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出所者が何気ない日常を暮らせるような支援を――出所者の社会復帰と生活再建を支える「司法福祉学」とは?
- 「司法福祉学」とは、司法と福祉の両面から出所者の社会復帰と生活再建を支える学問分野
- 支援の枠組みから孤立する対象者の存在や地域格差が課題
- 背景にある困難への正しい理解を深め、特別視せず、孤立を生まない関わりが重要
取材:日本財団ジャーナル編集部
もし、ある日突然、生活に困り、頼れる人もいない状況に置かれたとしたら——そのとき、どんな選択肢が残されているのでしょうか。
2025年6月に懲役および禁錮が一本化され、新たな刑として拘禁刑が創設。個々の受刑者の特性に応じた処遇を実施する方針へと変わり、円滑な社会復帰や再犯防止に向けた取り組みが進んでいます。そんな中で注目されつつあるのが、「司法福祉学」という学問です。
罪を犯した人の多くは、貧困や過去の虐待経験など、生活上の困難を抱えていることが指摘されてきました。そこで、刑罰を与えるだけではなく、時に刑務所にいる間から福祉とつながり、出所後の生活基盤を整えることで結果として再犯を防ごうとするのが「司法福祉学」のアプローチです。
今回は「司法福祉学」を専門とする立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科(外部リンク)の掛川直之(かけがわ・なおゆき)准教授に、「司法福祉学」の基礎や、出所者が社会復帰の過程で直面する課題について伺います。
掛川准教授は「罪を犯した人に刑罰を科せば解決するわけではないように、福祉的な支援も解決のための特効薬ではありません」と指摘します。その意味とは何か。詳しく聞きました。
「司法」と「福祉」、両方の視点から犯罪の背景に向き合う
――「司法福祉学」とはどのような学問なのか、その概要を教えてください。
掛川准教授(以下、敬称略):司法というのは、犯罪が成立するかどうかを判断し、その人にどのように対応するかを決める仕組みで、福祉というのは人の暮らしを支えていく仕組みや活動です。
ざっくりいうと、その両方の視点を踏まえて、罪を犯した人が犯罪を繰り返さず平穏に社会で暮らしていけるよう、問題解決を考えるのが「司法福祉学」です。
――司法と福祉は、それぞれどのような役割を持ち、どのように関わり合うのでしょうか。
掛川:司法、特に刑事裁判の場合は、公平な手続きを経て、法に基づく「規範的解決」を目的とします。ただし、法的な手続きだけでは、その人がなぜ犯罪に至ったのかという背景までは十分に捉えきれません。
罪を犯した人の多くは、住まいや仕事の不安定さ、貧困など、生活基盤に課題を抱えています。そうした根本の問題が解決されなければ、再犯してしまう可能性も高くなる。そこで必要になるのが、福祉的な観点から個人の尊厳を尊重しつつ、生活課題に寄り添い、その人が置かれた環境を総合的に捉えて生活の立て直しを図る「実態的解決」です。
「司法福祉学」は、この「規範的解決」と「実態的解決」の両方を視野に入れて犯罪問題を捉える学問です。

非行少年支援や刑務所の実態から生まれた「司法福祉学」
――「司法福祉学」は、「規範的解決」と「実態的解決」の両方を踏まえて、支援のあり方を考える学問だということですね。その上で、どのような考え方が大切になるのでしょうか。
掛川:「司法福祉学」を「再犯防止を目的とする学問」と捉えてしまうのは、適切ではないと考えています。なぜなら、再犯防止そのものを目的としてしまうと、「してはいけないことリスト」を作ってしまうことにもなりかねず、どうしても支援が制約的になってしまう恐れがあるからです。
少し極端な例ですが、「再犯を防ぐため」という理由で、過去に万引きをした人の店舗への立ち入りを広く制限してしまうと、日常的な買い物が難しくなり、とくに支援資源の乏しい地域では生活の維持自体が困難になります。
適切な福祉的支援を行い、その人が本来持っている権利を制限するのではなく、社会のルールとのバランスを取りながら生活を安定させることができれば、結果として再犯も防ぐことができるというのが私の考えです。
――「司法福祉学」は、どのように成り立った学問なのでしょうか。
掛川:ここ半世紀ほどで形成されてきた、比較的新しい学問領域であり、なお理論的基盤は発展途上にあります。
その原点は、1960年代に家庭裁判所の調査官や保護観察官などが、非行少年の立ち直りをどう支えていくかを考えていくなかで作られていった研究会等の取り組みにありました。この頃は、あくまで「司法のプロセスの中に福祉的視点をどのように取り入れるか」という発想が中心的であったと考えられます。
その流れを大きく変えたきっかけの1つが、2003年に出版された山本譲司さ(やまもと・じょうじ)んの著書『獄窓記(ごくそうき)』(新潮社)です。この本によって、刑務所の中には高齢者や知的障害のある人など、本来であれば福祉的支援を必要とする人が、多く収容されている実態が知られるようになりました。
こうした認識の広がりを背景に、福祉の側から司法との接点を問い直す動きが広がり、現在の「司法福祉学」へとつながっていきました。

貧困や孤立を背景に、犯罪しか選択肢に残らない状況になっている
――出所者が社会復帰の過程で直面する困難には、どのようなものがありますか。
掛川:まず重要なのが「住まいの問題」があります。家がないまま満期釈放(※)される人も多く、出所後に身元引受人がいなければアパートを借りることも難しい。そもそも犯罪に至った背景として、ホームレス状態や不安定な住環境があるケースも少なくありません。
こうした居住の不安定さは、就労や収入の確保を困難にし、結果として経済的困窮にもつながります。その結果、多くの出所者が「経済的な困窮」に直面します。刑務所での作業報奨金は月平均4,500円程度で、出所時に手元に残るお金はごくわずか。ほとんどお金がない状態で社会に戻る人も多くなっています。
さらに深刻なのが「社会的孤立」です。出所者支援ではよく「居場所」と「出番」という言葉が使われますが、「居場所」は単に住まいがあるということではなく、「ただそこにいていい」と思える場所のこと。「出番」も、仕事だけではなく、誰かに必要とされる役割全般を指すと私は考えています。
人はそうした場や役割がなければ生きていけません。再犯を防止しようとすることよりも、孤独を防止しようとする視点こそが求められているのです。
――なるほど。経済面や住まいの課題に加えて、人とのつながりの欠如も大きな問題になるのですね。
掛川:はい。多くの出所者は、過去に助けを求めても本人が期待する援助を受けられなかった経験や、虐待などによるトラウマを抱えていて、「誰かに相談する」という発想そのものを持てない傾向があります。
困ったときに他者を頼ることができず、自分でなんとかしようとした結果、本人に残る選択肢が犯罪しかなくなってしまう。
――そうした孤立の中で犯罪に至ってしまう背景には、どのような構造があると考えていますか。
掛川:まず、福祉の対象であるはずの、貧困を抱えた人や高齢者などが支援の枠組みから孤立した結果、犯罪に至ってしまうケースが多くあります。そして、刑務所に入って初めて福祉の対象として認識される。こうした逆転した状況が起きています。
さらに、刑務所の方が社会よりも規則正しい生活ができ、食事も出る。結果として、刑務所が実質的な「最後のセーフティネット」のようになってしまっている現状もあります。生活に困窮し、孤立の中で罪を犯し、刑務所に入る。そして出所するとまた生活に困窮する。その循環から抜け出せなくなってしまうのです。
私はこうした構造を「貧困と社会的排除のスパイラル」として捉えています。
- ※ 「満期釈放」とは、刑事施設で刑期を終えて出所することで、仮釈放者とは異なり出所後に保護観察を受けない。出所後2年以内に再び刑事施設に入所する率は、2019年の出所受刑者では仮釈放者の2倍以上
刑期満了の目的化と「反省」の逆効果、刑務所処遇の課題
――これまでの刑務所内処遇には、どのような限界があったと考えていますか。
掛川:刑務所には高齢者や知的障害が疑われる人が多く収容されています。しかし、これまでの懲役刑(※)の制度は、若くて健康な人をもう一度社会の担い手として戻すことを前提に設計されてきました。
もちろん受刑者の社会復帰を願う刑務官も多かったと思いますが、制度の根幹は自由を奪い、働かせ、懲らしめることに力点が置かれていた面が大きい。結果として、社会復帰支援よりも「刑期を全うさせること」自体が目的化してしまっていたと思います。その点に、1つの大きな限界があったと考えています。
――目的がずれているということですね。
掛川:はい。従来の刑事司法は「反省」を強く求めてきましたが、これは逆効果になることがあります。怒られることに慣れている人ほど、「形だけの謝罪」を身に付けてしまうからです。
本当の意味で内省を促すには、まず本人の言い訳や本音をしっかり聞くことが必要です。「事情を聞いてもらえた」「分かってもらえた」と感じて初めて、他者の視点に立つ余裕が生まれるのだと思います。
例えば、私たち自身もミスをしたとき、ただ責められるよりも「どうしてそうなったのか」を聞いてほしいと思うはずです。事情や言い訳を聞いてもらえたと感じて初めて、自分の行動を振り返ることができるのではないでしょうか。この視点は、新たな加害を抑制し、被害者を減らすということにもつながってくるのではないかと考えています。

- ※ 「懲役刑」とは、刑事施設に拘置して刑務作業を義務付ける刑のこと。2025年6月に禁錮刑と一本化された
福祉は特効薬ではない。出所者支援に必要な「長いプロセス」
――日本における刑事司法と福祉の連携は、現在どのように進められているのでしょうか。
掛川:刑事司法と福祉の連携はこの20年ほどで大きく進み、かなり整ってきています。
その代表的なものが、出所後の生活を支える「出口支援」です。2000年代後半から刑務所に非常勤のソーシャルワーカーが配置されるようになり、現在では多くの刑務所に福祉専門官(※)という福祉のスペシャリストの常勤での配置が進められています。
さらに2012年頃には、出所者支援を専門に担う地域生活定着支援センターが全都道府県に設置が完了し、刑務所の中から地域生活へつなぐ仕組みが整えられてきました。
こうした中で、刑務所内でも、作業療法士をはじめとするリハビリの専門職などが関わる例が増え、刑務所の福祉担当者と地域生活定着支援センターのソーシャルワーカーが連携し、出所前から住まいや生活環境を調整する取り組みが進んでいます。
さらに近年では、取り調べや裁判の段階からソーシャルワーカーが関わり、刑務所に入る前から支援につなげる「入口支援」も広がりつつあります。
――刑事司法と福祉の連携において、実務面での課題はありますか。
掛川:大きくは、再犯防止が強く求められる中で、現場に一定のプレッシャーがかかっている点です。
再犯防止は今、とても注目されている分野ですが、その背景には、2012年に犯罪対策閣僚会議において「再犯防止に向けた総合対策」が決定され、再犯者率の削減に関する数値目標が掲げられたことがあります。
この数値目標は達成されたものの、その評価枠組みは現場にも影響を及ぼしています。福祉に携わる人の中には、支援対象者が再犯をすると自分の「支援の失敗」として引き受けてしまい、強い自責感情を抱く場合があります。その結果として支援のあり方が狭められてしまう危険があります。
また、制度が整うことで、要件に当てはまる人だけが支援につながりやすくなり、それ以外の人が支援の枠組みから孤立するという問題も生じています。
本来ソーシャルワークは、目の前の人に応じて、必要な支援を組み立てていくものですが、制度に人を当てはめる形になると、本質からずれてしまいます。さらに地方では、都市部ほど受け皿となる福祉資源がないため、地域格差も大きな課題です。

- ※ 「福祉専門官」とは、福祉に関する知識と経験を活かして、刑務所をはじめとする矯正施設に収容された高齢者、障害のある受刑者等の出所又は出院後の円滑な社会復帰のために必要な各種調整等を担う福祉のスペシャリスト
出所者が「納得して選べる犯罪以外の選択肢」を増やす
――犯罪行為を手離して生きるために必要な仕組みや支援とは、どのようなものでしょうか。
掛川:大事なのは、犯罪からの離脱をプロセスと捉えることです。
支援者がついたからといって、問題行動が急になくなるわけではありません。一度の失敗で関係を切らない継続的な支援が不可欠です。今、司法と福祉の連携が進む中で、これまでの社会にあった「刑罰を科せば解決する」という刑罰神話が、「支援があれば再犯しない」という福祉信仰に変わりつつあります。
しかし、福祉もまた特効薬ではありません。支援に必要なのは、自分の困難や経験、失敗などを否定されることなく安心して話せる場所と相手です。「本人が納得して選べる犯罪以外の選択肢」をどれだけ増やせるか。それが支援の本質であり、そこには時間がかかります。
「司法福祉学」は本当の意味での問題解決を目指すものですが、解決を性急に追求するのではなく、そのプロセスを重視する姿勢も重要で、必ずしも解決を目的にしない姿勢が求められるとも考えています。
――「必ずしも解決を目的にしない」という言葉が印象的です。そのように考えるようになったきっかけはありますか。
掛川:博士号を取ったあと、ソーシャルワーカーとして現場にいた時期がありました。その際に、理想的な出所者像を押しつけてしまいそうになったことが何度かあったんです。犯罪をした人は、清く正しく生きなければならないという目線が、どこかにあったのだと思います。
でも、自分自身を振り返ってみても、そんなに品行方正に生きているわけではない。ある程度、不完全さを抱えながら生きているのが人間です。それなのに、支援の対象になった途端、期待される人間像を求められてしまうと、本人にとって社会は終わりのない監獄になってしまう。
そうなると福祉につながりたくないと思う人も出てきてしまいます。ある程度の不完全さを許容し、その人らしい生活を支えることが大切だと実感したんです。
――2025年には拘禁刑が施行されました。率直にどのように受け止めていますか。
掛川:刑務所の中にも福祉やケアが必要だという認識が広がってきたこと自体には意義があると思います。ただし、その仕組みが現場でどのように運用され、実際に機能するかどうかは、なお慎重に見極める必要があります。
これまでの厳しさを重んじる文化から、対話や支援を重視した方向へと転換できるかどうかが問われています。
「ケアをする」という理念だけが掲げられ、それらしいプログラムだけが実施されることになり、実際には形骸化してしまう可能性もあります。刑務官が、受刑者が立ち直っていく姿をイメージできなければ、おそらく続かないのではないでしょうか。
そうならないためには、社会福祉的な視点を持った刑務官の配置や、内部だけではなく、外部も含めた多職種多機関が連携できる体制づくりが欠かせず、今後5年、10年の運用が非常に重要になるでしょう。

出所者が犯罪行為を手離して生きられる社会をつくるために、私たち一人一人ができること
出所者が犯罪行為を手離して生きられる社会をつくるために、私たち一人一人に何ができるのかについて、掛川さんに3つのアドバイスを伺いました。
[1]出所者の実情を知る
出所者の実情や背景を知らないまま、自分とは違う異質な存在として捉えてしまうことが、不安や排除につながる。犯罪の背景には貧困や孤立、被虐体験をはじめとする被害体験といった社会的要因がある。まずは、こうした事実を正しく知ろうとする姿勢が重要
[2]「他人事」にしない想像力を持つ
多くの人は被害者になる可能性は想像しても、自分や大切な人が加害者になる可能性は想像していない。犯罪に至る背景には、誰にでも起こり得る環境や選択の積み重ねがあるという視点を持ち、自分ごととして捉える。そうした想像力が排除ではなく理解につながる
[3]罪を犯した人や支援者を特別視しない
罪を犯した人や、支援に関わる人を特別な存在として切り離さない。困った人は「困っている人」、自立とは「一人で生きることではなく、依存先や頼れる先を増やすこと」。こうした視点を共有することが、出所者、出院者を特別視せず、孤立させない社会へとつながる
日本財団ジャーナルではこれまで、保護司の活動や刑務所内での依存症回復、回復共同体の取り組みといった、さまざまな出所者、受刑者支援の現場を取材してきました。そうした取り組みの背景にある考え方をより深く知りたいと考え、「司法福祉学」を専門とする掛川准教授にお話を伺いました。
取材の中で印象的だったのは、「司法福祉学は、再犯防止だけを目的にするわけでも、早急な問題解決を目指すものでもない」という言葉です。「福祉につながれば、出所者支援は成功」ではなく、むしろそこがスタート地点なのだという気づきがありました。
出所者支援は長い時間をかけて続いていくものです。出所者が戻る場所にいる地域住民の一人である私たちも、その一端を担っています。彼らを特別視せず、「ただそこにいていい」と思える場所をつくるために何ができるのか、考えていきたいと思います。
撮影:十河英三郎
掛川直之(かけがわ・なおゆき)
立教大学コミュニティ福祉学部准教授。日本司法福祉学会理事・事務局長。近年は、主に出所者の生活史を手がかりに犯罪からの社会復帰とは何かを問い、累犯者が犯罪行為を手離して生きることを支える仕組みについて社会福祉政策の観点から検討するとともに、大阪・名古屋・東京を中心とした調査・研究を継続しつつ、出所者を支える地域づくりの実践、地域におけるコンフリクト・マネジメント、さらには高齢受刑者処遇の日韓比較等にも取り組んでいる。同時に、地域生活定着促進事業や地域再犯防止推進計画の展開にも注視しつつ、社会福祉学/ソーシャルワーク論の立場から刑事司法と福祉に関連する研究を進めている。
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