【現地レポート】長野市、泥の下に見えた希望 高校生がボランティア
長野の被災地では多くのボランティアが活動し、高校生もその役割を担いました。地元で起きた大きな災害を目の当たりにした生徒たちが「少しでも役に立ちたい」と立ち上がりました。
県立上田染谷丘高校(上田市)2年の金子芽衣(めい)さん(17)は2019年11月、長野市の被災した住宅の泥出しにあたりました。「思ったよりも泥がひどく、地面が見えませんでした。子供たちの鉛筆を見かけ、使っていたものが流された、と感じました」。泥は固くなっており、草も絡まっていました。スコップを持ち、ひたすら泥をかき出しました。
すると、ようやく地面にあったマットが見えたときです。「希望が見えた」。その家に住む男性が口を開きました。
被災して先の見えない暮らしに気持ちが暗くなっていたのでしょうか。泥に隠れていた被災前の生活の一部が姿を見せたことで、男性に生きる希望をもたらしたのかもしれません。その言葉を聞いた金子さんは「やってよかった」とボランティアに強いやりがいを感じました。
被災した子どもたちの支えに
3年生の設楽魅夢(みゆ)さん(18)は11~12月、被災した農家での作業や、被害の大きかった地域の子供たちの遊びを支援するボランティアに複数回足を運びました。公民館で開かれたクリスマス会では当初、子供たちが緊張している様子でした。
でも、ちょっと遊ぶとすぐに慣れ、「『楽しかった』と言ってくれてうれしかった」と感じました。また、遊び場がなくなった子どもたちにとって、高校生と関わる機会は貴重でした。「『子供たちと一緒に体を動かしてくれてありがたい』と日頃のスタッフの方に言っていただき、お手伝いができたと思いました」と話しました。
延べ300人が現地で活躍
「何かをやろうとすぐに思いました」。上田染谷丘高校と県立上田東高校に勤務する横沢祥子教諭はそう振り返ります。県高校文化連盟ボランティア専門部の事務局長を務めており、両校などの生徒たちを集めて今回のボランティア活動を進めました。
横沢さんは1995年に起きた阪神・淡路大震災から、災害時に生徒が参加するボランティアに取り組んできました。当時は文房具を送ることから始めました。東日本大震災のときは、同時期に起きた地震で被害の大きかった長野県北部の栄村に出向き、キャンプをしながら被災地を支える経験を生徒に積ませています。
今回の災害では2月までに、県内の高校11校から延べ約260人が被災地での泥出しやごみ運搬などのボランティアに参加しました。被災地の小学校や公民館を会場に、学習や遊びの支援をするボランティアには3校から延べ約30人が参加しています。
孫のような世代 心の支援
横沢さんは、ボランティアへの参加を通じて「生徒は自分の隠れていた部分に気づき、感性が磨かれる。『市民』として社会で生きて行くための人間総合力が向上する」と考えています。
年配の被災者との交流もポイントになります。今回はリンゴの産地を水害が襲いました。ボランティアで訪れた生徒たちに「リンゴを食べさせてあげられないことが悲しい」と複雑な心境を明かす人もいました。
横沢さんは「孫のような世代の高校生が入ると、被災者には喜ばれる。大人のボランティアには話ができなくても、高校生には感情を表すことができ、心の支援につながっていく。若い人がもっと多くボランティアに入ってほしい」と感じています。