浩之(しんかい・ひろゆき)先生にお話をお聞きしました。新海先生は、刑事政策や犯罪学をご専門とされ、長期刑受刑者の施設内適応や拘禁刑への移行、依存症者や性犯罪者の更生に関する実証研究を行っていらっしゃいます。

犯罪件数は減少傾向だが「増えている」と7割以上が回答。背景にはメディア報道の特徴?
新海浩之先生(以下、敬称略):近年の犯罪件数の変化や凶悪さ・悪質さの変化についての質問では、女性の方が「増えている」「凶悪化・悪質化している」という回答が多いという傾向がみられます。これは洋の東西や年齢の多少を問わず、昔から社会学・犯罪学の調査でもよくみられていることであり、内閣府の調査でも言われていることです。今回の調査がしっかりと行われていることの証左でもあると思います。
他方で、近年の犯罪動向としては犯罪の認知件数は減少傾向にあります。2002年に280万件というピークを迎えてから2021年に56万件と底を打ち、現在はやや増加傾向が見られるものの全体の傾向としては右肩下がりです。
客観的な事実としては、犯罪件数は減少してきているのに対して、全体の7割程度の人が「増えている」と感じているというのは面白い点だと感じます。回答者である18歳の方々は、犯罪件数が底を打った2021年に、14~15歳という社会問題への認識が芽生える時期を迎えているため、その時点から見れば今は増えている、ということなのかもしれませんが、どの時点と比較して「増えている」と感じたのかは気になります。
一般的な世論調査でも同様の結果が出ています。どの年代・時代でも、「犯罪は増えていると思いますか?」と聞くと「増えている」と答える人は多いのです。この背景には、メディア報道の特質があるかもしれないと思います。犯罪の凶悪さ・悪質さの変化についての質問において7割程度の回答者が「凶悪化・悪質化している」と回答したことにも関連しますが、メディアに対する曝露量が大きい人(メディアに触れる時間が長い人)ほど、犯罪の脅威を感じる度合いが増加するという調査があります。
最近ではテレビや新聞の他にもネットメディアも増えてきています。新聞では、1回あたりの読む時間が短い(ヘッドラインのみ読む、など)人ほど犯罪を脅威に感じる度合いは増え、ネットメディアに触れる時間が長い人ほど脅威度合いは増加すると言われています。ネットメディアではエコーチェンバーとよく言われるように同じような内容が何度も繰り返される傾向があるため、犯罪について目にする機会が多くなっているのではないかと感じます。
また、犯罪が凶悪化していると感じさせるような切り取り方もネットメディアでは多いと思います。日本のマスメディアについても、アメリカやイギリスのメディアに比べ、1件の事件を何回も報道するという特徴があるとの報告があります。もしかしたら、凶悪さや悪質さについては変わらないのだが、メディアによって増幅されてしまっている、という可能性はあるのではないかと思います。
さらに、近年では、メディアが被疑者の心の問題に目を向けることが増えてきたのではないかとも指摘されています。事件の社会的コンテクストや被疑者の育った境遇だけではなく、被疑者の動機に目を向ける報道が多いように思います。
例えば、被疑者の認知症傾向や発達障害傾向を大きく取り上げたり、「動機が不可解」と報じたりするなどです。これは人の心の中がわからないことに対する不安を惹起しやすく、結果として、「犯罪が凶悪化している」や「よくわからないが外国人が何かしているのでは」といった雰囲気・考えを呼んでしまっているのでは、とも捉えられます。
犯罪者への“自己責任”論は自らの強い責任感の裏返し?
新海:今回の調査では「半数程度が再犯者である状況の背景」について「本人の努力や反省、更生しようという意志が不十分である」という回答が男女ともに最も多いという結果でした。これはいわゆる、罪を犯した人に対する“自己責任”論にもつながる回答だと思います。
ただ、今回の調査で用いられている「再犯者率」は、あくまで「過去に犯罪をして検挙されたことがあったか」が問題であり対象期間が無制限であるため、数ある再犯関連の指標の中でも最も高い割合が出るものであることには注意が必要です。
自己責任論に関連する問題はさまざまありますが、今回は心理学のローカス・オブ・コントロール(自己統制の所在)の概念を取り上げます。「ローカス・オブ・コントロール」とは、失敗だけでなく成功も含め、自分がしたことの原因を何に帰属させるかという概念です。
成功でも失敗でも原因は自分の中にあると考えるのが内的な自己統制、誰かのおかげ・誰かのせいと考えるのが外的な自己統制です。内的な自己統制、つまり自分のしたことは自分の責任なのだという自覚は、大切な他者との出会いや就職などと共に、犯罪をした人が犯罪から離れるために必要な要因として注目を集めています。
その意味で、確かに“自己責任”は大切なことです。しかし問題は、それが他者に向けられるものなのかということで、「私のしたことは私の責任」と自ら責任を引き受けることと「その人が悪いことをしたのはその人のせい」と非難することとはやや話が違うと思います。“自己責任”を重く見る考え方は、真面目な態度・性格の裏返しでもあると思いますが、それを他者に向ける場合は行き過ぎてしまう恐れはあります。責任が取れる状況になかった人にも「あなたの責任」だと言ってしまうという懸念です。
最近の国際比較を行った研究では、日本や東アジアの人は、うつ病になるなどの難しい状況に陥った場合、アメリカ人と比べて「その人の責任においてそうなった」と捉える傾向が強いと指摘されています。つまり、ある人に問題が起きた時に、「社会規範や秩序を逸脱した報い」との方向から考え始める傾向にある一方で、欧米ではどちらかと言えば、その人の社会環境が悪かった、社会が十分にケアできなかったと捉える傾向が強いというのです。
日本や東アジアの人の責任感の強さの表れと見ることができますが、見方を変えると「優しくない」社会とも言えるのではないでしょうか。
とは言っても、今回の調査結果を改めて見れば、自己責任論以外にも、「出所者を受け入れるための社会側の体制が不十分である」や「出所者に対する社会の理解醸成が不十分である」などの理由を挙げている人も多くいます。
「本人の努力や反省、更生しようという意志が不十分である」が最も多いことが深刻な問題だと言いたいわけではありません。もちろんそのような考え方があまりにも強いと社会的な支援につながっていかない恐れがありますが、それなりに共感的な理解を示している人もいます。今回の調査結果は、いろいろな側面からきちんと考えて回答してもらった結果として、さまざまな意見がないまぜになっているものと思います。
若者は世の中をよく見ている。犯罪・刑事政策とそれに関わる人の実態を知ってもらう機会をもっと
新海:今回の調査結果全体に関する印象として、若者だからといって一般的な感覚とずれているわけではない、ということを改めて認識しました。むしろ拘禁刑に関する認知など、よく世の中を見ているなと感じる調査結果もありました。
だからこそ、犯罪や刑事政策に関して、もう少し実態を知る機会を提供しなければならないと感じました。若者だけでなく一般の方々に対してもですが、犯罪や治安情勢について客観的な事実を知ってもらうことの必要性を強く感じます。
再犯防止についても、2013年に再犯防止に向けた総合対策が出て、再入率(刑務所から出た人が2年以内にまた刑務所に入る割合)についてKPIが決められました。その後、再入率は減少しています。どのような施策が実際に再犯者に効果があったか判断するのは難しいところがありますが、全体の効果として数値に表れていることはもっと発信しても良いのではないかと思います。
ただし、社会のレールに乗れない人や出所後の寄る辺がない人の再犯率・再入率はいまだ高いため、やることはまだまだ残っています。刑務所や法務省当局の方々には、そういった現状をもっと一般の方々や若者に伝えていくための努力が必要でしょう。
自己責任論にも関連して、若い方が元犯罪者の方も含め難しい境遇に置かれた人の実状を知る機会を増やすことで、人の見方など本質的な部分も変わっていくのではないかとも感じました。外国人についてもそうですが、「知らない」ということそのものが脅威になり得ます。なんだか怖いから・よくわからないから排斥する、というのは大変寂しいことです。
犯罪をした人が良い人だと言いたいわけではありませんが、犯罪者というレッテルをつけられた人でも、そのレッテルをつけられていない人と同様に人それぞれだよね、ということがわかっていく手立てがあると良いと思います。
私のゼミでは、少年院や刑務所に何度か入った人に来てもらうことがあります。一般的には「元犯罪者」なわけで、学生たちは思いっきり身構えて臨むのですが、その人たちから置かれていた境遇や問題の克服の過程などを聞くと、思った以上に普通だったので拍子抜けした、という反応が多いです。学生たちに言わせると、「犯罪歴ではなくてやっぱり人だよね」、ということだそうで、そういったある種相対的なもの・人の見方というものが広がっていくと良いと思います。
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