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「子どものスポーツ体験格差」とは? 子どものスポーツはぜいたく品ではなく、生きる力を育む「第三の居場所」
- 「スポーツ体験格差」とは、家庭の経済状況や地域環境の違いにより、子どものスポーツ機会に格差が生まれる問題
- 子どもにとってスポーツはぜいたく品ではなく、学校や家庭とは異なる「第三の居場所」になる可能性がある
- 誰かのチャレンジを素直に応援できる社会をつくることは、やさしい社会の実現になる
取材:日本財団ジャーナル編集部
望むがままにスポーツに挑戦できる子と、何らかの事情によって挑戦できない子。両者の間に生じる格差を「スポーツ体験格差」といいます。
それは、単にスポーツ体験の有無にとどまらず、自己肯定感の低下や人生の目標の喪失、学校や家庭以外の居場所がなくなってしまうなど、子どもたちにさまざまなネガティブな影響をもたらします。
そんな状況を打破すべく活動しているのが、認定NPO法人love.fútbol Japan(外部リンク)で代表理事を務める加藤遼也(かとう・りょうや)さんです。love.fútbol Japanは経済的に困窮している家庭へのサッカー費用の給付をはじめ、メーカーと連携したスポーツ用品の寄贈、プロサッカー選手との交流会など、多角的な活動を通して、サッカーを諦めてしまいそうな子どもたちを支援しています。
それでも、子どもたちのスポーツ体験格差について、国内ではまだまだ認知されていないのが現状です。ときには、「生活に余裕がないならサッカーを諦めればいい」「サッカーなんてぜいたく」といった厳しい声が向けられることもあるそうです。
スポーツ体験格差が子どもたちにどのような影響を及ぼすのか。やりたいことに打ち込める環境は、子どもたちをどう成長させるのか。スポーツ体験格差の問題を通して、より良い社会づくりのヒントを探ります。

現在のスポーツ界は、子どものスポーツ体験格差を生みやすい構造
――子どもにおける「スポーツ体験格差」とは、何を意味する言葉なのでしょうか。
加藤さん(以下、敬称略):経済的な理由や家庭の事情など、生まれ持った環境の違いによって、希望するスポーツに励める子とそうではない子がいる状況を指す言葉です。
環境によってやりたいスポーツができない子というのは、昔から一定数存在していました。しかし、現在はその数が増加傾向にあります。それどころか、スポーツ界にそういった格差が広がる仕組みができてしまっており、抜本的な対策がとられていないんです。
――スポーツ体験格差が広がってしまう仕組みとは、どのようなものでしょうか。
加藤:子どものスポーツが「習いごと化」し、そこにかかる費用が高額化していることが要因だと考えられます。
せっかく始めたスポーツで上を目指そうとすると、遠征や合宿、大会への参加頻度が増え、かかる費用が膨れ上がっていきます。しかし、経済的に厳しい環境にいるご家庭では、そうした選択ができません。こうして、体験の格差がどんどん広がってしまうのです。
こういった状況は海外でも起こっています。英語で「Pay to Play(ペイトゥプレイ※1)」という表現がありますが、これは「子どものスポーツにはお金がかかる」という、子どものスポーツの有料化や過度な費用負担を主に批判する際に使われる表現です。
特にアメリカでは、ユーススポーツ市場(※2)がものすごい勢いで成長しています。その背景には、富裕層ビジネスとして投資が集まっていることがあります。富裕層家庭の子どもがスポーツに集まることで、そこに目をつけた企業やブランドが参入や投資をしているという流れです。
その結果、ユーススポーツ市場が拡大する一方で、経済的な余裕がない子どもたちは、スポーツに参加できないまま取り残されてしまうというデータが出ています。
また、格差の原因として、発展途上国の場合はスポーツができる安全な場所の不足が要因になりやすいのに対し、日本やアメリカなどの先進国ではスポーツができる場所があるのにもかかわらず、経済的な理由でできないという違いがあります。
――そういった状況のなか、love.fútbol Japanではサッカーの体験格差を埋める支援活動をされています。先日公開された2026年の「子どものサッカーを取り巻く経済的貧困・格差の実態調査レポート(※3)」について教えていただけますか。
加藤:今回の調査で特に印象的だったのは、約3人に1人の保護者が、子どもにサッカーを続けさせるための借入をした経験がある、という結果が出たことです。今でも「サッカーはボールが1つあればできる」といわれることがありますが、実際は異なります。
遠征や合宿といった大きな費用だけではなく、ユニホームやシューズ代にもお金はかかります。そうした費用を捻出するために、生活費を削ったり、借入をしたりせざるを得ない家庭があるのがリアルな現状なのです。
ほかにも、約4割の子どもが家庭の経済状況を心配し、自ら「サッカーを辞める」と保護者に伝えた経験があることも分かりました。しかも、そのうちの約7割は小学生の時に伝えているんです。
本来なら子どもは余計な心配をせず、やりたいことに打ち込んでほしいと思います。でも、実際にはそれが叶わない子どもたちがいます。
あるご家庭では、兄弟でサッカーを習っていたのですが、経済的に厳しい状況を察した弟さんが「僕は辞めるから、お兄ちゃんに続けさせてあげて」と言ったそうです。サッカーを辞める決断をした弟さんも、それを知ったお兄さんも、そして子どもにそんなことを言わせてしまった保護者の方も、本当に苦しかったと思います。
日本中でサッカーがこれだけ盛り上がっているなかで、こういったことが人知れず起こってしまっているのです。


「誰かに応援してもらえる体験」をした子どもたちは、豊かに育つ
――しかし、「経済的に厳しいのであれば、サッカーを続けようとするのはぜいたくだ」という見方もあるのではないでしょうか。
加藤:まさにそこが問題で、子どもがスポーツを習うことが一種の「ぜいたく品」として捉えられている部分があると思います。
そのため、私たちが支援をしている保護者の方々からは、「ぜいたくだと思われてしまうから、支援を申し込むこと自体を遠慮してしまう」「母子家庭で習いごとをさせること自体が認められないのではないか」「経済的に苦しいなら、習いごとを辞めればいいと言われてショックだった」といった声が多く寄せられます。
そんなふうに周りから責められてしまうと、当事者はどんどん声を上げづらくなり、必要な支援からも遠ざかってしまう。ですが、子どものスポーツは、決して「ぜいたく品」ではないはずです。
これまでに私たちが支援してきたご家庭を見ていると、子どもにとってサッカーが「第三の居場所」になっていると感じることが多々あります。学校や家庭では得られない、仲間や監督、コーチとのつながりが生まれ、さまざまな経験ができる居場所になっているんです。
実際、サッカーを辞めたことで居場所を失い、非行に走ってしまった子どももいました。それほどまでに、サッカーは子どもたちにとって大切な存在なんです。だからこそ、保護者の方はその場所を守りたいのだと思います。
――スポーツを通して得られるものも多いんですね。
加藤:調査結果からも、スポーツを通して非認知能力(※4)が育つことが分かっています。具体的には、「最後まで諦めない力」「自信」「仲間と支え合う力」などです。
チームメイトとはいえ他人同士ですから、気が合う人もいれば、そうではない人もいます。そうした環境のなかで人間関係を学び、さまざまな力を養っていくのだと思います。
――実際、love.fútbol Japanの支援によってサッカーを続けられている子どもたちからは、どのような声が上がっていますか?
加藤:多くの子どもたちから「サッカーは大切な場所」という声が届いています。理由としては「友だちや仲間がいる(できる)」「夢や目標に挑戦できる」といったものに加えて、「誰かが応援してくれる」という声も多くあります。
やっぱり、誰かに応援してもらえることって、うれしいですよね。だからこそ、子どもたちにサッカーを諦めさせることは「応援してもらえる場所を奪うこと」でもあるのだと思います。
それから、今でも強く印象に残っているお子さんがいます。初めて支援を受けてサッカーを始めた子なのですが、「好きなことができるって、こんなに世界が明るく見えるんだね」と言っていたんです。
これまでどれだけの我慢をしてきたんだろう、と苦しくなると同時に、このような子どもたちをこれからも応援していきたいと強く思いました。

この先のスポーツのあり方をみんなで考えていきたい
――「余裕がないのにスポーツをするなんてぜいたくだ」と思っている方たちを含め、社会全体に伝えたいメッセージはありますか。
加藤:前提として、この社会で私たちは一人では生きられません。なぜなら、他者とのつながりを必要としているからです。その上で、私はスポーツは、生きるために大切な存在だと思っています。
何かに挑戦する、失敗を乗り越える、成功体験を積む、仲間と支え合う、誰かを応援する。今は、誰かが新しく挑戦することを否定する風潮もありますが、応援される社会の方が、人が暮らしやすい社会だと思っています。スポーツには、人の可能性を信じて応援する、そうした環境を育ててくれる一面があります。
確かに、スポーツをするには、どうしてもお金がかかります。でも、大事なことは「あなたはこれからのスポーツをどうしたいですか?」という問いに一人一人が考えて、そのビジョンに対して行動することだと思います。
経済的な理由でサッカーを諦める子どもをなくしたい。それが私たちのビジョンです。もし私たちと同じようなビジョンがあるなら、この流れをつくるために一緒に挑戦していただけると、すごく心強いです。
私が子どもの頃、当たり前のようにスポーツを楽しめていたのは、私よりも上の世代の方々が環境を整えてくださっていたからです。だから今度は私たちが生きている間に、次世代の子どもたちのためにスポーツができる環境を整えたいと思っています。

子どものスポーツ体験格差をなくすために、私たち一人一人にできること
最後に、子どものスポーツ体験格差をなくしていくために、私たち一人一人にできることを加藤さんに伺いました。
[1]誰かの挑戦を応援する
努力する人の姿や誰かの挑戦を素直に受け止め、応援する風潮をつくっていく
[2]スポーツ体験格差について広める
まだまだ知られていない「スポーツ体験格差」という課題について、周囲の人に情報をシェアし、認知を広める
[3]スポーツへの偏見を捨てる
スポーツを「ぜいたく品」として捉えるのではなく、誰もが挑戦できる当たり前の「権利」であるという認識を持つ
編集後記
サッカーは、多くの人に夢を与えるスポーツです。アスリートの方々の活躍に勇気をもらったことがある人も少なくないでしょう。
でも、そんな夢のあるサッカーの世界のスタートラインに立つことすらできない子どもたちがいます。この事実をそのままにしておいたら、子どもたちはどうなってしまうでしょうか。幼いうちから諦めを覚え、小さな目標すら持てなくなってしまうかもしれません。
だからこそ加藤さんは、さまざまな事情からサッカーを諦めかけている子どもたちに手を差し伸べています。この活動は、豊かな未来をつくるためのものです。
love.fútbol Japanの支援によって、大好きなサッカーを諦めずに済んだ子どもたちが大人になったとき、彼らはきっと、誰かにやさしさを手渡す側に回ってくれるのではないでしょうか。そういった、やさしい社会の到来を予感させる、心温まる取材でした。
撮影:永西永実
- ※ 1.スポーツにおける「Pay to Play(ペイトゥプレイ)」とは、主にアメリカのユーススポーツや学校の部活動において、子どもがチームに参加して競技を行うために高額な参加費や遠征費などを支払う仕組みのこと
- ※ 2.「ユーススポーツ市場」とは、18歳以下の子どもや青少年を対象としたスポーツ活動に関する経済・ビジネス市場のこと
- ※ 3.子どものサッカーを取り巻く経済的貧困・格差の実態調査レポート|(外部リンク/PDF)
- ※ 4.「非認知能力」とは、テストの点数やIQのように数字で測ることができない、自己コントロール力や忍耐力、協調性など、日常生活や社会性に関わる能力のこと
加藤遼也(かとう・りょうや)
認定NPO法人love.fútbol Japan代表理事。愛知県瀬戸市出身。2011年より、南アフリカやアメリカなどでサッカーを通じた子ども支援を展開。以降、子ども支援専門の国際NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでの活動を経て2018年にNPO法人を設立。日本国内で経済的貧困などでサッカーを諦める子どもの支援に取り組んでいる。
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